「日曜の9:00に枯渇ビルの前、来てくれへん?」
「・・・え?」
クラス中をうめつくす悲鳴。
唖然とするあたしにあなたが向けた笑みと
あたしの目に映るその後ろ姿。
たぶん、
話したのはこれが初めてだった。
『バースデー・デート』
なんて、いい天気なんだろう。
広がる空にそう感漢。
人が行き交う街中の
枯渇ビル目前8:30。
「・・・・・」
空を見上げ、自然に止まった足を
再び進める。
きっとしばらく待つだろう。
いや、もしかしたら延々と待って
それで帰るだけかもしれない。
片手に持った小さなカバンをぎゅっと握る。
(大丈夫)
本を一冊持ってきた。
暇ならそれでつぶれるし
それに、もしここに彼が来ても
「・・・・・・嘘」
人が行き交う街中の
枯渇ビル前8:40。
「おはよ、さん。」
青い空の下
笑顔であたしに向けて静かに手をあげる姿。
「おっおはよ・・・」
「ほな、行こか」
「(?)・・・どこに」
「ついてきてぇな」
「あのっ忍足くんっ・・・」
「ん?何?」
「(・・・あのっ・・・)」
ゆっくりと
意外にもゆっくりと
忍足くんは歩き始めた。
あたしはしばらく彼の先を行く後ろ姿を見ていて
動くことができなかったけど
忍足くんが振り返って
笑いながらあたしに手招きしたのを目にして
あたしの足は
動き出した。
「さん私服かわええな」
「・・・・・」
「今日来てくれてありがとな」
「っ・・・・」
ありがとうなんて
笑顔でお礼を言われて
あたしが言うはずだった言葉は
喉の奥に引っ込んだ。
きっと待たされると思ってた。
もしかしたら彼は来ないとも思ってた。
けれど
もし彼が本当に枯渇ビルの前で待っていたなら。
(・・・時間より早く来てるなんて)
どんなに待たされても
会ったら言おうと思ってた。
‘今日は誘ってくれたけど、ごめんなさい帰ります’って。
だって
「さんて待ち合わせより早く来てくれる子なんやね」
「おっ忍足くんもでしょう?」
「今日は、はよ起きたから」
「・・・・」
あたしが見上げる忍足くんは笑ってた。
笑う彼の隣をあたしは歩いてた。
どこに向かってるんだろう。
そうは思っても聞けなかった。
・・・これで帰るって
言うつもりだったのに
言えなかった。
だってあたしは
忍足くんの仲のいい友達でなければ恋人でもない。
ただのクラスメイトなのだから。
縦に、上から下へ
右のページから左のページへ。
あたしはいつも本を読んでいた。
本が好きと言うのが正解。
休み時間になればクラスの一番隅の自分の席で
本をひろげて読む。
今週の金曜日もそうだった。
変わらない日々を過ごしていたはずだった。
「ねぇねぇ忍足!日曜誕生日でしょー?一緒に遊ぼうよ!」
「あっずるーい!あたしと遊ぼうよ、忍足!!」
「侑士、あたしはー?」
相変わらずの黄色い声に囲まれているのは
クラスメイトの忍足くん。
本に目を落としていても
その光景を目にうつさなくても予想はついた。
綺麗な女の子に囲まれている忍足くんの姿。
クラスどころか学校中の人気者。
その彼の誕生日だというのだから彼を取り巻く女の子達が黙っているはずがなかった。
「ねぇねぇ忍足一緒に誕生日過ごしたい子とかいないの?」
「ん?・・・・・おるよ」
「えーマジ?」
「もしかしてここにいる女子のうちの誰かとか?」
「なんや、女の子って勘ええな」
「きゃー!マジでここにいんの?誘ってみなよ、忍足!ってか誘って!!」
「・・・・・誘うん?」
「「「「「うん!」」」」」
「・・・ほな。」
黄色い声に包まれた教室。
縦に、上から下へ
右のページから左のページへ。
あたしはいつも本を読んでいた。
その時もただ教室の隅で本を読んでいた。
「日曜の9:00に枯渇ビルの前、来てくれへん?」
「・・・え?」
聞こえてきた声に
あたしは本から顔をあげる。
黄色い声は悲鳴に変わり、
あたしの目の前には、
クラスどころか、学校中の人気者。
唖然とするあたしにあなたが向けた笑みと
あたしの目に残ったその後ろ姿。
たぶん、
話したのはあれが初めてだった。
「映画?」
「ずっと見たかったやつ。付き合ってくれへん?おごるし。」
「えっおっお金は・・・・」
「中学生2枚。」
「忍足くんっ・・・・・」
中学生料金で忍足くんは入れるの?
