暗闇に支配される前
茜の空に浮かぶ月。
ほのか明かりの
君は、
そんな人。
『挽歌』
「千石。・・・千石!」
「・・・南」
「お前最近よく寝てるな」
「ははっ目つぶってるといつの間にか、ね。」
「・・・しばらく部活休んでもいいんだぞ?」
「・・・ううん行くよ。心配してくれてありがとう。」
まぶたを閉じたなら
二度と目を
覚まさなければいい。
俺は立ち上がって部活に向かう。
「・・心配になるさ。ホントは今千石が座ってた席、の席だろ?」
ほのか、月明かり。
「千石先輩、タオルです。」
「あ、檀君、ありがとう」
「あっあの・・・」
「ん?」
「なっなんでもないです・・・」
“キヨ!!”
「?」
「千石先輩?」
幻聴。
「・・・まいった」
「え?」
声なんて
聞こえるはずもない。
もうは、どこにもいないから。
「っ・・・」
突きつけられる現実は
どんな刃より鋭くて、
俺の心臓を
何度も貫いた。
(なのに、死ねない。)
君に、会えない。
「キヨキヨ。じゃーん」
「!!」
「がんばったの。ほめてほめて。」
俺の前には‘happy birthday'の書かれたチョコのプレートがのってる、ショートケーキ。
「・・・」
「キヨ?」
「ごめん・・・びっくりして・・。だって昨日ケンカして、俺ちゃんと謝ってないし・・・」
だから、祝ってくれるか不安だった。俺の生まれた日。
「・・・がんばったの。」
「ありがとう、うれしい!こんなの作れるなんてすごいよ、!天才!!」
「ありがとうキヨ。生まれてきてくれて。」
「っ・・・昨日はごめん!!ただのヤキモチだから。」
「・・・誕生日おめでとう。」
「ありがとう、。大好き!!」
「うん、あたしも大好きだよ、キヨ。」
「千石!!」
「(はっ)えっ南?」
「いつまでやってるつもりだよ!倒れるぞ!?」
俺の腕を掴んでる南。
周りには散乱したテニスボール。
ちっとも止まりそうもない汗。
「・・・ごめん」
「無理するな」
「テニスやりながら死ねたら最高!とか思ってたのかな。ははっ」
「笑えない。」
「・・・笑ってよ。」
「千石・・・」
「何も言わないで」
ただ君に
会いたいだけなんだ。
「千石ー」
聞こえてきたのは
なんとなく聞いたことのあるような
女子の声。
「寝てんの?」
「ああ、みたいだ」
ありがとう南。
今俺、起きたくないよ。
ねえ、。
夢でもいい、会いにきて。
どうせなら俺を叱ってよ。
いまだ泣くこともできない俺を、どうか戒めて。
こんなに好きなのに、どうして君はどこにもいないの?
神様、
俺ラッキーなんかいらないよ。
ツイてなくてもいいんだ。
だから、お願い。
を帰して。
会いたいんだ。
に、会わせてよ。
「・・・千石!千石!!」
「あー南・・・」
「馬鹿野郎、お前っ・・・!何やってんだよ!?」
「南?・・・泣いてるの?」
「・・・早く病院行くぞ。」
そうだ、俺。
(手首切ったんだっけ。)
「・・・ははっ真っ赤。」
「笑えない。」
「・・・笑ってよ。」
世界中のどこを探しても会えない君に
会いたくて。
「・・・・・・・・っ・・・・会いたいだけなんだ・・・・・・・」
ホントはあの日。
「南、俺見てたんだ。が・・・・轢かれるの。」
「え・・・」
赤い赤いそれは
俺の視界を染め上げて。
「笑ってたよ、。大丈夫って・・・」
かげる月。
茜の空がとても憎い。
「千石?」
まぶたを閉じたなら
もう目を覚まさなければいいのに。
そしたら、会えるんでしょ?
「?」
「清純のバカ!!」
俺の目の前には今、
。
「?・・幽霊?」
君に手を伸ばしてそっと頬に触れる。
・・・冷たいその頬。
俺はこぼれそうな涙を繋ぎとめて
君を引き寄せて抱きしめた。
「・・・、。会いたかったっ・・・」
「バカキヨ・・・。自殺なんてしないでよ。」
「どうして?に会えたのも・・・俺が死のうとしてるからでしょ?」
「そんなことしなくていい。」
「俺はに会いたかったんだ。・・・は?違うの?」
抱きしめても抱きしめても、
冷たいままの君。
鼓動の聞こえない体。
「いつも側にいる。キヨがあたしのこと想ってくれてるなら、あたしはいつでも側にいるよ?」
「・・・違う。違う、違う!!そうじゃない!!・・・会いたい。君に・・こうして触れて・・・生き・・て・・・」
「生きてるよ。」
「・・・」
「あたしちゃんと生きてる。あたしの全部、キヨが覚えてくれてるから。」
「っ・・・のいない世界は・・・寂しい・・。俺、笑って生きてることがつらいんだ。
でもっ・・・南も檀君も心配してくれてるから・・・・」
「・・・だからね、キヨは生きなきゃいけない。」
「どうして?と一緒にいたい!!」
「好きだから。」
「っ・・・」
「キヨが好きだから生きててほしいの。」
(ずるいよ、。そんなこと言われたら、俺は。)
暗闇に支配される前
茜の空に浮かぶ月。
「いつかキヨがあたしの全部を忘れる時がきてもあたしがキヨを好きだったのは消えないよ。」
ほのか明かりの
君は、
そんな人。
「生きて。どうか幸せに、キヨ。」
「千石?」
真っ白な部屋。
気付けば俺は病院にいた。
「・・・南」
「よかった。お前・・・いなくなるかと思っ・・・よかった千石・・・生きてて」
「ごめんね、南。ありがと、いつも俺を呼んで起こしてくれて。」
世界中のどこを探しても会えない君に
会いたくて。
「南、一緒に来てくれない?さすがにまだ一人で行く勇気はないみたい。」
「どこに?」
「のお墓」
頭では分かっているのに
がいない事実の形、
見ることなんてできなかった。
「怖かったんだ。これ以上心臓刺されるの。」
結局、生きたがってた。
「バカだよね。ホント・・・」
「千石・・・まさか、会えたのか?」
俺は南に笑いかけた。
「抱きしめてきた。」
愛してる。
もう会えない君を愛してる。
俺の、全てにかけて誓える。
もう一度、生まれ変われたなら。
必ず見つけ出して、
二度と君を
手放すものか。
end.