「好きです。仁王くん。付き合ってください。」







・・・笑わせるなよ。





頬染めるような感情。





恥ずかしそうに恋を声にして。




俺が誰だか知ってて言ってるんじゃろ?










「・・・・・よかよ。」









お望みなら。






































だましてやる。















































『非、偽り表裏』














































そんな想いは錯覚だ。



そんな想いは思い違いだ。



ずっと、そう思ってた。






。学食行かん?」


「・・・あれ?いいの?今日はレギュラーのみんなと食べなくても。」


といたいけぇ。」


「・・・いいよ。行こう。」






同じクラスの



席が隣だった。



授業が終わって俺が声をかければ、



俺に続いて席を立って、は隣を歩いてくれる。



ふっと思わず笑みがこぼれれば、と目が合った。






「・・・何?俺の顔になんかついてる?」


「・・・ううん。」


「・・・・見惚れてくれてたとよ?」






ずっと、そう思ってた。



その想いは勘違い。



その想いは思い違い。







「・・・・・仁王のバカ。」


「こら。バカって言ったらダメじゃろ。」







こんな想いが、



自分の中にもあったのだと、気付かされるまで。



ついた学食で、2人で向かいあって座った。



が、少し回りの視線に気まずさを覚えていることに気付く。



自身の視線が、下に落ちがちだった。






(・・・そんなものは気にしなくていい。)






気にしなくていいから。






。食べ終わったら中庭に行こ。今日は天気よかよ?」


「・・・・・うん。」













































俺のことだけ、見てろよ。

















































笑いかければ、頬染めて。



はじっと俺を見てくれる。



それでいい。



・ ・・・それで。



最近、の様子がおかしいのには気付いていたから。



学食をでて、中庭に向かうために歩く廊下。



が俺の少し後ろを歩いてる。



・ ・・・こんなこと言ったらきっと笑われるから。



けして声にはしないけれど。



の存在がそこにあること、わかっていないと怖くなる。



ときどき無性に、怖くなる。



だから、振り返って足を止めて。




























。手。」

































手を差し出せば、



は俺に歩み寄り。



ゆっくりと、たどたどしくだが、



俺の手に手を重ねる。





(・・・こんなこと言ったらきっと笑われるから。)





けして声にはしないけど。



いつも俺はと手を繋ぐと、その手を思い切り引き寄せる。



の目に自分が映っているか、確認したくて。



そのままキスをするか、に笑って見せる。



今日のそのときに見たの目は、



なんだか、少し怯えているように思えたから。



何も言えずに笑いかけた。





「・・・・仁王・・・」


「ん?」


「・・・・・・・・・・なんでもない。」





それ以上、を目にしていたら、



きっと、また怯えた目をさせてしまうから。



進む方向を見据えて、手を繋いだままゆっくりと歩きだす、



が俺の半歩あとをついてくるのがわかった。



小さなの靴音が、なぜか妙に心に響いていく。






「・・・・・・・・・・・・」






今は、どこを見てる?



