あわせてるわけじゃない。
あわせられてるわけじゃない。
けれど
隣歩くテンポはいつも
2人、一緒。
『アンダンテ』
「そんなん押し倒してちゅうしたらええやん」
「・・・・・・・・・」
あのほら、なんだ。
マンガの背景に落雷っていうか
イナズマっていうかさ、あるじゃんか。
今一瞬。俺はバックにそれを背負ってた。
「おまっ・・・バッ!何言い出すんだよ侑士!」
「なんやねん。岳人が遠回しに進展がないって俺に相談しやろ?」
「ちげぇ!!侑士が最近とどうだって聞くから別に今までどおりだっつっただけだろ!!」
梅雨の雨が降り続いた連日。
今日は久しぶりに雲間から太陽が顔をだして、
久しぶりに放課後の部活が外にあるテニスコートでできた日だった。
部活が終わってユニフォームから制服に着替え終わった俺。
部室から出て、俺を待つの所へ向かおうとしていると、
俺と同じく、すでに帰る支度のできていた侑士が俺に声をかけてきた。
「せやから遠まわしに進展ないって聞こえたんやろ?どうせキスとか・・・」
「うっせ!言っとくけどラブラブだかんな!」
「・・・・・・・へぇ。」
侑士のあの不敵な笑みだ。
何かをたくらんでるような、それは試合で見せる真剣な企みとは違うけど
あきらかに嫌な予感の。
俺は侑士に負けじと懸命に話していたため
気付けば多少息切れをしていた。
「あっ!岳人いた!」
声のするほうへ振り向けば、
がコートを囲むコンクリートの階段の一段に立っていて。
「」
「帰ろう?岳人。」
「噂をすればなんとやらやな。ほな、また明日な岳人。・・・。バイバイ」
「あっ、忍足バイバイ!!」
が侑士に手を振る。
侑士は再び部室へと戻っていくようで、
その後姿は、なんつーか・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「岳人?」
「・・・帰るか。」
「うん」
あまり深く考えても何もでてこないだろうし、
俺が考え込んでるなんて、似合うわけがない。
・ ・・っていうか侑士の後姿はただおもしろそうに笑ってるようにしか見えなかった。
「やっと、晴れたね。岳人」
「おう。やっぱ雨より晴れだよな。」
「外で部活もできるしね。」
「まあな。」
との帰り道。
手を繋いで、話しながら。
いつも通り。
それは学校に俺より近くに住んでいるを家まで送る帰り道だ。
人通りの少ない住宅街の、車一台がやっと通れるような道を行く。
「梅雨が明けたら屋上でお昼食べようね。」
「、マジ屋上好きだな。」
「お気に入り。晴れの日の屋上は気持ちいいでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・俺も好き」
が俺の顔を見て、うれしそうに笑うので、
俺も笑い返す。
晴れたといってもまだ梅雨独特の雨の匂いと湿気を残した空気は
少し肌寒いくらいだった。
だから、繋いだ手の体温はちょうどいい。
いつもどおりの帰り道。
いつだって俺とは同じ速度で歩いている。
あわせてるわけじゃない。
あわせられてるわけじゃない。
けれど不思議なことに
隣歩くテンポはいつも2人、一緒だった。
それが遅いか速いかは知らない。
ただと手を繋いで歩くのにはちょうどいい。
「そういうえばさっき忍足と何話してたの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」
「岳人、必死に言い返してるみたいだったけど。」
「なっ何でもねえよ」
「・・・今慌てた?」
「あわててねぇ!」
・ ・・押し倒して。
押し倒してちゅう。
そんな跡部や侑士みたいなことができるか!!
「あっ岳人。また曇ってきたよ」
っていうか
そんな簡単に言えるってことはそんな簡単にできることってことなのか?
「・・・岳人?」
落ち着け、俺。
今更深く考え出すなよ。
思い出したからって・・・・。
押し倒してちゅう。
そうは思っても侑士の言葉が今更になって反復しだす。
押し倒してちゅう
押し倒してちゅう
押し倒してちゅう
・ ・・・待てよ。跡部や忍足はともかく、宍戸や鳳は?!
