『・・・・そうか、赤也が・・・。』



「・・・中途半端に教えておいても、あとで傷つくのはになってしまうだろうな」



『・・・・・柳。俺は間違ったことをしたとは思ってない。』



「・・・・・・・・・・・・・・・・」



『そうだ。最近は体調がいいんだ。見舞いはいいよ。』



「・・・・来るのか?こっちに。」



『ふふっ・・・その時に、頼みがあるんだ。聞いてもらえるか?』




































『8分前の太陽7』















































「・・・・・・・・・・・・・」





この違いはなんだろう。





「・・・・さん。どっちでも変わんないって。」


「絶対違うよ!違わないわけがない!!」


「・・・・・。どっちでもよか。」





あたしの前に立ちはだかるのは



‘イチゴ牛乳’と‘苺ミルク’の二つのパッケージ。



学校の敷地内に置かれた自動販売機。



それは紙パックの飲みものが並んだ自動販売機だった。



きっと販売してる会社が違うんだ。



どちらもパッケージが違う。でもどちらもあたしの関心をひく。



どっちを買えばいいの?



どっちがおいしいの?



お金はすでに自動販売機の中に入れてある。



あとは点等しているボタンのどちらかを押せばいいだけ。





「・・・・・さん。俺おごってあげますから」


「え?」


「赤也優しいのう。、飲み比べしんしゃい。」


「・・・・・あ。」





あたしの左に赤也、右に仁王くん。



2人とはお昼を一緒に食べようと朝の部活が終わってから約束した。



あたしが押す前に仁王くんが苺ミルクのほうのボタンを押した。



ガコっと自動販売機の下からは苺ミルク。仁王君がそれをとる。



赤也が制服のポケットから小銭を取り出し自動販売機へ。



無駄のない動作でイチゴ牛乳のバタンを押す。






「「はい。」」


「あっありがと・・・・」






あたしからするとそれはあっという間のできごと。



仁王くんと赤也がさしだしてくれた飲み物をそれぞれ二つ受け取った。



2人はその場からすでに少し歩きだしていて振り向くと、



足をとめて二つのいちご牛乳を眺めていたあたしを手招き。




(さすが部活の先輩後輩。)




