あたしの思考はまどろんで。
考えたいのに、考える時間もなくて
とまどう。
『8分前の太陽8』
1人残ったコートの上では、夕日が沈もうとしていた。
太陽が赤く、夏に見る夕焼けのように燃えていた。
綺麗だと率直に思って。
コートの上をかけるブラシを手に思わずその場で足を止めていた。
そんな赤い太陽に一つの影。
春らしい白い小さな蝶がひらひらと軌跡を残すかのように、赤い中を飛んでいた。
「・・・・・・・・・・・・・」
なんて、鮮やかな赤なのか。
(・・・丸井くんの髪も綺麗な赤だけど。)
ひらひらと飛ぶ蝶はあたしの近くに降りてきて
あたしはきょろきょろとその白い蝶の軌跡を目で追った。
そっと手を伸ばせば蝶はあたしの指に止まって。
「・・・・あなたも綺麗だと思う?」
あたしはそっと蝶に訪ねた。
蝶は静かに呼吸をするように、ゆっくりと羽をとじたりひらいたり。
それを繰り返す。
・ ・・・・いいな。蝶。
あたしも何も考えずにあの赤の中を泳いでみたい。
届かない願望。
むちゃくちゃな切望。
白い蝶はふわりとあたしの指を離れた。
再び赤の中を泳ぎながら、まるで夕日と一緒に明日に消えていくように
あたしに見えないところに飛んでいってしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
もう一度空を見ては溜息。
早く片付け終えないと、空が暗くなってしまう。
今日が新入生の仮入部1日目だったためか。
部活はいつもより早く切り上げられた。
あたしが一年生を解散させるとレギュラー陣はいそいそと部室から出てきた。
すでにユニフォームから制服に着替え終えた彼らはあたしに気付くと
お疲れ。とか、また明日!とかそう言って
足早に後姿を残して帰っていった。
あんなに急いでるように見えた彼らは初めてで
あたしは首をかしげるばかり。
これ以上、謎なんて欲しくなかった。
(・・・わかんないことだらけだもの)
この胸がしめつけられるほどに。
コートの片づけが終わって用具庫の鍵を閉めた。
誰もいないコートであたしはもう一度空を仰ぐ。
・ ・・・そういえば。
真っ赤な太陽を目に焼き付けるかのように。
ずっと見つめ、思い出す。
図書館で見つけた、あの落書き。
そういえば
(8分前の太陽ってなんなんだろう・・・・)
やっぱり何かの本の題名なんだろうか。
あれは誰が彫ったんだろう。
・ ・・丸井くんの名前と、の名前と
同じ深さくらいで同じ字の細さ、同じもので彫ったんだろうその様子を見れば
3つの落書きは同じときに同じ人が彫ったんだとそう思った。
‘’の文字は少し荒かったけど。
・・・・丸井くんなんだろうか。
丸井君があの落書きを刻んだんだろうか。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
いつの間にか少し震えていた唇。
寒さからとかではなくて、なんだかとても。
とても、悲しかった。
あたしは嫌われてる。
丸井くんに嫌われてる。
明らかな事実、変わらない事実。
その理由はきっと同じだから。
丸井君の彼女だった子とあたしが同じ名前だから。
・ ・・・・・知っていたんだろうか。
幸村君は知っていただろうか。
そのことを承知の上であたしをマネージャーにしてくれたのか。
「・・・・・・・・・・・・・・」
仕事が、残っていた。
マネージャーの仕事。
忙しなく帰っていったレギュラー陣。
