裏庭の、桜の群れの真ん中で。





一番大きな桜の木の根元。





座り込んで、見上げた。





が好きだった、桜の空を。

















「・・・・・・・・大丈夫だよ、。」















瞼を閉じても、春が浮かぶ。


























今でも君を、好きでいる。































『8分前の太陽18.5』






































「おい、丸井。いつもより腕下がってるぞ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・なんだよ。」






俺は目を見開いてジャッカルをみていた。



朝早くからの部活。



いつも通り、初めはジャッカルとの軽いラリーから。



俺の動きが止まると、ジャッカルが俺に小首をかしげた。






「・・・いや。・・・さすが俺の相方だと思ってよ」


「ん?・・・・いいから早く打てよ。」


「・・・・おう!!」






雲ひとつない青空に、春風が纏う。



いつも通りを装うには、少しばかり空気が重い。



昨日、あんなことがあったせいだ。



俺は赤也と目をあわす気もなかったし、向こうもそうだと思う。



俺は他のレギュラー達にまで声を荒げたから。



日課とはいえ、ジャッカルとのラリー、練習にも支障がでるのかと思ったが。



さすがジャッカル。俺に注意までしてきた。





「(・・・・・・・問題ない。)」





特にと言って、俺は本来ジャッカルとコミュニケーションがとれれば、



部活は滞りなく進む。



・・・・問題はない。



マネージャーのあいつのあいさつをすかしたって。



別に。











「みんなわかったフリなんかしてない!わかりたいだけなんだよ!」



「・・・・・」











雲ひとつない青空に、春風が纏う。



コートに時折やってくる花びらが、俺のラケットを握る手をかすめた。



支障はない。



休憩時間。






「お疲れ様、丸井くん。」






あいつが持ってきたタオルとドリンクを。



俺は半ば無理やり取り、



あとは誰とも話すことなくこの時間を過ごす。



滴る汗をタオルで拭き、



そのままタオルを頭からかぶり、視線を遮断する。



ベンチに座り、春風に吹かれ。






「・・・・・・・・・・・」






問題ない。



支障もない。



あいつのマネージャーの仕事にも。



俺にも。



なのに、思い返せば昨日の出来事。



俺につっかかってきた赤也。



怒ったあいつ。



感じるのは苛立ちじゃない。



・ ・・なら。



この気持ちは何かといえば、誰にも言葉になんかできない。



名前などない気がする。



ただ。







「・・・・・とりつかれてんの?」







のことになると、なぜか頭に血が上って。



気付けば、誰かを傷つけてる気がする。





「・・・・・・・」





ちらっと見た、あいつの横顔。



柳生と何か話していた。





(・・・気付けば誰か。)





傷つけてる気がする。



部活に支障はない。何も問題はない。



あいつにだって。俺にだって。



レギュラー達にも、部活に問題がなければいい。




























「お疲れ様!」

































その言葉に。



向けられる笑顔に。



素知らぬ顔をしたところで。



別段、問題はない。



何も聞こえなかったかのように、あいつの隣を通り過ぎる俺。



振り返ることがあるはずもない。



そのまま足は校舎へ向かう。





(・・・・・・・・・・・なんで。)





こうなってしまう。



仁王に対しても赤也に対しても



のことになるとなぜか頭に血が上る。



冷静に話ができない。



問題はなくても、支障がなくても。



ジャッカルが普通だって。



本当は。




(・・・・悪気なんか。)




