誰がふったサイコロなのか。






「・・・・おっおはよう、丸井くん!」


「・・・・・・・・・・・」


「(・・・・・どうしたら。)」






丸井くんが、何も言わずに私の隣を通り過ぎる。



どうしたらよかったのか。






「・・・・・・・・・・・・・・・・・」






それは、誰がふったサイコロなのか。
































振り出しに、戻ってしまった。





























『8分前の太陽18』





































後悔は、どうしてこうも人について歩くのか。



今も心が叫んでる。



あんな言い方なかった。



どうして、声を荒げたりしたのか。



あたしは、必死だった。



昨日の放課後の会議室。



丸井くんに、問い詰めるような赤也。



赤也が、苦しそうだ。



丸井くんが、辛そうだ。



何か、何か、言わなくちゃ。



何か、しなくちゃ。



気付いたら、丸井くんを責めていた。



声を荒げて、みんなはあなたが心配なだけだと。



ただ、押し付けた。







「・・・・。」


「あっごめっ・・・はい、仁王くん。ドリンクとタオル!!」


「・・・・ありがと。」







あんなことがあった次の日の朝早く。



いつも通りに進むテニス部の練習は休憩時間に入った。



丸井くんは、ドリンクとタオルを、無言で、少し強引にだったけど受け取ってくれた。



ただ、丸井くんとレギュラー、それから私の間に明らかに溝が出来ている。



きまずい空気が流れ。



休憩時間は終始丸井くんが1人でいる。



コートの上では、普通に言葉も交わし、毅然と振舞うレギュラーのみんな。






「・・・。もしよかったらタオルをもう一つもらえますか?」


「あっ・・・はい、柳生君。」


「ありがとうございます。」






柳生くんはあたしの手からタオルを受け取ると、



微笑んでお礼をくれた。



・ ・・・コートでの練習を見ていると、つくづくみんなは強いのだと思う。



昨日のことがあったのに、コートに立てば、そんなこと忘れ去ってしまったかのように。






「・・・・・・・・?大丈夫ですか?ぼうっとして。」


「あっ。うん、大丈夫だよ!・・・ただ」


「ただ?」






1人、みんなと離れてベンチに座る丸井くん。



朝、丸井くんに言ったはずのあいさつは、



睨まれる形で帰ってきた。



丸井くんは、少し悲しそうにも見えた。






「・・・みんな、強いなぁって。」


「・・・・強い?」


「・・・・・・・何があっても、全国三連覇のために、進もうとしてる。」


「・・・・・・・・・・・・・・・」






私は後悔ばかりしてる。



もともと私と丸井くんの間には溝があった。



でも、今度はレギュラーとの間にまで、溝が出来てしまった。



支障があるかと思えば、コートの上では、そんなこと関係ない。






「・・・・・あなたは、強さだと、思うのですね。」


「・・・・・・え?」


「・・・いえ。なんでも。」






柳生君のつぶやくような声を聞き取れなかったあたし。



隣にいた柳生君をとっさに見て、聞き返そうとしたけど。



柳生君は、近くのベンチに立てかけておいたラケットを手にすると、



練習に戻ってしまう。






さん、さん。」


「赤也?」


「行ってきます!」





休憩時間の終わり。



赤也があたしに振り返りながら、コートに戻っていく。



ふいに頭に置かれた手。






「仁王くっ・・・・」






仁王くんは、あたしの頭を少しなで



あたしに何も言わず笑いかけると、



他のレギュラーと同じようにコートに戻っていく。



・ ・・・・みんなの背中が見える。



丸井くんの背中は、いつも見てきた練習のときと変わらない。



真っ直ぐ真っ直ぐ伸びている。



みんな、そうだ。






「・・・・・・・・・・・・・・・・・」






赤也と仁王くんが、まるであまり心配するなと言ってくれたみたいだった。



でも。



無理だよ、そんなの。



サイコロをふったのは誰?
























「お疲れ様!」






















部活が終わって、変わらずみんなにかける声。



なのに、1人だけ届かない。



届いて欲しい人に届かない。



素知らぬ顔で、今度は睨まれることもなく。



丸井くんは、あたしの隣を通り過ぎる。



サイコロをふったのは誰?








「(・・・・・・・・・・・私だ。)」








ついて回る後悔。



あんな風に言わなければよかった。



あんなに声を荒げて。



丸井くんに押し付けてしまうような言い方。



でも、何か言わなくちゃ。何かしなくちゃと思った。



どうして?



赤也も丸井くんもつらそう。悲しそう。



どうして?



