「赤澤部長!それって・・・まさかっ・・・」
「それってまさかだーね!!」
「それって・・・」
赤澤部長。裕太。柳沢先輩。木更津先輩がいっせいにあたしを見た。
「それって・・・観月先輩が転校するってことですか?」
聖ルドルフ学院テニス部。
緊急ミーティング中。
『始まりの足音』
現在、本日最後の授業中。のはずなのに
あたしたちは赤澤部長に召集され部室に集まっていた。
ちなみに裕太と同じ2年のあたしは、1年のころからテニス部のマネージャーをやらせてもらっていて
今はなぜか床に腰を下ろし小さな円になっての緊急ミーティング。
あたしたちを呼び出した赤澤部長の話はこうだ。
「・・・ええ。わかっています。・・・はい。今度はいい返事ができると思います」
「・・・観月?」
赤澤部長と観月先輩は寮の同室。
赤澤部長が部屋のドアの外で聞いたのは
そんな観月先輩の電話のやりとり。
赤澤部長が部屋に入ると観月先輩は慌てたように話していた携帯電話を切ったとか。
「・・・珍しいな。寮の電話じゃなくて携帯からか?」
「かかってきたんですよ。向こうから。」
「・・・・・」
「以前いた学校のテニス部の知人です。」
「前の学校の?」
「・・・ええ。」
観月先輩はそれ以上電話について話さなかった。
どうやら最近、関東大会目前で敗れてしまった私たち聖ルドルフから
再び観月先輩を呼び戻そうと
電話で以前の学校が観月先輩に声をかけてきているらしい。
そうなると気になるのは赤澤部長が聞いた観月先輩の電話の返事。
‘今度はいい返事ができると思います’
「でも赤澤部長。それだけじゃ観月さんが向こうの学校に戻ろうとしてるなんて・・・」
「・・・最近。観月が身の回りを整理し始めたと言ったら?裕太」
「まさかだーね。俺たちが来たのは去年の秋!早過ぎるだーね」
「でも柳沢。あれだけ勝ちに執着していた観月だ。負けて自分の居場所を考えているのかもしれない。」
「きっ木更津先輩までそんなまじめな顔して何言ってるんですか!」
「でも、・・・・」
小さな円は窮屈であたしは膝を折って抱えこむようにして座り
他のみんなはあぐらをかいて座っていた。
木更津先輩が話を続けようとしないからあたしたちの間を沈黙が始まった。
聖ルドルフは確かに負けてしまった。
でも、以前はあまり一緒に練習する機会がなかった補強組も一緒に
まだまだ練習は続いてる。
先輩たちはまだ引退せずいてくれる。
あたしたちはあたしたちなりに先を目指して一生懸命走ってる。
そんなときに。
「・・・そんなのないですよ。・・・観月先輩が転校だなんて・・・・」
「・・・・」
裕太があたしの名前を呼んだ。
膝を抱えてうつむくあたし。
赤澤部長の話はあたしにとっては信じ堅いもの。
「・・・確かじゃない。確信がない。・・・だが真実だったら。俺たちは覚悟を決めておかなければならない。そう思ってお前らに話した。」
「赤澤。・・・赤澤は観月が本当に転校することに決めていたらどうするの?」
木更津先輩の声にあたしは赤澤部長の顔を見た。
あたしだけじゃない。この場にいるみんなが。
「観月がそう決めたなら潔く見送るつもりだ」
「赤澤部長・・・」
「・・・・そう」
「・・・そうするしかないだーね」
いさぎ、よく?
膝を抱え込む手に力が入る。
・・・観月先輩が転校・・・
「。そんな顔するな。確かじゃねぇって言ってるだろ?」
「・・・え?」
「だから俺は確かめたいんだよ。」
「赤澤部長?・・・どういうことですか?」
「から観月に聞いてほしい」
・・・・・え?
驚いて
ただただ赤澤部長の顔を見る。
気付けばみんながあたしを見てなぜか妙にうなずいている。
「そうだーね。なら観月も話してくれるだーね。」
「くすっ。うん。なら」
「なっなんですか?!」
「あれ?観月さんとお前付き合ってるんじゃ・・・」
「何言ってんの!裕太!付き合ってない!!」
「・・・ふーん。まぁなら聞けるだろ」
なぜ?!
