転入した次の日から、



まさかこんなに朝早くから学校に来ることになるとは、思わなかった。



昨日柳くんに聞いた。



レギュラーのみんなは朝何時から練習してるのかと。



マネージャーになったからには彼らより早くコートに来て



部活の準備をしなければ。



その結果。



あたし以外誰もいない学校の敷地内。それくらい早い時間から、現在部室の掃除中。







































『8分前の太陽3』












































次はネット張って、ドリンクをつくって・・・。



違う、その前にボールを出さなきゃ!



頭の中では次何をするのかとかそのあと何をするのかとか、



昨日の放課後の部活で柳君に聞いたマネの仕事が、ぐるぐると回っていた。



用具庫からネットを出し、ボールも一緒に出す。



ボールの入っている籠はそこにおいたまま。



いくつかのコートにネットを張っていく。



急がないと、レギュラーのみんなが来る時間になってしまう。




(そう言えば、他にマネージャーはいないのかな。)




男子テニス部が人気者なのは昨日1日でわかりきった。



あのギャラリーの女の子達。



その歓声の大きさ。



レギュラーの誰かがラケットを一振りするだけで誰もが見入る、その姿。



昨日の放課後。たったそれだけしか彼らには会っていないのに。



知らされる、人をひきつけるその魅力。




(・・・・みんなかっこよかったもんね)




ネットを張り終えてボールの籠を持って個々のコートにおいていく。



誰が来てもすぐに練習ができるように。



ここまで来るともう、昨日柳君から聞いていた、レギュラーたちが来る時間になっていた。





「おっ!ちゃんとやってるじゃないっすか、さん!さすがマネージャー!!」


「おはよう、赤也」


「おはようございます!!」


「おはようございます」


「おはよう、柳生君」





よかった。みんなが来る前になんとか迷惑をかけないところまでの準備は終わった。



コートに姿を見せたのは赤也と柳生君。



そのあともぞくぞくと姿を見せ始めるレギュラー。





「おはよう、真田くん、柳君」


「ああ。」


「おはよう、





他の部員は誰一人としてこないのに。



こんなに早くから練習を始めるレギュラー達を心からすごいと思った。



部室の中にもトロフィーや賞状がたくさん。



立海テニス部の強さの証。



みんなはコートに姿を現すと次々と部室に入っていく。





「おはようさん、。」


「おはよう、仁王くん。」


「よう起きれたね。えらいえらい。」


「あの・・・・・・・」





仁王くんはそう言うとあたしの頭をなでた。



からかわれてるとしか思えない行動に仁王くんを見ると



彼はにこっと笑って返し、部室の中に入っていく。



・ ・・・仁王君は不思議。



さっきまでなでられていた頭に自分の手をやる。



みんなのこと、これから少しずつでいいからいろいろ知っていかないと



そう思った。





「よう、


「あっおはよう、桑原くん・・・・」





仁王君のあとを追って部室の入り口を見ていたあたし。



背中のほうから聞こえてきた声に、すぐ様振り返ってあいさつを返した。



桑原君はそっと微笑んでくれていて、その向こうに、







彼が、いた。







「・・・おっおはよう、丸井君!」


「・・・・・・・・・・・・・・」







桑原君の後ろから揺れる赤い髪。



桑原君はあたしにあいさつをしてくれて、そのあとすぐに部室に向かって歩いていき



部室のドアを開けると丸井君が来るのを待っていた。



丸井君は、



あたしと目を合わせることもせず、ただあたしの横を通り過ぎた。




(・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・)




丸井くんの通り過ぎる姿に合わせて目で追うあたし。



部室前、桑原君と丸井君の後姿を目にする。





「・・おいっ・・・丸井・・・」


「んだよ、ジャッカル。さっさと入れよ」





<バタンッ>





と、それはあたしにとっては寂しい音。



部室のドアが閉まる音。



・ ・・・・・昨日のあたしを睨む丸井くんの目が無意識に思い出された。



真っ直ぐな目は、怖いんじゃなくて。




(・・・・・怖い、んじゃなくて)