あたしだけが残ったコート。
部室に行って部誌を書いて、それから部室の掃除。
戸締りをしたらあとは帰るだけ。
あたしの思考はまどろんで。
考えたいのに、考える時間もなくて
とまどう。
考えても誰にも答えをもらえない疑問に、
空を赤く染め上げる夕日に泣きつきたかった。
あの白い小さな蝶に、すべてを聞いて欲しかった。
再びの溜息一つ。
部室の中に入ろうとドアノブに手をかけた瞬間だった。
「・・・んだよ・・・話って・・・・・」
「(!?)」
「・・・・たいしたことじゃなか。」
部室の中から声が聞こえた。
その声の持ち主をあたしは知っていた。
丸井君と仁王くん。
(・・・まだ、残ってたんだ)
ドアノブから手が自然と離れる。
部室から彼らがでてきたら、帰り際に出会っても仁王くんは笑顔で手を振ってくれるかもしれないけど
丸井君はきっと不機嫌な顔をくれるか、あたしを無視するだけだろう。
・ ・・・今のあたしには、それはとてもいたたまれなかった。
それはとても苦しいことだった。
唇が震えるようななんとも言えない悲しみは、
晴れない疑問に付加をつけ、あたしの頭をいっぱいにさせる。
今は、
・ ・・今はそんな仕打ち、受けても耐えられる自信がなかった。
部室の前に立っていたあたしはその場を離れようとした。
隠れようとしたんだ。彼らが部室を出てきたとき、鉢合わせないように。
「・・・名前が同じだけでそこまで避けることないじゃろ?」
「(!!)」
「・・・・話ってそれかよ」
「丸井、お前・・・・・」
「・・・・うるせえよ」
「丸井」
(・・・仁王、くん・・・・・・・)
仁王君の声があたしの足を止めた。
その会話は、どう考えてもあたしのことで。
あたしに関係することで。
「・・・・お前に、・・・わかるもんか。お前らに・・・・」
「・・・丸井、は・・・」
「うるせぇ!!」
丸井君の怒鳴り声に驚いて体がびくっとはねる。
怒ってる。丸井君が。
仁王君に声を荒げるほど。
そんなに・・・・触れてはならないことなのか。
あたしの名前は。
「・・・・丸井・・・・・」
「・・・っ・・・もっもういいだろぃ!俺はあの女が嫌いなだけなんだよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・どんくせぇし、仕事おせぇし・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「っ・・・・・腹減ったし、帰るな、俺!!」
はっとして急いで足を動かす。
部室の横の壁に急いで身を隠した。
部室のドアを勢いよくあけて出てきた丸井くん。
あたしには気付いていない。
あたしも壁に身を潜めているので丸井君の姿は見えなかった。
・ ・・ただ、彼の息切れが聞こえて。
走ったわけでもなければ何か運動したわけでもないその息切れは彼の動揺の現れ。
「(・・・なんで・・・・どうして・・・・・)」
そんなにとり乱れる丸井君は、初めてで。
あたしは彼が見れないけど、あたしの上の夕焼けを見た。
赤くて、色鮮やか。綺麗で。・・・・泣きたくなるほど綺麗で。
遠ざかる息切れと足音。
丸井君が帰ったのだと知った。
そっと隠れていた部室の横の壁から体を離して。
彼の後姿を確認しようとした。
「(!)」
「・・・・片付け?」
「にっ仁王くんっ・・・・・・」
さらっと揺れる銀髪。
あたしの目の前に仁王くん。