私はもっと早くにみんなに会えなかったの?






。」


「・・・・仁王くん。・・・・赤也。」


「・・・あんま、心配しないでくださいね!俺たち、大丈夫っすから!!」


「・・・でも・・・」


「・・・お前さんが、いつも通りでいてくれたら俺たちは助かるとよ?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」






私がうつむけば、2人は私の頭にポンッと手を置く。



私が顔をあげれば、2人は優しく笑う。



私にできるのは、笑って返すだけ。



ぎこちなさの中に、精一杯を浮かべて。



そんな私の笑みは赤也と仁王君に、困った顔をさせてしまう。





「あたしは大丈夫だから!ほらっ早く行かないと2人ともHR遅れるよ!!」


さん・・・」


「早く!赤也!!」





笑え。



笑え。



みんなが強くあるのに、私だけが弱くはいられない。



仁王君と赤也は、何度か振り返りながらも校舎へと姿を消した。



・ ・・急いで終える片付け。



戸締りを終えて、私も自分のHRに。



なんとなく今日も空いてる隣の席を目にする。



(・・・幸村くん、元気かな。)



彼のお見舞いに、私は一度も行ったことがない。



不思議な感覚だった。



幸村君に会って、笑って欲しかった。



なんでもいい。たわいもない話でかまわない。



幸村君と話したかった。



・ ・・・何が。



何が話したいのか。何か幸村くんに言いたいことがあるのだろうか。



昨日の出来事で丸井くんの想いを幸村君以外のレギュラーみんなが知った。










今も、丸井くんが彼女を想っていること。









私と同じ名前の女の子。





「・・・・・・・・・・・・・・・・」





流れる時間。



授業中、よく窓の外を見た。



風が吹いてる。木々が揺らされ、時々、桜が舞っていた。



きっと裏庭の桜。



今も咲き誇る。



・ ・・春が、終わりたがっていないみたいだと仁王くんが言っていた。






「・・・・・・・・・・・・・・・・・」






あたしが、この立海に来たときから動かない気候。



・ ・・・振り出しに戻ってしまった今。



変わらない春がふさわしいのかもしれない。



昨日の赤也の言葉がひっかかる。








「・・・・・・・・・だって、死んだ人は、想ってやんなくたっていいでしょ?」









「(・・・・死んだ人は、思い出してやるだけでいい。)」






赤也は、なぜあんな風に丸井くんにつっかかったの?



丸井くんは、今も彼女を好きでいる。



それを見守るだけじゃダメなのか。



・ ・・・仁王くんは、



何かを、丸井くんに気付いて欲しかったといった。



何かは教えてくれなかったけど。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





まただ。



また、私、何もわからずにいる。



・ ・・・・私。



私は、丸井君の想いを知ったとき。



彼の想いの大きさを知った気がした。



今も私と同じ名前の彼女を思い続ける丸井くんが掴んだ手。



私が、あの時泣いたのは。



・ ・・なぜか、辛かったからだ。





「(・・・・・・・・・・あたしは、丸井くんが好きだから)」





それを知らされた辛さと、それからもう一つ。



丸井くんから伝わってきた辛さ。



その辛さを。



知って、いたのに。



振り出しに戻ってしまった。



私が声を荒げたりしたからだ。



今度はレギュラーと丸井くんの間に出来てしまった溝。



このままじゃいけない。でも、どうすればいい?



赤也は、心配しなくていいと言ってくれたけど。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





そんなの、無理な話。



ちらっと見た教室の壁にかかった時計。



次は10分間しかないが、休み時間だ。



あと5分で終わる授業。




(・・・・・会ってみたい。)




会ってみたい、あなたに。



に。



あなたなら、丸井くんになんて声をかけるんだろう?




























<キーンコーン・・・・・>









































































































































立ち上がる自分の席。



教科書類を机にしまい終える。



あなたに、会ってみたい。







今も丸井君の想う人。

















































































































































































































































































































































































































早足で歩んできた廊下。



一つの階段を上りきれば、その奥にある扉を開ける。



10分間しかない休み時間。



その短さじゃ、そこには誰もいなかった。






「・・・・・・・・・・・・・・・・」






扉を開ければ、その静かさに躊躇するが、すぐに足を踏み入れる。



そして、あの机の前で立ち止まる。



あの、脚に落書きを見つけた机。







‘8分前の太陽’














‘丸井ブン太’






それらが刻まれた机。



ゆっくりとしゃがめば、ちょっと体を机の下に覗かせる。



すぐにでも見つけることのできたその落書き。






「・・・・・・・・・・・ここしか、わからないんだ。」






あなたに、会える場所。



無意識のうちに腕があがり、指先が触れる落書き。



このままじゃいけない。



コートの上では毅然としていても、このままじゃ、誰もが辛いだけだ。



でも、どうすればいい?



