お久しぶりですね。
お元気ですか。
こうして手紙を書くのは初めてなのでなんだか緊張しています。
私のことを覚えているでしょうか。
突然のことですが、
あなたの元にこの手紙が届く頃
私もそちらへ帰ります。
初めて書く手紙で伝えたいことを綴ります。
長くてもどうか読んでください。
読み終えてくれたら。
そしたら・・・・。
『拝啓あなた様』
暑い日差しの中。
たくさんの声援と人に囲まれたテニスコートで
三年ぶりにあなたを見つけた。
「・・・・景吾」
「さん?どうかしましたか?」
「・・・・いえ、何も。」
あたしは三年前、親の仕事の都合などもありドイツへ留学した。
当時、中学一年生。
昨日戻ってきたばかりの氷帝学園は、相変わらずの豪華な外観。
ただあたしは今度は高等部に通ううえに三年前の記憶しかないので、校舎内を女の先生に案内してもらっていた。
あたしが再び氷帝に通うようになるのは明日から。
(景吾、変わってなかったな)
三年前と同じように一年生なのに人目を引いて。
・ ・・・・手紙、届いたのかな。
今度はテニスコートから離れて校舎内の案内へと移る。
淡々と説明される校舎内。
・ ・・・もう少し、コートの中にいるあなた。
見ていたかった。
三年前、あたしと景吾は恋人同士だった。
あたしのドイツ留学を知っても、
悲しみも寂しさも二人の間にはなかった。
ずっと景吾が側にいたから。
あたしがドイツへ旅立つ日。
普段どおり過ぎたあたし達は
待っていて、待ってる。すぐ帰ってくるから。また。さよなら・・・・。
そんな言葉たちを1つも交わさず離れていった。
あたしから手紙を書くからとドイツでのあたしの住所も電話番号も教えないまま。
あの日から三年間。
あたしは、一通も景吾に手紙をだすことはなかった。
「さん・・・・・さん!!」
「(はっ)すっすみません!ぼうっとしていて」
それは今まであたしに学校案内をしていた教師の声だった。
「私はこれで仕事に戻らなくてはいけませんので。ここからは彼が案内をしてくれるそうですよ」
「彼?」
いつの間に入ったのだろうか。
たくさんの机が綺麗に並んだ、広い教室。
足を踏み入れていたのは、あたしとその教師と。
もう一人。
「・・・・変わんねえな、」
「景吾?!」
「それじゃあ、跡部君。あとはお願いするわね。」
「はい」
呆然としているのはあたしだけだった。
教室からすぐさま去っていく教師。
さっきまでコートにいたはずの景吾。
「どうして・・・」
「こんな格好で悪いが。すぐ部活に戻らないといけないんでな」
景吾はさっきコートで見かけたように
あたしの記憶にある高等部の氷帝テニス部ジャージを着たまま。
「・・・・・」
「ぼうっとしてねえで行くぞ、。」
「あっうん!」
すたすたとあたしより早歩きの景吾
こんなに早く再会できるだなんて思っていなかった。
こんなに早く言葉を交わすことができるだなんて。
「どっどうして景吾なの?」
「何がだよ」
「あたしを案内するの!部活だったんでしょ?」
あたしより先を歩く景吾は振り向かずに答える。
「俺が生徒会長だからだろう?」
「・・・・・・・・・・・・生徒会長?」
「ああ。高等部の」
景吾、高等部一年生だよね?
一年で生徒会長になったの?
「・・・・・・ははっ変わんないね」
「・・・・・・・・・・・・・お前もな」
景吾もさっきまでの教師と一緒だった。
淡々と。
まだあたしが案内されてない教室や施設を説明していく。
あたしの先を歩き続ける景吾。
「・・・・・宍戸やジローくんは元気?」
「俺が言うよりお前の目で見たほうが早いだろ」
「・・・・・・・」
景吾は一度も振り向いてはくれない。
・ ・・・・・本当は聞きたいことは他にあるのに。
(景吾、手紙読んでくれた?)
待っていて、待ってる。すぐ帰ってくるから。また。さよなら・・・・。
交わさなかったあたし達は、
今でも、恋人ですか?
