一人でも寂しくなんてない。





寂しくさせるような愛情をもらったことがないからだ。





誰かを好きだと思ったことはない。





好きが何だかわからないからだ。






























『あなたがいるだけで1』 

























愛なんて幻想じゃない。



恋なんて夢想じゃない。






「忍足くん!あの・・・これっ・・・」


「ああ。おおきに」


「っ・・・・・」






こいつの笑みに意味はあるのか。



一人の女子が走り去る。



頬染めて。






「・・・モテモテですね。」


「なんや。焼いてくれてんの?」


「・・・・・アホ?」


「アホ・・・かもな」






こいつの笑みに、意味はあるのか。



頬杖ついて笑いかけるな。



隣の席。



嫌味なクラスメイト。






「あたしその顔嫌い。」


「はっ?!俺の顔が?」


「・・侑士の笑ってる顔。」






侑士の片手。



手紙。



頬染めた女子からもらった。






「・・・・ひどない?なら俺は笑ったらあかんの?」


「あかん」


「あかんってなぁ・・・。」






嫌い。



貼り付けたような、上辺だけの。



嫌い。何その笑顔。



誰にでも使用。



誰仕様?






「むかつく」


「ちょおさん?唐突すぎてどう返しやらええかわからんやん」






ちらちらとあたしの視界に入る侑士の片手の手紙。



色とかデザインとかかわいいと思うけど。



いいの?



こんな男にあげたんじゃもったいないよ。



かわいい手紙も頬を染め上げるような感情も。



愛なんて幻想。


恋なんて夢想。






「読まないの?」


「ああ、これ?」






侑士がひらひらと手紙をふった。






「読んでもしゃあないやん。あんな見たこともない子、どないせいっちゅうん?」


「・・・・最低」






愛なんて幻想。



恋なんて夢想。



だからこの男は笑えるんだ。



あんな貼り付けたような上辺だけの笑顔を誰でもかまわず振りまくんだ。






「・・・・せやかて、しゃあないわ」


「何が?」


「俺好きな子いんねんもん」


「・・・・」






知らない、そんなこと。



あたしに関係ない。






「・・・気にならんの?」


「あたしはその手紙をくれた女の子じゃないの。」


「・・・・・・」


「侑士が誰を好きでも関係ない。」






だから、あたしにはふりまくな。



そんな誰にでも使う上辺だけの笑顔。



嫌いなんだよ。













「・・・・。」


「何よ。」


「一緒にサボらん?」


「・・・・サボるなら一人でサボる。」










いつもは仲がいいと思う。



あたしと侑士は。



話せば普通に面白いし、何気に優しい奴だって知ってる。






「ええやん。な?」


「ちょっ・・・」






侑士があたしの腕を掴んだ。



いきなり座っていた席から腕を引っ張られただけで立ち上がらされて、



あたしと侑士は教室を出て行く。



侑士の持っていた手紙は侑士の机の上に取り残されていた。






「・・・・・目立つ」


「まあ、しゃあないな。」


「何がしょうがないのよ。」






侑士があたしの腕を引っ張る。



あたしは侑士の後ろをついていってる状態。



目立つ。



廊下中の視線が侑士にある。





(・・・モテてる自覚、あるんでしょ?)





あんな上辺だけの笑顔見せなくても



侑士は人の心をさらう。



いとも簡単に。



いとも、簡単に。



だからたくさんの女子があんたに魅かれて。



その侑士が女子の腕を引っ張って廊下を平然と歩く。



目立つなって方が無理。






「っ・・・・ちょっとどこまで行くつもりよ!」


「んー、屋上のつもりやけど、お姫さんご希望は?」


「・・・・・あるわけないでしょ?勝手に引っ張ってきたくせに」


「なら決定やな」


「・・・・」






こっちを振り向きもしない。



勝手にあたしを引っ張っていく。



あたしは恋を知らない。



愛を知らない。



誰も教えてくれない。



自分で見つけ出すことさえ出来ない。



だって・・・・



あたしの目の前にあったはずのそんな感情は、



いとも簡単に消えたよ?
































。」



























気付けば屋上にいた。



侑士はあたしの腕を放していて



あたしの正面に向き合うように立っていた。





(いつの間に)





。」


「・・・何よ」






あげた目線にはっとする。



侑士が笑っていなかった。



貼り付けたような笑顔をしていなかった。



見たことのない真剣な顔が少し、怖くて。







「俺が好きなのはな、なんや」


「え?」


「付き合ってくれへん?」







見たことのない真剣な顔が少し、怖くて。



心臓が一度とくんっと大きくなって、そこからは何の音も聞こえなかった。







なんて?









「ちょっ!ちょっと待ってよ・・・・・。そんなこといきなり言われても困るっ・・・」


「俺のこと好きやないん?他に好きな奴おるん?」


「・・・・知らない」


「知らない?」











知らない。










「・・・・・・知らないの。」


「何を?」






恋も愛も好きも、知らない。




















知らない。























だって・・・・



あたしの目の前にあったはずのそんな感情は、



いとも簡単に消えたよ?






「じょっ冗談やめてよね?おもしろくないよ!」


「冗談ちゃう」


「・・・・・・」






なんでよ、なんでこういう時には笑ってくれないのよ。






とくんっ






知らない。



愛なんて幻想じゃない。



恋なんて夢想じゃない。






「嘘だ・・・・」


「え?」


「嘘なんでしょ?侑士。そうやってあたしをからかってさ」


「嘘ちゃう!!」


「信じない」


「っ・・・






愛なんて幻想じゃない。



恋なんて夢想じゃない。








だって貼り付けたような上辺だけの笑顔浮かべて



女の子からの手紙受け取って。



あたし



恋も愛も好きも知らない



けど



あたしを好きだって言う人がそんなこと簡単にできるものなの?



恋や愛ってそういうものなの?

































































侑士の顔が間近いで



体温が、鼓動が、あたしのものなのか侑士のものなのか、



分からない。













「(!!)」












触れたのは侑士の唇で。



あたしの口は塞がれていた。








「・・・・・・んっ・・・」








侑士があたしを離さない。



苦しい。



何度も角度を変えてはキスをされる。





「んん・・・・」





どんっ!どんっ!



侑士の胸を手で叩く。



苦しい。



苦しい。



あたしの訴えは侑士に手を抑えられて終わる。



離して。



苦しい。













「俺は本気や。」












気付けばあたしは抱きしめられてて



侑士に耳元でそう言われていた。





(いつの間に)





「俺はが好きやねん。」


「・・・・」






侑士の鼓動かあたしの鼓動か。











とくんっ









「っ・・・・離して!!」


!!」






逃れた、この苦しみから。



どちらの音かもわからなくなる苦しみから。



残る唇の感触、侑士のものだと理解している苦しみから。



あなたの腕から。











!!」











屋上を後にする。



愛なんて幻想じゃない。



恋なんて夢想じゃない。



恋も愛も好きも、知らない。



だって・・・・



あたしの目の前にあったはずのそんな感情は、



いとも簡単に消えたよ?













「なんで、・・・なんでっ・・・?」











あたしは、知らない。



無意識に自分の唇を指でなぞる理由。



侑士が上辺だけの笑顔を見せなかった理由。



あたしは、知らない。























































どうして、あたしは泣いてるの?

















































end.