・ ・・違う違う。
それが言いたいんじゃなくて。
「ほな、行こか。」
あたしがあたふたしているうちに、
忍足くんは2人分の映画のチケットを手に、
再びゆっくり歩き出し、
あたしはあわてて彼の隣に並んだ。
(・・・今日、忍足くんの誕生日なのに。)
いつの間にか映画館の席に着くところまで来ていて。
「さん、さん。隣。」
「えっ・・・」
「折角一緒に見にきたんやから。な?」
「・・・・・・・・・・・」
忍足くんの座った席の一つあけた隣に座ろうとするあたし。
忍足くんがそれを制止する。
彼の苦笑する笑顔。
あたしはゆっくりと忍足くんの隣へ移動した。
始まった映画予告。
フィルムの光に
忍足くんの整った横顔が照らされて見えた。
・ ・・・・きっとからかわれたと思った。
今日、枯渇ビルの前で。
あたしはただ待つだけなのだろうと。
忍足君がやってこない時間を、ただ本と共に過ごすのだろうと。
会っても、断ろうと思った。
だってあたしと彼の間にあるのはクラスメイトという名詞。
ただ、それだけのはずなのだから。
映画は、
ほんの少しの冒険と小さな恋の物語だった。
主人公の多大なる勇気の映画。
時折、
フィルムに照らされる忍足くんの目線があたしを見た気がした。
「さん、おもろかった?」
「え?」
「俺はけっこう好きなんやけど。ああいうの」
「・・・・・・・・・・・」
終わった映画に、
あたしは忍足くんに連れられて、小さな喫茶店に入った。
「・・・・・おもろなかった?」
「げっ原作をね、本で読んだことがあったの」
「そうなん?」
「あたし、そっ想像力とか乏しいから、映画見れてよかった。おもしろかったよ!」
頼んだコーヒーと紅茶。
あたしが紅茶を。忍足くんがコーヒーを。
あたしは、いっぱいいっぱいだった。
不思議で不思議でたまらなかった。
金曜日に初めて話したクラスメイト。
日曜日には一緒に映画を見て、喫茶店に入って。
「・・・・よかった。」
一度飲みかけた紅茶。
忍足くんの笑顔に、口元まで持っていったカップがそのまま傾くのをやめた。
からかわれたんだと思った。
そしたら彼はなぜか20分前には待ち合わせ場所にいて。
(・・もしかしたら)
もしかしたら
もっとずっと前からあの場所にいたんだろうか?
「なあさん」
「あっなっなに?」
「・・・・・・って呼んでもええ?」
「・・・え?」
「折角のデートやし。」
「・・・デート?・・・・・」
「あれ・・・・・俺はそのつもりやったんやけど」
忍足くんが持ち上げたコーヒーのカップを口へ運ぶのを躊躇する。
小さな苦笑い。
途端に顔に熱を感じるあたし。
そっか・・・・デート、か・・・・。
「・・・・・・あかん、やろか?」
「だっだめじゃない!!」
「・・・・・・・」
「あっ・・・・・・」
不思議で不思議でたまらなかった。
勢いよく言ったあたしにきょとんとした忍足くん。
口元に手をあてて彼は笑った。
いや、笑われたんだ。
変に慌てたあたし。
「・・・・じゃあ、」
「あっはい・・・・・」
「・・・・ごめん、呼んでみただけや。」
テニス部で、確かにかっこよくて。
人気者の忍足くん。
あたしの目の前で向かい合って笑う。
あたしは恥かしさにほんの少しうつむく。
忍足くんのかっこよさと自分が笑われてるんだという恥ずかしさに。
「は行きたいとこある?」
「え?」
「ある?」
「とっとくには・・・」
「じゃあ、今日は一日俺がエスコートやな。」
空っぽになった2つのカップ。
ガタっと座るイスから立ち上がった忍足くん。
「まっ待って!お金っ・・・・・」
「おごりやて。」
「なんでっ・・・ダメだよ」
「・・・・いきなり誘ったのに来てくれたやん。お礼や。」
「だってっ・・・・・・」
「ん?」
「・・・・・・・・・(だって、)」
今日は誕生日なのでしょう?
