ひらり、ひらり。





桜の花びらが、目の前をかすめていくように、





風にさらわれていく。





ひらり、ひらり。





聞こえた小さな足音。














「・・・・・・・・・丸井くん・・・・・」












その声に、





気付いたそいつの姿に、





俺はとっさにその場から立ち上がった。














































『8分前の太陽24』











































ずっと、考えていた。



目の前に、驚いた様子で俺と目を合わせるこいつがいた。



コートの上にいつもあったその姿を消したこいつが。



テニス部をやめたと聞かされたこいつが。



と同じ名前のこいつが。






「・・・お前・・・・・」






とっさに言葉を探したが、何を言えばいいのかわからない。



だけど、



ずっと、考えてた。



考えてた。








「っ・・・・・」


「おいっ・・・!」








そいつが、何か思いつめたかのように俺から目をそらして、うつむいた。



次の瞬間、俺に背をむけ、



目の前から走り出す。





(・・・ちくしょう。)





俺から遠ざかろうとする背中を、追いかけることができない。



聞きたいことがある。



言いたいこともある。



こいつに。



・ ・・こいつに。



動けよ、足。



追いかけないと、追いつかない。



ひらり、ひらり。



桜が舞ってる。



白い蝶が、ふいに俺をとおりすぎた。



ひらり、ひらり。



遠ざかる背中が桜の花びらでかすれていく。







「ブン太。」







ひらり、ひらり。




(・・・・。)




ちくしょう。










「・・・ブン太さんってさ、なんなの?」










泣かせた。



俺が、泣かせた。



その手に手を伸ばして、捕らえて。



・ ・・俺が、泣かせた。



ちくしょう。



ぎゅっと強く強く拳を握る。




(ちくしょう。)