そんなことが簡単に?!
「岳人ー?聞いてる?どうしたの?」
俺との足は進み続けてる。
手は握ったまま。
鳳、は何気にモテてるしな、ありえる。なくはない。
・ ・・・・宍戸。
宍戸だってモテて・・・・・って何か?
俺一人だけ遅れてる?!
「もうっ!岳人―?」
「・・・・・・・・・っ・・・・い・・・」
「ん?何岳人。」
どうやら、変に触発された模様。
侑士のあの不敵な笑みが思い出された。
俺は、侑士にはめられたのだろうか。
「・・・・・、キスしてもいい?」
はたと止まる足取り。
2人同時に手は繋いだまま、交わす視線。
・・・・えっと、俺今。
今、確かに。
俺の脳がぼんやりと思い出し、確かめ。
・・・・・あれ、俺今。なんて。
晴れたといってもまだ梅雨独特の雨の匂いと湿気を残した空気は
少し肌寒いくらいだった。
の手のひらの体温が急上昇していくように思えたのは、
「・・・・っ・・・・・」
何、こいつ。
(・・・・・・・・・かわいい。)
赤い顔。
とても赤い顔。
そんな頬の色がの体温があがったように錯覚を与え。
俺、キスしようって、多分。
そう言ったんだ。
赤いんだけど。
ものすごく赤いんだけど。
・・・・かわいい。何、こいつ。
が固まり、視線を俺からはずし、下に落とし。
その仕草があまりにもぎこちないので
俺まで恥ずかしくなって・・・・・
いや、っていうか俺は何をいきなり聞いたんだ。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
ちっ・・・沈黙は痛かった。
赤くなる。
つられて恥ずかしくなって。
何か言えよ、。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
完全にうつむいた。
それは、言葉につまっているというか。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
嫌で。
嫌で、断り方に困ってるのかも知れなくて。
の手を、
強く握りなおした。
「じょっ冗談だよ、」
「・・・え・・・・」
「わりぃわりぃ!そんな固まんなって!からかっただけだから!!」
「・・・岳人」
「ほら、もうすぐお前の家!帰ろうぜ!」
踏み出した足をが追ってきてくれるから、
いまだに手は繋がったままだから。
2人の歩くテンポがいつもどおりだから。
とりあえずは安心する。
その後、とても顔を見合わせるなんててきなかったけど。
の顔は赤いままなんだろうってそれしか予想できねえし。
あんなこと言わなきゃよかったなんて今更な後悔を取り巻く湿気に漂わせるしかできなくて。
「・・・・・・・・・・・へぇ」
「くそくそ!侑士のせいだかんな!!」
「なんでや、進歩やん。おいでがっくん、ほめたる。」
「いらねえ!!」
翌朝、部活はなし。
朝からの小雨のせいだった。
俺のクラスで俺の席に座りすぐ側にある机に座って話す俺に向かって、侑士が両手を広げていた。
ほめてやるって何。
抱擁なのか?!いらねぇよ!!