忍足くんはあたしがあたふたとしている間に紅茶とコーヒーの料金を払い終えてしまった。
ゆっくりと歩き出す彼が振り返る。
小さく手招きされれば
あたしの足は自然と動き出す。
「(・・・おかしい。こんなの)」
不思議で不思議でたまらない。
なぜあたしは忍足くんの隣を歩いているのだろうか。
人が行き交う街中。
天気は感嘆するほどよくて。
不思議で不思議でたまらない。
今日は、忍足君の誕生日なのでしょう?
「あのっ・・・」
「ん?」
「(・・・・・・・・どうしてあたし流されてるんだろう)」
「?」
「なっなんでもない・・・・・」
本当は、今日出会ったらまず初めに言うべきだったのに。
‘今日は誘ってくれたけど、ごめんなさい帰ります’って。
あたし達は単なるクラスメイトなのだから。
「。ここ。」
「え?」
「・・・おいで。」
「っ・・・・・・・・・・」
いきなり手を繋がれた。
手を引かれた。
そして入ったお店はアクセサリーの並ぶとてもシンプルな白を貴重にした綺麗な内装のお店。
入り口で付近でとめた足。
お店を見渡せば最後に忍足くんと目が合った。
「気に入ってくれた?ここ男物も女物もおいてあんねん。」
手は繋がれたままだった。
向けられた笑みと声にあたしは動くことができない。
目を合わせたまま。
忍足くんが苦笑する。
再び手を引かれ、忍足くんが店内を歩き出す。
あたしは彼の後を追うように、並べられた女物のアクセサリーに目を落としていた。
「・・・かわいい・・・・」
「こういうのつけへんの?」
「かっ買ったことない・・・・・自分に似合うものとかわからなくて・・・・」
今日もそうだけど、
あたしは滅アクセサリー類をつけていない。持っていない。
「そうなん?今日の服装とか似合っててかわええのに」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
あたしは、忍足くんの顔が見れなかった。
ただただ、かわいい商品に目を奪われるフリをして。
彼がどうしてモテるのかとてもわかった気がした。
向けられる笑みとか、優しい声とか言葉とか。
もらってもどうしていいかわからない。
けれど、
それらはもらったらとてもうれしい。
あたしは、いつも忍足君を取り巻く女の子達みたいに美人じゃないけど、
そんなことわかているけど。
繋がって離れない手がなぜかうれしい。
「・・・あっ・・・・」
「それ気に入ったん?」
「・・・・・綺麗」
「買う?」
「でっでも・・・・・・」
「大丈夫。似合うで?」
忍足くんが手に取ったネックレス。
鳥のレリーフ。
あたしが綺麗だと思ってその場に足を止めさせられたもの。
けれど、
今、自分の呼吸が止まった気がするのは、
鼓動が止まった気がするのは、
忍足くんがくれた笑顔と、言葉のせいだった。
「・・・・に、プレゼント」
「え?」
「行こ」
「だっだめ!!」
忍足くんがまたあたしに何かをくれようとしていた。
今度は手にしたネックレス。
おかしい。
こんなのおかしい。
だって今日はあなたの誕生日なのでしょう?
どうしてあたしがプレゼントをもらうの?
