ただ、うれしかった。





























『8分前の太陽14』



































太陽は春の温度をあげ、春風はそれを和らげる。






「・・・・・・さん、大丈夫?」


「・・・うっ・・うん・・・・・大丈夫だよ、赤也!!」


「・・・・・・・・・・・・・」





誰もいなくなったベンチを呆然と見つめていたあたしに、赤也が声をかけてくれた。



赤也の心配そうな表情に一度振り向き、また誰もいないベンチに視線を戻したあたし。



そこは、さっきまで丸井くんが座っていた場所。



どうして・・・・・。



そんな疑問が頭を巡る。



丸井くんが走り去ってしまったあとのコート。



しばらくして、柳君が丸井くんの後を追っていった姿に気付く。



自分の唇が、かすかに震えていた。



これは、とまどい。








「俺に近づくんじゃねえよ。」








・・・・・・どうして



うつむいて、ただただ考える。



あたしは丸井くんに、



何かおかしなことを言ってしまったのだろうか。



何か気に障ることをしてしまったのだろうか。





「・・・





仁王くんがあたしの名前を呼んだけれど、あたしは顔をあげられない。



震える唇では、誰かとうまく話すこともかなわないから。



あたしはうつむいていたから、



レギュラーのみんながどんな表情で、どんな状態でいたかわからなかった。



ただ、赤也と仁王くんが、



あたしの近くにいてくれたことだけはわかっていた。



















































部活は、いつもどおりに進んだ。



丸井くんと柳君は、休憩時間が終わる時間になると、コートに戻ってきた。



2人は話している様子もなく、柳君が丸井くんより少しだけ前を歩いて、2人一緒に現れた。



あたしは、その2人の姿を確認するだけで、



また唇が震えて。なぜか零れてきそうになった涙を繋ぎとめたくて、



そんな2人からすぐに視線をそらし、



休憩のときに、みんなが使ったタオルや空になったドリンクの片付けを始める。



コートに戻っていったレギュラー陣。



もちろん丸井くんもだ。



丸井くんがあいているベンチに置いていった、



タオルとドリンクの入っていた水筒を片付けようと、あたしはそれを手に取る。




(・・・・・・・・どうして・・・)




丸井くんの水筒は、空になっていた。



ただ。











ただ、うれしかった。











初めて交わしてくれたあいさつも。



初めて飲んでもらえたドリンクも。



久しぶりに見ることのできた笑顔も。



泣きたくなるくらい、うれしかった。





「・・・・・・・・・・・・・・・・」





うれしかったんだ。








「・・・・行くぜぃ?」


「・・・・・・・・・・・・・・」







空になった水筒をすすぐため、あたしは、水のみ場へと向かった。

















「・・・丸井?」


「・・・なんでもねえよ、ジャッカル。練習しようぜぃ!!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」