背の高い彼の顔を見上げる。
仁王くんは口角を上げるだけの笑みを浮かべ。
確認しようとした丸井君の姿は仁王君に隔てられ、見えないまま。
「あっ・・あの・・・・・・」
「ん?」
「・・・・気付いて、たの?」
「・・・なんのことかわからん。」
「仁王くっ・・・・・」
何がそんなに丸井くんを動揺させるのか。
声を荒げさせるのか。
嫌いだと言われた。
笑って欲しいと思った人に。
また会いたいと思った人に。
嫌いだと言われた。
嫌いだと。
・ ・・・・それだけだ。
それだけのことだ。
「・・・・、笑いんしゃい」
「・・・・っ・・・・・」
「笑いんしゃい」
仁王君がそっとあたしに微笑む。
あたしの頭の上に手を置いて、そっと笑う。
その彼の整った笑みはあたしの目に少しずつかすんでいった。
顔をあげられなくなっても、夕日の色がまだ目に残ってる。
白い蝶のはばたきが静かに息づいてる。
こぼれた涙は何の涙なのか。
なんの涙だったのか。
止まらない嗚咽は出てこない言葉の代わり。
聞いて。
太陽、蝶も。・・・・よければ仁王くんも。
言葉にできないけど、悲しいんだ。
よくわからないけど、寂しいんだ。
嫌いだと言われた。嫌いだと言われた。
知っていたのに、本人の口から聞くのは辛かった。
痛かった、苦しかった。
苦しい。・・・・苦しい、苦しい。
胸のあたりが痛い。誰かに心臓をわし掴みにされてるみたいに。
「・・・」
「・・・・はい・・・」
「今日もお疲れ様。よければ送るとよ」
ぐすっと鼻をすすったあたし。
顔は上げられないまま。だってきっと、あたし酷い顔してるから。
仁王くんの手はあたしの頭を優しく撫でてくれていた。
目元を拭えば、涙はどいた。
目に映ったのはあたしの靴と、仁王くんの靴。
・ ・・足、大きいななんて思って。
「・・・・1人で、大丈夫。」
「残念じゃ。」
「仁王くんのほうがお疲れ様だから。迷惑はかけれません」
「・・・の決める迷惑が何かは知らんが。少なくとも俺がといる時間は俺にとっては迷惑じゃなくて贅沢。」
いきなり泣き出したあたしの頭を撫でながら、目の前の仁王君が思うのはなんだろう。
・ ・・・・・どんくさいとか、なんだろうか。
丸井くんに言われたみたいに。
仁王くんは、あたしが泣く理由を知っているのだろうか。
あたしでさえよくわからないのに。
「・・・・・・・・・」
「(!!)」
突然、あたしの頭をなでていた手がはずれ顎をくいっと持ち上げられる。
見ていた2人分の靴はいつの間にか視線をはずされ。
仁王くんの手があたしの顔をあげさせ、
仁王くんの顔が息も止められてしまいそうなほど近くにあった。
「におっ・・・・・」
泣いて。
きっと酷い顔、してるのに。
仁王君のするどい目があたしの瞳の奥を貫いていた。
目が、そらせない。
真剣な眼差し、深い瞳。
次の瞬間。仁王くんはにこっと笑う。
「笑いんしゃい、。」
あたしは呆然と立ち尽くす。
息ではなく、時間が止められたかのように。
仁王くんはなんとも妖艶な笑顔をあたしの瞳にしっかり焼き付けると
後姿を見せて、コートから姿を消した。
流した涙は口に入ったわけでもないのに、涙の痕がしょっぱかった。
考える、時間が欲しい。
答えはでなくてもいいから。
自分が困り果てるまで自分の力で探したいんだ。
丸井くんの心揺るがす、あたしと同じ名前の人。
。
あなたは丸井くんにとって今はどんな存在なの?
