赤い髪。
人好きするような笑顔。
屈託のない素直な言葉。
正直、苦手だった。
『赤の叙事詩』
あたしはただの傍観者。
「「「「赤也くーん!!」」」」
「「「「「「「仁王先パーイ!!」」」」」」」
ああ、うるさい。
テニスコートの横を通るたび思わされる。
コートを囲み、群がる女の子達。
朝から元気だ。
放課後も変わらずなんだろうけど。
「「「「「「「きゃー!!丸井くーん!!」」」」」」」
「おう!折角だから俺の妙技、しっかり見てけよ!!」
「「「「「「「きゃー!!!!!」」」」」」」
他のテニス部の人たちは声をかけられてもたいした反応しないのに
彼だけはいつも別だった。
「・・・・」
「ん?・・・・ー!!今学校来たとこ?」
「・・・・・・・・」
「あっ!無視すんなよ!!また教室でなー!!」
・ ・・・・なんで
なんでいつも声をかけるのよ。
あたしがテニス部のコートの隣を通り過ぎるたび
コートの中からあたしに手を振って。
迷惑なのに。
ああ、ほら。
あなたを見に来た女の子達があたしの背中を睨んでる。
赤い髪。
人好きするような笑顔。
屈託のない素直な言葉。
あたしは、丸井ブン太が苦手だ。
「やべ!!教科書忘れた、見せて!!」
「・・・勉強する気あるの?」
「あるある!だから見せて!!」
厄介なのは
教室では私は彼の隣の席なことだ。
何度席替えしても
必ず近くの席で。
そのたび彼は人好きするあの笑顔で
‘、また近くだな!’
「・・・・・・・・」
「・・・なあ。この問題どうやるの?」
「・・・授業聞いてたらわかるんじゃない?」
「つめて!教えてくれたっていいだろぃ!!」
「丸井―。うるさいからこの問題黒板にやってみろー」
「えっ!ちょっ・・・待った、先生!!」
「テニスに待ったなしだろ?数学にも待ったなし。」
「えー!!」
くすくすと教室中からの笑い。
あまりに大きな声を出した丸井は先生に目をつけられ
私の隣の席で頭を抱え込んで黒板に書かれた問題を考えている彼が
少なくともあたしにもかわいく見えるからだろう。
はあと小さくため息をついて
あたしは黒板に書かれた問題をノートに書き出し解答をつくった。
「・・・・丸井」
「ん?」
「・・・・・・・」
「・・・」
丸井の前に広げられた彼のノートの上にあたしのノートを重ねた。
あたしはそれ以上何も言わない。
丸井はきょとんとした顔のあと
しばらくあたしの書いたノートを見つめるともう一度あたしと目を合わせた。
あたしが何も言わずに丸井から目をそむけて黒板を見ると
しばらく経って丸井が隣の席を立って
黒板で問題を解き始めた。
「、!ありがとな!!」
「・・・別に」
「マジで助かったサンキュー!!」
数学の授業が終わって丸井があたしにすぐお礼を言った。
無事に終わった数学に彼は安堵のため息をついて
「って頭いいよな」
「・・・・別に」
「俺テニスなら天才的なんだけどな」
「・・・・・・・・」
「、いま突っ込むところだろぃ!関係ないだろ!とか」
「・・・・・つまんない」
「うわっ痛い!痛いよ!!」
人好きするような笑顔を浮かべ
本来人と話すのが苦手なあたしの周りをいつも明るくさせる彼。
笑うたびに赤い髪がさらっと揺れて。
「なあ、お礼何がいい?」
「・・・・え?」
「数学で助けてもらったお礼」
「・・・いらない」
「何でだよ」
「たいしたことじゃないもの」
ああ、ダメだ。
がたっと席を立ち上がったあたし。
教室を抜けて廊下にでる。
「?どこ行くんだよ」
「・・・・・・・・」
「俺も行っていい?」
「(!!)」
あたしの足を止めた彼の言葉。
なぜ
なぜあたしのあとをついてくるの?
「っ・・・・・・・」
「・・・ん?ああ、理由?」
「・・・・・・・」
あたしが足を止めると
丸井も足を止めた。
あたしの表情から声の出ないあたしの言葉を読み取った彼は
あたしにその答えをくれる。
「俺もっとと話してたい」
笑うたびに赤い髪がゆれ
あたしはただ顔を赤くさせ。
「・・・俺の赤くなる顔好きなんだぜい。・・・かわいい」
「なっ・・・・・・・」
「な、どこ行くんだよ?俺も行ってもいい?」
「っ・・・・馬鹿にしないで!」
「あっおい!!!」
廊下を走り出したあたし。
向かうのは図書館。
ああ、次の授業はなんだっけ?