放課後の部活が終わって、



レギュラー陣が帰っていく。



みんなにまた明日、とか、お疲れ様を言いながら片づけを続けるあたし。



目を合わせることはなかったけど、



丸井くんは、あたしのお疲れ様と言う言葉に、



じゃあなと、小さく言って返してくれた。




















































































































































































































































































次の日、いつもと同様の早朝。



部活は、いつもと同じように進む。



休憩時間になれば、みんなにタオルとドリンクをわたし、



みんなは、それを受け取ってくれる。



丸井君も受け取ってくれた。



タオルとドリンク両方を。



目を合わせることはやっぱり一度もなくて。



用件以外は他に交わす言葉も、見つかることはなかった。





「・・・・・・・・・・・・・・」


「俺に近づくんじゃねえよ。」





昨日の、あの言葉。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





うれしくて、浮かれていた。



久しぶりに見れた笑顔も。



繋いでくれた手も。



うれしくて、浮かれていた。



初めて交わしてくれたあいさつも。



初めて口にしてくれたドリンクも。



・・・・・気まずい、そう思うのは私だけなのだろうか。



昨日のあの言葉は、なんだったのだろうか。






「・・・・。」


「・・・・・・・・・・・」


。・・・・!!」


「はっはい!」


「HR、始まるとよ?」


「・・・・・・・あ。」







校舎の外側の壁にかけられた時計。



気付けば部活はとっくに終わり、



自分の教室、HRに向かわなくてはならない時間だった。



ぐるっと見渡すコート。



やるべき仕事は片付いている。



うっすらと自分でそれらを終えた記憶があるので、



ぼーっとしていたにも関わらず、習慣とは恐ろしいものだと思ってしまう。



視線を戻せば、そんな呆けていたあたしに声をかけてくれた仁王くんが、



じっとあたしの顔を見つめていた。





「にっ仁王くん!急がないと・・・仁王くんもHR遅れちゃうよ!!」


「・・・そうじゃな。」


「だったら早く行かないとっ・・・・・」





レギュラーのみんなはいつの間にみんな教室へと行ってしまったのだろう。



部員の誰一人として、コートには残っていない。



まだジャージ姿のあたしと、既にジャージから制服に着替え終えている仁王君を除いて。



仁王くんは、いまだあたしの顔を見続ける。



目をそらしたら、何かに負けてしまう気がして。



それが何かもわからないくせに。



あたしは、仁王くんと合わさった目から、



恥ずかしさで目線を外そうとしてしまう心を、必死に叱咤していた。






「・・・・・サボらん?」


「え?・・・・・」


「今日一日。」


「仁王くん?」






仁王くんの手があたしの頭の上にポンッとのる。



そっと微笑んで仁王くんの手があたしの頭を撫でる。






「はよ着替えといで、。待ってるとよ。」






吸い込まれそうになる、その妖艶で優しい笑みに。



あたしは、遠くで聞こえたHRの開始を知らせるチャイムが



なんだか、あたしがいる世界でなっているものじゃない気がした。



それは、勘違いとしか言いようのないものだったけれど。

















仁王くんは本当にあたしを待っていてくれた。



着替え終えて、マネージャー専用の更衣室から出ると、



そこには腕を組んで、部室の壁にもたれる仁王君。



春風が彼の銀髪で遊んでいた。



制服姿になったあたしに気付くと、仁王君がまた笑って見せてくれた。





「・・・・本当に待っててくれたんだ。」


「ん?待ってるって言ったじゃろ?」


「・・・・じゃあ、サボろうって言うのも?」


「本気。」





HRはもう少しで終わる。



授業には今から行けばちゃんと一時限目からでられるのに。



仁王くんは、銀髪を揺らしながら、あたしに手をさしだす。



その笑みは、あたしの動きを止めるには、十分すぎるほど端整で。









「おいで、。」









立ち尽くす、あたしの手を引いたのは、



大きくて、綺麗な手だった。







「にっ仁王くん!どこ行くの?」


「花見。」


「え?」







あたしの手をひいて、あたしより少し前を行く仁王君があたしに振り向き、笑う。



たどり着いたのは、








「俺は今年はじめてここに来るとよ。」








あの桜が咲き誇る裏庭。



仁王くんの足が止まると同時に、あたしの足も止まる。



握られたままの手。仁王くんの隣に立つあたしは、桜の空を仰ぐ。



広がるはずの青い空は、長く伸びた桜の枝によってさえぎられる。



変わりに見えるのは、薄い桃色の空。






「・・・・毎年ここの桜はあっという間に咲いて、あっという間に散る。一昨年も去年もそうじゃった。」


「・・・・・・あっという間に?」


「ところが今年は、咲き始めたのはもう一ヶ月も前なのに、なぜか桜が散りきらない。」