小さな円がくずれていく。
深刻だった空気が和らぎ
先輩たちがあたしを見て笑ってる。
・・・なんですか?
なんですか?!
これから始まる部活。
あたしは
妙な任務につきました。
「?どうしたんですか?ぼうっとして」
「なっなんでもありません!」
「・・・本当に?」
「はい!なんでもないです!!」
部活が始まって観月先輩がスコアを持ったまま呆けていたあたしに声をかけてきた。
・ ・・・・聞けない。
あたしは隣をチラッと見る。
観月先輩はコートを見つめ部員1人ひとりの動きをしっかりとらえていた。
「・・・・あ。」
「なんです?」
「なっなんでもないです!!」
観月先輩の横顔の向こう。
部室の影に隠れ、木の陰に隠れ、
こっちの様子をうかがっている赤沢部長、裕太、柳沢先輩、木更津先輩。
正直、
そんなに気になるならそんなところにいないで自分で聞きに来て欲しい。
「(・・・・・・・・・・・・・あやしいな、あの人たち)」
「そう言えば、裕太くんたちはどこに・・・・」
「あっあの!・・・校外!校外に走りに!!」
「そうですか」
観月先輩がアドバイスをするべく、1人の選手に向かっていった。
あたしは、その背中を目で追った。
(・・・・・初めは)
初めは、ただただ苦手だった。
一年の頃からマネージャーのあたし。
秋に補強組が転入してきたと聞いて、とても不安だった。
新しい人たちとうまくやっていけるのだろうか。
そう。新入生としてこの学校に入ったばかりの春のときとまったく同じ。
慣れ始めた環境をいきなり壊される気がして。
でも補強組と呼ばれる人たちは滅多に聖ルドルフのコートにやってくることはなかった。
スクールに通って、そこで鍛えているのだと赤澤部長に聞かされていた。
(・・・どんな人たちなんだろう。)
学年の違うあたしは補強組と会うことはなく。
赤澤部長が時折お前なら仲良くやれると言ってくれることだけが支え。
そして、さらに1人。
あたしと同じ学年の人、裕太が補強組に加わって、
やっと初めて聖ルドルフのコートで
元からのテニス部員たちと補強組との合同練習が行われる日がやってきた。
「。右から不二裕太。柳沢慎也。木更津淳。それからお前と同じマネージャー兼選手の観月はじめ。」
「よっよろしくお願いします!」
「同じ学年、だよな。よろしく」
「よろしくだーね。かわいいマネージャーでよかっただーね!」
「くすっ。柳沢には気をつけて。よろしく。」
「君がマネージャーですか。」
「はっはい!」
「それではさっそく練習を。・・・・赤澤。」
「・・ああ。」
「え・・・・・・・・」
観月先輩の印象は怖かった。
1人だけよろしくを交わさない人だった。
苦手だと、すぐに認識した。
嫌味だし、偉そうだし、なんだか近寄れない雰囲気。
「君は本当にマネージャーですか?」
「はい?」
「なんて効率の悪い。もっと考えて行動したらどうです?」
刹那、あたしを駆け抜ける苛立ち。
突然声をかけられてすぐさま去っていった。
敵だと、思った。
なんでそんなこと言われなきゃならないのよ。
「・・・敵?」
「敵です!裕太も木更津先輩も柳沢先輩もみんな仲良くしてくれるけど。観月先輩だけは・・・」
「そうか。観月はに嫌われたか。」
「赤澤部長!嫌いなんじゃなくて敵なんです!!」
「わかった、わかった。」
滅多になかった。補強組合同練習。
ないほうがよかった。
何度会ったってやっぱり苦手。
そんなのわかりきっていたから。
「・・人の話を聞かない人ですね、君は。」
「・・・なっ!なんですか?あたし何もしてないですよ!いえ、マネの仕事ならやってますけど」
「効率が悪いと言っているでしょう?なんでそんな無駄にあちこち走りまわっているんですか。あなたが疲れるでしょう?」
「え?」
確か3度目の合同練習。
近づいてきた観月先輩に警戒。
観月先輩は深々と溜息をつくと一枚のメモを取り出しそこに何か書き始めた。
それを私にピッと差し出し、
あたしはその勢いに思わずそのメモを受け取る。
「その通りに仕事をしてみなさい。いつもより楽なはずです」
「えっ?あの・・・・・」