・ ・・教えて欲しい。



私には彼にかける言葉が見つからない。





「あなたなら・・・・・・・」





あなたなら、なんて言う?



指先での落書きをなぞった。



机の下から体をだせば、図書館の時計の針が



もうすぐ授業が始まることを知らせていた。



教室に、戻らないと。



本当は、もう少しここで、答えてくれないあなたに投げかけて



考えていたい。



躊躇するのは、足。



でも、1人でここでサボりきる勇気はない。



ゆっくりと名残惜しくも、図書館の出口へと向かい、



あたしは扉のドアノブに手をかける。

























<ガチャッ>






























「・・・・・・・・・・え?」
























あたしはまだドアノブを回していない。



なのに、自然にドアノブが回った。



扉が、あたしじゃない誰かによって開かれる。






















































































































































































































































































「・・・・丸井くんっ・・・・」
















































































































































































































































































































突然開いた扉から、覗いたのは赤い髪。



彼はあたしと目が合うと、目を見開いて驚いた様子を見せる。



突然のことに、2人の間の時間が止まり、2人とも動けない。



最初にこの空間を動かしたのは丸井君だった。



開いた扉から数歩後ずされば、彼は私に背中を向けた。








「あ・・・・・」








丸井くんが、行ってしまう。



このままじゃいけない。



でもあたしにはかける言葉が見つからない。



呼び止めたいのに、名前が呼べない。



喉が、痛い。



丸井くんの背中が少しずつ少しずつ遠ざかろうとする。



・ ・・このままじゃいけない。



でも、何を言えば?何をすれば?



・ ・・・あなたなら。









あなたなら、何て言うの?









「まっ丸井くん!!」



「・・・・・・・・・・・・」










ダメだ。



名前を呼んだだけじゃ、あたしの声はあなたには届かない。



ダメだ。



このままじゃダメ。



動かなかった足が動く。



急いで。



急いで。



かける言葉はない。



けれど。



急いで駆け寄って、階段の踊り場で丸井君の制服の裾を、



あたしは掴んだ。



丸井くんは、あたしに振り向く。



視線はあたしの脳裏に焼きつくくらい鋭い。









「きっ・・・聞いてもいい?」



「・・・・・・・・・・・・・・・」



「・・・他の誰でもない。・・・・・丸井くんの口から、・・・・さんのこと・・・・」









勇気も、頭も、言葉も、心も、震えも。



全てを振り絞ってだしたあたしの声。



丸井くんの表情は変わらずあたしを見据える。



・ ・・・かける言葉は見つからない。



なら、聞かせて欲しい。



丸井くんのことが知りたい。



だから、あなたの想う人のことが聞きたい。



レギュラーと丸井くんの間に生まれてしまった溝。



どうにかしたいなら、まずは、あたしからこの溝を埋めなければ。



振り出しに戻ってはいけない。



けれど、何もわからなければ。



あたしは丸井くんに、勝手なことしか言えないまま。







「・・・・・・・・・・・・・・」







丸井くんの手があたしの制服の裾を掴む手を掴み、離させる。






(・・・お願い。)






振り払わないで。



拒まないで欲しい。



聞かせて欲しい。



あなたが想う彼女のこと。



丸井くんが体の向きを変え、正面からあたしと向き合う。























「丸井くっ・・・・・」



「・・・・初めて、裏庭でお前に会ったときな。あいつだと思ったんだ。」



「・・・・え?」



「後ろ姿。一瞬だと思って声かけた。・・・・そんなことあるわけねえのに。」





















丸井くんが淡々と口にする。



あわせた目は、丸井君がそらし、



あたしの手から、丸井くんの手が離れる。



丸井くんは、あたしの隣をとおりすぎ、一度降りた階段を再び上った。





「丸井くん?・・・・」





その背中に声をかけるが、丸井くんの足は止まらない。



丸井くんは図書館の中に吸い込まれるように消える。



でも、扉は閉められない。



あたしは、聞こえた本鈴のチャイムに聞こえなかったフリをして。



丸井くんの後に続いて図書館に入った。







「・・・・・・・・・・・・・」







扉を閉めた図書館。



あたしはその場に立ち止まる。



あたしからは丸井くんの横顔しか見えない。



丸井くんは、あの落書きのされている机の上に寄りかかるようにして、浅く腰掛けると



少し瞼を伏せて、何かを思い出すかのように、視線を下に落としていた。



・ ・・何を見ているのか。






「丸井くん・・・・・」


「・・・・本当は全然似てないのにな。」


「え?」


とお前。」







横顔の丸井くんが、ふっとかすかに口角をあげた。



あたしは、何も言えず。



同じ名前なのに、丸井くんは、あたしの名前を声にしているはずなのに。



まったくと言っていいほど、が自分の名前である気がしない。



この名前は、彼女だけのもの。



丸井くんにとっては、きっとそうなんだ。






「・・・に初めて会ったのはここだった。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「毎日。・・・・会うたびに好きになった。」