「・・・・・・・・・・・・」






初めて、ここに来たときのまま。



桜は風にさらわれて、花びらを散らすことはするものの、



いまだ、満開の桜の群れ。







「まるで春が終わるのを嫌がってるみたいだと思わん?」







仰ぐ桜から視線を外せば、仁王くんがあたしに笑っているのが見えて。



もう負けとかそういう問題じゃないくらい、



その笑顔のかっこよさに恥ずかしさを覚えたあたしは、ただうつむいてみる。



まだ仁王くんと繋いでいた手が視線に入れば、ただ頬が赤くなっていないことを願うだけで、視線のやり場をなくす。






「じゅっ授業!でなくていいの?」


「ん?」






半ば、無理やり搾り出した声。



とりあえず仁王くんと目を合わせれば、仁王くんの髪に舞い散る桜が触れるのが目に入った。



仁王くんは相変わらずの笑顔。






「・・・休憩じゃ。休憩。」


「休憩?」


「真田がどんなに休憩って言ってもが休憩するとき、ないじゃろ?」


「え?・・・・・」


「部活が休みになることは滅多になか。毎日お疲れさん、。」


「仁王くん・・・・・・」






仁王君が握る手にこめる力をそっと強める。



銀髪の髪を揺らしながら、



あたしから視線をそらして、桜を仰いだ仁王君。








「・・・・・・・・・・・・ありがとう、仁王君・・・・。」








そう声にすれば、仁王くんは、再びそっと笑いかけてくれる。








。ここに来たことは?」


「あるよ。」


「・・・・それは残念。初めてだったらもっと喜んでもらえたかもしれんのに。」


「・・・・・こっ・・・ここでね!」


「ん?」


「・・・ここ・・で・・・・・・」































































































初めてあなたに、会ったんだ。





































































































































































赤い髪。そこ向けの明るさ。



桜に埋もれたこの場所で。



あたしは、あなたに会った。







「・・・


「・・・・・・・・・・・・・・」






「俺に近づくんじゃねえよ。」






「・・・・・・・・・・・・・」








ただ、うれしかったんだ。



笑ってくれた、その事実が。



かすんでくるのは、目の前で。



こぼれかけの涙を必死で繋ぎとめ。







「・・・・。大丈夫?」


「・・・・うん。ごめんね。」


「・・・・・・・・・・・・・・」


「わっ笑いんしゃいだよね!仁王くん!」







目元をほんの少し拭えばいい。



これしきの涙。零すわけには、いかない。



ただ、あたしが昨日の言葉を気にしているだけだから。








「・・・・・・・・・なあ、。」








さっきよりも強い春風が吹く。



あたしの髪をさらい、花びらを踊らせ、仁王くんの髪で遊ぶ、そんな春風。



























































































は、丸井のこと、好き?」



























































































































































































































突然の言葉に目を見開いて、仁王君を見た。



仁王くんの真剣な眼差しを見た途端。



繋いでいた手を振り払ったあたし。






「あっ・・ごめっ・・・・・」


「・・・・・残念。もう少し知らないフリをしておけばよかった。」


「にっ仁王くっ・・・・・・・」


「朝が来れば夜が来る。」


「え?・・・・・・・・」






仁王くんは笑うだけ。



静かに優しく、あたしに笑ってみせるだけ。



あたしはその笑みを見つめることしか、許されなかった。



























































「月が昇るなら、太陽も必ず昇る。光に変わらない闇夜はないから。」


























































































































































































いつだって、そうだ。



仁王くんはあたしを悩ませる言葉しかくれない。



それが何を指すのか、何を意味するのか。



いつも教えてくれないのに。



あわせる視線からただ目をそらすことも出来ずにいるあたしの頭を



仁王君の手が撫でる。




(光に変わらない闇夜はない・・・か・・・・・・)