「がっくん、冷たいなぁ。女子なら泣いて喜ぶで?俺の抱擁」
「俺なら泣いてわめくぜ!この人変態ですって」
「・・・・へぇ。やってみよか」
「いらねえって言ってんだろ?!」
たまに不安になる。
侑士のどこまでが本気で冗談なのか。
っていうかいっそ存在そのものが冗談であればいいと思うときもある。
「で?そのはまだ今朝は来てないんやね。」
「・・・・・・・・侑士。」
「何?」
「そこ俺の席。」
「知っとるよ。が来たらどくつもりや。」
「・・・おもしろがってるだろ。」
「まさかー。相方の心配やんかー。」
棒読みの侑士の科白。
やっぱり昨日は俺をけしかえるためにあんなことを言いやがったのだと
今更ながらに実感する。
はまるほうの俺も俺だけど。
朝のHRまで残り10分。
俺がちらっとクラスの壁にかけられた時計に目をやる。
「・・・ほら、岳人。噂をすればなんとやら。」
侑士の声に俺の目はすぐ教室の入り口へ。
姿を見せたのはだった。
入り口付近にいたクラスメイトとおはようとあいさつを交わし。
を見ていた俺と目を合わせる。
と俺は一年のときからの同じクラス。
「おっおはよう、」
「・・・・おはよう」
視線はすぐさまそらされ、はさっさと自分の席についてしまった。
ちなみに俺の席は一番後ろの廊下側。
の席は一番後ろの窓側。
「がっくん、さけられてんなぁ」
「・・・・・うるせえよ。さっさと席どけ。」
「おいで、がっくん。慰めたる。」
「いらねえっつってんだろうが!!」
予想はしていた。
昨日の別れ際もきまずいままで。
もしかしたら明日もこんな感じで気まずいままなのかと。
結果はまったくもって予想通り。
あまりに思っていた通りなのでへこむけど。
「・・・がっくん。」
「もういいから自分のクラスに戻れよ!」
再び両手を広げた侑士に大して突っ込み続ける。
たまに不安になる。
侑士のどこまでが本気で冗談なのか。
っていうかいっそ存在そのものが冗談であればいいと思うときもある。
そうだよ、冗談であればいいんだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
今日一日、あまりに極端なの俺への避け方も。
休み時間、話しかけようとすれば逃げられ。
逃げられ、逃げられ、逃げられ、避けられ、逃げられ、逃げられ、よけられ、逃げられ・・・・・・
って何回あったことか!
目をあわせようとしないし
昼休み、友達と食べるとだけ言い残し、俺の前から消え。
結果、なぜか今の昼休み。
なぜか俺はの行きたがっていた屋上に侑士といる。
今朝からの小雨は午前中にやみ、強い日差しに屋上の床は一気にかわいたようだった。
「付き合ってどれくらいやったけ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「なんや、もうお別れか。岳人、最後くらいはかっこよくせなあかんで?」
「勝手に終わらせんなよ!ホント腹立つな!!」
「・・・・堪忍。今は楽しんで言うてた。」
俺は屋上を囲む手すりに両腕をあずけて外をぼんやりと眺める。
侑士が屋上の床に座って苦笑しているのが背中ごしに見えるみたいで。
いきすぎたところも冗談だとわかるから怒る気はねえけど。
正直、今の俺はへこみまくってた。
話しかけては、が俺を避ける。
「・・・・いつからだと思う?」
「・・・・・・付き合い始めたのは三ヶ月くらい前からやろ?」
「・・・そうじゃなくて。」
長い長い。
「俺がいつからが好きだっだか。」
長い長い片思いだった。
同じクラスで初めにクラス全員が1人1人自己紹介した。
の番のとき、
ひとめぼれ。
屋上から見る空は昨日よりずっと晴れていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
初めて会ったときから、2年間。
別に、バカにされてもいい。
重いとか、長いとか。
何一つ否定なんてできやしないし。
2年間友達、3カ月前から彼女。
やっと告げた想い。
「・・俺謝る」
「岳人」
「今日放課後も部活中止のままだろ?」
「いちよな。・・・なあ岳人」
「あ?」
「最後くらいはかっこよくせなあかんで?」
「勝手に終わらせんなよ!ホント腹立つな!!」
苦笑い。
2人して。
ってかなんでホント、俺侑士なんかと屋上?
まぁ明日からと来ればいいけど。
きっとこの空なら、梅雨はすぐに明けるから。
でも、そんなに。
(嫌だったのか。)
・・・・押し倒して、ちゅう。
わかってるんだ。
並んで、同じ速度で、同じテンポで歩いてたのに。
勝手に俺が走り出してしまった。
放課後。
にメールを打った。
一緒に帰ろうと。教室で待っててほしいと。
空が晴れていた。
部活は今朝の予定通りに中止のまま。
だが、翌朝は朝早くからの練習が決まった。
そんな連絡を跡部から受けたあと、
廊下を渡って俺は自分の教室のドアの前に立っていた。
この中にがいてくれているかわからないまま。
ドアに手をかけ、開ける。
「・・・よかった、いて。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・、帰ろうぜ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・?」
は自分の席に座っていた。
一番後ろ窓際。
俺は自分の机に置いておいた荷物をとると、の側まで行って
の机に置いてあるのカバンも手にした。
「・・・帰ろうぜ?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・」
の表情はわからない。
うつむいたまま、目をあわせてくれない。
・ ・・・まだ、俺を避けてる。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
長い、長い片思い。
2年間友達、三ヶ月前から彼女。
初めて会って、ひとめぼれ。
・ ・・・・・ごめん、悪かった。
そんなに嫌だった?
