〈ガチャっ〉
「!」
駆け込んだ保健室
「あ―・・ははっ宍戸だ」
「・・・・・」
クラスメイトから
体育の授業中に倒れたと聞いたは
予想外にも
俺に向かって笑い、ひらひらと手を振った。
『抱きしめて』
は倒れて保健室に運ばれたと聞いた。
「・・・元気じゃねえか」
「ん?」
「体育で倒れたって聞いた。」
「あーん?このあたしが倒れるわけないでしょう?」
「お前は跡部か。」
「ははっ・・・似てた?」
は保健室の一番奥のベッドの上
俺がここに来る少し前までは寝ていたのだろうか。
上体を起こして
少し乱れていた髪を手ですいている。
「宍戸、宍戸」
が手を招いて俺を呼んだ。
俺はのいる一番奥のベッドまで
保健室の入口から向かう。
「宍戸。座ればいいじゃん」
「・・・・・」
「遠慮しない」
が、自分が乗るベッドのすぐ隣をポンポンと叩いた。
昼休みの保健室には他の生徒の姿はなく
保険医の姿も見えない。
がすねる前に
俺はの隣へとベッドに腰を下ろした。
「宍戸。あたしのこと心配してくれたんだ?」
「お前なぁ・・・」
俺の顔を覗き込むに
嫌味の一つでも言ってやろうと思ったが
「・・・?」
が俺の肩に静かに頭を預けた。
黙ったままの。
近すぎての表情がわからない。
「?どうした?」
「ん?・・・休憩中」
「・・・お前本気で具合悪いのかよ」
「悪くないよ。自己嫌悪なだけ」
の言葉に一瞬俺の動きがとまる。
「・・・自己嫌悪?が?」
「何、宍戸。その言い方は。」
「いや、だってよ・・・」
俺の肩によりかかる。
うつむいた顔をあげようとはしない。
明らかにいつものと様子が違う。
「・・・・生徒会で何かあったのかよ」
「生徒会?・・・今朝跡部と言い争ったよ」
「そんなの毎日だろ?」
「跡部と言い争ったのは一週間ぶり。口げんかは毎日だけど」
「・・・何が違うのかわかんねぇよ」
は氷帝の副生徒会長だ。
この学園で跡部に意見を言える唯一の生徒だと有名で
成績も素行もいいと
跡部と並んで眉目秀麗で同学年からも後輩からもよく騒がれている。
「・・・跡部と言い争って自己嫌悪ってやつ?」
「いつも言いくるめられるんだ。」
「跡部だしな」
「・・・跡部ってすごいよね」
・・・も十分すごい奴だと思う。
の声がいつもより弱弱しくて
表情が気になるが
どんな言葉をかければが顔をあげてくれるのかわからない。
「結局いつも正しいのは跡部」
「・・・も正しいだろうが。生徒のために考えてることを言ってるんだろ?」
「確かにあたしは正しいかもしれないけど」
たまに自信家
そういうところは
跡部がうつったのかもしれないが。
「でもあたしは、あさはかだから。」
こんなに
弱々しいの声も弱音も初めて聞いた。
俺の肩に頭をあずけたままの。
「・・・もすげぇ奴じゃねえか。自己嫌悪になんかなるなよ」
小さく動いた首を横に振る。
・・・はすげぇ奴だよ。
眉目秀麗なんて騒がれて
跡部に意見できる唯一の生徒だって。
表情のわからないを見つめる。
初めて聞いた弱音。
本当は自分に自信がない。
のそれは自信ではなく強がり。
「・・・ねぇ宍戸。」
「あ?」
「あたしちゃんと副会長できてるのかな。跡部の役にたってる?」
なんでそんなに。
(自分を信じてないんだよ)
眉目秀麗。
いつだってゆるがない。
自分をつらぬいて。
そんなの初めて見せた弱さ。
「・・・副会長はお前しかいねぇだろ?」
「・・・・」
「跡部の役に立ってるかとか考えるなよ。少なくとも俺たち一般の生徒にはが必要だぜ?」
「・・・・・」
「・・・ってかは最近、跡部跡部言い過ぎ。」
なぜだかムカツクのは跡部。
あいつは絶対俺よりもといる時間が長い。
・・・・絶対なげぇ。
「・・・・・・・・・・・・宍戸、宍戸。」
「あ?」
「・・・・・・やきもち?」
が顔をあげて俺の服の袖を引っ張って。
俺はに顔を見られるのが嫌で
わざとから顔をそむけて言う。
「・・・うるせぇよ」
「ははっ・・・うれしい」
「・・・っ・・・」
の顔を見ると
とても頼りなく笑って。
もしも俺に
何かのためにできることがあるなら。
「宍戸、宍戸。」
「あ?」
の腕が弱弱しく俺の首に回る。
「抱きしめて」
頬に触れるの髪。
お前の香り。
「・・・・・」
「宍戸が抱きしめてくれたらいつものあたしに戻るから」
「・・・・・・・・・・」
もしも俺に
何かのためにできることがあるなら。
「抱きしめてよ・・・・・」
震えるの声。
俺はの背中に手を回して
の体を包むようにして抱きしめた。
頬にあたる髪。
お前の香り。
の体は思っていたよりずっと小さくて細くて
とても、
頼りなく思えた。
もしも俺に
何かのためにできることがあるなら。
が抱えてる不安とか弱さとか全部抱えて
抱きしめてやりたい。
「・・・?・・・・・」
しばらく経って聞こえてきたのは
の小さな寝息だった。
俺は一度ベッドから軽く立ち上がり
の腕を俺の首から外すと
をベッドに横にさせて布団をかける。
「・・・。・・・・・・・もっと自分を信じてやっても誰も文句は言わねえよ」
「・・・・ん・・・・・宍戸・・・・・」
「(!!)」
の手が俺の手を掴んだ。
が起きたのかと思ったがまだ寝ているようだった。
俺の手はしっかりに握られていて
(・・・・・仕方ねえな)
思わず笑い、
再びの眠るベッドに腰を下ろす。
の手を外すこともできなくて
そのあとが起きる放課後まで
と一緒に授業をさぼった。
もしも俺に
何かのためにできることがあるなら。
が抱えてる不安とか弱さとか全部抱えて
抱きしめてやりたい。
End.