動作が同時に行われ、それがとてもおもしろい。



仁王くんと赤也の手にはパンの入ったコンビニ袋。



あたしの手にはお弁当箱。





「屋上でいいっすよね?」


まだ行ったことなか?」


「うん!初めて!」





今朝の部活からこの2人は明るくあたしに接してきてくれた。



話は楽しかったし、2人のかまの掛け合いやふざけあいは見ていて楽しい。



最初はそんな2人を前にとまどったけど、赤也がそうですよね?さん!とか。



仁王君がなあ、?とか。



あたしを参加させるかのように振舞ってくれたので、あたしは2人に便乗させてもらって



朝からテンション高く、明るくいられた。






「・・・・・・・・・・・・・・・」






そうでもしていないと、どうしても気持ちが暗くなってしまったから



2人にとても感謝していた。






さん、イチゴ牛乳飲みました?」


「まっまだ!」


、苺ミルクは?」


「まだ!」






あたしは2人の声に慌てて紙パックにストローをさした。



屋上に向かう階段。



歩きながらは行儀が悪いかと思ったけど



2人の笑顔にいそいで、まずは苺ミルクから飲んでみる。





「・・・甘い」


「苺ミルクですしね。」





次にイチゴ牛乳のほうをストローで飲む。





「違う?。」


「・・・一緒でした。」


「だから言ったじゃないっすか!」


「ごめんね、赤也。・・・おごってもらったのに。」





階段を上がりきる。



一つのドアの前に三人で立てば足がとまり。



仁王君も赤也もあたしに笑顔をむけてくれていた。



・ ・・・・昨日家に帰ってからもずっと考えていた。



 。丸井君の元カノ。








さんが笑ってくれたら許してあげますよ」








あたしはその子と同じ名前で。



丸井くんがあたしを嫌う理由がそれなら、



やっぱりあたしは丸井君に嫌われ続けるしかなくて。



黙っていると、考えてしまって。



今朝も変わらず丸井くんは目もあわせず、言葉を交わすこともない。



1人でいると気持ちが暗くなってしまって。



だから、ありがたかった。





「・・・・笑うの?」


「はい。」


「じゃあ、赤也。なんかおもしろいことして。」


「はい?」


「赤也。がんばりんしゃい。」





こうやって明るく接してくれる仁王君と赤也の存在が。



気持ちが晴れて、1人じゃないからあまり考えずにすんだ。



赤也はあたしの要求にしばらく考え込むとあたしの顔を見て勘弁してくださいと言った。



あたしはそれだけで十分おもしろかったので



自然と顔がほころんだ。





「・・・・・・・・。」


「ん?」


「・・・なんでもなかよ。」





にこっとあたしに笑った仁王君。



あたしはそんな彼に小首をかしげる。



赤也が目の前の屋上のドアをあけて、外の空気が一気に校舎に流れ込んできた。






「あ。いい天気だね」


「「・・・・・・・・・・・・・・・」」


「どうしたの?2人とも・・・・・」






お弁当と二つのイチゴ牛乳を抱きとめながら



あたしはドアが開いて、一番に目に入ってきた青い春の空を目にしていたけど



仁王くんと赤也は違った。



屋上にすでにあった二つの影をその目にとらえていた。










「柳君!真田君!」


「・・・・・。仁王と赤也もか。」


「俺たちはついでっすか?柳先輩。」


「2人で昼飯?」









柳君と真田君が屋上をぐるりと一周囲む手すりに体をあずけてもたれていた。



2人の足元にはお弁当箱が二つ。



お重箱のような重みのあるお弁当箱。



あたしと仁王くんと赤也は2人がいる屋上の真ん中あたりまで足を進める。



仁王くんいわく、屋上はテニス部のものになぜかなっていて



他の生徒は滅多にやってこないらしい。



そんな屋上に案内してもらえたことで、なんだかテニス部に馴染めてきたという気がして



(実際、仲良くなれてきた気がしてる。)



うれしかった。






「・・・・?」


さん?どうかしました?」


「・・・ううん・・・・。(真田君?)」


「仁王も赤也も相変わらずパンか。」


「ごめんな、参謀。俺も手作りすればよか?」


「じゃあ、今度から柳先輩の手作りで!」


「作ってやってもいいが、覚悟しておけよ?」


「えっ遠慮するっす!」





明るい声と赤也の冷や汗。柳君の平然とした表情と仁王くんの笑み。



赤也がなぜか柳くんにおびえていた。



柳君がお弁当を作ると何かあるというのか。



赤也と仁王君が屋上の床へ座った。



あたしも赤也の隣に座らせてもらう。



柳君と真田君は相変わらず立ったままで。



・・・・・・・・真田君は、さっきから一言もしゃべらない。





「真田君と柳君はもうお昼食べたの?」


「ああ。今日の仮入部の話をしていたところだ。」


「今日からなんすか?」


「・・・・弦一郎、もちょうど来たところだ。頼・・・」


「いい。俺がやる。」





やっと口を開いた真田君。



この場の全員の視線が彼へと向く。




(・・・真田君?)




なんだか、いつもと様子が違った。



コートの上じゃないからなのか。ユニフォームではなく制服姿だからなのか。



雰囲気もそうだったけど、なんだか、体調が悪いようにも見えて。





「弦一郎。」


「ただでさえ幸村がいない。マネージャーには任しておけん。」


「・・・真田君?」





真田君がはっと気付いたかのように



あたしのほうを見た。



目が合ってもすぐにそらされる。






「・・・・弦一郎」






真田君が屋上の床にあったお弁当箱を片付ける。



それを手にすると真田君は



屋上の出口に向かって歩き始めた。






「・・・またはりきってるんすか?真田副部長は。」


「そういうな、赤也。真田は責任感が重すぎるだけじゃ。」


「・・・・・・


「あっ何?柳君?」






真田君の後姿がまだ屋上にあった。



あたしはそれを目で追っていたけど柳くんに呼ばれて視線をそらす。



次に見たときには真田君は屋上をあとにしていた。





「今日から一年生の仮入部がある。見学とボール拾い、それから少し打たせようかと思う。」


「うん。」


「お前に一年生を見てて欲しい。見るといっても初めと終わりをしきってもらって後は様子を見ていてくれているだけでいい。」


「・・・・・さっき真田君が言ってたのって・・・・」


「すべてを自分がやると言いはってな。・・・・でもあいつは俺たちのほうを仕切る仕事もある。」





真田君は、なんだか元気がなかった。



体調が悪いようにも見えた。



いつも厳格で堂々としている真田君。



誰にも有無を言わせずテニス部をびしびしと仕切っている彼。





「・・・・・真田君、具合悪いの?」


「自分で自分を忙しくさせてるだけっすよ、あの人は。」


「・・・幸村が倒れた日からじゃな。」


「守ろうとしているものがあるんだ、弦一郎には。」





守ろうと、しているもの?



