今日はあなたの生まれた日。
だからこそ、
あたしはわがまま。
『happy×happy』
「…長太郎、手繋いでもいい?」
1限目が始まって
10分が過ぎたころに
あたしと長太郎は一階に登校してきた。
今朝は通常の時間に普通に来ると大変だから。
「から言うなんて思わなかった。」
「・・・照れるから口に出しちゃダメ。」
「…うれしい、ありがとう。」
繋いだ手
いつもならあたしから手を繋ぎたいなんて言わない
長太郎はありがとうまで言ってくれた。
だって今日はあなたの誕生日でバレンタイン。
女の子には無条件にいつもより多く勇気をくれる日。
気持ちとかいつも言いたくても言えないこと
言わなきゃ損だって思った。
「長太郎、今日は放課後も部活ないよね」
「うん。毎年部活できる状態じゃないからね。裏門で待ってて。授業終わったらすぐに行くよ。」
長太郎と一緒にバレンタインを向かえるのは二回目。
長太郎にとってはこの日は
誕生日でもあるから
チョコと誕生日プレゼントを一緒に渡そうとする女の子の数はすごい。
「…去年はさ…」
「ん?」
去年は、長太郎と一緒にいられなかった。
手だって繋げなかった。
学校が終われば一緒に過ごせたけど
それでも、
「?」
少しだけ長太郎の手を強く握り直した。
もうすぐ教室につく。
(手、離さないと)
「…長太郎」
「ん?」
あたしの鞄の中には
長太郎への誕生日プレゼントとバレンタインのチョコ。
学校が終われば長太郎の家に真っ直ぐ向かう予定になっていた。
(今、プレゼントもチョコも渡したい)
「どうしたの?」
去年は学校で一緒にいられる時間なんてなかった。
あたしじゃないたくさんの女の子に囲まれた長太郎
あたしは声を掛けることもできずに遠目で見ているだけ。
今年は?
この手を離したら
去年のようになるのかな。
(嫌だ)
長太郎へのプレゼントとチョコ、鞄からだすには
この手を離さないと。
「?」
長太郎があたしの顔をのぞきこむ
今すぐ渡したい
でもこの手は離したくない
むじゅん、ムジュン、矛盾。
「、教室ついたよ」
手を、離さないと。
(嫌だ。)
今日はあなたの誕生日。
だから、
誰よりも早く
誰よりも長く
誰よりも一緒に
この日を祝いたい。
今日は無条件にいつもより多く勇気がもらえる日。
いつも伝えられないこと
たくさん言葉にできるかもしれない。
だから、
誰よりも早く
誰よりも長く
誰よりも一緒に
一緒に、いたい。
この手を離さないで
「このまま…帰っちゃおっか」
「え?」
「俺の家行こう。」
繋いだままの手を
長太郎が引き寄せて
そのままあたしの手の甲に
触れるだけのキスをした。
「一緒にいようよ。」
長太郎、あたしの気持ちを読んだの?
それとも長太郎も
同じことを想ってくれた?
(うれしい)
今日はいつもより多く勇気がもらえる日
今日はあなたの生まれた日。
「ハッピーバースデー長太郎。」
「今言っちゃうの?」
「後でもっとたくさん言う」
もう一つ、伝えたい
あたしも同じこと想ってたよ。
手は繋いだまま
さっきまで歩いた道程を逆走。
“一緒にいようよ”
(うれしい)
大好きなあなたの生まれたこの日に
女の子が気持ちを伝えられるこの日に。
どうしようか、
こんなに幸せで。
end.