・ ・・・こんなこと言ったらきっと笑われるから



けして声にはしないけど。



俺はが好きだと思うから。



声にしなくても伝わって欲しかった。



・ ・・・・なのに。



気付いていた。



俺と付き合い始めてから少しずつ。



がうつむく回数が増えて、笑顔が少なくなっていったこと。










































































































































































































































「・・・仁王先輩?どうしたんすか?」


「・・・・別に。」


「・・・・・・そういえば最近まわりの女子相手にしないんすってね。なんか同級生に愚痴られたんすけど。」


「赤也。黙って練習せんと。またいつもみたいに叩かれるとよ。」


「へっ!なれましたもん。真田副部長の裏拳なんか!」


「いや、俺に。」


「・・・・・はい?」






目で追うのは、いつもコートを通り過ぎてしまうその姿だった。



同じクラス。隣の席。



話したことは何度もあった。







「仁王。仁王、起きて。次あたるよ?」


「ん・・・・」


「54ページの問い3」


「・・・・・・これ?」


「うん。」







くるくるとよく表情の変わる奴で。



あきれた顔して、授業中寝ていた俺を起こしてくれるかと思えば。



次の瞬間には笑っていたり。



真剣に教科書とにらめっこしていたり。



目を離したら、の次を見逃してしまう。



そう思ったら、いつも目で追っていた。











「お前さん、彼氏いると?」


「・・・え?」


「・・・・彼氏。」













そのときは日直が一緒だった。



放課後の教室に2人きり。



向かい合わせに座った席で、日誌を書くその表情と手元を見ていた。



光にすける髪の向こうに見えた目が綺麗だと思った。



少し伏せて見える瞼。



・・・・こんなに綺麗な奴だったろうか。



気付いた時には、声にして聞いていた。



彼氏がいるかと。



俺の言葉に驚いてが顔をあげ、あわせた目。



やっぱり綺麗だった。







「・・・・いないよ。」


「・・・本当に?」


「いないよ。いるわけないもん。」








なんでそんな風に聞いたのか。



なんでそんなこと聞いたのか。



自分でも自分がよくわからない。



再び日誌を書き始めたの手元をずっと見ていた。







「・・・・・・・・・・」




「好きです。仁王くん。付き合ってください。」








・・・笑わせるなよ。



頬染めるような感情。



恥ずかしそうに恋を声にして。



俺が誰だか知ってて言ってるんじゃろ?





「・・・・・よかよ。」





お望みなら。








だましてやる。









表情を取り繕うのは簡単だ。



気持ちなんてごまかして、見たいと言うなら見せてやるよ。



そんな想いは勘違い。



そんな想いは思い違い。



でも。









「・・・・・・・・・・」



「・・・・・・そういえば最近まわりの女子相手にしないんすってね。」









なんでだろうな。



お前を見ているときに抱く想いは。



を見ているときに想うのは。














「・・・仁王っ・・・・・」













日誌を書き終えたらしい手がシャーペンを置いた。



その手に俺は、手を重ねる。



突然のことに目をあわせれば、



その瞳が泣きそうなことに気付く。



これは、勘違い?



これは、思い違い?



・ ・・・違うとよ。



気付かされたんじゃ、お前さんに。





















































「・・・・俺、お前さんの彼氏になりたいんじゃけど、どう思う?」












































































































目を離したら、の次を見逃してしまう。



そう思ったら、いつも目で追っていた。



いつも、


















を見ていたかった。

















の手を覆う俺の手に、涙が落ちる。



の目は大きく見開いたままだった。



なぁ、それは何?



何の涙?



哀しい?



苦しい?



悔しい?



なぁ、それが。



そっと、唇を合わせて。






(うれし涙だったら、よか。)






ずっと、思ってた。



その想いは勘違い。



その想いは思い違い。



でも、俺の中にもあったんだ。



その想いがあったんだ。













。好いとうよ。」













気付かせてくれたのはだった。



が俺の言葉に、何度も何度もうなずいてくれた。



とまらない涙にかける言葉は見つからない。



ただ、うれしくて泣いてくれるなら。



俺もうれしいばかりで。



そっともう一度重ねた唇。



好き。



好きじゃ、



この想いは、嘘偽りのない真。



表情をつくろう必要はない。



気持ちをごまかす必要もない。



だけは、欺けない。



欺かない。





























































































































なのに、俺と付き合い始めてから、



がうつむいていることが多くなった。



笑顔が減った。



・ ・・・なぜ?



・ ・・・・何が、にそうさせる?








。」








顔、あげて。







「好いとうよ、。」







俺のこと、見てろよ。



繰り返し名前を呼んだ。



できるだけ手を繋いだ。



手を繋いで引き寄せた。



時折無性に怖くなる。



が俺の傍にいること、わかっていなければ。



キスを繰り返し、抱きしめた。



なのに。







「・・・・・・・・・・・」






なのに、は。



不安そうな表情ばかりする。



うつむいて、俺の顔さえ見てくれないときばかりが増えていく。



なぜ?



俺には。



















































































































































お前を欺くことなど出来ないのに。






























































































































































。ベンチ空いてるとよ。」


「あっ・・・・。うん。」






中庭に2人して足を踏み入れる。



生徒の姿はまばらで、昼食をとったり、雑談をしたり様々だった。



俺はの手を引き、空いているベンチを目指してゆっくりと歩いていく。



の歩みが遅くなり、の姿を確認する程度に振り向く。






(・・・・何を、気にしている?)