このままじゃいけないと、思うのに。



校舎へ向かっていたはずの足は、突然方向転換。



HRに向かわないといけない時間だが。



そんなもの、気にはしなかった。
































































































































































































































裏庭の、桜の群れの真ん中で。



一番大きな桜の木の根元。



座り込んで、見上げた。



が好きだった、桜の空を。



近くに、重かった肩から、テニスバックを下ろしておいた。



あぐらをかいて。



片手を、伸ばしてみた。



春風に吹かれて、桜が舞う。



長い長い春。

















がお前をあいつに、会わせてくれたと思わんか?」














「まだ、好きでいんの?」












「・・・・一年も経ったのに、まだ想ってんの?」











「何が?・・・だからとりつかれてんのかって言ってんじゃないっすか。」












「みんな、丸井くんのこと心配してる!!だから、そんな言い方しないで!!」




































・・・・・・なんでそんなこと、言われなきゃならない。



何を思い出しても、何を考えても。



何も、変わらない。








「・・・みんなが・・・丸井君のこと心配してるのだけは・・・丸井くんよりわかる。」



「・・・・・・・」









なんで。



あいつは、いつも必死なんだろう。



空に伸ばしていた手を下ろし、



空から目を離して、その手を見る。



無意識のうちの苦笑。



・・・・何やってんだ、俺は。



・ ・・お前も。



開いた手のひらに、桜が、舞い降りた。














「・・・・・・・・」



「ブン太。」



「(・・・・・大丈夫だろぃ?)」












春風が、突然強く吹き、



俺の髪をなびかせ、桜を舞わせる。




















「ブン太、大好き。」



















白い蝶が、俺の目の前を横切った。



ひらひらと。



ゆっくりと不安定な軌跡を描いて。









































































































































「・・・好きだよ。俺だって。」





































































































































































つぶやきは、桜にしか聞こえない。



それから、空に吸い込まれていくように飛び去っていく、白い蝶にしか。






「・・・・・・・・・・・・・大丈夫だろぃ。」






今でも、声が届いてる。



あの日の、の声が。



心配、すんなよ。



1人なんてさせない。



俺は手を離してしまったけど、



遠く離れても、傍にいようぜぃ。









その矛盾。









自分でもわかっている。



けれど、8分前の太陽は忘れないから。



この手が、手を振るためにあるんじゃないと知っている。



・・・・・・・大丈夫だ。



俺も好きでいるから。



だから、心配すんなよ。離れたりしない。



今でも、声が届いてる。









「ブン太、大好き。」









の声が、届いてる。



手のひらにのった桜を、落とした。



目の前でちらついて。



俺はその桜が地面に着地するのを見終えずに、もう一度。



桜の枝が埋め尽くす、その空を仰いだ。








「まだ、あの人が好きなの?死んじゃったさんが好きなんすか?」



「・・・何が言いたいんだよ、お前。」



「聞いてるだけですよ。答えてください。」








考えても考えても。



何も変わらない。



そっと、顔をあげたまま瞼を閉じる。



春風が俺に吹き付ける。















「・・・・なぁ、。」














そのつぶやきは、桜にしか聞こえない。



俺の声、届いてる?



ずっと、呼ぶのに。



何度も呼ぶのに。



呼んでいるのに。



お前のいるところが遠すぎるのか。



返事はいつも返らない。



8分前の太陽を、覚えてるか?























































































































































































































































































