「はりきるのはいいことですが、あんなに走り回っていては選手より大変でしょうから。」
効率が悪い。
そんなこと言われてどうしたらいいかわからなくて。
なんでもあたしは順序を考えきれていないから
コートの隅からコートの隅まで行ったり来たりを繰り返していたらしい。
観月先輩いわくそんな必要はないそうで。
観月先輩はあたしがそのメモに目を通しているうちにあたしの前からいなくなっていた観月先輩。
「あっ赤澤部長!」
「あ?」
「つっ次の合同練いつですか?」
「・・・どうしたんだよ。今まであれば嫌そうだったのに。」
「・・・・・効率がよくなりました。」
「え?」
「いっいつですか?」
観月先輩のメモ通りにするとあたしは本当に前より疲れなくなり
前よりもっと別の仕事にまで手を回せるようになった。
お礼を言いたくて。
ただ、それだけで。
「つっ疲れなくなりました!観月先輩」
「・・・・・・当たり前でしょう?僕が考えたんです。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
それでもやっぱり苦手で。
だって嫌味だし、偉そうだし、でも。
敵じゃない。
それだけでたいした進歩。
「。おいで、おいで。」
「なんですか?木更津先輩。」
「今日帰りにどこかよって食べに行こうかと思うんだけど。はどう?」
「行くだーね。裕太と赤澤と観月も一緒だーね!」
「・・・・・・・・・・・・観月先輩も?」
「くすくすっ・・・・意外そうだね。」
「・・・・だって冷めてる感じがするし」
「今はテニスに集中しているからだよ。のことだってほめてたよ?一人でよくやってるって。」
木更津先輩の笑顔がまぶしい。
その笑顔のせいで顔が熱いわけじゃない。
大会も近くなってほぼ毎日合同練習。
嫌なわけがなくて、むしろとても楽しみで。
苦手だった。敵だと思ってた観月先輩。
毎日少しづつわかっていく気がして。観月先輩のことを知っていく気がして。
うれしかった。
「いっ行ってもいいですか?一緒に!」
「そのために誘っただーね!」
「はい!それじゃあ、また・・・・」
「あっ。新しいボールをだしてもらってもいいかな?数が足りないんだ。」
「はい!」
がんばれる気がした。
もっとたくさんがんばろうと思った。
‘のことだってほめてたよ?一人でよくやってるって。’
・ ・・ほめてくれた。
ほめてくれた。
見ててくれたんだ。
人伝だけどうれしくて。
「・・・・ボール。あんなところに」
新しいボールがしまわれたダンボールは部室の高いロッカーの上に。
あたしは部室にあるイスを運んで
イスの力を借りてダンボールに手を伸ばす。
イスの上にのって精一杯の背伸びによりやっと届いたボールの入ったダンボール。
ダンボールを無事に手にしイスからおりようとしたその時だった。
<ガタッ>
「?!」
イスの上にのった足がすべって
手にしたダンボールごとあたしは落下していく。
イスが倒れ、部室の床に倒れこんでいくだろう時間
なぜかスローモーションに部室内の景色が映り、
ああ、痛くないといいな。
やってくるだろう衝撃にただただ願いをこめる。
「っ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?!」
いつまで待っても
覚悟していた衝撃はやってこない。
痛みに耐えるために硬く閉じていた目をゆっくり開けた。
「・・・・まったく。あなたという人は・・・」
「(!)・・・観月先輩?!」
「なんですか?。」
「なっ・・・・・・・・・(名前、初めて・・・・)」
って!そうではなくて!!
気付けばあたしはダンボールを抱えたまま観月先輩の腕の中にいた。
観月先輩が床に叩きつけられるはずだったあたしをかばってくれた。
手にしていたダンボールから急にあげた顔は
しっかりと観月先輩に捕らえられ、目が合い。
「すっすみません!すみません!ごめんなさい!ケガはないですか?」
「・・・・・・・・・・は?」
「元気です!何事もなく!!」
「・・・・・・そうですか。それならいいんです。」
急いで観月先輩からはなれる。
なんでこんなことに!