幸村君が倒れた日って・・・入院した日から?



部長の幸村君が不在の中、副部長の真田君が仕切る部活。



それって自然な流れのようにもみえるし、



周りからすれば当たり前のことかもしれないけど。



厳格に見えた彼は、堂々としているように見えた彼は。





(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)





仁王くんの言う重すぎる責任感を背負って。



今日の珍しくも制服姿の真田君。



とても元気がなさそうに見えた。
































































































































































































お昼を食べ終えて



次の授業が体育だという赤也は走って屋上を後にした。



あたしと仁王くんと柳君は食べ終わったお昼を片付け



屋上に通じている階段を3人で下り始めた。






「他の学校や部活は知らんがな。少なくとも俺たち立海大附属テニス部の部長は絶対的強さがなければいけない。」


「強さ・・・・・」


「何にも屈しない精神、誰もが圧倒されるオーラ。技術、スピード。それは絶対的存在だ。」


「幸村はまさしくそれだったとよ。」


「絶対的、存在。」






それを欠いた衝撃。



幸村君自身はもちろん、部員たちにどんな動揺を与えたか。



仁王君があたしの隣を歩いていた。



柳君はあたしより一歩半ほど前を行きながら、



あたしに今のテニス部の状況を教えてくれる。





「弦一郎は幸村のような絶対的な存在をゆるがすことは許されないと感じた。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「副部長である自分が堂々としていればいい。レギュラーが厳格であればいい。そしたら部員たちの動揺はおさまる。」


「・・・・そしたら、そんな俺たちの上にいる幸村の存在はゆるがないまま。真田はそう思ってる。」


「真田君・・・・・」





重圧の中に立っている。



絶対的強さを持ったテニス部をまとめるには、絶対的存在は揺らいではいけなかった。



真田君が守っているもの。



それが真田君が守っているもの。



幸村君が帰ってくるまで、あり続けようとする今までのままで。



テニス部をまとめて、先へ進もうと。





「それで新入生も自分が見るって言ってたんだね。」


「ああ。じきにはいってくるだろう新入部員にさえも今の体制を知らしめたいんだろう。」


「でも最近真田は疲れ始めてるとよ。見てればわかる。」





仁王くんの言葉に柳君は静かにうなづいた。



マネージャーになってから真田君とはあまり話したことはなかった。



彼はいつもとても忙しそうだったし



マネの仕事を教わったのは柳君で、いつもわからないことは柳君に聞くようにしていた。





「きょっ今日!あたしが仕切っていいの?新入生。」


「ああ。弦一郎を押しのけてでもが指導してくれ。」


「できるか・・・わからないけど・・・」


なら、大丈夫じゃ。」





真田君はいつもなんだか怖いと思ってた。



近づけない雰囲気をかもしだしていて。



でもそれはもしかして、見えないプレッシャーの中で



必死に自分を奮い起こしていた彼自身の戒めが、あらわれたものだったのかもしれない。













「がっ頑張るね!!」












仁王くんと柳君が笑ってくれたので



あたしは思わずガッツポーズをしていた手が恥ずかしくなって



急いで手を下ろした。



今日の放課後は、頑張るんだ。



真田君の威圧感に押さえ込まれないようにでしゃばって頑張るんだ。



新入生。



これから、一緒に部活を頑張っていく人たち。



うまく仕切れるかわからないけど。



自分の決意に胸がどきどきと大きく鳴って聞こえた。



今から緊張している自分に小さく笑う。





(がんばり、ます。)





真田君が守ろうとしてるもののためにも。






































































































































「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



?」



「どうした?















































































































































廊下を歩くあたしの足が止まる。



あたしの足が止められる。



自分の教室まであと少しのところ。



いまだ続くお昼休みの廊下は生徒たちが談話したりでざわついていた。



・ ・・・・・・・校舎の中で会ったのは、初めてだった。








(・・・丸井くんだ・・・・・・)








