そこで震える左手は、確かに俺のものだった。

















































『藍色カルマ』













































最低な思いを、教えようか。



初めてと会ったとき。





「今日転校してきたばかりです。といいます。これからよろしくお願いします!!」





その名前を聞いたとき。



・ ・・幸村。




(・・・なんておもしろいことをしてくれたんだ。)




そう思った俺が、確かにそこにいた。



幸村と柳が目をあわせてかすかにうなずいていたのを見届けた俺。



幸村の考えはすぐにわかる。



丸井を試す。



そうだろう?



目の前で初対面の俺たちの反応にとまどう「」を見ていた。



大して興味もない。だが、利用すると言うなら、最後まで見届けてやる。



俺たちテニス部が全国優勝するために、それが必要なら。



レギュラーに丸井は必要。それが俺の考えだった。



試してやろうと思った。



だから、優しいフリをした。

















「・・・・・・・・・・・・・・・」


「どうしました?仁王くん。」

「・・・・・・・別に。(ジャッカルがなついてると思っだだけ。)」














興味を持ったのは、赤也とジャッカルがになつき始めてからだ。



あげく、俺と柳生を間違えない。



あげく、その笑顔を見てしまった。





(・・・・なんて、こった。)





笑っていてほしいと、思った。



丸井の気持ちに気付き始めてからも



俺はテニス部が勝つことしか考えてなかった。



レギュラーには丸井が必要だと思っていた。



を傷つけて、利用して。



優しいフリをし続けた。



俺は、誰の幸せも願ってなどいなかった。











































































































































































































「仁王くん!」


「・・・・・・・・・・」


「仁王くん?・・・・仁王くんってば!」


「・・・・・・・・・・何?。」


「・・・はい、タオルとドリンク。」





やっと俺を呼ぶ声が聞こえて、はっとしてに気付いた。



俺の目の前に両手でタオルとドリンクを差し出している





「・・・ありがとな。」





俺はそれを手に取ると、は俺の顔を見て小首をかしげたが、



ごまかすように俺が笑って見せると、不思議そうにしながらも他のレギュラーのところにドリンクとタオルを渡しに駆けていった。



・ ・・今は、放課後の部活中。



空は晴れ、青の中でまばらに雲が流れていた。



がくれたタオルに目を移しながら、もう休憩時間になっていたのかと、ぼんやりと考える。



思っていたよりも乾いていた喉に、いきなり思考のよどみから現実に引き戻された。



左手にあったドリンクを口に運ぼうとしたとき、思わずドリンクの入っていた水筒を持つ手を口元から下げてしまった。



・ ・・左手が、かすかに震えていたから。



その手を無言のうちに見つめ、ふと視線をあげてあたりを見渡した。



レギュラーたちがそれぞれタオルで汗を拭ったり、ドリンクを飲んだりしていた。



俺の立つその場所から少し離れたところで、赤也と丸井がふざけあっている姿が目に入った。



丸井が赤也の頭を軽くラケットで叩いて、それにいたずらっぽく笑っている赤也。



2人の近くに、がいる。





「・・・・・・・・・・・」





俺の目に映る光景の中に、笑っていない奴なんかいなかった。



丸井も、赤也も、も、笑っていた。



震え続ける左手を握り締める。





「仁王くん・・・・?どうかしましたか?」


「・・・別に。」





俺の様子に何か疑問を持ったのか、柳生が俺に話しかけてきた。



俺は柳生を見ることなくこたえ、瞼をとじた。



喉が、渇くのに。



何も喉を通ってはくれなそうだった。



俺の目に映る光景の中に、笑っていない奴なんかいなかった。



・ ・・この想いは、なんだ。



散ってしまった淡き桜にもなれず、赤也の話す赤い夕日にもなれない。



青く澄み渡り、見上げた空に顔をしかめた。




(・・・違う。)




こんなに綺麗な色じゃない。



どちらかと言えば、夜にもなり切れない前の空。



青よりも濃く、紺より淡い。



そんな色が似合う気がする。



藍の、色。





「休憩終わり!!」


「・・・仁王くん。」


「・・・心配なかよ柳生。・・・すぐに行く。」





近くで聞こえた真田の勢いのいい声に、俺は柳生にいつも通りの笑みを向けたつもりでいた。



飲み干せなかったドリンクを、無理やり喉に押し込め、空になった容器をベンチの上に置く。



がレギュラー全員がそうして置いていくものを片付けていく。



そんなの姿を目の端に映した途端、左手の震えが大きくなった気がした。



握り締めた拳にさらに力をこめ、俺はコートに向かう。




(・・・重症じゃな。)




心が、藍色に沈む。



始めから終わりまで。



俺はいつも、何がしたかった?