なんだか。



なんだか、とても。








<ガチャッ>








さん?そんなとこで突っ立てると練習すぐに終わっちゃいますよ?」


「(!!)そうだ!ドリンク!!」







部室に一番に入った赤也がユニフォームに着替えて姿を見せた。



その声にはっとさせられてあたしは仕事を思い出す。



マネージャーの足はノンストップだと柳君からの昨日のアドバイス。



ドリンクつくって、ボール拾いして、休憩になればタオルとドリンクをレギュラーに渡して・・・・



ノンストップ。ノンストップ。





!ボール足りない!」


「はい!」


「水持って来てくれ」


「はい!」


さん、タオルがベンチの上にあると思うんすけど」


「持ってくるね!」


ー!ちょっと救急箱」


「怪我?!」


「擦り傷とよ。バンソウコウで大丈夫。」


ー!」


「(今度は何?!)」





レギュラー以外の部員にはまったく呼ばれない。



それはそうか、あたしはレギュラー専属マネージャーだから。



でも7人しかいないのにこの忙しさ。



7人が私の名前を呼べば忙しいとしか言いようがなかった。



1人だけ、けして私の名前を呼ぶことはなかったけど。



・・・・丸井くんだけは。



目が合うこともなければ。近づくこともなかった。



本当にノンストップ。世話しなく足が動く。



まだ朝練。このあとは通常授業。そのあと放課後の練習。



・ ・・・一体私はどうなるのだろう。



放課後の練習のほうが時間が長い。



朝からこれだけ大変だと思わされるマネージャー。




(・・・・・・・・でも)




でも。





「仁王くん」


「わかっとるよ、柳生」


「赤也!それくらいでへばるな!」


「へばってなんかないっすよ!!」


「ジャッカル。体勢の立て直しに時間がかかりすぎだ。次の動作をもっと早くすれば勝率があがる。」





レギュラーのみんなは私以上に駆け回り、



あたしなんか足元にも及ばないほど頑張ってる。



へばってなんかいられなかった。



ふいに目がいく赤い髪。




(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)




一度も名前を、呼ばない。









































「休憩!!」





その声にあたしはでき得るかぎりの速さで行動した。



タオルとドリンクを持ってみんなに手渡すため。



いつの間にかできたギャラリーの叫びはあたしが誰かにドリンクを渡すたび、痛いほどに刺さったけど



そんなものにめげてはいられない。



タオルとドリンクを渡すとみんなは口々にありがとうと言ってくれた。



きっと、お礼なんて言われることしてないのに。



残るは、1人。



あたしの手の中にはあと1人分のタオルとドリンク。





「・・・丸井くん!!」


「・・・・・・・・・・・・」


「お疲れ様!タオルとドリンクです。」





丸井くんとは一度も目があうことはなかった。



丸井くんはあたしの差し出してる手からタオルだけを少し乱暴に奪うと



どこかに向かって歩き出してしまった。





「おい、丸井!どこ行くんだよ?」


「水飲んでくる。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」





桑原くんの声に、丸井君は後姿で応える。



あたしの手に残ったドリンクの入った水分補給用の水筒。



胸が、痛かった。




(・・・あたしは)




嫌われてるのかな。



丸井くんに。





さん!ドリンク、冷えててホントうまいっす!!」





突然かけられた声に振り向けば笑顔の赤也。





「ほっ本当?赤也」


「初めて作ったにしては上出来とよ」


「仁王くん・・・」





そんな一言がうれしかった。



ドリンクはドリンクの粉と水で作るんだけど分量は目で測れとの柳君からの指導。



それぞれの水筒に震える手で水をそそいだ。





「でも俺はもっと濃いほうが好きなんすよね」


「え?」


「俺は薄いほうがいいとよ」


「・・・・え?」


「俺はこれくらいでいいんだけどよ」


「(桑原君も?)」


。基本的に粉が多い。」


「(柳くんも?)」


「俺は濃さは気にせん。」


「やっ柳生君は?!」


「・・・しいて言うなら、もっと濃くてもかまいません。」


「・・・・・・・・・はい」





なんてことだ。



ドリンク一つ作るのにもみんなの好み。



それぞれの趣向に合わせなければならなかったんだ。



・ ・・・むっ難しい。



目分量でみんなの好みを探っていかないと・・・。



マネージャーって本当にいろいろ知らなければならないんだ。



みんなのこと。




(・・・丸井くんは・・・)




丸井君の好みはどうなんだろう。



聞いても、答えてもらえないのかな?