周りの女の子達はちらちらと彼に視線を送っていた。



赤い髪がふわっとゆれ、



何人かの男子生徒と廊下で話していた。



フーセンガムをふくらまして、丸井君は。






「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・」







あたしの隣で仁王くんと柳君がそっと目をあわせていることに



あたしは気付かない。



あたしの目に映った彼に目を奪われて。



赤い髪を揺らして、フーセンガムをふくらまして。



丸井君は











笑っていた。











話している生徒たちと笑いあっていた。



思い切り、楽しそうに。



(・・・・・・・・)







あたしの名前。



あたしと同じ丸井くんの彼女だった子の名前。



あの日。



初めて会ったあの日。あの日は、あたしにもあんな風に笑ってくれたのに。



どうしたらまた、笑ってくれるんだろう。



あたしがじゃなければよかったの?



丸井君の元カノと同じ名前じゃなければ・・・・。



丸井君はあたしの名前を呼んでくれたのか。



今でもあたしに、笑ってくれていただろうか。






・・・・・」


「(!)」






仁王君に呼ばれて気付く。



少しだけかすんだ目元に涙がたまっていた。



急いで目元を拭う。






「・・・・すまない」


「・・・・・・・・・・・・・・柳君?」






柳君が言った言葉はあたしには聞き取れなかった。



目元を拭ったあたしが見た仁王くんと、柳君。



仁王くんはにこっとあたしに笑うと



あたしの頭にぽんっと手を置いた。















。笑いんしゃい。お前は笑ってるほうがいいとよ」



「・・・・・・・・・・・・・・・」



「笑ってるほうが、ずっといい。」














あたしの涙は、仁王くんや柳君に気付かれていたのかな?



柳君は仁王くんの向こうで静かに笑っていた。



そっと。



その笑顔は困ってるように見えた。



さっき、柳君はなんて言ったんだろう。



次に視線を戻したときには丸井君の姿は教室に消えていくところだった。



仁王君があたしの頭を少しだけくしゃくしゃにして手を下ろしたので



あたしは自分の髪の毛を気にしながら苦笑い。



自分の教室に向かって再び歩き始めた。



あたしの教室に来ると、仁王くんと柳君と手を振って別れる。






























































丸井君はあたしをあからさまに嫌っている。



きっとまわりで見ててもわかるはず。



レギュラーのみんなは、その理由を知ってるはず。



あたしの名前と同じ彼女を知ってるはず。



あたしが丸井くんに避けられている様子はみんなにどう映ってるんだろう。



他のみんなは、仲良くしてくれるから



それはとてもうれしいけど。



でも。





(・・・・・・・笑って欲しいな)