息切れしながら図書館の一番奥の戸棚に身を隠す。
「っ・・・・なんなのよ・・・・・」
赤い髪。
人好きするような笑顔。
屈託のない素直な言葉。
苦手だ。
彼の全てが苦手だ。
あたしの周りを勝手に明るくさせて。
その上かわいい?
「(・・・・からかわないで)」
あたしはただの傍観者だ。
コートを素通りする、彼のことなど気にも留めない。
ただ揺れる赤い髪を見つめ笑顔をうつし、
そう、見ているだけ。
いつの間にかあたしの視線の中にいる
ああ、そうして見てしまうだけなのに。
「・・・」
「・・・・・・・・・・」
「俺変なこと言った?」
次の授業に間に合うように教室に戻ったあたし。
隣の席には変わらず彼がいて。
古典の教科書を広げ
あたしは彼に何も返そうとしなかった。
「・・・・。今日テニス部の練習見に来いよ。俺の天才的妙技見せてやるぜぃ」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・いつもコート通り過ぎるだけだけだろぃ?たまには見てけよ」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・ー」
からかわないで。
そう願うだけだ。
迷惑なのに。
ああ、ほら。
横さえ見なければあたしの視界にその赤はうつらない。
「・・・。俺、に練習見に来て欲しい。」
「・・・・・・・」
「ともっと話したい。」
「・・・・・・・・・」
「。俺のこと嫌い?」
<キーンコーン・・・>
終礼のチャイム。
授業中
彼はずっとあたしに話しかけていた。
本当に小さな声で
あたし以外周囲の人には聞こえないくらいの声で。
あたしはその声に何も返さず。
「・・・・・・俺はのこと好きだぜぃ」
「・・・・・・・・・・・・・・・え?」
笑うたびに揺れるその赤い髪。
丸井は顔さえ赤くさせ、
「絶対練習見に来いよ!!」
「丸井っ・・・・・・・」
授業が終わったばかりでざわつく教室で
彼はあたしに言った。
あたし以外誰も聞いてなかっただろう言葉は
あたしの耳に残り。
あたしの顔を赤くさせるばかりで。
そんな顔を隠したくて口元を手で覆っていると
同じクラスの女の子があたしを心配して声をかけてきてくれた。
「さん?具合悪いの?」
「・・・いえ。大丈夫。」
あたしの前から突然走り去った丸井は
あたしの脳裏から離れない後姿を残し。
ああ、どうしたあたし。
人と話すのは苦手。
丸井ブン太はもっと苦手。
赤い髪。
人好きするような笑顔。
屈託のない素直な言葉。
あたしの周りを勝手に明るくさせる人。
「・・・・あ。」
「どうかしました?ブン太さん」
「・・・いや、別に」
「・・・そういやさっきから丸井の顔が赤いとよ?どうした?」
「っ・・・・・どうもしねえよ!」
「くくっ・・・そう?」
「・・・おい、仁王」
「って言ったか?丸井」
「・・・・・・・・・(ばれてる)」
赤い髪。
人好きするような笑顔。
屈託のない素直な言葉。
正直、苦手だった。
苦手だけど
嫌いにはなれない。
「!!」
「(!)・・・・・」
「見に来てくれたんだな」
「・・・・」
部活が終わって、
あたしは動けなくて。
そのままコートの周りに立ち尽くしたまま。
丸井があたしのところに走ってきた。
「・・・・・・・・・」
「俺天才的だったろぃ?」
「・・・別に」
「いや、そこはもっと柔らかくさ・・・・ってか天才的だったって!!」
空が赤く染まりだし、
彼の赤い髪はゆれ。
「・・・なあ、」
丸井があたしに近寄り
あたしの腕を掴んだ。
・ ・・・どうしたあたし。
「なあ、。俺のこと嫌い?」
いつものように突き放せ。
あたしはただの傍観者。
「・・・・離して」
「嫌だ」
「・・・離して」
嘘だ。
離さないで。
ただ
顔を赤くすることしか出来なくて。
「・・・・・なんで席替えするたびが俺の近くの席になるか知ってた?」
「・・・え?」
「俺がお前の席の近くのくじ引いたやつとわざと席代えてもらってたんだよ」
苦手なのに、嫌いにはなれない。
むしろ
その 赤い髪が
その人好きするような笑顔が
その屈託のない素直な言葉が
好きになって。
「・・・かわいい、」
「っ・・・・・・・」
「俺と付き合わねえ?」
空も、その髪も、あたしの頬も彼の頬も。
赤くて、
赤くて。
あたしはただ、
丸井にこの手を離してほしくなくて
うなづくだけで、精一杯だった。
End.