今まで、何をしようとしていた?



勝つことだけが願い。



そのためには、レギュラーとしての丸井が必要。



マネージャーとしてのが必要。



そう思っていた。



だから、優しいフリをした。



利用して、傷つけて、嫌われたって、それでいい。



誰の幸せも願ってなんかいなかった。



・ ・・・それでも、いつも思ってた。



その笑顔に気付いたときから。



お前さんは、今、何を想っているだろうか。


































































































































































今日は、笑っているだろうか。























































































































































































































「真田、柳。」






あの日だ。



が部活をやめたことを柳からレギュラー全員が聞かされた日。



が丸井に想いを告げた日。



放課後、部活の終わった部室で丸井と赤也が言い合いになり、丸井は部室をあとにした。



誰もが無言のうちに1人、また1人と部室を去っていく中で、



最後まで残っていたのは俺と真田と柳だった。



それはすべて、俺の提案。





「明日、を呼ぼうと思うんじゃが。お2人さん、異論は?」


「・・・・・仁王。何を、考えている。」


「別に何も。・・・ただ、このままが退部なんて誰も納得がいかん。真田はそう思わん?」


「・・・・・・・・・・」





それは賭けだった。



俺たちが勝つための賭け。



丸井の想いは、春の中で迷子。



瞼を閉じて、何も見ようとさえしていない。



このままじゃ、最悪の事態を招く。



俺たちが勝つためには、レギュラーとしての丸井が必要。



マネージャーとしてのが必要。



そうじゃなか?



少なくとも、俺はそう思っている。



丸井の怒鳴り声が、今も部室に響いている気がしていた。



哀しく木霊し、反響して。






「・・・・覚悟は、あるのか。」






柳が俺に、突然そう聞いた。




(さすが、参謀。)




俺の考えていることを、全部見透かしているとは思えないが、



理解しているのはこいつだけじゃないだろうか。



俺は、笑う。



おかしくて、笑う。









「腐るほど。」









覚悟なんて、今更。



ずっとを騙してきた。



優しいフリを、し続けてきた。



泣きたいときに泣かせてもやれず、利用してきた。



初めてその涙を見たとき、弱い奴だと、思っていた。



そんなの。




(・・・俺の思い過ごしだった。)




俺に弱いと思われるほど、は弱くない。



だから、これが最後の賭け。



お前さんを利用する最後のはず。






「・・・・・明日、マネージャーの仕事をにやってもらう。」


「・・・弦一郎。」


「全てが終わったあとに、話を聞こう。レギュラー全員で。」


「それでよか。」






俺は柳と目を合わせ、真田の発言にうなずいた。



最低な思いを、教えようか。



俺の考え、企み。



勝つためだけの、思惑。



誰の幸せも願ってなどいない。



友情なんて、ぬるい言葉には浸かれない。



浸かりたくもない。




(浸かれるはずもない。)




俺は静かに部室をあとにした。



自分の家に向かう前に行かなければならない場所があった。



















の家の前。



ふと視線を感じて見上げれば、そこには俺を見つけて驚くがいた。

















会いたかった。

















の顔を見た瞬間、無条件にこみあげた想いが言葉になったとき、自分に笑うしかなかった。



バカじゃ、ないのか。



(俺は。)



