流れ星に願うような
そんな
無理なお願い。
『だから、聞いて。』
「「「「跡部様ぁー!!」」」」
がんばってんね、女子達。
テニスコートを囲む声援。
そのテニスコート
誰よりまぶしく思わせる人。
「え、!今こっち跡部様見たよね!?」
「え、あー」
気のせいだよ。
…なんて友達に言えない。
「何や跡部。気になる子でもいたん?」
「まあな」
「え、嘘!嘘!!跡部好きな子なんていたの!?」
なんかレギュラーが楽しそうに話してる。
「「「「きゃー!!!」」」」
みんな、落ち着け。
こっち見たとかそんなこと錯覚でしかないってば。
流れ星に願うような
そんな不毛な恋。
みんなしてるの?
「も呼んでみようよ!」
「え…いいよ」
ただ見ているだけ。
それがあたしの不毛な恋。
確かにレギュラーはみんなかっこいい。
でもきっと、ここにいる大半の子があの人目当て。
「「「跡部様!!!」」」
お昼休み終了10分前
跡部先輩はいつも図書館に一人でやってきて
5分間だけ読書する。
人の少なくなった図書館。
図書委員のあたしは
その時間がとても好きだった。
一目ぼれと言えば
聞こえはいいのかもしれない。
どうして好きなんて思ったかなんて
わからなかった。
「だって…そう思わずにはいられなかったんだもん」
つぶやいただけのあたしの声。
黄色い声と空に吸い込まれて消える。
「図書委員」
「(!)はっはい。」
それは初めて跡部先輩に話しかけられた時だった。
「本の貸し出しってどうすんだよ。」
「えっと、図書カード作ってありますか?」
「いや、初めて借りる。」
「それじゃあこれに名前と…」
「図書委員、いつもお前だよな」
「あっ…他の図書委員は来たがらないから…あたし、図書館好きなんです」
「名前は?」
「!?」
「名前。」
「…っ…です」
「覚えとくぜ、」
そう言って笑ったあなた。
きっとからかわれただけ。
だってあたしの顔はあの時確実に赤かった。
でもですね、
跡部先輩。
人が恋に落ちる可能性を考えてみてください。
知らない顔なんてできるはずないでしょう?
(…見てるだけなんて、できるはずないでしょう?)
「跡部先輩!!」
気付けばあたしはコートにむかって
叫んでいた。
黄色い声と空に吸い込まれて、消える。
「え?」
「「「きゃー」」」
まわりの女子がうるさい。
・ ・・跡部先輩が、
こっちに向かって歩いてくる。
「なんだよ、」
「嘘…」
目の前にあたしの、
大好きな人。
「今呼んだろ?」
驚いている友達。
静まるまわり。
「きっ聞こえっ…」
「聞きまちがいか?」
いいえ、確かに。
「…呼びました」
「で?」
「…ぶっ部活がんばってください。」
しばらくあたしの顔を見て
あなたは笑った。
「ああ。」
(錯覚じゃないよね?)
ああ、お星様。
叶わない願いごと
願うことさえ
苦しいんです。
けど叶うより先に願わずにはいられないから。
あたしの声に
もしあなたが気付いてくれると言うなら、
聞いて欲しいことがたくさんある。
がんばって下さい以外に言いたい言葉がある。
「あ…」
今、こっちを向いて笑いかけてくれた?
「っ…」
あたしの名前を呼ぶあなたの声が耳からはなれない。
恋に落ちる可能性、考えてみてください。
知らないふりなんてできるはずないでしょう?
(…見てるだけなんてできるはずないでしょう?)
だから、
もしもこの声が届くなら。
聞いて。
知って欲しい想いがあるんです。
end.