笑って欲しいな。



こんなこと思ってもどうしようもないのかもしれないけど。



お昼休みが終わって授業が始まる。



一番後ろの席でそっと、涙が目元にたまっていった。































































































































































「さっ真田くん!あたしが行きます!!」


「俺が行く。」


「やることは柳君から聞いてるし、真田君は他の部員たちのことも見てなきゃいけないでしょ?」






放課後。



部活が始まる前。



コートに一番にたどり着いたかと思えばそこにはすでに真田君がいて。



もうユニフォームに着替え終えていた真田君は、いざコートに行かんとしていたのだ。



ぞくぞくとコート周辺に姿が見え始めたのは、



いつもの女の子のギャラリーや他の部員たちではなく。



明らかに初々しい姿の新入生たち。



そんな彼らは学校指定のジャージに身を包み一箇所に固まっていた。



真田君がそこに向かおうとしている。



あたしは真田君の前に急いで立ちはだかった。



心は沈んでいたけど、今は落ち込んでる場合じゃない。



今はマネージャーの仕事に集中を。



あたしがやるべきは、真田君に屈せず新入生を指導すること。






「どけ、。」


「真田君はこっちに来ないで。」


「ほう。俺に向かっていい度胸だな。」


「(こっ怖い!)」






ひるむなあたし。



真田君の威圧感に押されてそこからどきたくなるけど



ひるむな、あたし。



厳格そうに見えても、堂々としていても。



仁王くんの言うとおり、真田君は疲れてる。



元気がない。








「こっこれ!!」


「・・・・・なんだ、それは」


「どっどっちがいいですか!」








あたしはまだ制服姿。



手にしていた通学カバンから取り出したのは二つの飲み物。








「イチゴ牛乳か、苺ミルクか!」


「・・・・何か違うのか?」


「味は一緒!外見が違う!」


「・・・・いらん。」








ずいっと真田君の前に差し出して、



たとえいらないと言われようともこれを部活の前に買ってきたのは、いちご牛乳を真田君に渡すためだった。



二つとも買ったのは味は確かに一緒だったけどパッケージは違ったし



真田君の好きなほうを選んでもらおうと思ったからだ。






「疲れてるときには甘いものがいいんだって!」


「?!」


「肩の力、抜いて。真田君。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


「あたしも一緒に守るよ!」






あなたが守ろうとしているもの。



確かにあたしはまだまだなマネージャー。



仕事も遅いし、みんなの力になりきれてない。



でも、このテニス部のためになる何かがしたい。



それを思うのは、思い始めたのは少しずつみんなのことがわかってきたからで。



真田君の想いを知ったからで。



、笑いんしゃい。って仁王くんの声が聞こえた気がして。



あたしは、笑った。








「真田君。どっちがいい?」








真田君は目を見開いて動きを止めた。



そのあとすぐに足元をふらつかせて、そっと部室の壁に体をあずけた。






「さっ真田君?大丈夫?!」


「・・・・・・・・・・・・・・・ああ。」


「ずっと頑なに無理をしていたせいだ、弦一郎。」


「柳君!」







部室前に姿を現した柳君。



真田君は柳君を見て、うなだれた。






「体調管理もしっかりできないようじゃ幸村に何を言われてもしょうがないぞ?」


「・・・たわけが。体調は悪くない。ただ。」


「ただ?」






あたしはうなだれている真田君の顔を覗き込んで聞いた。



























「気が抜けただけだ、。」










































そっとあたしの手から苺ミルクのほうをとった真田君。



真田君の笑みを初めて目にした気がした。



柳君が手を差し出すと真田君がその手をとって部室にもたれていた体を離した。



一つ咳払いをすると真田君はあたしを見た。






。頼んだ。」


「(!)」


「今日はレギュラー達のほうの仕事はいいから。新入生のほうについててやってくれ。」


「うっうん!」






うれしさに、あたしは急いでマネージャー用の更衣室に向かった。



真田君に初めて‘頼まれた’。



うれしかった。とても。とても。



初めて見た笑みも。



笑みも。





(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)





笑顔。



・ ・・・笑顔。


















































あたしはその日新入生のほうについて、



レギュラーたちのほうの仕事は準備と片付けだけだった。







「明日っすか?」



「幸村が急にな。」



「いいんじゃないか?なあ、比呂士」



「ええ。彼女も頑張ってますし。」



「弦一郎は?」



「・・・反対はしない」



「・・・・・・・・・丸井」



「あ?」



「ちょっと・・・・・・・話があるとよ」



「・・・・・・・・・・・・・・」













丸井君はあたしをあからさまに嫌っている。



きっとまわりで見ててもわかるはず。



レギュラーのみんなは、その理由を知ってるはず。



あたしの名前と同じ彼女を知ってるはず。



あたしが丸井くんに避けられている様子はみんなにどう映ってるんだろう。



他のみんなは、仲良くしてくれるから



それはとてもうれしいけど。



でも。





(・・・・・・・笑って欲しいな)





笑って欲しいな。



こんなこと思ってもどうしようもないのかもしれないけど。

















「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」















みんな、知って、いる。



・・・・・・・・・あ・・・れ?



みんな、知ってる?



あたしの名前と丸井君の彼女だった子が同じ名前だって。



みんな?



・・・・・・・・・・・幸村くんは?



幸村君も?





(・・・知ってて・・・・・)





知っててあたしにマネージャーを頼んだの?



あの日。



・ ・・・・・・・・あの日。



あたしが丸井君に避けられるだろうことも知ってて・・・・。



それを、知ってて・・・・?



たどり着いた結論に頭を振った。




(・・・・・そんなことない。)




あんな風に柔らかくて優しく笑う彼がそんなことするわけ、ない。


















































「・・・・君なら大丈夫」



「え・・・・・?」



「そう思ったからマネを頼んだ。」



































・・・・・・・・・・・知っていたの?



知ってたの?幸村君。





































































































































































あたしが、丸井君に嫌われること。












































end.