私の隣にいる彼は、世界一のペテン師だ。























「好いとうよ、。」




















繰り返される言葉に。



かすれる声に。



温かいその手に。



繋がれるキスに。



あなたに。

























今日も、騙される。



















































『非、偽り表裏』






















































































あなたは、いつも人目を引く。





。学食行かん?」


「・・・あれ?いいの?今日はレギュラーのみんなと食べなくても。」


といたいけぇ。」


「・・・いいよ。行こう。」





銀髪を揺らして、あなたは歩く。



余裕の笑みを、妖艶で、綺麗な笑みを、口元に浮かべ。



私は、あなたの隣を歩くたび。



そのかっこよさに目も心も奪われる。






「・・・何?俺の顔になんかついてる?」


「・・・ううん。」


「・・・・見惚れてくれてたとよ?」









そうだよ。









「・・・・・仁王のバカ。」


「こら。バカって言ったらダメじゃろ。」





昼時の学食で、2人、向かい合って食事。



女の子達の視線がちくちくと刺さる。



仁王に、注がれる。






。食べ終わったら中庭に行こ。今日は天気よかよ?」


「・・・・・うん。」






綺麗な、笑み。



かっこよくて、あなたが笑えば、私は見惚れる。



仁王は、一つ一つの動作が絵になる。



何をしてもかっこいい。



これは、自惚れと呼ばれるのだろうか。



・ ・・ううん、そうじゃないよ。






















。手。」

























仁王が、学食から中庭へ歩いていく廊下で、



私に手を差し出した。



繋ごうと、仁王は言っているんだ。






「・・・・・・・・・・・・・・」






私はなんの疑いもなく、その手に手を重ねる。



仁王はいつも手を繋ぐと、一度私を引き寄せる。



顔を、本当に心臓がおかしくなってしまいそうなほど近づけて。



キスをするか、笑う。



今は、



私に笑いかけた。






「・・・・仁王・・・」


「ん?」


「・・・・・・・・・・なんでもない。」






うつむいて、彼の歩く半歩あとを歩いた。



手を繋いだまま廊下を歩く。



・ ・・そういえば今日は天気がいいんだっけ。



廊下の窓から青空が見えた。



綺麗な青なのに、なぜかかすんでも見える。



私の少し先では、銀髪が揺れていた。







私は、知っている。







仁王は詐欺師。



私を、騙しているのだ。











































































































































































































「お前さん、彼氏いると?」


「・・・え?」


「・・・・彼氏。」







同じクラスの仁王。



日直が同じだったとき、いきなり言われた。



放課後の教室で2人きり。



向かい合わせに座った仁王の目は、まっすぐに私を映し。



・ ・・・聞き返したかった。



仁王は、どうなの?



かっこよくて、人目を引いて。



あなたは、知っているだろうか。














自分が、いとも簡単に人の心をさらうこと。













「・・・・いないよ。」


「・・・本当に?」


「いないよ。いるわけないもん。」






私が好きなのは、仁王なんだから。



仁王は、そのあとずっと黙っていた。



日誌を書く私の手元をずっと見てる。



人目を引くのは、その銀髪だ。



そして、あなたに心さらわれる。



気付けば、すべてが好きなる。



女の子はすれ違えれば振り返り、誰もがあなたにも振り向いて欲しくてその場に立ち止まる。



それだけモテれば、酷い噂も立つもので。



仁王には日替わりで彼女ができるとか。自分に近寄る女の子に片っ端から手を出しているとか。



けれど、よく女の子達と楽しそうに話している仁王の姿を見れば、



その噂はまんざらでもないのだと思わされた。



その日の学級日誌を書き終えた私は、手にしていたシャーペンを机に置いた。



するといきなり、私と向かい合っていた仁王の大きくて綺麗な手が、私の手に重なってきた。









「・・・仁王っ・・・・・」








目を合わせれば、仁王は真剣な顔をして。







































































































































「・・・・俺、お前さんの彼氏になりたいんじゃけど、どう思う?」




































































































































































































































































私は、無意識のうちに泣いてしまうほど、



嬉しかった。



仁王が好きだった。



驚きと喜びと。



仁王は、そんな私を見て優しく唇を合わせてきた。



うれしくて。うれしくて。






。好いとうよ。」






その言葉に、必死にうなずいて。



もう一度キスを交わした。



涙があふれて。



私は仁王が好きだった。



うれしくて、嬉しくて。



うれしくて、忘れていた。



彼が、どんな人だったか。

























































































































































































































































「ブン太さん、聞きました?仁王先輩彼女できたって。」



「あー。いつまでもつんだろうな。あいつ基本遊びでしか付き合わねぇもんな。」











































































































































































































偶然聞いてしまった会話。



仁王と同じテニス部の。






(・・・・そっか。)