顔が熱く。
ただただ熱く。
観月先輩が自分の手をしばらく見ていた。
「あのっ・・・・やっぱりケガしたんですか?!あたしのせいで!!」
「・・・・はどうしようもないですね。」
「・・・え?」
「そんな高いところにあるもの。僕に頼めばいいのに。僕だってマネージャーですよ?」
手を下ろし、
あたしを真っ直ぐ見据え。
あたしは思わず手にあるダンボールを落としそうになるがこらえる。
観月先輩の見たことのない笑顔がすぐ側にあったからだ。
「でもっ・・・・・観月先輩兼選手ですし・・・」
「兼マネージャーです。無理なことは無理する必要はないんですよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・観月先輩。どうしてここに?さっきまで確か裕太と練習をしていたんじゃ・・・」
「・・・木更津がを誘ったと聞いたので。」
ちょうど休憩時間に入って。
部室の中に入っていくあたしの姿を見かけたから。
「放課後、どこがいいですか?どうせならの行きたい所にと思ったので。」
そう、観月先輩が言った。
なんと言うか。
手からダンボールは落ちるし、その拍子にダンボールの中からボールは飛び出るし、
観月先輩に何をやっているのかとあきれられるし。
顔は熱いし、きっと真っ赤だし。
うれしいし。ひたすらうれしいし。
わけもわからずうれしいし。
その笑顔とか。
初めて呼んでもらった名前の響きとか。
なんなんだろう、これは。
部室の床に散乱したボール、観月先輩が手伝って拾ってくれる間も
目は観月先輩に向くし。
何の足音。
静かに近づく。
あたしの胸の中。
静かに。静かに。そっと。存在感は抜群に。
「おい、。」
「・・・・・・何?」
「聞けたか?転校の話。」
聞けない。
聞けてない。
転校の話、本当なんですか?
裕太がタオルで汗を拭いながらドリンクの準備をするあたしに聞いてきた。
ちなみにあのメモをもらった日から、
あたしの行動パターンは効率のいいまま。
「・・・・・・・・・・・やっぱり裕太が聞いてよ」
「だったら絶対本当のこと言ってくれるって。だから赤澤部長もお前に頼んだんだろ?」
「・・・・・・・・・聞けないよ」
「え?」
ドリンクをつくり終えて、氷のたくさん入ったクーラーボックスに温まってしまわないようにしまった。
聞けないよ。
聞こえない?
この足音。
静かに近づく。
あたしの胸の中。
静かに。静かに。そっと。存在感は抜群に。
あたしは裕太の隣でコートで部員のリターン練習に付き合う観月先輩を見た。
「だって・・・・・本当だったらどうするの?」
「・・・」
「本当に観月先輩が転校しちゃうんだったらどうしたらいいの?」
あたしにはできない。
潔く見送るだなんて。
赤澤部長たちみたいに。
できない。この足音がそれを拒む。
聞けない。
本当に、観月先輩がどこかに行ってしまったら?
ただでさえもうじき引退の先輩たち。
きっと滅多に会えなくなる。
でも転校なんてしてしまったらきっと、
まったく会えなくなる。
「聞けっ・・・ないよっ・・・・・・・・」
「え?!!!なっ泣くなよ!ごめんっ・・・・」
「本当だったらっ・・・・・どうし・・・・よ・・・・」
「!泣くなって!なっ?」
「っ・・・うっ・・・・ん・・・・・・・・」
裕太が慌てている。
あたしは裕太の目の前でなんだかもうわけもわからずに泣き始めた。
懸命に拭うけど、
目はかすんで、ぼやけて。
ただ、いやだった。
「裕太がを泣かしただーね!」
「ちっ違います!なあ?」
「っ・・・・・・・・・・・」
「ちっ違いますって!!」
顔があげられない。
ただコートがざわめき始めて、あたしの周りで赤澤部長や木更津先輩の声がし始めた。
いけない。
部活の邪魔をしてしまっている。
泣き止め。泣き止め。
止まれ、涙。
「・・・・・・・・・・裕太くん、一体に何をしたんですか」
「みっ観月さん!俺は何もっ・・・・・・・・!」
「さっさと校外を走りに行きなさい!」
「おい、観月・・・・」
「なんですか、赤澤?!あなたもですよ!部員全員校外を走ってきなさい!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「は?!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
観月先輩の声がする。
近くにいる。
泣き止め。泣き止め。
顔をあげろ。
「?・・・どうしたんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・?」
足音が、する。
足音がする。
本当は、初めて会ったときからわかってた。
どうしようもないくらい
毎日想ってた。
まだ敵だと思い込んでるときからすれ違っても必ず振り返った。
振り返ってって、そう想ってた。
「っ・・・行かないでっ・・・・・・行かないでください・・・・・」
「え?」
「観月先輩・・・行かないで・・・・」
「?なんの話です?」
「っ・・・・・・・・・行っちゃ、ヤダ!・・・・・・・・」
顔をあげる。
観月先輩の目を見据える。
観月先輩が目を見開く。
刹那、
あたしの目には観月先輩が映らなくなる。
あたしは、
観月先輩の腕に包まれる。
涙が止まらない。
コートの上にはなぜか誰に1人部員がいない。
どこに行ったの?