あなたも、あたしと同じように嫌われているんだろうか。
「すみませーん!っていますかー?」
「え?」
「あっねえ、このクラスっているでしょ?呼んでよ。」
翌日。
あたしの願いむなしく、めまぐるしく回る時間。
ぐるぐる回る時計の針。
考える時間なんてない。
朝の部活が終わってから過ぎていく時間がなんとも早く感じていた。
レギュラーのみんなは昨日の帰りと同じように、急いでる様子でコートを後にしてしまうし。
昼休みにあたしのクラスを訪ねてきた見たこともない女子。
あたしの名前を大声で呼んだので、当然教室にいたあたしの耳にもその声は届いていた。
近くにいた私のクラスメイトにあたしを呼ぶように話しかけている。
「あの・・・・」
「あっあんた?」
「あっ・・・はい」
あたしは教室の出口へ向かって、自分を探している彼女に話しかける。
顔のすぐ側で指差され、その圧迫感に息を呑む。
目の前のあたしを指差している女の子はあたしの顔をまじまじと見ていた。
よく見れば彼女の周りには彼女の連れだろう2、3人の他の女子。
「ふーん。・・・普通じゃん。」
「そう?普通以下じゃん?」
「くすくすっ・・・・・・」
嫌な予感がした。
とても、嫌な予感。
目の前にいる女子たちがあたしの顔を見て笑う。
明らかに3年生。あたしと同じ学年。
慣れた制服の着方。しっかりときめられたメイク。
鼻につく香水の匂い。
嫌な、予感。
今日も学校に来ていない幸村君の空いている席。
それが今いるあたしの位置から見えた。
あたしは彼女たちに視線を戻す。
そのバカにされたような笑みに睨むような目で対抗する。
「あの、なんですか?」
「んー?ちょっとついてきて欲しいんだよねー」
「どこに?」
「来ればわかるんじゃん?」
クラス中の視線は教室のドア付近で女子たちに囲まれるようにして話すあたしに。
クラスの女の子達があたしの名前を小さく呼んでいた。
目の前の彼女たちに、クラスメイトのざわつきに
嫌な予感はピークに達し。
「ついてきてくれるよね?さん。」
黙っていれば背中を強く押され。
囲まれるようにしてあたしは彼女たちと一緒に足を進めた。
「これが?」
「だってー。」
「えー!こんなののどこがいいわけ?」
「幸村君とか仁王君って変わりもんだし。」
連れて行かれたのは裏庭。
あたしが初めてきて迷った場所。
・・・・丸井くんに会った場所。
咲き乱れる桜はあのときほど豪華絢爛と言うわけにはいかないが
それでも人の心を十分に満足させられるほど満開で。
そこには先にいた女子がさらに3人。
人数が増え、あたしを囲む。
「単なる興味じゃん?転入生って目ひくし。ってほら。」
「・・・・ああ。同じ名前だもんね。」
「?!」
あたしをじろじろと見て好き勝手に声にする彼女たち。
同じ名前、そう言われてあたしは思わず目を見開く。
この子達は知ってる。を。
・・・・彼女はあたしと同い年。
立海の生徒で。
だから、目の前の女子たちが知っていてもなんの不思議もなかった。
「のことっ・・・・・」
「は?」
「っ・・・・・・」
「(くすくすっ)・・・・なーに、いきなりさん。」
思わず声に出していた自分の喉を押さえた。
あたしが声を出した瞬間。あたしを囲む彼女たちの目が一気に凍りついた。
冷たく、何もかも凍らせるかのような冷め切った目。
嫌な予感は、あたるもの。
「さんさ、マネージャーなんだってね」
「何?調子のってる?幸村君に頼まれたんだって?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「ねえ、なんか言いなよー。気になるじゃんかー。」
「・・・・ねえ、さんも思うでしょー?」
「(!!)」
いきなり1人の女子があたしの腕を強く掴んだ。
そのまま力任せに桜の木の根元に倒される。
1人はそのままあたしの前にしゃがみこんであたしの顔を覗き込んだ。
他の女子たちはあたしに近づいて囲む。
「テニス部ってめっちゃかっこいいよねー。いいなーさん。」
「うらやましいなぁ。あの人たちの側にいて」
「ねえ、さん。そう思うでしょ?」
「っ・・・・・・・・・・・」
あたしの頭上から降ってくる声は高く、猫なで声。