バタンっと勢いよく開いたの家の扉。



肩で息をするを目の前に、俺はいつも通りを装った。






「よう、。」


「っ・・・仁王くん!」


「今、平気?」


「あの・・・なんでっ・・・・」


、なんでそんなに慌てとう?俺がここにいるのがそんなに不思議?」







優しいフリを、し続けた。







「・・・よかったとよ。俺が来てに嫌な顔されなくて。」


「しっ・・・しないよ!」


「くくっ・・・うん。知っとる。」


「・・・・・・」






空の色が、変わる。



赤かったはずの夕日が色落ちし、暗がりが覆い隠そうとする。



だが、夜にもなり切れない空。



青よりも濃く、紺より淡い。



藍の、色。



このときの俺の想いの色に、酷いくらいに似ていた気がしていた。



そんな中で、見つけた涙の痕に。





「・・・丸井なら、心配なか。」


「っ・・・・・」


「お前さんは泣かんでよか。」


「・・・・仁王くん・・・・」





散々利用して、傷つけて。



今更、俺は何を言っている。



全部、嘘じゃないか。



全部、嘘。



俺は勝ちたいだけ。



だから、明日もお前を利用するつもりでここにいる。





。俺がお前さんに会いに来たのは、退部のことについてじゃ。」


「・・・・・・・・」


「悪いが、退部を認可した幸村と柳を除いて、レギュラーの誰一人としてお前の退部に納得がいかん。」


「っ・・・私はっ・・・」


「最後まで聞きんしゃい、。」





酷いくらいに、似てる。






「退部を考えるからには、お前さんにもわけがある。それは重々承知している。」


「・・・・・・」


「だが、が退部したいと言うのなら、俺たちから条件がある。」


「・・・・条件?」






藍色の空が、夜に隠れようとしていた。







「明日、もう一日だけマネージャーをやり遂げんしゃい。」








夜にまぎれて、



隠れて、



心が、消える。





「レギュラーの俺たちは、お前さんの口から直接やめたいと聞きたい。」


「・・・・・・・」


「それにはもう1日部活にでてきんしゃい。」


「・・・・・・・」


「もう1日だけ、マネージャーを終えてから、やめんしゃい。」


「でっ・・でもっ・・・私はっ・・・・・!!」


「1日だけでよか。」


「・・・え?」





優しいフリをした。





「他に何も考えんでよか。部活とマネージャーのことだけ考えて、俺たちをただの部員だと思って。」


「・・・・仁王くん?」


「他に、何も考えんでよか。明日一日だけでよか。」


「・・・・・・」


「・・・それで、できるなら笑いんしゃい。笑ってて、 。」






優しいフリをした。









「・・・わかった。明日、もう1日だけ。」









俺の考え、企み。



勝つためだけの、思惑。



誰の幸せも願ってなどいない。



俺たちが勝つためには、レギュラーとしての丸井が必要。



マネージャーとしてのが必要。



利用したって、傷つけたって、嫌われたって、かまうものか。



覚悟?



そんなもの、腐るほどできてる。






「・・・突然伺ってすみませんでしたって、お母さんに伝えといてな、。」


「えっ・・・うっうん!」


「・・・それじゃあ、また明日。」


「まっ・・・また明日!」






笑った。



手を振って。



俺に笑ってみせるを見て。



振り返ることはせず、暗がりに隠れた。



優しいフリをした。



優しいフリを、し続けた。



最低な思いを、教えようか。



翌日のコートの上で



俺は丸井の視線の先に、を見つけた。





















































































































































































「・・・そんなにが気になるのか?」



「(!!)」













































































































































































利用して、傷つけて、嫌われて。





「・・・そんなわけねぇだろぃ。」


「くくっ・・・・・」


「・・・・・・」





それで、かまうものか。






「・・・なぁ、丸井。」


「・・・・・・」


「逃げるなよ。」


「なっ・・・・・」






右手にはボール一つ。



左手で固く握りしめたラケットの先を、丸井に向けた。



の姿を、目の端で一度確認し。



俺は、笑う。



このテニス部が勝つために、俺にできるのは、





誰かを、騙すこと。





それがたとえ、お前だって。




(・・・優しいフリをした。)




俺は持っていたボールを高く高く空に上げた。



トスがあがり、ラケットをかまえた。



丸井は自分に打ってくるのだと思いラケットを構えるが、



俺はただ、変わらぬ笑みを口元に浮かべたままでいた。




(大して興味はなかった。)