また少し周りを見て、うつむいて。



何も気にしなくていい。



俺のことだけ見てればいい。







「・・・・?」


「あっ・・・ごめん。」


「隣。」








俺がベンチに座ったのに。



はうつむいたまま、座ろうとしなかったから



俺は自分の座る隣をポンポンッと叩いて、にそこに座るよう促す。



笑いかければ、頬染めて。



はじっと俺を見てくれるから、笑いかける。



吹いた風がの髪で遊んでいた。



は、静かに俺の隣に座った。







「・・・・。今日も待っててくれるじゃろ?放課後」


「・・・・うん。」


「帰りどこか寄らん?最近デートもできとらんし。」


「・・・テニス部、忙しいもんね。」








いまだ繋がったまま離したくない手。



手を繋いでいるとき、



たまにの体温があがった気がする。



それが、うれしい。



それが、少し胸を締め付ける。



今もそうだった。



の手のひらの体温があがった気がするのに。



はうつむいたままだから。



俺のほうを、見ようとはしないから。



・・・何が、そうさせる?







「・・・・・・・・・・・なぁ、。」







<キーンコーン・・・>



次の授業の予鈴が鳴れば



中庭に集まっていた生徒たちが、教室に向かって、



少しずつ人数を減らしていった。

































































































「ずっと、何考えとう?」







































































































































































の手を離したくなくて。



その手を握る手にこめる力が少し強くなる。







「最近、たまに俺のこと見ようとせんのは、なんで?」


「・・・に・・おう・・・」


「・・・・、こっち見んしゃい」








こっち見んしゃい。



俺のほうを見ろよ。



少し怒気を含んだ俺の声。



・ ・・いつから?



少しずつ少しずつうつむいて。



笑顔が減って。



何がそうさせる?



何が。



俺を見ていて欲しいのに。














「・・・・・・・・・」













ゆっくりと、が顔をあげる。



その目が怯えている。



何が、そうさせる?



俺が怖いのか?



なぜ?



どうしたと?



離したくなんかなかったのに、が怯えているから。



目をあわせたまま、そっとその手を離した。



ずっと、思ってた。



その想いは勘違い。



その想いは思い違い。



でも、俺の中にもあったんだ。



その想いがあったんだ。



気付かせてくれたのはだった。










「(・・・・・・・・そうか。)」









そうか、わかった。



ずっと、そう思ってきたから。



ずっと、何もかも取り繕ってきたから。



わかった。



の瞳を見据えて。





「・・・・。俺は、」





俺の手は、の両肩を持った。



額をこつんとつけて、その至近距離のまま。



お前さんも知っとる。



俺は誰?



俺は。
































































































































「俺は、お前さんが嫌いじゃ。」




































































































































































遠くで、授業の本鈴が聞こえた。



近すぎて、の表情はわからなかったけど。



きっと、泣きそうな顔をしてるんだろう。



わかるのは、声だけ。



額をひっつけたまま。



きっと今までの報いなんだと。



そう、思っていた。







「におっ・・・・・」


「そう言ったら・・・」


「え?」


「それすらも嘘だと、思ってくれるか?」










の瞳の奥に見つけた。



俺を不審に思う色。



それはそうだろう。



俺は今まで騙してきたのだ。



いろんな想いを、だまして、つくろって、ごまかして。



これはその報いなのかもしれない



俺は誰?