ちくしょう。





















































































































言い訳が欲しい。









































































































































走る、走る。



その姿を追いかける。



言い訳が欲しい。



こいつを呼び止める言い訳が欲しい。



ひらり、ひらり。



桜が舞ってる。



桜が待ってる。



・ ・・言い訳が欲しい。



その手を掴んで引き止める、その理由が。











「待てよっ・・・・!!」



「っ・・・・・・」



「・・・・・・待てよ」











右手が、こいつの左手を掴んだ。



振り向くことなく、俺によって止められた足。



裏庭の、桜の群れの下で、走ったせいで二人とも息切れをしている。



・ ・・その手が、震えていた。



ずっと、考えてた。



ずっと。



・ ・・・・考えてた。











「・・・なんで、やめたんだよ。」



「・・・・・・・・」



「なんでマネ、やめたんだよ。」










手は離さなかった。



手を離したら、また駆け出して、その姿が見えなくなってしまいそうだと思ったから。



俺に振り返らないまま、



そいつの表情はわからない。



見えたのは、細い首筋と、風に揺れるその髪。



俺の問いに答えはなかった。







「・・・・俺が、近づくなって言ったから?」


「・・・・・・・・・」


「・・・あれは、違ぇんだよ。あんなこと、思ってねぇし、言うつもりもなかったんだ。」


「・・・・・・・・・」


「俺だって・・・なんであんなこと言ったのか、わかんねぇんだよ・・・。」







頭の中がごちゃごちゃする。



何が、言いたいんだ俺は。



あのときの言い訳がしたいんじゃない。



振り向きもしない、俺の言葉に何の反応も返さない、その後姿を見て



空いてるほうの手で、風が遊ぶ髪を軽くかきあげる。



ずっと、考えてた。



俺が泣かせた。



俺がこいつを、邪険に扱って。



俺がこいつに、余計なこと言って。



俺のせいで、こいつはやめたんじゃないのか。



・・・・そんな必要ない。



テニス部の誰もが、お前を認めてる。



やめる必要なんかない。



柳が言った、こいつが部活をやめた理由。



疲れた、部活が嫌になった。



絶対嘘だ。



そんなことこいつが言うわけがない。



理由が、聞きたい、知りたい。



俺が理由なら謝ったっていい。



だから。









「・・・・・やめるなよ。」










素直に、率直にそう思う。



未だに振り向かない、その後ろ姿。



お前がやめたと聞かされたときの、レギュラーたちの表情。



ジャッカルがつぶやいてた。



嘘だろって。



信じられないことだと、信じたくないことだと。



柳生が、仁王を制止してまで、自分がお前に会いに行きたいって言ってた。



他のレギュラーでさえ、きっと同じ気持ちだった。



みんな口数が減って、いつも通りなんかじゃなかった。



やめるべきなんかじゃない。








・・・やめてほしくない。








なんでか、よくわかんねぇけど、



俺さえ、そう思ってる。



そう、思ってる。






「ここで、お前が女子たちに囲まれてたとき、俺は確かに早くテニス部やめろって言ってたけど」



「・・・・・・・・」



「・・・今は、そんなこと思ってない。」






やめるなよ。



やめて欲しくない。



なんでか、よくわかんねぇけど、そう思ってる。






「ブン太」






・ ・・・



なんでだろうな。



お前の声がかすれて聞こえる。



変なノイズが混ざるんだ。



ノイズが、混ざる。



ひらり、ひらり。



桜が、舞っていた。









「・・・・なんで、やめるんだよ。」








その手を掴む手の力を少し強めた。



無意識のうちに。



今も表情がわからないその後ろ姿。



風が揺らす髪。







「・・・・つっ・・・疲れちゃったんだよ!」



「・・・・・・・・」



「毎日、・・・・忙しいし・・・朝早いし、放課後遅いし・・・。」







嘲笑のかすかな笑い声をふくみながら、俺を見ることなく声にする。



その手が震えている。



ひらり、ひらり。



白い蝶が、俺が見ていた後ろ姿と俺の目の前を横切る。






「・・・もう、嫌になったから。・・・だからやめたの!単純でしょ?」



「・・・嘘つくなよ。」



「・・・本当だよ」



「そんなの誰も信じねぇぜぃ?」



「っ・・・・本当だよ!!」



「嘘つくなって言ってんだろぃ!」






その嘘が、許せなかった。



自分が一番傷つくようにして、嫌われるような言い方して。



そんな言葉を選んでるこいつに苛立ちを覚えた。








「・・・本当のこと言えよ!」



「(!)丸井くっ・・・・」








掴んでいたこいつの手を、無理やり引っ張った。



ずっと振り向こうとはしないから。



無理やり俺のほうをむかせるために。



やめて欲しくない。



やめるべきじゃない。



そんな理由は本心じゃない。



じゃあ、なんでやめるんだよ。



俺のせいなら、そう言えばいい。



謝ったってかまわない。



だから。







「ブン太」







ひらり、ひらり。




(・・・・・。)




今はノイズが混ざって、うまく聞こえない。









お前の声がかすれてる。









振り向かされ、うつむいたままで表情が伺えないこいつは、俺の手を振り払う。






「っ・・・・・!」






勢いまかせに、言葉を吐き出そうとこいつを真正面から見た瞬間だった。



目の前のこいつが顔をあげる。



目が合い、俺は声がでなくなる。





(・・・・また)





泣きそうな目をしている。



・ ・・俺のせいで。



俺のせいで。




















































































丸井くんの姿を見た途端、気付いたらその名前が声になってしまっていた。



早く。



・ ・・早くこの場から去らないと。



風が吹いて、花びらが舞う。



丸井くんがその場から立ち上がる。



ダメだ。



私ここにいたら、きっとまた。



あなたに辛い思いをさせる。



部活をやめたから、もう関係などない。



赤の他人。






「・・・お前・・・・・」





丸井くんの声が聞こえて、泣きそうになる。



・ ・・早く、ここから逃げてしまわないと。







「おいっ・・・!」







叶わないと知っているからなのか。



丸井くんに会うたびに、想いばかりがつのっていく気がしてならない。



いつだって、泣きたくなるのはきっと。









































































































哀しいくらい、あなたが好きだから。































































































































走って、走って、走って。



なのに。






「待てよっ・・・・!!」






振り向かなくてもわかる。



その声でわかる。



掴まれた手でわかる。



丸井くんに足をとめられる。



・ ・・振り向けるはずがない。



きっと泣いてしまうから。








「・・・なんで、やめたんだよ。」



「(・・・なんで。)」



「なんでマネ、やめたんだよ。」








なんで、そんなことを聞くの?