こぼれそうだった涙は乾き。



春風に揺れる仁王くんの銀髪と、桜の花びらが、あたしの目には映っていた。



ただ、仁王君があたしを励ますためにここに連れてきてくれたことは、なんとなくわかった。







「・・・仁王君、あたし授業出るよ」


「・・・・・・え。」


「仁王くんも行こうよ。」


「・・・・今日一日とサボるつもりじゃったのに。」


「ダメー。ほらっ行こっ!」


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・あたし、もう大丈夫だから。」







仁王くんの、あたしの頭を撫でる手が止まる。



仁王君が笑えば、あたしも笑ってみせる。



もう大丈夫だと伝えたくて。



励ましてくれてありがとうと伝えたくて。







「笑いんしゃい、。そうやって。みんなお前さんの笑顔、大好きじゃ。」







仁王くんのその言葉に、頬が赤くなったのを感じた。



あたしが恥ずかしがっていると、仁王くんは再びあたしの頭の上にポンッと手を載せる。






「んー・・・・授業に出るなら、部室に行かんと。筆箱置いてきた。」


「部室に?」


「言ったじゃろ?俺は1日サボる気満々だったんじゃって。」







聞けば、教科書は今持っているカバンの中に入っているらしい。



置いてきたのは筆箱だけ。



本当に、読めない人だ。



不思議でおかしな人。



それが、仁王君。






































































「あれ?」



「誰か先客みたいじゃな。」































































































































部室はいつも戸締り厳守。



部活が終わってからのその仕事はあたしにあって。



今朝の部活が終わったあと、あたしは確かに部室のドアを閉めてきた。



部室の鍵は、部活中以外、部室近くの茂みの石の下。



鍵を開けなければ、部室を開くことは出来ないはずなのに、



仁王くんとあたしは部室の前まで来ると、部室のドアがほんの少しだけ開いていることに気付いた。



この時間は通常授業中。いわば、あたしと仁王くんと同じくサボりに使用されているだろう部室。




(・・・赤也、かな?・・・・まさか桑原君とか、柳生君とか。・・・・・それか)




あたしがそんな考えをめぐらせている中で、仁王君が部室のドアノブに手をかけ、部室のドアを開けた。









「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」








部室の中は、静かだった。



部室のドアを開けた仁王くんの向こう側に、部室の中に置かれた机に突っ伏している人。



春風が、開けられたドアから部室の中に入り、その髪を揺らした。



その、赤い髪を。






「・・って、丸井か。」


「しー・・・・・・・・・・寝てるみたいだよ?」






その髪が揺れるのは、風のせいで。丸井君が机から体を起こす気配はない。



仁王くんは、小さな溜息をつくと、部室の中に入っていった。



あたしもその後に続いて、部室の中に入ると、音を立てないようにドアを閉めた。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





仁王くんは部室の自分のロッカーを開ける。



あたしは閉められたドアによりかかたまま、丸井君の赤い髪を見ていたが、



彼が起きる気配は依然としてなかった。



それで、よかった。安心していた。



丸井くんが起きても、あたしが1人、気まずさを覚えるだけだから。



仁王くんは、自分のロッカーから、黒い筆箱のようなものを取り出すと、



ロッカーを閉めて、あたしに何も言わずに目配せをした。



あたしは、それが静かに部室を出ようという提案だと感じ取ると、



部室のドアノブに手をかけようとするが、ふと気付く。






「・・・・・?」


「ごめんね、ちょっと。」





それはこそこそとした話し声。



丸井くんは起きようとはしない。



さっき風が部室の中に吹き込んだせいか。



部室の奥の壁にかけられていた、大会で優勝したときのものらしい賞状が入った額縁が、



ひどく傾いていた。



あたしは、部室を出て行く前にそれを直そうと部室の奥に向かう。



仁王くんの隣を通り過ぎると、仁王君があたしのしたいことに気付いたらしく、



腕を組んで、あたしを待つ態勢になった。



丸井君が、突っ伏している机の横を通り過ぎ、額に手をかけようとしたときだった。








<パシッ>




















「・・・・・・え?」


















眠っているはずの丸井くんの手がいきなりあたしの手を掴んだ。



仁王くんも驚いた様子でこちらを見ている。






「まっ丸井くっ・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「え?」






あたしの手は引っ張られるようにして、丸井君の手に掴まれていた。



丸井君は体を起こすことなく、机に突っ伏したまま。



寝ぼけているんだろうか。










「・・行くな・・・・どこ・・・にも・・・・・」


「丸井くん?・・・・・・・」










心臓が誤作動を起こしそうなくらい、鼓動が早い。






















































































































「・・・覚えて・・るだろぃ?・・・・・8分前の・・・太・・・・陽」


「(?!)」






































































































































・ ・・・・8分前の、太陽・・・・・・・・。



あの、図書館の机の落書き。



やっぱりあれは、丸井君たちが彫ったもの。



呼吸が、苦しくなる。



丸井君は、顔をあげようとはしない。



机に伏したまま。











「・・・・だいじょ・・・・・ぶ・・・・・・・大丈夫だ・・・・・・・・・・」


「・・・丸井くん・・・・・」


「・・・・・・ちゃんと、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・好きで・・・いるから・・・・・」