そっか。忘れてた。



よかった。思い出せて。



仁王は、詐欺師だった。







。」







嘘なんだ。全部。







「好いとうよ、。」







繰り返される言葉も。



かすれる声も。



温かいその手も。



繋がれるキスも。







全部、嘘。







・・・そんなこと、思い出したのに。



あなたは人目を引いて。



いとも簡単に人の心をさらって。



そんな人に、本当に好きになってもらえるわけなかった。



嘘だと、気付いて。



全部気付いて。



なのに、私は疑わなかった。



彼は、世界一の詐欺師だった。









。」









嘘だと知っていて、信じるのはいけないことだろうか。








「好いとうよ、。」








疑うほうがたやすいと知っているから。



私は仁王が好きだった。



彼の笑みを見る度に、目も心も奪われる。



だからね、仁王。



あなたのこの遊び。
































































































































































































































だまされていてあげるよ。


















































































































































































































































































































。ベンチ空いてるとよ。」


「あっ・・・・。うん。」





中庭に来たあたしと仁王。



生徒がまばらにいる昼休み。



仁王に手を繋がれて、私は足を進める。



中庭にいる女生徒たちが、仁王に視線を注ぐ。




(・・・・ほら。)




あなたが、みんなの心を奪っていく。





「・・・・?」


「あっ・・・ごめん。」


「隣。」





気付いた時には仁王がベンチに座っていた。



仁王は自分のすぐ隣をポンポンッと叩いて、私にそこに座るよう促す。



目を合わせれば、あのいつもの妖艶で綺麗な笑み。



吹いた風が仁王の銀髪を揺らしてる。



あたしは、仁王が促したとおりに、仁王の隣に座った。





「・・・・。今日も待っててくれるじゃろ?放課後」


「・・・・うん。」


「帰りどこか寄らん?最近デートもできとらんし。」


「・・・テニス部、忙しいもんね。」





仁王の手は、いまだあたしの手を握っていた。



あたしは、なんだか顔をあげれなくて。



仁王に注がれる視線が気になって、



この手の温もりさえ嘘だと知っていて。



仁王を見れば、また見惚れてしまう自分が怖くて。








「・・・・・・・・・・・なぁ、。」








<キーンコーン・・・>



これは、次の授業の予鈴。



中庭に集まっていた生徒たちが、教室に向かって、少しずつ人数を減らしていった。
























































































































































































「ずっと、何考えとう?」











































































































































































































































仁王の、私の手を握る力が強くなる。



少し、痛いくらいに。






「最近、たまに俺のこと見ようとせんのは、なんで?」


「・・・に・・おう・・・」


「・・・・、こっち見んしゃい」






うつむいたままのあたしに、仁王の声が怒って聞こえた。



ずっと、思っていた。



私は、仁王が好きだった。



嘘だと知っていて、信じようと思った。



でも、いっそ。



下手な嘘なら、いっそ。























嘘だって、言って欲しかった。
























もう、だまさないで。





「・・・・・・・・・」





嘘だって言ってよ。



信じることをやめるから。



あたしが顔をあげる。



仁王は、目をあわせて、そのまま握っていた手を離してしまった。



見つめ合うだけで、あなたに見惚れる。



目も心も奪われてる。



ねぇ、仁王。



繰り返される言葉に。



かすれる声に。



温かいその手に。



繋がれるキスに。



あなたに。



私は今日も、騙されてる。








「・・・・。俺は、」









仁王の手は、あたしの両肩を持った。



額をこつんとつけて、その至近距離のまま。



仁王は。






































































































































































































「俺は、お前さんが嫌いじゃ。」








































































































































































































































































































































遠くで、授業の本鈴が聞こえた。



私は、目を見開いて。