掴まれたままの手が痛い。






「・・・・俺が、近づくなって言ったから?」


「(・・・違うよ。)」


「・・・あれは、違ぇんだよ。あんなこと、思ってねぇし、言うつもりもなかったんだ。」


「(丸井くんのせいじゃない。)」


「俺だって・・・なんであんなこと言ったのか、わかんねぇんだよ・・・。」






いつもより、柔らかい声。



小さな声。



少し弱気で、何かに困っているかのよう。











「・・・・・やめるなよ。」










体の体温が上がった気がする。



離されない手から、丸井くんに伝わっていないか心配なほど。



その言葉が、うれしかった。



本当は、





(やめたくなんて、なかったから。)





でも。







「・・・・なんで、やめるんだよ。」







引き止められる理由なんて



私にはありはしない。






「・・・・つっ・・・疲れちゃったんだよ!」


「・・・・・・・・」


「毎日、・・・・忙しいし・・・朝早いし、放課後遅いし・・・。」







できるだけ、バカにしたように。



今日、柳生君や赤也に向けたような言い方そっくりに。






「・・・もう、嫌になったから。・・・だからやめたの!単純でしょ?」


「・・・嘘つくなよ。」


「・・・本当だよ」


「そんなの誰も信じねぇぜぃ?」


「っ・・・・本当だよ!!」


「嘘つくなって言ってんだろぃ!」






丸井君の私の手を握る力が強くなる。



だって、しょうがない。



あたしがいても迷惑しかかけられない。



みんなの仲を不和にして。



そんなの、許されるわけがない。






「・・・本当のこと言えよ!」



「(!)丸井くっ・・・・」






丸井くんの手が私の手を強く引っ張る。



途端、目に入る赤い髪。





(・・・・・・ダメだよ。)





泣きそうだ。



振り向くつもりなんかなかったのに。



もう、丸井くんの姿なんか、見るつもりもなかったのに。



その手を力いっぱい振り払う。



丸井くんの手が私の手から離れる。



・ ・・痛い。




(・・・泣きたくない。)




泣いてはいけない。



困らせたくない。



あげた顔。丸井くんと目が合った。



丸井くんが少し目を見開いて、私の顔を見てる。



ひらり、ひらり。



桜が舞ってる。



早く、散ってくれればいいのに。



そしたら、丸井くんと出会ったこの場所を思い出すことは



来年までないかもしれないのに。



何も言葉がない。



言いたいことも、聞きたいことも何もない。



言うべきことは何一つない。



だって、







傍にはいられない。







テニス部をやめて何の関係もなければ、みんなとは、丸井くんとは、赤の他人。






「・・・柳生と赤也、お前のところ行ったろぃ?」


「・・・・・・・」


「お前にやめて欲しくないって言ってたろぃ?」






静かに静かに丸井くんは話し始める。



私はまたうつむく。



だって、どうしたらいい?



その声が、耳に届く。







「・・・レギュラーの奴らみんながそう思ってんだよ。お前に、やめて欲しくないって。」






足元に桜の花びらが敷き詰められている。




(・・・だって、)




どうしたらいい?



私は、丸井くんの好きな人と同じ名前。



丸井くんは、ずっとその人のことを想っていて。



でも、テニスコートの上でだって、なんの支障もなかった。



・ ・・そう、なんの問題もなかった。



普通に笑いかけてくれた。



普通に話しかけてくれるようになった。



なんの問題もないはずだった。



私が、丸井くんの好きな人と同じ名前だって。



・ ・・でも、私は。



私は。









「・・・俺だって、お前にやめて欲しくないって思ってる。」









丸井くんのその言葉に、私は驚いて顔をあげた。




(・・・嘘。)




そんなの、嘘。



ひらりと桜が舞っている。



春風が吹けば、桜の群れは騒がしさを増す。



丸井くんが、私に笑う。



それは、初めて見た笑顔にひどく似ていた。



私の心を晴らしてくれたあの笑顔だ。






(・・・・私は。)