「・・っ・・・・・・・」


「・・・・丸井、・・・・お前っ・・・・・・・」










仁王くんの声が、丸井君を呼んだ。




















「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

















ちが・・・・う。



掴まれた手。



強く握り締められて、離されることはない。







「はっ・・・・・離してっ・・・・起きてよ!丸井くんっ・・・・・・」







違う。違う、違う、違う。私はっ・・・・・・・・・・







「・・・あたしじゃ・・ない・・・・・・あたしじゃないよっ・・・・・・・」







あなたが、好きでいる人は。



あなたが好きなは。








「・・・・・・起きて・・・よ・・・・・丸井くんっ・・・・・・」








丸井くんに手を掴まれたまま。



あたしはその場に座り込む。



部室の床に、力もなく、くずれて。






は、丸井のこと、好き?」







・ ・・好き、だよ。



好きだよ、笑って欲しいと願う人。











きっと、桜に埋もれたあの場所で初めて出会ったその時から。










・・・・・・・・・・だから、間違えたりしないで。



涙が、床に落ちた。頬を流れては、とめどなく。



呼吸が苦しくて。



誰かに、助けて欲しくて。






「・・・・起きてっ・・・・起きてよ・・・丸井くんっ・・・・・・」






あたしの手を握る手を必死で引っ張った。






っ・・・・・・」






仁王君が、あたしの側まで来て、しゃがみ。



あたしの肩を支えてくれる。











赤い髪が、揺れた。










丸井君の体が机から離れ、あたしと仁王くんはそんな丸井君を見る。



丸井くんが目を見開いて、あたし達に気付く。



彼は、あたしの手を掴んでいた手を勢い良く離した。



あたしは涙を流したまま、丸井君を見るばかり。






「な・・・・んで・・・・・・お前・・・・」


「丸井、お前・・・・・・」


「っ・・・・・・・」


「丸井くんっ!!」






丸井君は座っていたイスから突然立ち上がると



あたしと仁王くんを通り過ぎ、



部室の外へと走っていった。



あたしが見た丸井くんの横顔は、なぜかとても、辛そうに見えた。



丸井くんがいなくなった部室で、あたしは丸井くんに握られていた手を、



もう片方の手で握った。






「っ・・・ふっ・・・・・・・うっ・・・・・」


・・・・・・・」






それをそのまま自分の胸に押し当てると、



とまらない嗚咽がこぼれ始める。



丸井くんが握っていた手が痛い。



熱くて、痛い。



呼吸が乱れ、苦しくて、苦しくて。



仁王君があたしの背中をさする。






、呼吸が浅い。もっと息吐いて。過呼吸になるとよ」


「はぁっ・・・・・っ・・・・・・・」


・・・・・」






仁王君が泣き続けるあたしの顔を自分のほうへ向ける。



かすむ視界に仁王くんの顔が近づいてくるのが見えていた。



とまらない嗚咽、苦しくて。



その手は熱くて痛い。






「・・・・・・」


「丸井・・くっ・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」






仁王くんはあたしの目元に溜まる涙を拭くと、



あたしの口元を手で塞いだ。







。俺の言うこと聞いて。ゆっくり息吐いて。」


「っ・・・・・はっ・・・・・」


「大丈夫。・・・大丈夫だから、・・・・・・」






触れたその手から伝わるのは、



彼女への想いだった。



丸井くんの、深い深い想いだった。



あたしと同じ名前の彼女への、確かな想い。










「・・・・・・俺たちは思い違いをしてたんじゃな・・・・・・」










呼吸がやっと楽になったあたし。



今は、とまらない涙を必死で拭う。



仁王君があたしと同じく、部室の床に座り込んだまま



傍でそっと、あたしに話してくれる。








「・・・・丸井は忘れようとしてたんじゃなか。」








ただ、うれしかったんだ。



笑って、くれたことが。







は、丸井のこと、好き?」







・ ・・好き、だよ。



好きだよ、笑って欲しいと願う人。



きっと、桜に埋もれたあの場所で初めて出会ったその時から。



だから、間違えたりしないで。













































































































































「あいつは決めたんじゃ。・・・・・・を、想い続けることを。」


































































End.