「・・・。何があったのか話して下さい。・・・僕のせいで泣いているのですか?」
観月先輩の鼓動が聞こえて、声が聞こえて。
嗚咽交じりのあたしの説明を
観月先輩はあたしの背中を優しくなでながら、子供をあやすかのように
あたしの話を聞いてくれた。
「転校っ・・・・・するって聞いて・・・・」
「・・・転校?」
「観月せんぱっ・・・・いが・・・・・」
「ああ。・・・・・・・それで・・・・・・・」
「・・・っ・・・・・・・・・・・・・・」
「。僕は転校なんかしませんよ」
足音が、する。
「大切な人がここにいるというのに、一体僕にどこに行けと言うんです?」
観月先輩に度々かかってきた電話はただのうちの学校の偵察。
観月先輩の答え、
‘今度はいい返事ができると思います’
今度は、全国に行きますという意味で言ったそうで。
最近身の回りを整理し始めたというのは、ただの掃除で。
結局。
「・・・・・・すまん。」
「赤澤の誤解だーね。」
「くすくすっだと思っていたけど。」
「・・・木更津先輩。」
「なに?裕太。」
「・・いえ何も。」
ここは部活の終わった部室。
観月先輩だけがイスに腰掛け足を組み、あたし達は再び小さな円になっての緊急ミーティング。
むしろ反省会と言ったほうがいいのだろうか。
「で?それでと観月は付き合うようになったの?」
「!」
「・・・木更津。僕はこうなったいきさつを聞きたかっただけなのですが?」
「よく言うだーね。コートで抱き合ってたのばっちり見ただーね!な、裕太。」
「・・・・・・・・・はい」
観月先輩に目線を送ると、目が合った。
恥ずかしいいので
抱え込む膝に顔をうずめてごまかす。
「・・・で?観月。そろそろはっきりしろよ。いい加減にしないと俺がをもらう。」
「あっ赤澤部長!何をっ・・・・・・・」
「・・・僕はが好きですよ」
「観月せんぱっ・・・・・・」
足音が。
観月先輩が笑い、そっと、ふっと笑い。
柳沢先輩が、裕太が、木更津先輩が、赤澤部長が、
あたしを見ていて。
何も・・・こんな、みんながいる前で言う必要が。
(この場の全員に見せ付けておかないとどうなるかわかったものじゃありませんからね。)
そんな、観月先輩の想いなんて知るはずもなく。
「たっ・・・・・」
「「「「「た?」」」」」
「・・・・・・・・たぶん、好きです。・・・私も。」
「「「「「多分?!」」」」」
足音が、する。
静かに近づく。
あたしの胸の中。
静かに。静かに。そっと。存在感は抜群に。
「。」
優しいその声に顔をあげ、
観月先輩と目を合わせ。
「多分じゃ困りますよ。」
その笑顔に。
全てをわかっている笑顔に、
抱えた膝に再び顔をうずめ必死で隠した赤い顔。
負けました。
この声がこもっていても観月先輩なら聞き取ってくれるから。
ばれているだろう、この赤い顔。
それでもどうにか隠しつつ。
「好きです、観月先輩。」
聞こえますか?
始まりの足音。
End.