・・・俺は。



から額を離して、代わりにその頬を両手で包んだ。



やっぱり、泣きそうになってる



そっとキスを交わす。



俺を不審に思う色。



俺は今まで騙してきたのだ。



いろんな想いを、だまして、つくろって、ごまかして。



だから、































































「疑いんしゃい。俺のこと。」










































































































































































































































信じてもらえなくたって、仕方がない。



離れた唇。



笑った。



の目がちゃんと俺を見ていてくれるよう。



笑って、みせた。



きっと、笑われてしまうから。



けして声にはしないけど。



俺が笑う理由なんて、声にはしないけど。



もう一度、その両手を固く握り締める。







「仁王っ・・・・・」


「俺のこと、信じてなかったんじゃろ?」


「っ・・・・・・・・・・・・」


「・・・・。不安そうな顔しとる。信じられない目をしとる。」






お前のことなら、見てたからわかる。



仕方がない。



これは報いに違いない。



ずっとごかましてきた。



その想いは勘違い。



その想いは思い違い。



ずっと、そう思ってきた。



でも、違った。



それに気付かせてくれたのはお前。



もう一度、かすめとるようなキスをに贈り。








「ええよ。ずっと、信じてもらえなくても。ずっと嘘つくきに。」



「・・・・・・・・・・・・・・・・」



「疑いんしゃい。」



「・・・・・・・・・・・・・・・・」



「・・・・信じてもらえるまで、嘘を吐く。」








騙せない。



をだませない。



こんな宣言をする詐欺もなか。



けど、が疑うなら。



嘘をつくしかないじゃないか。



嘘を、不審に、思ってもらうしか。







「なぁ、。」








けれど。



をだますのは、俺にとっては困難な詐欺だから。



代わりに。
























































































































































「俺なしじゃいられないほど、俺を想いんしゃい。」














































































































































































































































































繰り返し名前を呼んだ。



できるだけ手を繋いだ。



手を繋いで引き寄せた。



時折無性に怖くなる。



が俺の傍にいること、わかっていなければ。



キスを繰り返し、抱きしめた。



でも、何をしたって俺のものにならないなら。



何を言ったって俺のものにしてやる。



ぽたぽたと、握られた2人の手に、雫が落ちる。



俺の手が、の手が。



の涙に濡れてしまう。






「離して・・・・仁王。」






なあ、うつむくなよ。






「・・・・・・・」


「仁王・・・・・」


「・・・・信じて。。」


「(!)っ・・・・・・・・」







俺は、の手を離そうとはしなかった。



俺の手が、の頬に触れる。



涙の痕をふき取る。



この手を離したくはない。



何が嘘だと思う?



何が本当だと思う?



お前が決めてくれてかまわないから。



ただ、



お前を騙すことなんてできない。



だから、



信じてなんて言ってしまう。



真実を声にしたら疑う?



俺がお前を好きだと言ったのは?








「仁王・・・・・ごめっ・・・・・・」



「俺はが好き。」



「・・・・・・ごめっ・・・・」



「嘘じゃなかよ?」








下手な嘘ならつけないんだ。



もう、つけない。



が気付かせてくれたから。



嘘じゃなかよ。



嘘じゃなか。



に紡ぐ言葉は。







「・・・・・・・・想って。。」



「っ・・・・うん・・・・」



「・・・・・好いとうよ。」








笑って。



俺のことを見てくれるように笑って。



キスを交わした。



今もその目元が涙でぬれている。



そっと拭えば、笑ってくれる。









好いとうよ。









疑われるなら、信じてくれるまで。



真実だけを声にするから。



俺は詐欺師なんて呼ばれているが、



お前をだますことだけはできない。



たくさんの表情を取り繕って。



気持ちをごまかしても。



への想いだけは、本当だから。


































































































































































































好いとうよ、





































































































































































































後日。



に聞いたのは、俺に対して不安になったきっかけだった。






「ちょっ!!勘弁してくださいよ!思ったこと言っただけじゃないっすか!」


「だいたい仁王!お前の前科を考えろぃ!!真剣だったことなんてねぇじゃねぇか!!」


「・・・・は違うとよ」







部室の隅に勝手な発言をした赤也と丸井を追い詰める。



俺が遊びでしか付き合わないとか言ってたのを、



が偶然聞いてしまったようじゃが。






「ちょっと待った!仁王先輩、目が怖い!目が怖いっす!!」


「誰のせいで、が泣いたと思う?はい、丸井。」


「おっ・・・・俺たち?えへっ。」






丸井が人差し指で自分を指差し、



小首を傾げたのに、俺の頭でプツンっという音がした。



手を拳にして、指の骨の音を鳴らしながら、二人にじりじりと近づく。







「・・・・・・・・・・・覚悟しんしゃい。」


「「ぎゃー!!!!!!!!!!!!!!!!!」」








そんな想いは錯覚だ。



そんな想いは思い違いだ。



ずっと、そう思ってた。



ずっと思ってた。



けれど、その想いは俺の中にもあったんだ。



勘違いでも思い違いでもない、その想いが。



気付かせてくれたのはだった。


































































































































気付かせてくれたのは、お前だった。




















































































End.