俺はを見ていた。




(ただ、見届けてやろうと思っとった。)




俺たちの隣のコートで、ボール拾いをしていた



そんなに距離はない。




(赤也とジャッカルがなつき始めて、)




俺の左手が持つラケットが、小気味のいい音をさせてボールを打ち下ろした。





(あげく、俺と柳生を間違えない。あげく、その笑顔を見てしまった。)





気付いた時には、丸井がラケットを手から離して走り出していた。





(・・・なんてこったってな。)





思ったんじゃ。



風が吹いて、花びらが舞って、その髪が揺れる。



風が、遊んでる。



俺はその場から動けず、丸井がをかばい、抱きしめた姿を見ていた。



ボールは丸井の背中に当たり、の姿は、丸井によって俺から見えなくなっていた。



あのとき咄嗟に閉じてしまった俺の瞼は、何を意味する。




(・・・なんて、こった。)




ふいにおとした視線に映った震える左手は、確かに俺のものだった。



今更、何に怯える。



なぜ震える。



覚悟なんか、腐るほどできてた。



勝つために、選び続けてきたこと。



誰の幸せも願ったことなどない。



ただ俺は、勝ちたかったんだ。



なのに。


















































































































































































































































































あのときから、



時折起こる左手の震えは、どうしたら止まるのか、いまだに答えが見つからない。





「・・・・仁王くん?着替えないの?」


「・・・・・」





小首をかしげるが俺の目の前にいた。



気が付けば部活はとっくに終わり、俺以外のレギュラーは部室に入ったのか。



レギュラーで唯一俺だけが、今もコートの上にいた。



声が、でなかった。



を見続けることしかできず、左手を握り締めることも出来なかった。



震えていたのに。



そんな俺に、は心配そうに静かに笑った。





「どうしたの、仁王くん。」


「・・・・・・」


「・・・具合悪い?」





・ ・・この想いは、なんだ。



散ってしまった淡き桜にもなれず、赤也の話す赤い夕日にもなれない。



霧のような、もやのような、晴れることなき雲がかり。



青よりも濃く、紺より淡い。



そんな色が似合う気がする。



心が、藍色に沈む。



・ ・・これが、カルマという奴か。



自分のしたことが、自分にそのまま返ってくる。



左手が、震えていた。





「(・・・俺は。)」


「・・・仁王くん?」


「(・・・・・・許して、欲しいのか。)」





お前さんに。





「どうしたの?」





手を、伸ばした。



以前のように、の頭を撫でる。



震える左手ではなく、右手で。



静かに、そっと。





「・・・・別に。なんでもなかよ。」


「・・・・嘘、下手だね。」





その言葉に、目を見開く俺がいた。



が困ったように笑う。






「(・・・お前さんにきかんだけじゃ)」






って言ったら、どんな顔をするんだろうか。



・ ・・・一度だけ。



言ったことがある。



あのときは、丸井にけしかけるために桜の下で。



俺は・・・・本当は、




(お前さんに、嫌われたくはなかった。)




利用して、傷つけて。



それでも、嫌われたくはなかった。



嫌われたく、なかった。



の頭を撫でる手が止まり、俺はから手を離した。



声がでなくて、はまた小首をかしげて俺を見る。



聞こえてきた声は、あまりに明るく、俺を励まそうとするかのように。





「仁王くん。今度の柿ノ木中との練習試合、柳生君とダブルス組むんだよね!」





世界中が俺を責めるなら、それもいい。





「私、2人の試合すごく楽しみなんだ。他校との試合、見たことないし・・・。」





お前が、許してくれるなら。



きっと、この左手の震えもとまるのに。





「詐欺師と紳士だもんね!」





お前だけでいいから。



(・・・許して、欲しい。)



