誰がかっこいいって?
誰が大人っぽいって?
誰が冷静だって?
誰が色っぽいって?
「ー!!」
「・・・・・・・・・・」
・・・へたれにしか見えないよ。
『ありえない』
黄色い声が教室中に響く中。
「侑士だー!」
「えっなんでなんで?」
「知らないの?最近さんに会いに来てるんだよ」
「えーショックゥ!!」
・ ・・・いや、ショックじゃなくてさ
うん、ショックだけども
あたしは冷や汗。
廊下からあたしの名前を呼び
教室に入り
あたしが座る席まで歩み寄ってきているのは
まず間違いなく
今あたしのところへ来ようとしているのは
「。おはよ。今日初めて会うやんな」
「・・・ソウデスネ」
「何?それ何のものまねなん?」
「・・・・ものまねじゃない!」
にこにこにこにこ
なんでそんなにうれしそうに笑ってるの。
「マジかっこいい・・・。どうしよう、好き。」
「ちょっとーなんでさん?」
「侑士―!こっち向いてー!」
ホントどうしよう。
忍足のせいであたしはクラスの女子すべてを敵にまわしそうだ。
あのほら、笑ってあげてよ。
そしたら彼女たちの機嫌はよくなるだろうから。
「・・・忍足。今日はどういう用件でここにいるの?跡部なら生徒会室」
「ん?跡部なんかに用事あらへんよ。俺はに会いにきてん」
「・・・・そうですか」
「うん、そう。なんや今日のまた一段とかわええな。」
「・・・あっそうですか」
「照れんでええよ?」
ごめん、照れてない。
にこにこにこにこ
きゃーという悲鳴の後
誰かが倒れる音がした。
忍足はあたしに一歩近づくとあたしの耳元でささやく。
「好きやで、。また昼な。に会いに来るわ」
・ ・・・・よく見て女子達よ。
「いいなーさん」
「・・・よくないよくない。」
「なんで?忍足だよ?あの忍足だよ?」
「・・・・あの忍足だね。」
あたし達に背中を見せて去っていこうする伊達眼鏡の関西人は
みんなの言うような男じゃない。
誰がかっこいいって?
誰が大人っぽいって?
誰が冷静だって?
誰が色っぽいって?
「(ただのへたれだって)」
簡単に人にかわいいとか言うよ。
簡単に耳元でささやいて去っていくよ。
にこにこにこにこ。
「・・・・・・・・・・・・おい、こら跡部」
「あーん?おいってなんだよ。」
「おい。あんたのところの伊達眼鏡をどうにかしてよ」
「くくっ・・・忍足も変な奴を好いたもんだよな」
「・・・・・・・おいこら。」
「俺に頼るなよ。てめえでどうにかしたらどうだ?。」
あたしの前の席に座る男をその名も俺様と言う。
そしてあのへたれの男を唯一どうにかできる存在だったはずなのに。
あたしの望みを俺様が聞き入れてくれることはなかった。
忍足があたしに話しかけてくるようになったのは
・ ・・・・・・・・・いつからだったっけ?
とにかく突然だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
突然。
「?なあ、俺のこと好きにならへん?」
そう言いやがった。
突然あたしの前に現れて、
その日からかわいいだのまた会いにくるだの
・ ・・・・・・好きだの。
「(・・・・・・・へたれめ)」
そうしてあたしに毎日会いに来るようになった。
「!一緒に昼食べへん?」
「・・・・・・いいも悪いも。この手を離してから聞いてほしい」
「ん?」
繋がれているのは
あたしと忍足の手。
忍足は昼に必ずあたしのところへやって来ると
こうしてまずあたしの手を拘束してから
あたしを昼に誘うのだ。
あたしが持っていたお弁当は忍足の空いているほうの手に持たれ。
「今日はええ天気やなぁ。屋上?中庭?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「?」
「・・・・・・・・・・屋上」
毎回、あたしに拒否権なんてあるはずもなかった。
誰かが言っていた。
かっこいいって。
誰かが言っていた。
大人っぽいって。
あたしも確かに思ってた。
こうして毎日忍足と話すようになるまでは。
「なあ、その弁当が作ってんのやろ?」
「・・・・そうだけど」
「今度俺にも作ってくれへん?」
「嫌だ」
「なんで即答やねん!」
誰かが言っていた。
冷静で物静かだって。
誰かが言っていた。
色っぽいって。
晴れた空が頭上に広がって
そんな昼時の屋上があたしと忍足だけのはずがなく
またしても時折聞こえる黄色い声。
「・・・だってあたしがつくるだけじゃ忍足食べる量足りないでしょう?」
「ん?俺以外に小食やで?」
「ふーん。」
「あ。信じてへんやろ?」
・ ・・・あたしはにこにこ笑う忍足よりも
今見せてくれた笑顔のように
悪戯っぽく笑う忍足のほうが好きだ。
(・・・ん?好き?)