「でも、欲しいんちゃうの?」
「いっいらない!」
「・・・・・?」
「いいよ、忍足くん。出よ、違うところ行こう?」
「・・・・・・・・・・・・・」
今度はあたしが彼の手を引いた。
引っ張った。
「・・・・・・・、待って。ネックレス置いてくるわ。店の前で待ってて?」
「・・・・・・・・・・(・・・あ。)」
お店の入り口で、
忍足くんが手を離した。
離された。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
あたしはお店の外に1人で出ると、
離された手をそっと見た。
・ ・・嫌な想いをさせてのだろうか。
忍足くんに。
だから、
「。堪忍。」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・どこ、行こか。」
だから手を、離されたのだろうか。
不思議で。
不思議で、とても不思議で。
どうしてあたしは忍足くんの隣を歩いているのだろう。
いつも本を読んでいた。
休み時間の騒がしい教室の隅で。
本を読むあたし。
綺麗な女の子に囲まれた忍足くん。
顔をあげれば、その姿はすぐに見えた。
でもあたしは本から顔をあげることなど滅多になかった。
だって、
あたしとあなたは、話したこともないクラスメイト。
「・・・・本屋、行こっか。」
「・・・・・・え?」
いつの間にかうつむいていた顔は
忍足くんの声にあげられる。
どの方向に向かってどれくらい歩いていたのだろう。
空が赤みがかり始めていた。
「本、好きやろ?」
どうすればいい?
どうしたらいい?
どうしていいか、わからない。
不思議でたまらない。
今日は、忍足君の誕生日なのでしょう?
「(・・・どうして・・・)」
ついたのは少し小さな書店。
「洋書、たまに読んでるやんな、。」
「(どうして?・・・・・・・)」
「おっ今日の映画の原作。」
どうして、あたし、
あなたといるんだろう。
「・・・・・・・。ごめんな。」
「え?」
「つまらない思いなんかさせるつもりなかったんやけど。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「本。なんかおもろいのある?俺も読むかな。」
聞きたいことがあるんだ。
「ほっ欲しいもの・・・・・」
「え?」
「今日、誕生日でしょう?忍足くん」
今日はありがとう。
たくさん、たくさんありがとう。
つまらない思いなんかしてません。
今日見た映画、覚えてる?
ほんの少しの冒険と小さな恋の物語だった。
主人公の多大なる勇気の映画。
あんな、壮大な話にはなれないけど。
今日の忍足くんの誕生日。
あたしにとってはほんの少しの冒険。
「・・・・・・・・の好きな本。教えてくれへん?」
「・・・・・・・・・・」
「俺それが読みたい。」
ほんの少しの冒険と小さな・・・・・
「・・・・・今日の映画の原作。おすすめだよ」
「これか」
「あっ。プレゼントさせて。」
「・・・・・・・・・・・・・」
「誕生日でしょう?」
小さな、恋の物語。
不思議で、不思議でたまらなかった。
来ないかと思った。
初めて話したのが金曜日。
初めていろいろなあなたに触れたのが日曜日。
あたしは。
本当は顔をあげたかった。
いつも、
本じゃなくて。
人気者の忍足くん。
顔をあげたかった。
いつもどんな顔で笑ってるの?
「・・・・・・・今日は、ありがとう。。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
赤い空に
その色に感嘆。
街中から少し外れた道を、あたしの家に向かって歩く。
忍足くんが送ってくれると言って。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
無言が苦でないのは、なぜ?
聞きたいことがあるんだ。
それがたとえ、どんな答えでも。
今日の一日はあたしにとって
ほんの少しの冒険と、小さな恋。
それならば、あの映画の主人公のように
あたしなりの多大なる勇気。
聞いてみたい。
「・・・・・・・・・・・なんで、誕生日にあたしといたの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
忍足くんの足が止まる。
あたしの足が止まる。
どくんどくんと、鼓動がなる。
いつもより一際大きく。
どくん、どくんと。
「・・・・・・・これ、もらってくれへん?」
「え?」
「・・・いらないって言うてたけど、俺には欲しそうに見えたから。」
「っ・・・・それ・・・・・」
どくん。
忍足くんが、手のひらに出して見せたのは、
鳥のレリーフ。
あの綺麗なネックレス。
あのとき、手を離した後に買ってくれたんだね。
忍足くんの足が進む。
あたしに向かって。
「動いたらあかん。」
あたしの後ろに回りこんだ忍足君は、
あたしに静かにネックレスをつける。
・・・・・うれしかった。
どくん。
この鼓動、あなたに届いているだろうか。
「・・・・・・・・・・とうっ・・・・・」
「え?」
「誕生日おめでとう!」
あたしは忍足くんに向かって笑って言った。
おかしかった、やっぱり。
なぜって?