優しいフリをした。



利用して、傷つけて。



誰の幸せも願ってなんかいなかった。



・ ・・・それでも、いつも思ってた。



その笑顔に気付いたときから。



お前さんは、今、何を想っているだろうか。




















今日は、笑っているだろうか。























「すごい詐欺を見せてね!!」







































































が、笑う。



















































































































































































霧なんか無視して、もやなんか無視して。



藍色なんか、かき消して。



心に、触れる。



優しく触れる。






「・・・・・。」


「ん?」


「・・・ごめんな。」







誰の幸せも、願ってなどいなかった。








「謝らなくていいのに。具合が悪いのは仁王くんが悪いんじゃないよ。」








そうじゃなくて。








「・・くくっ・・・・」


「何?どうしたの、仁王くん。」


「ははっ・・・」







そうじゃ、なくて。





(バカじゃ、ないのか。・・・俺は。)





・ ・・許してくれるはずもない。



許すも何もない。



少しも、うとんでなどくれない。



少しも、恨んでなどくれない。



喉を鳴らし、思わず噴出した俺に、が怪訝な顔をする。



俺はひとしりき笑うと、再びに手を伸ばし、その頭を撫でた。



いつの間にか、震えの止まった左手で。






。」


「ん?」


「・・・俺のこと、好き?」


「・・・・え?・・・・・・・・え?!」






目を丸くしたは、次の瞬間に慌てだす。



頬を染めて、慌てるがかわいくて。



俺は笑っての髪をくしゃくしゃにした。






「仁王くん、からかってるでしょっ・・・・」


「好きじゃ、。」


「え?!」






ガチャっと部室のドアが開いた音がした。



コートから見えた赤い髪。



俺は、目を細めてそいつを見てから、もう一度を見て笑った。























































































「好いとうよ、。」
























































































































































丸井が俺とに気付き、こっちに向かって早足でやってくる。



俺はの頭を撫でていた手をぱっと外す。



は頬染めて、あっという間の俺の告白を聞いて驚き固まっていた。





「・・・仁王。お前、何やってんだよ。」


「ん?の髪綺麗じゃから、こう・・・くしゃっと。思わず。」


「・・・意味わかんねぇぜぃ。」





丸井がの髪を撫で、くしゃくしゃのその髪を整えようとする。





「えっ・・あっ・・・ごめんっ・・・」


「・・・謝るのは仁王だろぃ?」





が丸井から視線を俺に戻した。



丸井の手はの頭から下がり。



俺は左手をそっと握り締めた。



思わず目を細めてしまったのは、太陽の光がまぶしかったからだろうか。





(・・・好き、だから。)





答えとかはいらない。



別段、何気ない言葉だと思ってくれてかまわない。



ほら、よく言うじゃろ。loveじゃなくてlikeとか。



「好き」も便利になったもの。



恋だと呼ばぬなら、恋ではない。



愛と呼ばぬなら、藍のまま。




(・・・どっちの意味にとってくれても、かまわんが。)




ただ、今すぐどうしようもなく、声にしたかっただけだから。



に伝えたかっただけだから。



仕方がなか。「ごめん」はお前さんに届いてもくれない。



その笑顔がすぐにだってかき消してしまうから。



だから、












































































































「笑いんしゃい、。」


















































































































































































が俺の言葉に目を丸くする。



俺は笑ってを見ると、しばらくきょとんとしたあとに、は俺に思い切り笑い返してくれた。



恥ずかしそうに、うれしそうに。



その笑顔に、丸井は咄嗟に俺の前に立ちふさがって両手を広げてを隠したが、



俺には、そのの笑顔がしっかり見えたあとだった。































興味を持ったのは、赤也とジャッカルがになつき始めてからだ。



あげく、俺と柳生を間違えない。



あげく、その笑顔を見てしまった。





(・・・・なんて、こった。)





笑っていてほしいと、思った。



その笑顔に気付いたときから、いつも思ってた。



お前さんは、今、何を想っているだろうか。






今日は、笑っているだろうか。






俺は誰の幸せも、願ったことなどなかった。



ただ、お前さんの笑顔だけ。



いつも、願っていた。



その笑顔を見せるお前さんを、大切だと思ったから。



は笑顔が似合うから。



だから。



左手が震えることは、もうなかった。



その笑顔は藍色をかき消して。



俺の心に、優しく触れた。



いつものように、優しく触れた。
















(笑いんしゃい、。)
















その笑顔に気付いたときから。





いつも、思っていた。





お前は今、何を思ってる?































































































































今日は、




笑っているだろうか。








































































End.