「あっ。!」
「(?)」
「手にほら。」
そう言って忍足が箸を持っていたあたしの右手をとって
薬指の付け根あたりに唇を近づけた。
「ちょっ・・・!忍足!!」
「ご飯粒ついてた」
手に触れられることには慣れた。
耳元でささやかれることにも少しは。
けど・・・・
けど。
「変態」
「・・・・・それひどない?」
「変態」
「・・・・。怒ったん?」
あたしは忍足にそっぽを向く。
「!堪忍!」
忍足があたしの肩を掴んで
あたしのほうを向かせ
目の前で両手を合わせあたしに謝る。
「・・・・・・・・・・・」
かっこいい?
(かっこよくない。)
こんな少しのことで困った顔してる。
大人っぽい?
(大人っぽくない。)
だってたまに子供っぽく笑って見せてくれる。
「・・・忍足は」
「ん?」
「忍足は何がしたいの?あたしに会いに来たって言ってお昼一緒に食べて・・・。」
目を合わせると
忍足が笑う。
それはにこにこしたいつもの笑顔でもないし、
子供っぽい笑顔でもなく
ただ優しい、そんな笑顔。
「なんでいきなりあたしに好きって言いだしたの?」
たまに聞こえてくる黄色い声。
冷静?
(冷静じゃない。)
あたしがそっぽ向いただけで慌てる。
色っぽい?
(色っぽくない。)
・ ・・ただの変態ですもん。
「・・・・・いつやったけな?」
「・・・・・・・・・・」
「跡部を訪ねていったクラスに一人跡部とケンカしとるえらい元気な子がおってん」
「・・・・・・・・・・」
「ずっと見てたら、突然その子が笑って。それではまった。」
・ ・・・・・・・・なんなんだ。
なんなんだ、忍足侑士。
そんな優しい笑顔。
(誰か)
明らかに時計の秒針より早いこの心臓を
止めちゃって。
優しく笑う忍足。
目が、
そらせない。
「跡部からその子の名前聞いて、なんやろ。それからな、傍にいたくて会いに行きたくてしゃーないねん」
「・・・・・・・・・」
「・・・、俺な」
・ ・・・・よく見て女子達よ。
「に俺のこと好きって言って欲しいんや」
忍足はただのへたれだよ。
かっこよくないし、大人っぽくないし、冷静じゃないし、色っぽくないし。
・ ・・・・・・でも。
でもなんで?
「・・・・・どうしよう」
「・・・・・・・・・?」
晴れ渡る空の広がる屋上。
あたしと忍足だけがいるんじゃない。
時折聞こえてくる黄色い声。
でも、
忍足がへたれであることを知ってるのは
あたしだけがいいと思っている自分がいる。
「・・・・堪忍な、迷惑やったら。ごめん好きになってしもうて」
「・・・・・・・・・・ありえない」
「え?」
なんなの?
なんで謝るの?
なんでそんなにへたれなの?
「ありえない」
「・・・・・・・・・・・?」
誰か
明らかに時計の秒針より早いこの心臓を
止めちゃって。
「・・・顔赤いで?」
「っ・・・・知ってる!」
「くすくす・・・・・なんや、やっぱり今日のはまた一段とかわええな」
なんなんだ。
なんなんだ、忍足侑士。
「、好きや」
忍足があたしに近づいて、耳元でささやいた。
なんなんだ、
なんなんだ、忍足侑士。
へたれのくせに。
好きになっちゃったじゃないか。
End.