朝起きれば目が見えるようになっていたとか





そんな奇跡は起こらなかった。






。今日は学校行ってええよ?」


「え?・・・でも侑士・・・」


「俺のせいでが学校行けへんてのはなしやで、。」



























『ヒカリの種2』



























暗闇の中で目覚めた。





時間なんてわからなかったから朝だとわかったのは





が、ベッドで体を起こした俺におはようと言ってくれたから。









「にしても、どうやって俺の腕から抜けたん?」


「・・・侑士が起きなかっただけだよ」









手探りでベッドからおりて



ベッドにもたれて床に座る。





俺の部屋には立ってみれば膝より少し低い程度の小さな机が一つある。



ベッドの近くに置かれた机は普段は食事とか勉強とかに使える。



目が見えない今の用途は食事はもちろんテレビのリモコンや携帯電話の置き場所。



身近にないと手探りでは見つけにくいものをが集めてくれて机にのせてある。







「・・・じゃあ、いってきます・・・」


「うん、心配せんでええよ。いってらっしゃい。」


「お昼には戻ってくるね!!」


「心配せんでええて。飯くらいどうにかなる。」






は昼飯を作って机の上にのせておいてくれたらしい。





「机の真ん中にのせておいたからね。気をつけてね。」


「わかった。ありがとな。」





を見送ることはできない。



の気配が俺のまわりから消えて



の足音が遠ざかる。










「鍵かけてくね。」


「うん、いってらっしゃい。」


「・・・いってきます」








部屋のドアの閉まる音の後



鍵を閉める音がして



それから俺のまわりの音がやんだ。












暗闇に包まれて



自分がどこにいるのかわからなくなるのが嫌で



テレビのリモコンを探し出してテレビをつけた。







ニュースが流れていた。



見えない画像は置いておいて聞こえてきたアナウンサーの言葉に聞き入るわけでもなく



俺は目を閉じた。





何も変わらない暗闇。





もしかしたら初めから目を閉じていたのかもしれない。



そんな錯覚に囚われて。



なら、目を開ければ暗闇は晴れるのかと言えば、それはなかった。



聞こえてくるニュースは雑踏の音と同じ。














暗闇が嫌で



色を、光を、思い出したかった。










初めに浮かんだのは緑のテニスコート。



ラケット。



テニスボール。



色付いては鮮明に映像が頭の中に浮かぶ。





ダブルスの相方。



俺様部長。



いつも寝ている奴。



傷だらけで戻ってきたテニスバカ。



下克上やら、ウスやら、犬の後輩達。








それから














俺にとっての大切な存在。














気付いたことがある。



目が見えないことにあまり心配を覚えなかった俺。



すぐに視力が戻るだろうという期待が強かっただけじゃない。



暗闇を知っても、



俺は



















光を知っていたから。












































年をとってこの目が見えないままで



仲間や大切なの姿が俺の中では今のままでも



それと同時に



これはあせることのない光。



あせるはずもない光。





































































「ただいま!!」


「・・・・・・?」





鍵を開ける音。



ドアを開く音。



の声。





「学校はどないしたん?」





立ち上がることもできずベッドによりかかって床に座ったままに問い掛けた。



俺の時間の感覚が奪われていると言っても



早すぎると感じたの帰宅。






「学校についてすぐ早退してきちゃった。やっぱり侑士と一緒にいようと思って・・・」






が俺に近付いて来る足音。



気配は俺の隣に来て。



座る布ずれの音。



が俺の手を握った。
























































































この目は、見えないままでいいのかもしれない。







































見えないことがを拘束して俺に縛りつけるなら





「・・・見えないままでええのかもしれへんな。」


「え?」


がそれで側にいてくれるなら」





年をとって頭に残るその姿は変わらないままでも、



側にいてくれるなら



光さえ知っていれば。












「・・・そんなこと言ったら向日が怒るよ。」


「そうかもしれへんな」


「跡部も怒る」


「あいつは俺を無言で殴りそうやけど」


「宍戸も、鳳くんも怒るよ。」


「・・・かもな」


「・・・あたしだって、怒る。」











が握ってきた手を離した。





?」


「あたしは・・・」





座っていた隣の気配が立ち上がった。



俺の視線はに向いとんのやろか。



俺の向く方向にはちゃんとおるのやろか。















「あたしは、侑士の目に映っていたいよ?」














の声は震えていた。





「花火・・・一緒に見たいもん。」


「・・・・・」





の好きな花火。



俺の見えない目が奪った。










だけど現実は目の見えない俺でさえ見えるように



目の見えるお前にも見えるやろ?














「・・・俺かて、好きで見えへんちゃうわ」


「(!!)っ・・・」











俺の隣に立っていたの気配が遠ざかった。



足音が遠くにいって止まる。





(好きで見えへんちゃう)





目を開けても何も見えない。



の今いる場所さえわからない。






(見えへんねん)






原因なんかわからない。



どうして目が見えない?
























































































(ぐすっ)





「・・・、泣いてるん?」





目が見えなくていいなんて



どうしようもない言い訳。



目が見えなくていいなんて



諦めと嘘。















、どこにおんねん」













見えなくていいわけない。



大切な存在が泣いていて



抱き締めに行けないなんて。



自分から側に行けないなんて。







見えなくては、困る。



がどこにいるかわからなくては困る。






俺は立ち上がっての泣く音がするほうへ向かう。



耳に意識を集中して



涙をふく布ずれの音。



鼻をすする音の方向を探す。














視覚はの居場所を教えてくれない。









。」








近付きたい。



近寄りたい。



抱きしめたい。













、どこにいる?

























「(!)」


「侑士!!」





何かにつまずいた俺をが支えてくれた。





「何?」


「テニスバッグだよ。」





俺がつまずいたものの正体。













、ごめんな」





俺の体を支えていてくれたを抱きしめた。





「見えなくていいなんて嘘や。のいる所がわからんと俺困んねん。」


「・・・あたしもごめん。見えなくてつらいのは侑士だもんね。無責任なこと言った・・・。ごめんなさい。」







見えなくなった存在と見てもらえなくなった存在。



つらいのは同じ。











。一個お願い聞いてくれへん?」


「何?」


「もしもこの目が見えないままで、失明したままでも、それでも側におって。ずっと側におって。」





見えなくてもがそこにいることがわかるように。





「侑士・・・」





抱きしめた存在がだと



この目は教えてくれないまま。









見えなくていいはずがない。



大切な君に自分から近寄れないのに



側にいてくれなくては居場所も分からないのに。






けれど






目が見えない俺でも見えるように





現実はいまだに





















この目は、見えないまま。



































end.