視線も表情も変えないまま。



まるで言葉を落としていくかのよう。



つぶやいては、消えていくその声。



あたしは、ただ丸井くんの横顔を見つめる。



丸井くんが、突然話しはじめてくれた事、



うれしかった反面。不思議だった。



今は、丸井くんが紡いでくれる思い出を聞くだけ。











「でも、気付いたら。いなくなっちまった。」


「・・・・・・・・・・・・・」


「・・・あんなに傍にいたのに。」










ぽつり、ぽつりと、つぶやくように。










「春が好きな奴で。裏庭の桜が大好きだった。」



「・・・・・・・・丸井くん?」









座っていた机からすとんっと降りた丸井くん。



図書館の窓に向かっていく。



春の木漏れ日が、丸井君を照らしていた。



あたしの目には、丸井くんの後ろ姿が焼きつく。













「・・・・・・・・・・俺は嫌いだ。」



「え?」



「嫌いだよ」












突然ボリュームを上げた声。



図書館中に響き渡る。



丸井くんは、うつむき、窓に片手の拳を音がするほど強く置いた。


































































































































































































































「春なんか、大嫌いだ。」































































































































































































































































木漏れ日が差し、白い蝶が飛び、桜が咲き誇り。



あたたかい春に失ってしまったのは、



丸井くんの大切な人。





「・・・・・・・・・・嫌いだ、春なんて」





かける言葉が見つからない。



丸井くんの姿が辛い。



見ていてとても辛い。



報われない恋をしているのは、私も同じ。




(・・・赤也。)




死んだ人は想ってやんなくたっていいって言ったね。



思い出してやるだけでいいって。



それってきっととても難しいことだよ。



想えば想っていたほど。



離れることなんて出来ない人。



その人を、思い出すだけなんて。






「・・・・・8分前の、太陽。」



「・・・・・・・・・・・・」



「・・・・8分前の太陽って?」



「・・・・見たのか。机の脚。」






声を探していたあたしの喉から、やっとのことででてきたのは



それだった。



丸井くんにさらに辛い想いをさせるかもしれない。



そんなことだけだった。



丸井くんは、あたしにゆっくりと振り向く。



丸井くんの顔を見て、泣きそうになるのをこらえた。



丸井君の目が、優しかった。






「約束。みたいなもん。・・・・俺にとって。」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「太陽の光が地球から届くまでに8分かかる。つまり俺たちが見ているのはいつも8分前の太陽。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・そうやってものを目がとらえるのには、時間がかかるから。だから、この手は遠くから手を振るためにあるんじゃない。」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「離さないように、一緒にいるためにあるんだって。」