手に一つだけ残ったドリンクを抱きしめた。










































































































「・・・ねえ、仁王先輩」


「ん?」


「昨日は名前だけ聞いて別にただそれだけなんだって思ってたんすけど・・・。」


「・・・・・・似てる、か?」


「仁王先輩も思います?」


「・・・髪の長さといい、色といい」


「雰囲気っていうか、感じが似てるって。」


「・・・・・だから、丸井がああなんじゃ。」


「・・へえ・・・・・・・。」































































































































































朝練の終わりが真田君から告げられれば片付け。



コートを綺麗にして、ネットをとって。



そう言えば新入生だって部活を選ぶんだろうし、そろそろ仮入部とかあるよね。



あたし、何かするべきことあるのかな。






さーん!!授業遅れちゃいますよ!!」


「えっあ!!本当だ!!」






校舎の外の壁にかけられた大きな時計が見えた。



時間いっぱいまでの練習。



最後までコートに残るのはマネージャーの役目。



片づけ終えたら部室の鍵を閉めて。




(ああ!SHRが始まる!)




SHRが始まるまでの残り5分をあたしは走った。



担任の先生とほぼ同時に入った教室。





「今日は・・・・・」





息切れの中で先生の話を聞いた。



あたしの隣の席。



・ ・・幸村君の席には、彼の姿はない。



昨日の柔らかな笑顔、言葉。



病人だなんて少しも思えなかったけど、入院中だという幸村くん。



どこが悪いのかな。



SHRの中、思い出したようにあたしはカバンの中を探って一冊のノートを取り出した。



昨日の放課後、柳君が渡してくれたテニスのルールを覚えるためのノートだ。



いろいろ、知らないと。



テニスのことも。みんなのことも。




(・・・・結局)




今朝は一度も、丸井君と目があうことはなかった。



お疲れ様の声も、彼にはまるで届かなかったみたいに



ただすれ違うだけで。



嫌われてるのかな。



間抜けといわれたあたしがマネージャーなんかになったから怒ってるんだろうか。



どんくさいから?



学校の裏庭で校舎を探して迷ってるような変な女子だから、



そんな人がマネージャーになることが不服なんだろうか。




(・・・・・・・・ちが・・・う?・・・・・・・・・)




