あなたのことなど、何一つとして知らなかった。




















『ヒトメ』

















「君、山吹の生徒だよね!高等部?」


「・・・・」


「あっそんな嫌そうな顔しないで!!」


「知らない人に話しかけられてもついてっちゃいけません。」


「誰かに言われたの?」


「今自分で自分に言ってみた。」





あなたの顔は驚きに変わって。



次の瞬間。






思いっきり笑った。






嫌味のない



屈託のない笑顔で。





「あのね、俺君に一目ぼれしたみたい。」










































































「・・・・・・・・・・・・・・清純、部活はどうしたの?」


「行くよ。に会ってから。」


「もう会ったでしょ?高等部まで来てる暇があったらテニスの練習しなさい。」


「高等部まできてる暇があったからに会いに来てるんだもん。」


「清純?」


「あっ嫌なそうな顔しないで!!」






街であったナンパ相手。



何一つとして知らなかったその人が、



あの中等部の千石清純だと知ったのは、ナンパから3日が経ってから。






「・・・・・あたしが後で中等部に行くよ。」


「ホント?!」


「練習見に行くから。早く行かないと、きっとまた南君困ってるよ?」






最近は高等部の校舎に入ってきてまであたしを探しに来る清純。



目立つオレンジ。



校舎の中で姿を見つけるのは、いつもあたしが先だ。








「・・・・ほら清純!」








目立つオレンジ。



人目を引くよ、人が行き交う廊下。







「・・・


「何?」


「練習じゃなくて、俺を見に来てね。」







清純があたしの髪を手にとって口付けた。







「っ・・・・!!」


「待ってるよー!!」







街であったナンパ相手。



何一つとして知らなかったその人が、



あの中等部の千石清純だと知ったのは、初めて清純が山吹の制服を着て高等部に顔を出した日。



嫌味のない



屈託のない笑顔で清純は走り出した。






「あーもう!早く行きなさい!!」






しばらく離れた廊下の曲がり角の前で、清純が止まってあたしに両手を振り続けてたから



最後の最後まで声を向ける。



目立つオレンジの髪が愛おしい。



あなたのことなど、何一つとして知らなかったのに。
















「(そう言えばあたし清純についてまだ何にも知らないかも。)」













フェンス越しの練習でやはりあの髪は目立つ。



なんて見つけやすいんだろう。








ー!見ててねー!!」







あたしに向かって声を飛ばす清純にひらひらと手を振って応えた。



あっ、危ない。



余所見をしていた清純。



おでこにボールがストライク。






「いってて・・・・」






あたしにもう一度振り向いて、



平気だよってピースする清純。



あーあ、バカだなぁ。



よくラッキーなんて口にするけど、今のはアンラッキーでしょ?






「(誕生日・・・は聞いたことあるから知ってる。星座も分かる。・・・・あ。血液型知らない。)」






オレンジが揺れる。



清純の嫌味のない



屈託のない笑顔。






(まぶしい)






‘あのね、俺君に一目ぼれしたみたい。’








一目ぼれ?



















































「痛てっ・・・・たんこぶになっちゃった。」


「腫れてるの?」


「でものこと見てたからボールに気付かなかったのは幸せなことだよね!それに気付けただけでラッキー!!」


「・・・・たまに無理やりな気がする。清純のラッキー。」


「あははっそうかなー?」






部活が終わって帰り道。



あたしは考える。



血液型と、それから好きな食べ物。



あっあと嫌いな食べ物も聞きたい。






?考えこと?難しい顔してるよ?」


「ちょっと待ってて。今清純への質問考えてるから。」


「ん?」






オレンジが揺れる。



清純が隣で笑う。



嫌味のない、



屈託のない笑顔で。






「・・・・あたし、何にも知らないの。清純のこと」


「そうかな?」


「そう。誕生日と星座以外。」


「それで十分だよ」


「・・・・不十分だよ。」






街であったナンパ相手。



あなたのことなど、何一つとして知らなかった。






「ねえ、。それじゃあ一つ、本当を教えてあげる。」


「本当?」






オレンジが揺れる。



清純はあたしとの距離を縮めて近寄って。



あたしに耳打ちする。




















































































「本当は、俺ずっと前からのこと知ってたよ。」






































































































「清純・・・」


「一目ぼれじゃなくてね。ずっと好きだった。ずっと見てた。高等部の人だってのも知ってた。」





嫌味のない、



屈託のない笑顔で清純が笑う。



オレンジの髪に、少しだけ顔を赤くして。








「あの日が街に1人でいるのを見て声かけるなら今しかないって思ったんだよね!俺ってホントラッキー!!」































オレンジの髪が、愛おしい。





































「・・・・・・・ねえ、清純はあたしの何を知ってる?」


「誕生日と、星座。」





あの日、



あなたのことなど、何一つとして知らなかった。



一目ぼれ。



したのはあたしのほうだった。



嫌味のない、



屈託のないその笑顔に、魅せられて。












「・・・・・・・・・誕生日って大事だよね。」


「でしょ?だから十分!」


「一緒にいればいつか清純の全部勝手に覚えちゃうかな?」


「覚えちゃうよ。嫌でも!!」




























あなたのことなど、何一つとして知らなかった。



あたしが知ったのはあなたを好きになった事実だけ。






「清純。」


「ん?」


「・・・そう言えば名前も知ってるなぁって。」


「そうだね。俺も知ってる!の名前。それから・・・・」


「それから?」














































































































が、俺の彼女だってこと。























































End.