近すぎて、仁王の表情はわからなかった。



わかるのは、声だけ。



額をひっつけたまま。



私は泣きたくなった。







「におっ・・・・・」


「そう言ったら・・・」


「え?」


「それすらも嘘だと、思ってくれるか?」







もう一度、あなたの名前を呼ぼうとしたけど、うまく声になってくれなかった。



あたしが、仁王の言葉を必死で頭の中で整理しようとしていると



仁王の手があたしの頬を包んだ。



そのまま優しく唇が合わさって、また声がでなくなってしまった。




































































































「疑いんしゃい。俺のこと。」












































































































































見透かされた。



そう、思った。



仁王が、妖艶に綺麗に笑ってみせる。



離れた唇。仁王の手は私の両手を握った。



中庭には、もう他の生徒の姿はない。







「仁王っ・・・・・」


「俺のこと、信じてなかったんじゃろ?」


「っ・・・・・・・・・・・・」


「・・・・。不安そうな顔しとる。信じられない目をしとる。」







見透かされた。



見抜かれた。



なのに私はまた、その仁王の少しだけ悲しそうな笑みに、目も心も奪われる。



仁王は、そんな私にもう一度。



触れるだけのキスをする。











「ええよ。ずっと、信じてもらえなくても。ずっと嘘つくきに。」



「・・・・・・・・・・・・・・・・」



「疑いんしゃい。」



「・・・・・・・・・・・・・・・・」



「・・・・信じてもらえるまで、嘘を吐く。」











だから。











「なぁ、。」










嘘の言葉は辛いから。代わりに。



仁王が、続ける。























































































































































「俺なしじゃいられないほど、俺を想いんしゃい。」

























































































































































































































































































































ぽたぽたと、握られた2人の手に、雫が落ちる。



仁王の手が、私の手が。



私の涙に濡れてしまう。






「離して・・・・仁王。」






涙をぬぐわせて。






「・・・・・・・」


「仁王・・・・・」


「・・・・信じて。。」


「(!)っ・・・・・・・・」







あなたは、私の手を離そうとはしなかった。



私が拭う代わりに、仁王の手が、私の頬に触れる。



涙の痕をふき取る。








「疑いんしゃい、。」








・ ・・・ああ。



あれこそが、私を騙す仁王の言葉。







「ええよ。ずっと、信じてもらえなくても。ずっと嘘つくきに。」



「・・・・・・・・・・・・・・・・」



「疑いんしゃい。」



「・・・・・・・・・・・・・・・・」



「・・・・信じてもらえるまで、嘘を吐く。」








これだけが、仁王が私を騙した言葉。

























「仁王・・・・・ごめっ・・・・・・」



「俺はが好き。」



「・・・・・・ごめっ・・・・」



「嘘じゃなかよ?」






































繰り返される言葉も。



かすれる声も。



温かいその手も。



繋がれるキスも。



あなたも。



あなたは、世界一の詐欺師だけど。



私をだましたことは、一度だけ。



疑う私に、信じられるように。



私をだました一度だけ。



あとは、嘘なんて。















「・・・・・・・・想って。。」



「っ・・・・うん・・・・」



「・・・・・好いとうよ。」















嘘なんて、一度だって。



優しいキスを交わした。



仁王は笑い、妖艶で、綺麗な笑みを見せ。



私の目も心も奪われる。





(・・・・奪って欲しい。)





取り戻せないくらい。



















「俺なしじゃいられないほど、俺を想いんしゃい。」



















取り戻せないくらい、奪って。



心ごと。



世界一の詐欺師のあなたになら、きっとできるから。



繰り返される言葉も。



かすれる声も。



温かいその手も。



繋がれるキスも。



あなたも。



あなたは、世界一の詐欺師だけど。



私をだましたことは、一度だけ。



疑う私に、信じられるように。







































































































































私をだました、一度だけ。













































































































































































































































後日談。





「ちょっ!!勘弁してくださいよ!思ったこと言っただけじゃないっすか!」


「だいたい仁王!お前の前科を考えろぃ!!真剣だったことなんてねぇじゃねぇか!!」


「・・・・は違うとよ」


「ちょっと待った!仁王先輩、目が怖い!目が怖いっす!!」


「誰のせいで、が泣いたと思う?はい、丸井。」


「おっ・・・・俺たち?えへっ。」


「・・・・・・・・・・・覚悟しんしゃい。」


「「ぎゃー!!!!!!!!!!!!!!!!!」」










































End.