「まーるーい。」







































































































































































































































































瞼を伏せていた俺に、あまりに平坦な声が聞こえる。



聞き覚えのあるその声に、俺は桜の根元に座り込んだまま。



視線だけを横へ動かす。



銀髪を春風になびかせて。








「・・・仁王。」


「よ。サボりとよ?」


「・・・・・・・・」


「俺?花見。」


「・・・・聞いてねえよ。」


「聞く手間はぶいてやったんじゃ。感謝しとって。」


「・・・・・・・・・・」









仁王は俺に歩み寄る。



俺は仁王から視線をそらすと、視線を地面に落とし、



何を見つめるでもなく。



ただ、仁王と話すことなんか思いつかない。





「・・・綺麗じゃな。」


「・・・・・・」


「お前さんの赤い髪は桜の中でもよく目立つ。」


「・・・・人のこと言えんのかよ。銀髪が。」


「これな、この間クラスメイトに白髪かって言われた。ショックじゃった。」





どうでもいい話に仁王に視線を向けた俺。



仁王は制服のポケットに手を突っ込んだまま俺の隣に立っていた。



桜を見上げて、口角を上げる笑みを見せている。






「・・・・・・・・・・お前、何しに来たんだよ。」


「だから花見じゃ。二度言わすな。」


「・・・・・・・」






レギュラーの中で幸村についで掴めない仁王。



いや、仁王についで幸村がわからないのか。



どっちもとりあえずわかりにくい。



・ ・・お前とも、気まずくたっておかしくない。



俺はお前に怒鳴った記憶がある。



昨日だってそうだ。



赤也がつっかかってきたことに対して、俺は頭に血が上りきってた。



仁王の髪が春風に揺れる。



桜の木の根もとに座ったままの俺。



仁王はずっと桜を見上げたままだ。














「・・・・・・なあ、丸井。」


「・・・・なんだよ。」


「・・・・・・・・・好いとうよ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」














仁王が、俺のほうを見て笑った。



そのあと、少し自分の口元に手をあてて、何か考えているかのような様子を見せると。












「・・・・俺キモいな。」


「こっちの台詞だろぃ!!」


「ひどいとよ、丸井。キモいがどれだけ人の心を傷つけるか。」


「なんだよ好いとうって!キモっ!!」











俺はわざとらしく震えてみせる。



仁王は企む笑みを見せ、俺の動きを止めたかと思えば。



次の瞬間には、見たことのないような柔らかい笑みを俺に向け。






「・・・・みんな、お前さんのこと嫌いじゃないらしいな。も。」



「・・・仁王、お前。」






吹き付ける春風に、桜が舞う。



俺と仁王をかすめていく。



仁王は、芯の強い目を俺に向け。



俺は目を見開いて仁王を見る。













がお前をあいつに、会わせてくれたと思わんか?」













仁王、お前。



・ ・・・・何を俺に言いにきたんだ。



桜が舞い、俺と仁王の髪を揺らす。



俺は、口を開いた。







「・・・・あいつのフォローってことか。」




「みんなわかったフリなんかしてない!わかりたいだけなんだよ!」




「・・・・俺のフォローでもあるな。」


「・・・・お前はそんなビビリじゃねえだろぃ。」


「いいや、怖がる。」







考えても考えても。



何も、変わらない。



何を言われたって。













「・・・に嫌われたくはない。」




































































































































今でも君を、好きでいる。


























































































































































































































































































何を、考えているのか、わからない。



そんなことを俺に言ってどうする。



お前は何がしたい。





「・・・・お前はあいつが好きなわけ?」


「そう言ったらどうする?」


「別に。・・・どうもしねえだろぃ。」





お前と駆け引きするつもりはない。



俺は俺の考えを告げる。



何考えてるかわからない。



何を言いに来た。



ここに、何を伝えに。










「・・・・・・・でもダメじゃ。には好きな奴がいるとよ。」










仁王は俺に不敵に笑い。



俺は疑わしげに仁王を見据えた。



・ ・・何、考えてる。



仁王はもう一度、空を仰いで桜を見れば、ゆっくりと瞼を閉じた。



行動がいちいち絵になる奴。



一度息を深く吸い込めばもう一度俺を見て。










「・・・じゃあな、丸井。」










意味も分からず去っていく。



遠ざかる仁王の後姿。



何をしにここに来た。



まさか本当に花見だけなものか、詐欺師。







「・・・・・・・・・・・・」







・ ・・好きな奴。



いるのか、あいつに。



あいつは昨日の出来事をどう思っているだろう。



今日の部活の様子を。



必死で。



見ていたのか。



誰も、様子がおかしくないか。







(・・・・俺には、関係ない。)







どんなにつっかかったって。



引っかかったって。



何も変わらない。



誰に何を言われたって。




















































俺が好きなのは、あいつしかいない。


























































































































































































































裏庭の、桜の群れの真ん中で。



一番大きな桜の木の根元。



そこから腰をあげて、俺はなんとなくそこに行きたくなる。



あの事故の日から、あまり行こうとはしなかったあの場所へ。








8分前の太陽のところ。








校舎の中に入って廊下を歩く。



ちょうど聞こえたチャイムは、ちょっとした休み時間を知らせたもの。



今日の次の授業は何があったかとか、思い出せば。



そういえば宿題があたっていたかと、肩を落とす。



廊下を、次々と生徒たちとすれ違う。



階段に足を踏み入れ、登る。



その奥の扉。



本当に来たのは久しぶりで、その扉の前だけでも、少し足を進めるのに躊躇する。








「・・・・・・・・・・」








意をけして、扉のドアノブに手をかけ、回す。



久しぶりだった。



図書館。



あの、事故の日以来。



来ようとは思わなかった。



あけた扉。図書館独特の空気が鼻についた。


























「・・・・丸井くんっ・・・・」



















































あけた扉の向こう。



目があって、驚いた。




(・・・・・・なんで。)




なんで、ここにいる。



どんな顔をすればいい。



かける言葉もない。



・・・・これ以上、気まずくなる前に。



そう思った俺は、突然のことに目の前のこいつも俺も動けなくなっていたが、



すぐに足を動かし始めた。



こいつに背を向け、来た道を引き返す。







「あ・・・・・」







そいつのかすれた声が聞こえた。



俺は振り返らない。



かける言葉もなければ、話すこともない。



まして、昨日の出来事。



気まずくないわけがない。



・ ・・今。



今こいつは、














何を思ってるんだろう。













「まっ丸井くん!!」



「・・・・・・・・・・・・」











聞こえないフリをする。



その声に。呼ばれる名前に。



何を話す?