昨日のあたしを睨む、あの目。



嫌悪の目ではなく、怖いわけではなく。



なんだか。



・ ・・なんだか、とても。



ぱらぱらと柳君から借りたノートがめくれていった。
































































































































「これ、柳先輩のノートっすね!よく貸してもらえましたね!!」


「あたしが早くテニスのルール覚えるようにって・・・・・」


「へえ。・・・柳先輩、俺にもそれくらい優しくしてくれたらいいのに。」


「・・・・・・・・・・・・・・・って!!」











































































































あたしの机の前に立って、柳君のノートをこまかく見る気もなく



ただ初めから最後までぱらぱらとめくっていくその人。



席についているあたしがその人の顔を見上げれば





「あっ・・・赤也!」


「気付くの遅いっすよ!いつからここにいると思ってるんすか。」


「えっ?ここ3年の教室だし・・・・今・・・」


「昼休みっすよ?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ええええ?!」





きょろきょろと周りを見渡せばクラスメイトたちはそれぞれ机をひっつけたりして



机にお弁当をひろげ。



女子たちの視線はあたしの机の方向。



もちろん、赤也に向いていて。



顔を赤らめてこそこそと話している子達もいた。





「・・・・赤也もやっぱりモテるんだね」


「なんすか?いきなり。そんな当たり前のこと」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」





何時の間にSHRは終わったんだろう。



昼休みまでの時間にあったはずの授業たちは終わったんだろう。



頭を巡る疑問は解消されない。



誰にも聞けない。恥ずかしくて聞けない。



きっとあたしがぼーっとしている間に過ぎただけなのだから。



あたしがあまりの恥ずかしさに軽くうつむくと、前の席でイスを引く音。



顔を上げれば昼休みの今、



あたしの前の席のクラスメイトは学食にでも行っているんだろうか。



誰も座っていなかったあたしの前の席に、赤也が腰をかけていた。






「あっ・・・赤也?」


「俺さんと昼飯食おうと思って来たんすけど、どうっすか?」


「え?」


「ダメ?」






小首を傾げられればレギュラーで唯一後輩の彼のかわいさに



思わずドキッとさせられる。



赤也はイスの向きを変えてあたしの真正面を向くと



あたしの机の上に赤也のお昼なんだろうパンを4つほどのせた。





さん、昼は?」


「えっ?あっ・・・・お弁当!」


さんが作ったの?」


「違うよ、お母さんが・・・・・」





赤也の平然と進めていく会話にあたしはせかされた気がして



カバンからお弁当を机の上に。



・ ・・・いやいや、何を自然な流れに身を任せているの、あたしは。





「って・・・赤也、なんでここに?」


「だからさんと昼飯食いに。」


「だって・・・なんであたし?」


「・・・・さんに興味があるから」


「興味?!」


「そ。興味。」





にこっと笑われれば次にでてくる言葉も見つからない。



その無邪気な笑顔に言いくるめられてる気分なのに。



赤也が持ってきたパンの中から一つの袋を開ける。





「・・・・食べます?」


「いっいい!」


さんは?弁当食べないと。お母さんに悪いっすよ」


「・・・いっ・・・いただきます・・・・」





あたしは自分のお弁当の蓋を開ける。



あたしのお弁当を見て、うまそっという赤也の声。



なんなんだろう、この状況。



昨日知ったばかりの部活の後輩。



なぜ今日昼を一緒に?



しかも2人だけで。





さん。部活どうっすか?」


「え?」


「・・・・大変だって思ったでしょ?」





向かいあって、目が合えばなんでも見透かされてるみたい。



笑顔で聞かれれば、なんだか恥ずかしくて。



興味・・・・ってなんだろう?





「・・・思ったけど。・・・・みんなほどじゃないから・・・・」


「みんな?」


「レギュラーのみんな」


「へえ・・・」





なんとか赤也から目をそらさずに答える。



そらしたら負けだ。



そう思って。別に何か勝負をしてるわけでもないのに。





「・・・・・・・・他のマネージャーっていないの?」


「ああ。みんなやめましたよ」


「やめっ・・・」


「正確には真田副部長にやめさせられた、っすけど。」





・・・・・・・真田君に?





「ほら、俺たちかっこいいから。みんな見とれて仕事してくれないんすよ」


「・・・・・・・・・・・・・」





なるほどって・・・



納得しないわけじゃないけど。



なんでそんなに自信があるのか。



あたしより一個年下なのに、なんでそんなに堂々としてるのか。






「・・・・・赤也は」


「ん?」


「生意気?」


「だと思います?」






あたしは首を縦に振る。



赤也が笑った。



こうしてみるとただ無邪気なだけの笑顔なのに。





さんは正直者?」


「・・・・・だと思います?」


「ははっ・・・・思う!!」





何でそんなに笑われる?



興味があるといった赤也の声が頭をすーっと横切った。



赤也が笑う。あたしは首をかしげる。



赤也、爆笑気味。



あたしは笑われて落ち込み気味。





「ははっ・・・・・・」


「・・・・・赤也?」


「・・・・やっぱり、似てるっすね」


「え?」





にこっと赤也が笑いを声にだすのをやめて笑った。



きょとんと赤也の顔を見るしかできないあたし。



赤也。今、なんて?