「・・・・・・ごっ・・・」
「キ・・・・・・・・・キスしていいよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」
ガタっとが席を立ち上がる。
俺はのカバンと俺のカバンを持ったまま立ち尽くす。
目を合わせる。
の顔が、赤い。
「ちょっ・・・待て・・・・っ・・・・」
「ごっごめんなさい・・・・・昨日、黙っちゃって・・・恥ずかしくて、その・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
顔が、赤くて。
俺は二つのカバンを床に下ろした。
目を合わせたままに近づく。
窓際の壁に、が体を預ける。
「・・・・・?」
「ごめっ・・・・・岳人と話したら安心した」
「・・・・・・・・・・・」
「ははっ・・・・・朝しか話さなかったもんね・・・ごめんね」
は突然、そこに座り込んだ。
足を床にペッたとつけて、
いつもどおりの笑顔をくれた。
同じ速度で歩いてた。
同じテンポで歩いてた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
隣を歩いてた。
俺はしゃがんでと目線の高さを同じにする。
右手をの頬に伸ばすと、の肩がびくっとあがった。
硬く閉じた目。小刻みに震える肩。
「キ・・・・・・・・・キスしていいよ!」
気まずくて、話せなかったんじゃなくて。
気まずくて避けてたんじゃなくて。
恥ずかしくて。
同じ、テンポで、速さで歩こうとしてくれて。
「・・・・・・・・・・・・・・」
同じ高さの目線。
硬く閉じた目。小刻みに震える肩。
「ごめん」
唇は触れる。
「がくっ・・・・」
「・・・お前デコ広いな」
「なっ・・・・・」
の、額に。
「・・・・雰囲気とか、タイミングとかよくわかんねえけどちゃんと隙つくから。」
「・・っ・・・・・・・・」
「だから、そっ・・・・・そんなに無理しなくていいし」
俺はしゃがんだまま。
は座り込んだまま。
顔が赤いのはお互いで、俺はの顔を見れずに照れ隠しに髪をかきあげる。
の視線は俺を見ている気配がしていた。
「・・・・・緊張とか・・怖がったりさせねえようにがんばるから・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・岳人・・・」
「えーっと・・・・・・俺は何が言いたいかって言うとえっと・・・・・・あー。・・・・・・・つまり。」
あわせてるわけじゃない。
あわせられてるわけじゃない。
けれど
隣歩くテンポはいつも
2人、一緒。
「・・・・・・・・・・大切に、想ってるから」
長い、長い片思いだった。
2年間友達、3ヵ月彼女。
変に触発されて、走り出した。
でもは、同じ速度で歩こうとしてくれた。
「・・・・ごめんな。変なこと言って。」
「岳人」
「・・・・・帰ろうぜ?」
立ち上がって手を差し出した。
に向かって。
はその手を握ってくれる。
まだ頬は赤くて。
何、こいつ。
(・・・・・・・・・・・・かわいい)
いいんだよ。
別に遅れてたって、
長い、長い片思い。
今は手を繋いでいられる距離にいられるから。
「いっ言っとくけど隙つくからな!覚悟しとけよ!!」
いつもの帰り道で、隣を歩きながら
が俺の顔を見て、照れながら笑うので、
俺も笑い返す。
俺たちの速度で。
これからも進めばいいのだと知る。
押し倒してちゅうは無理だけど。
重いとか、長いとか。
何一つ否定なんてできやしないし。
2年間友達、3カ月前から彼女。
やっと告げた想い。
今は手を繋げる距離にいるから、
これからも進めばいいのだと知る。
2人、
同じ、テンポで。
End.