やめて欲しい。何を聞いても何も変わらない。



後ろで聞こえた靴音。



駆け寄ってくるのがわかる。



振り払え。



そう思っていると









「ブン太」









の声がした。













「きっ・・・聞いてもいい?」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・他の誰でもない。・・・・・丸井くんの口から、・・・・さんのこと・・・・」











制服の裾をつかまれ。



俺は振り返る。



降り始めたはずの階段の踊り場で、足が止まり。



俺の目に、こいつの目が焼きつく。



なんで。



なんでそんなに、いつも必死なんだよ。



何不安そうな顔してんだよ。



戸惑いの中、困惑し。何をしているのか。



自分でも、わかっていないような。



俺はこいつに正面から向き合って、制服の裾を掴む腕を離させた。





(・・・・なんで。)





触れたこいつの手が、小さく震えている。



小さく、震えて。



初めて、あの裏庭で会ったときみたいに。
















「丸井くっ・・・・・」


「・・・・初めて、裏庭でお前に会ったときな。あいつだと思ったんだ。」


「・・・・え?」


「後ろ姿。一瞬だと思って声かけた。・・・・そんなことあるわけねえのに。」















しゃがみ込んで、うずくまって。その後姿。



そんなこと、あるわけないのに。



何こいつ。



何不安そうにしてるんだよ。



そう思った。





(・・・似てる)





笑えば、いいのに。



きっと、みたいに笑顔が似合う。



そう、思った。





「丸井くん?・・・・」





俺はそいつの手を離して、



もう一度階段を上り始める。



図書館に行きたかった。



初めてに会った場所に、無性に、行きたくて。



この机だ。



確かな記憶。



と刻んだ落書き。



見つけた思い出の机に軽く腰掛ければ、あの日を瞼の裏に描く。



俺は軽く瞼を伏せ、別段何を目にするわけでもなく。



俺に続いて、あいつが図書館に再び足を踏み入れたのに気づいた。







「丸井くん・・・・・」


「・・・・本当は全然似てないのにな。」


「え?」


とお前。」








似てるって思った。



でも、本当は似てない。



で。



お前はお前で。



何かと必死で、間抜けなお前で。



俺はそいつのほうを見なかった。



軽く瞼を伏せたまま。







「・・・に初めて会ったのはここだった。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「毎日。・・・・会うたびに好きになった。」








言葉が、とまらなかった。



ここに俺はずっと来たかったのかもしれない。



なぜ?



そう言えばお前はなんでここにいる?



言葉が、とまらなかった。










「でも、気付いたら。いなくなっちまった。」


「・・・・・・・・・・・・・」


「・・・あんなに傍にいたのに。」










気付いたら、春が赤く染まっていた。











「春が好きな奴で。裏庭の桜が大好きだった。」


「・・・・・・・・丸井くん?」











あいつが好きだった春。



桜が好きで、白い蝶が好きで。



そう、確か。



俺は座っていた机から降りる。



思い出したが好きだった春。



図書館の窓から指す木漏れ日。



春の、木漏れ日。



俺はその窓際まで歩いていく。



あいつは春が好きだった。



春が好きだと言ってよく笑った。








「・・・・・・・・・・俺は嫌いだ。」


「え?」


「嫌いだよ」









あいつが好きな春は、赤く染まり。



桜は、俺の脳裏に焼きついただけ。



焼きついただけ。



突然ボリュームを上げた声。



図書館中に響き渡る。



俺はうつむき、窓に片手の拳を音がするほど強く置いた。


































































































































































































「春なんか、大嫌いだ。」






























































































































































































































































































が奪われた春なんか。






「・・・・・・・・・・嫌いだ、春なんて」






今でも耳に届いてる。



あの日の、の声が。






「ブン太、大好き。」






・ ・・・大丈夫だろぃ。



心配すんなよ。



俺も好きでいるから。



ちゃんと、好きでいるから。









「・・・・・8分前の、太陽。」


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・8分前の太陽って?」


「・・・・見たのか。机の脚。」









聞こえたそいつの声に、



俺は春の木漏れ日から、ゆっくりと振り向いた。



ここで、あの机の足を見たのか。



の名前を、見つけたのか。



振り返ると、



そいつのまだ不安そうな顔。



泣きそうな、顔。



俺は、こいつが俺なんかより、ずっとの死を哀しんでる気がして。



口元が緩んだ。






「約束。みたいなもん。・・・・俺にとって。」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「太陽の光が地球から届くまでに8分かかる。つまり俺たちが見ているのはいつも8分前の太陽。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・そうやってものを目がとらえるのには、時間がかかるから。だから、この手は遠くから手を振るためにあるんじゃない。」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「離さないように、一緒にいるためにあるんだって。」