赤也があたしから目をそらして、いまだ机の上にあった、柳君から借りたノートを目に映した。





「覚えました?ルール」


「自信なくて・・・・」


「大変っすね!慣れなきゃいけないこと、他にたくさんあるでしょ?」


「・・・・んー。・・・・今は部活優先かな?」


「なんで?」





あまり何も考えずに声にだしていた自分の口元を



とっさに押さえた。



ただ単純に今朝の部活を思い出したんだ。



テニスのこともっと知らなきゃって。



みんなのこともっと知らなきゃって。





「あっ!赤也!!」


「はい?」


「丸井くんは濃い目の味が好き?薄めの味が好き?」


「ブン太さん?・・・あの人は甘ければなんでも」


「・・・甘党?」


「甘党」





じゃあ、薄いよりは濃いほうがいいかな。



ドリンクの粉はちょっと甘いし。





「・・・・・・・・・・・・・・」





何か考えるときに下を向くのはあたしのくせで。



そのときの赤也がどんな顔をしてあたしを見てたか。



どんなに優しい目で悲しそうに笑ってたか。



誰も、知らない。





「・・・・・・俺でよければいろいろ教えますよ?」


「え?」


「ブン太さんのことだけじゃなくて。先輩達の異名とか!まだ知らないすよね!」


「・・・・・・異名?」


「すごいっすよ、うちの先輩達は。」





赤也はいつの間にかパンを全部食べ終わっていて。



それにも驚いたし。



赤也の言う異名も気になった。



赤也のことももっと知りたいとも思った。






「じゃあ、まずは赤也のことから聞いてもいい?」


「俺?」


「うん。他のレギュラーのみんなも気になるけど。」


「・・・じゃあ、改めて自己紹介っすね!昨日より詳しく。」






知りたいことは。



・ ・・本当に、知りたいことは。



なんだか、声にだせなかったけれど。





「じゃあ、よろしくお願いします、赤也。」





両手を膝の上において。



一度お辞儀。顔をあげて赤也を見れば、



自分の行動と、赤也の笑顔に思わずあたしも笑った。






「っ・・・・・・・・・・さん!!」


「はい?」


「笑ったほうがいいよ!!」


「え?」


「初めて見た!さんの笑ったところ!!かわいい!!」


「・・・・初めて?」


「昨日も今朝も全然笑わなかったっすよ!」






あまり覚えていないけれど、緊張してたし。



そうか、あたし。



昨日、笑わなかったんだ。



今は、なんだかとても心が穏やかで。



やっと緊張が解けた気がして。



そのまま昼休みは赤也の話をたくさん聞いた。






















































































































































































































































































「・・・・・・試合?」


「ルールは文字で読むより見たほうが早い。」


「え?さんに見せるんすか?柳先輩、俺試合やります!!」





放課後の部活。



始めの準備を終えてボール拾いをしていると



柳君が声をかけてきた。



あたしがルールを早く覚えるために試合を見せてくれるとかで。





「なら、赤也と。・・・・そうだな、丸井!どうだ?」


「・・・・なんで俺?」





あたしの心臓の音がうるさかった。



丸井くんの名前が呼ばれた瞬間、びくっとして。



丸井くんは少し離れたところで仁王くんと並んで話していたみたいだった。



鋭い視線で柳君を見た丸井くん。





「・・・マネにルールを覚えてもらうためなんかで試合なんかするかよ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「ってかそんなことで俺たちの手をわずらわせるマネってどういう神経してんだろうな。」





目は、合わない。



レギュラーのみんなの間に沈黙。



声が、出ない。



丸井くんの言うとおりだ。



自分のために試合をしてもらうなんて間違ってる。



かみ締めた唇が、しびれていく感じがした。





さん!俺は試合するから、見ててくださいね!!」


「しょうがない。ジャッカル、頼む。」


「・・・・・ああ。いいぜ。」


「やっ柳くん!丸井くんの言う通りでっ・・・」


「お前のためだけじゃない。試合形式の練習は俺たちのためにもなる。」





拾ったボールのいくつかを手に持っていたあたしの頭に



ぽんっとのった柳君の手。



赤也と桑原君がコートに向かう。



柳君が指差して試合が行われるコート近くにあるベンチにあたしを促した。



手に持っていたボールを籠にいれて。



優しい彼らの行為を無下にできるわけもなくて。






「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」






歩き出す前にちらっと目をやれば、



やっぱりあうことのない丸井くんの目。



代わりに、彼の隣にいた仁王君と目が合った。



仁王くんは口角をあげてあたしに笑う。



どうすればいいかわからなくて。



・・・・・・たくさんたくさん、わからなくて。



ふいっとすぐに目をそらす。

























































「赤也の奴はえらいが気に入ったいみたいじゃね。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・似てるな、


「・・・・・うるせえ」


「丸井」


「それ以上しゃべるな」

































































































































































あたしの目の前で赤也と桑原君の試合が行われた。



審判を柳生くんが。



あたしの座るベンチの隣に腰掛けて、試合の解説をしてくれる柳君。



途中で真田君の声が背中のほうから聞こえたりもした。








「・・・・・・・・・・・・・・・」







目があうこともなければ



名前を呼ばれることもない。



昨日見た笑顔はどこにもない。



かすんでくる目の前にそれをこぼさないように耐えるだけ。



しっかり見なくちゃ。



赤也と桑原君の試合。



ルール、覚えないと。



知らなくちゃ。テニスのこと。



みんなのこと。




(・・・・・・知りたいな。)




知りたい。



もっと、甘党だけじゃなくて。



そう思うのに、どんくさいあたしは
























































































































































あなたに、嫌われているようで。













































end.