なんの、問題もないはずだった。



私が、丸井くんの好きな人と同じ名前だって。



丸井くんが、普通に接することを許してくれたなら。



でも、私は。




(私は)




















今、わかった。



















初めて見た丸井くんの笑顔の裏に、どこか寂しさを見て。



そうやって、寂しさ隠して笑うから。



私は、傍にいたいって思ったんだ。








傍に、いたいって。








笑って欲しいと、ずっと思っていた。



本当の笑顔を見せて欲しいと、心のどこかで思い続けていた。



でも、どうしたらいい?








「っ・・・・・・・」



「・・・俺が理由なら謝る。だから・・・」



「違う・・・。丸井くんは、悪くない。」



「じゃあ、なんでやめちまうんだよ。」



「・・っ・・・だって!」







どうしたらいいの?



わかっているのに。



あなたは・・・・。







「・・・・・・」







私の言葉の続きを待つ丸井くんが、私をその目にうつす。



手のひらを強く握り締めて、私は再びうつむいた。








「・・・・だっ・・て・・・・」








私は、丸井くんの好きな人と同じ名前。



丸井くんは、ずっとその人のことを想っていて。



でもテニスコートの上でだって、なんの支障もなかった。



なんの問題もなかった。



普通に笑いかけてくれた。



普通に話しかけてくれるようになった。



なんの問題もないはずだった。



私が、丸井くんの好きな人と同じ名前だって。



何も、問題はなかったのに。



みんなの仲を不和にすることだってなかったはずなのに。



私は、




























































丸井くんが好きだから。






















































































































































































哀しいくらい、好きだから。







「・・・だって、なんだよ。」


「・・・・・・・」







好きだから、勝手なことを言う。



好きだから、丸井くんを傷つける。



好きだから、いつも気になって。



会うたびに、想いをつのらせる。



泣きたくなる。



叶わないと知っているから。



だから、傍にはいられない。



ひらり、ひらり。



早く散って、桜。



もう、思い出してはいけない。







「おい・・・」


「・・・本当、なんだよ。」


「・・・・・」


「部活をやめたのは、さっき言った理由のとおり。・・・もう、嫌なんだ。もう、戻ったりしない」


「・・・お前。」







けして顔をあげない。



うつむいたまま、そのままで。



もう、赤い髪は見ない。



見たら、こぼれそうで怖かった。



胸が張り裂けそうで、想いがあふれそうで。



丸井くんの顔は見れない。



だって、どうしたらいい?



あなたが好きな人は、世界でただ1人。



もう、戻れない。



私はあなたを好きでいてはいけない。



この想いが、全てをダメにするから。



だから、けして見ない。



けして。















「・・・・嘘が聞きたいんじゃない。」















丸井くんの声が、胸を締め付ける。



足音が聞こえた。



さっきよりも私との距離を縮める丸井くんの足音。



うつむく視線の先に、私と丸井くんの靴が映る。




(・・・なんで。)




泣きたくない。



泣いちゃいけない。



困らせたくない。



だから。









「本当だけが知りたい。」









頭の上に降ってくる桜の花びらと、その声に、



私は思わず顔をあげる。



丸井くんは、私と目を合わせると



静かに静かに微笑んで。



そっと小首を傾げてみせる。






(・・・ダメだ。)






目に映る赤い髪、



耳に届くその声。



どうしたらいい?



だって、あなたは。



どうしたらいい?



どうしようもないと、わかっているのに。



こぼれる涙のわけは、とても単純なのに。



突然頬を伝う涙は、止めようもないのに。






「・・・・だって・・」






誰かが言っていた。



誰かを好きになって、誰かを強く想えば、人は強くなれるのだと。



でも、そんなの嘘だ。






「だって・・・・」






丸井くんの笑顔は、私の涙で消えてしまった。



きっと、困らせてる。



・ ・・誰かを思えば強くなれるなんてそんなの嘘だ。



あなたを想うときの私は、



弱さばかりをこの身に纏う。



涙が、こぼれるくらい。

















































































「・・・・丸井くんを好きになったら、・・・どうすればいい?」



































































それは、今このときだけは





















































































































































































































世界で、もっとも言ってはいけないはずの言葉。
































































































































































































































「・・丸井くんが・・・・好きです。」




































































































































































































































































涙と一緒に、想いがこぼれる。



拭っても止まってくれないそれを



私はどうすることもできない。



言ってはいけないとわかっていたのに。



声はいつも身勝手。



私はいつも勝手。



涙の向こうに、戸惑いを隠せない丸井くんの表情が見えた。



予想外の言葉に、きっと困っている。






(・・・ごめんなさい。)






