毎日の大半はお昼寝。
だって眠いじゃない。
毎日の大半はお散歩。
太陽を追いかけてみるの、ゆっくりね。
ただし、空があなたの髪と同じ色になったら
元いた場所に戻るわ。
薄汚れた白いあたし。
あら、
また来たの?
『cat girl』
「おっ。いたいた。」
不思議な人ね。
毎日あなたの髪と空が同じ色になったころに来るんだから。
路地裏。
人の多い通りの脇。
「今日も牛乳買ってきたんだぜぃ?」
「・・・・・」
不思議な人ね。
毎日片手にビニール袋。
その中はあたしへの贈り物。
目の前に置かれた紙皿と甘い匂いのミルク。
「ほら」
「・・・・」
不思議な人ね。
なんて言ってるかなんて全然分からないのに
優しい目をしてるから信じたくなるじゃないの。
「・・・うまい?」
「・・・・」
その手があたしの背をなでる。
仕方がないわね。
今だけよ。
あたしがおなか一杯になるまでなでていていいわ。
「・・・・俺も腹減ってきた。」
ごそごそビニール袋。
ちょっと待って。
その中はあたしへの贈り物でしょう?
「・・・・何?お前も食うの?」
赤いその色。本当に今の空みたいだわ。
空の色の髪のあなた。
あたしに差し出すクッキー。
「・・・・・」
仕方ないわね、食べてあげる。
あたしへの贈り物だものね。
「うまい?」
「・・・・・」
・・・なんて言ってるかわからないわよ。
そんなに優しい顔であたしを見ないで。
あなたが毎日ここに来るのはあたしが好きだからなの?
あたしを落としたいならせめて言葉くらい通じるようになりなさいな。
ダメよ。
あたしお腹がいっぱいになったくらいじゃあなたを好きにはなれないわ。
紙皿に残った少しのミルク。
薄汚れたあたしは本当はあれに負けないくらい白いのよ?
「おっ?毛づくろい?」
「・・・・・・・」
「・・・お前ホントかわいいな」
あ。
待ってよ。
その手があたしを抱き上げる。抱きしめる。なでる。
待ってよ。
まだ毛づくろいの途中なの。
あたし本当は真っ白なのよ?
今はちょっと汚れてるけどさ。
だから待ちなさいよ。
汚れ落として白いあたし見せてあげるからさ。
「うちは親がお前飼っちゃダメだとよ。」
「・・・・・」
「こんなにかわいいのにな?」
あたしを落としたいならせめて言葉くらい通じるようになりなさいな。
ダメよ。
あたしお腹がいっぱいになったくらいじゃあなたを好きにはなれないわ。
抱きしめられたら苦しいくらいなの。
でも我慢してあげる。
あなたあたしを口説きたいのでしょう?
「・・・・暗くなってきたな。お前はいつもこの辺で寝てんの?」
「・・・・・・」
「うちに来て寝れりゃいいのにな・・・。」
あ。
空の色の髪のあなたが
あたしをその手から地面へはなす。
あたしは静かに着地。
「じゃあな、また明日来るからな。」
ダメよ。
行っちゃダメ。
まだ行かないで。
「にゃー」
「ん?」
「・・・・にゃー」
あたしはあなたの足に擦り寄る。
あたしのこと抱いたままでいればいいじゃない。
どうせ明日も同じ時に来るのでしょう?
同じようにあたしを抱き上げるのでしょう?
だったらあたしのこと抱いたままでいればいいじゃない。
ダメよ。
行っちゃダメ。
まだ行かないで。
またあたし寂しくなるじゃない。
「・・・また明日来るからな」
行っちゃダメ。
まだ行かないで。
見えなくなったあの人の後ろ姿、
追いかけた。
空の色が黒くなる頃。
空の赤と一緒にその赤はいなくなる。
かっこつけないでよ。
あたしを落としたいならせめて言葉くらい通じるようになりなさいな。
ダメよ。
あたし本当は白いけど、暗闇につつまれたらそれもわからなくなるでしょう?
あたしを抱き上げたままじゃなきゃ
あたしの白は見えないわ。
あたしの側にいてくれなくちゃ折角毛づくろいしてもあなた
あたしの白は見えないわよ?それでもいいの?
あたしに会いに毎日あの場所へ来るのでしょう?
見えなくなったあの人の後ろ姿、
追いかけた。
(キキィッー!!)
突然目の中に飛び込んできた二つの強い光。
ええっと・・・・
車って言ったかしら。
「っ・・・・危ねぇなあ」
「(!!)」
あたしの頭の上
通じない言葉、優しく降ってくる。
「お前だめだろぃ?飛び出しちゃ」
「にゃー」
「にゃーじゃなくて・・・俺の後ついてきた?」
再び抱き上げられたままのあたし。
見えなくなったあなたの後ろ姿、
追いかけた。
このままで。
このままで。
あたしを抱き上げたままで。
そしたらあたしの白、
まだ薄汚れてるけどわかるでしょう?
「・・・・・明日ぜってぇまた来るよ」
「にゃー」
「だからあの場所で待ってろよ。な?」
「にゃー」
「ちゃんと牛乳持ってくし。明日はにぼしも買ってみるし」
なんて言ってるか、わからないよ。
毎日の大半はお昼寝。
だって眠いじゃない。
(あなたに会えるまで)
毎日の大半はお散歩。
太陽を追いかけてみるの、ゆっくりね。
(あなたのこと考えながら)
ただし、空があなたの髪と同じ色になったら
元いた場所に戻るわ。
薄汚れた白いあたし。
(あなたに会いに)
「・・・もう一回親に言ってみるからな」
「にゃー」
「お前が飼えるように。」
あたしを抱き上げたまま歩くあなたは
いつもあなたがあたしに会いに来る場所へ。
(ダメよ。)
あたしのこと抱いたままでいればいいじゃない。
どうせ明日も同じ時に来るのでしょう?
同じようにあたしを抱き上げるのでしょう?
だったらあたしのこと抱いたままでいればいいじゃない。
ダメよ。
行っちゃダメ。
まだ行かないで。
またあたし寂しくなるじゃない。
「俺の後ついてくんなよ、危ねぇ。ちゃんと明日も来るから。」
抱きしめられたら苦しいくらいなの。
でもそれでちょうどいい。
「じゃあな。」
「・・・・にゃー」
行かないで。
「ここにいろよ。明日も来るから。」
なんて言ってるかわからないよ
あたしを落としたいならせめて言葉くらい通じるようになりなさいな。
「・・・・にゃー」
でもきっと明日も来てくれるから、待っててあげる。
ここで。
さっき助けてもらったとき
あなたにも危ない思いをさせたから。
「にゃー」
待っててあげる。
「丸井?何見とお?」
「・・・・・猫雑誌」
「猫?」
「仁王、お前さ。猫飼ったことある?」
「いや・・・お前さん飼うと?」
「親がやっとおれてさ!前から飼いたかった奴。今日向かえに行ってくるんだぜぃ!」
待っててあげる。
薄汚れたあたし
あなたが来るまで毛づくろい。
本当はあたし白いのよ?
今はちょっと汚れてるけどさ。
汚れ落として白いあたし見せてあげるからさ。
だからまた
空があなたの髪と同じ色になったら会いに来て。
抱き上げて。
優しい顔で。
会いに来なさいな。
言葉はわからなくても
あなたを好きになってあげなくはない。
「おっ。いたいた。」
End.