あたしと景吾の足は1つの教室な前で止まった。
「ここで案内は最後だ。」
「・・・・・・・ここは?」
「お前のクラス教室」
ガラッと、景吾がその教室のドアを開けた。
二階に位置した教室は見晴らしのいい、とても綺麗な教室だった。
「・・・・ここか・・」
「ちなみにそこは俺の席。」
「え?」
あたしが片手で触れている机を指差して景吾が笑った。
「言ってなかったか?は俺と同じクラスなんだとよ」
「きっ聞いてないよ!」
「・・・・・・・。」
景吾は壁に寄りかかり腕を組んであたしを見ていた。
・ ・・・・聞いてもいい?
視線は射抜かれそうなほどにあたしにあって。
あたしはそれと目を合わせることも出来ずにただ考えごとをめぐらせる。
「け・・・・ご」
「このエアメール。」
「え・・・」
「手紙が届く頃ってお前な、今朝届いたばかりなんだが?」
あたしが見た景吾はどこから取り出したのか、
確かに、あたしが景吾宛てにドイツから出したエアメールを片手に持って
あたしに見せるように持ち上げていた。
「今更、どういうつもりだよ。初めて俺に書いた手紙がこれかよ?」
「・・・・・・・・・・」
「三年間待って、この一通かよ」
「景吾」
景吾があたしに近寄ってきた。
あたしはうつむくだけ。
あたしは勝手だ。
帰るときになってたった一通あなたに出した手紙。
今も恋人ですかなんて聞くなんて、無意味に決まってる。
「・・・三年間、待ってたんだぜ?」
「え?」
「捨てるわけねえだろ?」
お久しぶりですね。
お元気ですか。
こうして手紙を書くのは初めてなのでなんだか緊張しています。
私のことを覚えているでしょうか。
突然のことですが、
あなたの元にこの手紙が届く頃
私もそちらへ帰ります。
初めて書く手紙で伝えたいことを綴ります。
長くてもどうか読んでください。
読み終えてくれたら。
そしたら・・・・。
この手紙、捨ててくれてかまいません。
景吾があたしからのエアメールを近くの机の上に置いた。
あたしの手を握って
そして景吾の口元へ持っていく。
そっとあたしの手の甲に触れた景吾の唇。
「・・・待ちくたびれたじゃねえか、。」
三年前と変わらない笑みは、
あたしにますます景吾への思いをつのらせていく。
「何通も・・・・・何通も書いたんだっ・・・・景吾に本当は・・・・」
今でもあなたが好きですと
三年間
何度も何度も書いては出さないままの手紙。
「返事・・・こなかったらどうしようって・・・・」
「・・・・・・・」
だから、書いて、出すと同時にドイツを発った。
あなたから返ってこない手紙。
そんな現実を見ないよう。
「・・・・どうしてくれんだよ?」
「景吾っ・・・」
「会えもしないのに三年間もお前のこと好きだったじゃねえか。どうしてくれる?」
お久しぶりですね。
お元気ですか。
こうして手紙を書くのは初めてなのでなんだか緊張しています。
私のことを覚えているでしょうか。
突然のことですが、
あなたの元にこの手紙が届く頃
私もそちらへ帰ります。
初めて書く手紙で伝えたいことを綴ります。
長くてもどうか読んでください。
どうか、読んでください。
あたしは、泣いていた。
「読んで、くれた?」
「・・・・長くもない。足りねえよ。三年間だぞ?エアメール100通でも足りねえ。」
今も景吾が好きですと
あなたの名前
何度も書いては書き直す。
「どうしてくれる?。三年間、お前の気持ちも知らないままずっと待たされてたんだぜ?この俺が。」
景吾にあごを持ち上げられ
涙でかすむあなたの顔が間近に。
「どうしてくれる?」
あたしにできることなど。
あなたのためと言うよりは
あたしのためになることばかり。
「けい・・・・・ご・・・・」
「」
あたしの頬を伝った涙は
景吾のキスが奪ってしまった。
あたしに、できることなど。
「側に、いさせて。・・・・・・・・・・・・ずっと」
拝啓あなた様。
あなたに書いた手紙は何通目でしょう?
あなたに出した一通目、届きましたか?
今でもあなたが好きですと
綴っただけのものですが、
確かにお返事、いただきました。
手紙ではなく、キスですが。
End.