プレゼントをもらったのはあたし。
なのに、今口からついて出たのは忍足くんの誕生日を祝う言葉。
おかしかった、やっぱり。
本当は、今日一番に伝えるべき言葉だったはず。
「・・・・・・見たかったんや。」
忍足くんに振り向いたあたしを、
忍足君は真正面から抱きしめる。
ここは公道で、でもそんなの関係ないみたいに。
苦しいくらい、力いっぱい。
「見たかったんや、の笑顔。」
これだけ、近づけば、
届くだろうか。
あたしにもわかる忍足くんの鼓動と同じくらいの胸の音。
「今日、が来てくれるか、怖かったんや。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・いつも何の本読んでるんやろうって。休み時間、いつも。教室におって。」
「・・・・・・・・・・・」
「たまに洋書。たまに小説。たまに現代文学。」
「(・・・・・・・・・顔を)」
「それで、気付いたんや。ああ、俺あの子とクラスメイトなのに話もしたことないなって。」
「(本から顔をあげればよかった。)」
「どんな声なんやろ。どんな風に話すんやろ。・・・どんな風に笑うんやろうって。」
「(そしたらきっと目をあわせることができたのに。)」
忍足くんに抱きしめられる中。
ほんの少し顔を上に向ければ空が見えた。
よく晴れた赤い空。
きっとあたしも同じ色。
「気になったら、黙ったまま見てるなんてできへんかった。」
どくん。
顔を、あげればよかった。
そしたらもっと早く、
この想いに出会えただろうに。
「ほっ・・・欲しいもの・・・・・」
「・・・・・・・え?」
「今日っ・・・・誕生日でしょう?あたし本あげたのに。ネックレスもらっちゃった。プラスマイナスゼロなんてダメだよっ・・・・・・」
あなたにプラスをあげたい。
あたしはマイナスにはならない。
おめでとう。
誕生日、おめでとう。
今日を忍足くんと過ごせたこと、とても。
とてもうれしく思います。
「・・・・・・誕生日が背中を押してくれたんや。」
「忍足くっ・・・・・・」
「今日見た映画みたいに。今日一日、ちょっとした冒険と恋やった。」
聞きたいことがあるよ。
誕生日おめでとう。欲しいものはなんですか?
ほんの少しの冒険と小さな恋。
それから、
それから、多大なる勇気。
「がいい。」
2人して、
映画の主人公のようだ。
「・・・言っとくけど下心はないで。・・・・少ししか。」
「・・・・・・・・・・・」
「黙らんといて!・・・・・・・笑ってぇな」
・・・・・・・笑ってるよ。
おかしいのが1割。
うれしいのが9割。
抱きしめられたまま。
鼓動が合わさって、一緒に鳴ってる。
どくん。
「・・・・・・・あたしで、よければ。」
「(!!)っ・・・・・・ほんまに?!」
「・・・下心がないなら」
「・・・少ししか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「黙らんといて!・・・・・・・笑ってぇな」
笑ってるよ。
今日は忍足くんの誕生日だけど、
あなたがたくさんくれるから。
「じゃあ、・・・・明日からもずっとって呼んでええ?」
「・・・・・・・・うん。」
誕生日が背中を押してくれた。
本から顔をあげさせてくれた。
この恋を教えてくれた。
聞きたいことがあるよ。
「・・・・・どうして。今日あたしといたの?誕生日でしょう?」
誕生日、おめでとう。
欲しいものはなんですか?
抱きしめた体を少し離して、今度はちゃんと目を合わせて。
「そんなん、決まってるやん。」
あなたはありがとうをくれる。
笑いながら、
最高の誕生日プレゼントだと、
そう言って。
「が、好きやから。」
End.