私が困らせた。



だって、どうしたらいい?



どうしようもないと、わかっているのに。



こぼれる涙のわけは、とても単純なのに。



哀しいくらい、あなたが好きです。
























































































































































































目の前の涙。



桜の花びらと一緒に、地面にこぼれていく。





(・・・・俺が、好き?)





嘘だろぃ?



こんな、お前の気持ちも考えないで



自分でもよくわからないような言葉を吐き出す奴、なんで好きになんかなるんだよ。



なんで、俺なんか



なんで、好きになるんだよ。



驚いて、戸惑って。



けれど、目の前のこいつが泣いているのだけは事実。






(・・・・泣くなよ。)






もう、泣くなよ。






「ブン太」






・ ・・わかってる。



大丈夫だぜぃ、



泣き続けるこいつに



必死で涙を拭うこいつに無意識のうちに伸ばしかけた手は



たどり着くことなくそのまま下におろされる。





(・・・大丈夫、安心しろぃ。)





ひらり、ひらり。



風が吹き、花びらが舞い。



俺の目の前を、白い蝶が横切る。





(・・・・・。)





俺だって、お前が好きだから。



の笑顔が脳裏に浮かぶ。



目の前で落ちていく涙を見据え、



握った拳を固く握り締める。






















「・・・俺は、お前の名前は呼べない。」


















その名前は、のもの。



俺の中ではだけのもの。



だから。



ひどく、風に通った声に、こいつは必死で涙を拭い続ける。



言葉が見つからない。



何も続かない。



そこから動けない。



だが、次の瞬間。



目元に涙が残ったまま、俺にこいつが笑う。



そっと微笑んで、ゆっくり、小さなお辞儀をする。



涙が、頬を伝っていく。











どくん。










どくん。











(・・・まただ。)










また、うるさいほどに大きく響く鼓動。










どくん。











どくん。












俺に背を向けて、こいつは走り出す。



もう目を合わせることなどなく。



もう、追いかけることなどできず。




(・・・・俺の、せい。)




部活を、あいつがやめたのは。



ひらり、ひらり。



桜が舞ってる。



白い蝶が俺の周りを舞っている。



見えなくなるまで見ていた。



その背中を見ていた。











どくん。









どくん。










どくん。











どくん。















時々、ノイズが混ざる。



ノイズが混ざる。



なんでだ・・・?



なぁ、






「ブン太。」






時々、変なノイズが混ざって。お前の声が、かすれてる。











「ブン太」









「丸井くん。」








「やっぱり春が一番好き。」








「お疲れ様!」


















・ ・・・・ノイズ?

















「ごめんなさいっ・・・・」







「今度からもがんばるね!!」







「・・・みんなが・・・丸井君のこと心配してるのだけは・・・丸井くんよりわかる。」







「・・いっ・・・いるよ、好きな人。」








「私は、春が好き。」




















これは、ノイズなんかじゃなくて。






「ブン太」



「(・・・・)」



「ねぇ、ブン太」






の声がかすれてる。



あいつの声が聞こえてる。


















































「・・・・丸井くんを好きになったら、・・・どうすればいい?」














































なんで。



・ ・・どうして。



それは、ノイズなんかじゃなくて、



あいつが俺にくれた言葉。



交錯する声。



なんで。



どうして。



の声が、かすれる。



・ ・・俺は。



俺には。














どくん。













どくん。












どくん。












どくん。

















































「・・丸井くんが・・・・好きです。」





























































































































お前の名前は、呼べない。




















































End.