あたしの目の前でしゃがみ込む女子があたしの髪を引っ張った。
目が冷たい。
凍りつきそうだ。
嫌な、予感。
「あたしたちさー、さんがうらやましくて。」
「(!!)」
「殴りたくなるんだよね。」
振り上げられた拳。
冷たい目。彼女たちは、テニス部のファンなのか。
桜の花びらが一枚、あたしの目の前をかすめた。
殴られるという恐怖とやってくるだろう衝撃で思わず目を固く閉じた。
この場所で会った。
あなたに会った。
不安で、緊張で心は埋め尽くされ。
この場所であなたに会った。
桜の埋もれたこの場所で。
「・・・・・・・くだらねえことしてんな、お前ら。」
「「「「「!!」」」」」
「・・・っ・・・・・・・・・」
桜に埋もれたこの場所で、風がさらって揺れる、
その赤い髪。
薄桃色の花びらがかすれていくほど印象強い。
ぷーっと膨らますフーセンガム。
聞こえてきたその声に、知っているその声に目を開ければ。
なんとも鮮やかな、赤。
「まっ丸井くんっ・・・・どうしてここに・・・」
「何してんの?随分楽しそうじゃん」
「あっあたしたちは・・・・・・」
あたしは声がでない。
丸井くんはあたしの目の前で振り上げられた手を掴んでいた。
目の前の彼女たちは顔が青ざめて、
必死で言葉を考えていた。
「それ、うちのマネージャーだぜぃ?何の用?」
「「丸井くんっ・・・」」
「・・・・消えろ。」
「「「「「!!」」」」」
「それとも、俺に消されたい?」
・ ・な・・・んで・・・・。
声がでなかった。
ガムを噛みながらの丸井くんの目は彼女たちの目よりずっと冷たい。
青ざめたあたしを囲んでいた女子たちは
丸井君の睨みにあせって走り出した。
彼女たちの背中は早くこの場から去りたい、そんな想いが読み取れるほど必死だった。
「・・・っ・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
丸井くんはその彼女たちの背中を見ていた。
あたしは桜の根元に座り込んだまま、立てなくて。
その赤を目にうつす。
丸井くんが髪をふわっとゆらして、顔をこちらに向けた。
「・・・・・・お前、やめれば?」
「え?」
「マネージャー、やめろ」
「・・・・・・・・・・・」
その目は、さっきの冷たい目じゃない。
あたしを見ているようであたしを見ていない。
目があっていない。丸井くんの目の焦点があたしにはない。
深い、昨日の仁王くんの瞳に似た鋭い視線。
・ ・・・何を、見てるの?
「迷惑なんだよ、お前。」
「・・・・・・・・・」
「やめちまえよ。どうせ仕事もろくにできないんだろぃ?」
目が、合ってない。
丸井くん、何を見てるの?
桜がひらりと散っている。
その中で一つ白い、真っ白い色。
蝶だった。白い、小さな蝶。
昨日の夕日の中を泳いでいた蝶なのか。昨日とは別の蝶なのか。
散り行く桜に混ざって。
その蝶は丸井くんの赤い髪にそっとかすめた。
「・・丸井、くん・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
あなたに、聞きたいことがあります。
あなたの口から聞きたい。
あたしは嫌われているのは知ってる。
でもせめてその理由。
という名前を嫌う理由。
知っても、いいですか?
・・・・どうして?
あたしのことなんか嫌いでしょう?
なのに、どうして。
どうして、助けてくれたの?
「・・・勝手なことを言うのはやめたらどうだ?丸井。」
「!!」
「・・・勝手なことしてんのはそっちだろぃブチョー。」
「勝手なこと?俺が何をしたって?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
その人は静かに、桜の敷き詰められた地面を踏んだ。
白い蝶が、今度は彼の肩に静かにとまった。
「俺が選んだ。文句は言わせないよ、丸井。」
「ゆっ・・・幸村くん・・・・・」
「。久しぶりだね。」
彼の笑みは変わっていなかった。
柔らかくて、優しくて。
淡い、桜の桃色のように。
幸村君の肩に花びらにまぎれた白がとまっていた。
蝶は静かに呼吸をするように、ゆっくりと羽をとじたりひらいたり。
それを繰り返していた。
End.