その瞬間。あたしの目に、涙がにじむ。






「・・・・・なのに俺は。手を繋いでてやれなかった。」






丸井くんは、自分の手のひらを見てつぶやいた。



ゆっくりとその手のひらを握り締めて。



あたしのほうを見た。



丸井くんは、笑ってくれた。





「・・・・昨日は変な日だったな。」


「丸井くっ・・・・」


「俺あんなに怒鳴ることなかったよな。・・・赤也の言葉に過剰反応してさ。・・・バカみてぇ。」






涙が、にじんで。



目の前がかすむ。



丸井くんの言葉に、あたしは首を横に振って否定する。



・ ・・バカじゃないよ。



それだけ、想ってるんだよ。



亡くしてしまった彼女のことを。




話してくれて、ありがとう。




そう言いたかったのに。



出てくる声がかすれてしまう気がして言えなかった。





「・・・お前さ。涙もろいわけ?」


「ごめっ・・・・」


「・・・謝んなくていいから泣き止め。」





あたしの目の前はかすむだけ。



かける言葉もなく。



涙を零さないように耐える。



丸井くんは、あたしの目の前までくると、



あたしの顔を覗き込むようにして笑い。



そっと声にする。






















































「・・・なんでいきなり話す気になったかな、俺。・・・・・・・・・・・・誰かに聞いて欲しかったのかもしれねぇな。」

































































ありがとな。



そう付け加え。あたしの頭に丸井くんの手がそっと載る。



ポンッポンッと軽く叩かれれば、



あたしはいよいよ泣きそうだった。



赤也みたいに、ほうっておけないのはあたしも同じ。



でも丸井くん。



あなたのように報われない恋をしているのは、



同じなんだよ。



次の授業にはちゃんとでた。



丸井くんは、1人図書館に残っていた。





















































































































































































































































































































































































































放課後の部活。







「休憩!!」







真田君のその声がコート中に通る。



あたしは、タオルとドリンクをレギュラーのみんなに渡していく。






「はい、丸井くん。・・・お疲れ様。」


「・・・・さんきゅ」






そう言って丸井くんは笑ってくれた。



そのとき一瞬、周囲の音がすべて止まったかのように感じたコート。



練習中は丸井君と赤也の間に、



やっぱり溝が見えた気がしたけど。



コートに入る出番を待つ合間とか。



丸井くんから、笑顔でレギュラーに話しかけている姿が見えた。



このまま、



このままでいい。



いいんだよ。きっと。



丸井くんが決めたことなら。



辛そうなのは、今はいない人を想う気持ちから。







「・・・・・さん。ブン太さんと何かあった?」


「・・・・話をね、したの。」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・ねえ、赤也」


「はい?」









休憩時間。



丸井くんにドリンクとタオルを渡し終えて、



レギュラーのみんなに必要なものを渡し終えたあたしに



赤也が声をかけてきた。



丸井くんは、少し離れたところで桑原くんをからかってるみたいだ。













「・・・丸井くんがそう決めたことなら、いいんじゃないのかな。」



「・・・・ブン太さんがずっと、あの人を想ってていいってことっすか?」



「・・・だって、忘れるなんて無理だよ。丸井くんは、彼女のことが好きなのに。」



「・・・・本当に好きなんすかね。」



「え?」



「・・・・・・・・・・・・さんはそれでいいと思うの?」














赤也が真面目な顔をする。



真剣な瞳。



あたしは赤也の問いにうなずいた。



だって。



だってね、赤也。







この名前は、彼女だけのもの。



丸井くんにとっては、きっとそうなんだ。



赤也はしばらくあたしの顔を見ると、視線を丸井くんに。






「あっ赤也っ・・・・」


「大丈夫っすよ!ブン太さんと仲直りしてきます。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」






赤也が、丸井くんの元へ歩き出す。



あたしは本当に大丈夫だろうかとその背中を見ていた。



丸井くんの元へ赤也がいくと、桑原君が気を遣ってか。



柳生君の元へと歩いていった。






「・・・。赤也何しとる?」


「・・・・仲直りだって、言っていたけど。」


「仲直り?」







あたしの隣にやってきた仁王君。



水筒のドリンクを口にしながら、話し出す。



あたしは仁王君を見て、それから丸井くんと赤也に視線を戻した。



・・・もめてはいないみたいだ。






「・・・あたしは、丸井くんが彼女を想ってたっていいと思うんだ。」


「・・・・・・はそれでよか?」


「・・・・・同じだからね。」






報われない恋を、しているのは。



赤也は、死んだ人は想ってやんなくたっていいと、言っていた。



赤也は丸井くんに、早く忘れるべきだって言いたかったんだろうか。



幸村くんは、丸井くんが弱くなることを心配していた。



でも。



大丈夫だと思う。



レギュラーのみんなは、コートの上では毅然として、強いから。



だから、想っていてもいいんじゃないのか。



あたしの丸井君への想いも、簡単に消えるものではないけれど



丸井くんの想いの大きさを、知った気がしていたから。



自分に出来ることは何もないと思った。



仁王君は、それ以上あたしに何も言ってくれなかった。



あたしも仁王君も。



赤也と丸井くんを見ているだけ。



































































































































































「昨日はすみませんでした、いきなり。」



「・・・・お前本気で思ってねえだろぃ。」



「思ってますって!」



「ふーん。・・・・信じてやるよ。」



「・・・・・ね。ブン太さん。」



「あ?」



「ブン太さんはさんのことなんとも思ってないの?」



「・・・は?」



「ならくださいよ、俺に。」



「・・・・何?お前。・・・・・・・・・・・・・・・・・本気なのかよ。」



「本気でしょ。めちゃめちゃ。」



「・・・・・・・・・・・・・・・・」













































































































































さん。俺がもらいますね。」














































End
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