俺はその言葉を口にして



自分の手を見た。








「・・・・・なのに俺は。手を繋いでてやれなかった。」









でも。



でも、大丈夫なんだ。



だから、



心配なんかするなよ。



手は離してしまったけど。



遠く離れても、傍にいようぜぃ。



矛盾だと知っていて。



それでも、お前の声が届くから。



俺はゆっくりと目にしていた手を握る。



の手を握るみたいに。



俺の口元は、自然と笑い。






「・・・・昨日は変な日だったな。」


「丸井くっ・・・・」


「俺あんなに怒鳴ることなかったよな。・・・赤也の言葉に過剰反応してさ。・・・バカみてぇ。」






考えても、考えても。



何も変わらない。



今でも好きでいる。



が好きでいる。



それは、変わらない。



だから、誰に何を言われても、俺は。



あいつを見れば、泣きそうになってる。



目元に涙が溜まっていた。






「・・・お前さ。涙もろいわけ?」


「ごめっ・・・・」


「・・・謝んなくていいから泣き止め。」






お前が泣くのは、何のため?



同情?



俺がかわいそう?



仁王が言ってた。



俺が泣かせた。



あの日、部室で起きてみれば、こいつが泣いてて。



何があったのかもわからず。



でも、きっと泣かせたのは俺。



そう思って、何もできずに駆け出した。



また、泣かせた。



なんで。傷つけるつもりなら、もう少しもないのに。




(・・・悪い。)




昨日も頭に血が上って怒鳴った。



俺は、こいつの目の前までくると、



顔を覗き込むようにして笑い。



そっと声にした。












































「・・・なんでいきなり話す気になったかな、俺。・・・・・・・・・・・・誰かに聞いて欲しかったのかもしれねぇな。」










































ありがとな。



そう付け加え。こいつの頭の上に手をのせて



軽く叩いた。



とまらない言葉。



声にしないと、この図書館じゃ、おかしくなってしまう。



に会った場所。を好きになった場所。





(・・・なんでだろうな。)





漠然と、漠然と。



目の前で泣いているこいつ。



同情でも、かわいそうでも。



俺の為に泣いている気がしてならなかった。



なんでお前がそんなことする必要があるのだと。



ただの俺の思い込みでも、



必死で間抜けなこいつに俺は笑った。



苦笑い、とでも言うのか。










ある程度泣き終えると、



こいつは突然、授業にいくと言い出した。



俺は図書館に残り。



あの机の前であぐらをかいて座り込んだ。





「・・・・なぁ、。」





今でも、





















































































君を好きでいる。



































































































































































































































































放課後の部活。







「休憩!!」







真田のその声がコート中に通る。



俺がベンチに座り込むと、



あいつがいつも通りにやってくる。







「はい、丸井くん。・・・お疲れ様。」


「・・・・さんきゅ」







気まずさはなかった。



険悪なムードも。



笑って、俺にタオルとドリンクを渡し終えたこいつ。





「・・・・・・」





なぜか。



春風が、俺に吹き。



それが、いつもより暖かく感じた。








「・・・丸井。」


「ん?なんだよジャッカル。」


「・・・・いや。なんでも。」


「なんだよ!気になるだろぃ!!お前頭に落書きとかするぜい?」


「本気でやめろ。」







横目で確認すれば、赤也とあいつが話してる。



俺はドリンクを飲み、



ジャッカルをからかう。



また、泣かせた。



でも。



・ ・・・でも、きっともう泣かせない。



俺は大丈夫なんだよ。



何を言われたって、この気持ちは変わらないだろうから。



だから、もう。



静かに、を想うだけ。






「・・・丸井。俺柳生のとこ行ってくる。」


「おい、ジャッカル?」






ジャッカルのよそよそしさに気付けば



赤也が俺のところに向かってきていた。



俺は赤也を見据える。



怒るな。



のこと、何を言われても。



何も変わらないんだから。









「昨日はすみませんでした、いきなり。」


「・・・・お前本気で思ってねえだろぃ。」


「思ってますって!」


「ふーん。・・・・信じてやるよ。」









俺が少し探るように言えば、



赤也は俺にへへっと笑った。






「・・・・・ね。ブン太さん。」


「あ?」


「ブン太さんはさんのことなんとも思ってないの?」


「・・・は?」


「ならくださいよ、俺に。」






俺はちらっとあいつを見る。



今度は仁王と何か話しているようだった。





「・・・・何?お前。・・・・・・・・・・・・・・・・・本気なのかよ。」


「本気でしょ。めちゃめちゃ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」





俺の心臓がやけにうるさい。



・ ・・なんでだよ。



俺には何も関係ない。



あいつが誰を好きでも。



誰があいつを好きでも。



俺が好きなのは、



赤也は俺に挑戦的な笑みを見せた。










































































































































































さん。俺がもらいますね。」














































End