はかなく。




















儚くもろい。




初めて会った時のあなたの印象。




いつか




誰も気付かずに




消えてしまうんじゃないかと。















『人に夢と書く』













ー!」


「ちょっと待って岳人!またケガ?」


!」


「タオルならそこのベンチの上だよ亮!」





「スコアの整理は終わってるよ!景吾」






ぱたぱたとせわしなくコートを走り回る先輩



その細い体のどこにそんな体力と元気があるのか。



俺の永遠の謎。



俺達テニス部のマネージャーである先輩は



線が細く



肌も髪も色素が薄い。






ー」


「何?忍足。ドリンクなら足下でしょ!」


〜!」


「・・・・・ジローちゃん。あたしにひっつかないで練習しようよ。」






あなたは細く



儚くもろい。



そう思う。




































































(あ。)





芥川先輩を自分から引き剥がした先輩は、すぐに次にやるべきことを見つけたらしく、



コートの隅に置かれたボールが山済みになって入っている籠へと手を伸ばしていた。






「あ!長太郎。手離しなさい!」


「いえ、でも重そうですし」






細い。



ボールの入った籠を持とうとするその手



そんな姿を見てつい手を貸したくなる。



俺は先輩の持っていた籠を奪って代わりに持ち上げた。



聞こえてきた声までも綺麗すぎて儚く。



側にいないと



見ていないと



あなたは消えてしまいそうだから。






「大丈夫だから、長太郎。あたしの仕事。」


「でも・・・」


「長太郎があたしの仕事取っちゃったらあたしがみんなの側にいる必要なくなっちゃうでしょ?」


「・・・・」






あなたは確かに儚いが



凛とした存在感。



だから俺は手を離すしかなかった。



だから俺は







「よしっ長太郎。宍戸のところに行っておいで!練習!練習!!」






目を奪われるしかなかった。



色素の薄い髪を一つに縛った髪が揺れていた。



俺に背を向け



細い手でボールの籠を運んでいく先輩。



髪が光に透ける。



側にいないと



見ていないと



あなたは消えてしまいそうだから。



だから
















(俺のものになったらいいのに。)
















側にいてあなたを見ていられるよう。






「長太郎ー!」






遠くで宍戸さんが俺を呼んでるのが聞こえた。



そちらへ走り出そうとした俺の目に映った先輩



太陽に透けて



風が吹けば



空の青に溶けてしまいそうな



その儚さに心奪われて。



ゆう先輩は、










































































































































消えてしまいそうだった。



















































































































































「長太郎?」


「・・・・」






俺が走り出したのは宍戸先輩のもとではなく先輩のもと



あなたの手を掴むため



あなたが



消えてしまわないように。





「どうしたの?」


「あっ・・・いえ・・・」





細く



儚くもろく。



でも



確かにあなたは儚いが



凛とした存在感。



・・・・・・でもやはり、側にいないと



見ていないと



あなたは消えてしまいそうだから。






「長太郎?あたしボール持って行かなきゃ」


「・・・・」


「?」






大切な理由が欠けている。






「あの、先輩」


「ん?」






大切な。






「今日一緒に帰りませんか?」






側にいたいと



見ていたいと



その儚さに心奪われ



そう思うのは、あなたが消えてしまいそうだからではない。


















あなたが好きだから。














俺があなたのものになったらいいのに





(守るから)





その儚さに消えてしまわないよう






「あの・・・あのね長太郎」


「はい」


「一緒にってみんな一緒にでもいい?」


「みんな?」






・・・・・・・・・・俺は、





(・・・・睨まれてる!!)





跡部先輩、忍足先輩、向日先輩、芥川先輩、それから宍戸さんまでも。





「あの、みんなって・・・」


「景吾。忍足。岳人。ジローちゃん。亮。」





この儚さを守ろうとするのは



みんな一緒だった。



先輩達の視線はいまだに先輩の手を掴む俺の手に刺さっていた。






(あなたが俺のものだったらいのに。)






俺があなたのものだったらいいのに。





「あのね、でも明日は誰とも帰る約束してないから。」


「え?」


「だから、明日は2人で帰ろうか、長太郎。」





そしたらきっと。


















今日も2人だけで帰れたのに。
















「あのっ先輩!それってっ・・・・」


「いつまでの手握ってんだ?あ?鳳。」


「って!」





俺の手は跡部先輩の手により思いっきりはたかれる。



いつの間にか俺と先輩の周りは例の先輩方に囲まれていた。





。鳳と何のお話しとったん?」


「内緒!ねぇ長太郎!!」」


「あっこら!!!」





向日先輩の声を振り切って俺の手をそっとほどいて、先輩達の円から抜け出した先輩。








「さあ!練習!練習!!」







太陽に透けて



風が吹けば



空の青に溶けてしまいそうな



その儚さに心奪われて。







「・・・・・・・・・・長太郎。」


「はい?」


「破滅への輪舞曲とヒグマ落とし。どっちがいい?」


「え?何がですか、宍戸さん。」


「仕方ねえな。選ばせてやるよ」


「え?跡部先輩?何の話ですか?!」


「そんなん決まっとるやん。なあ岳人?」








この日俺は今までにないハードな練習を受ける。



ちくちくと先輩達の視線を受け。






「がんばれ!長太郎!!」






そんな綺麗過ぎて儚い声援を



先輩から受けるたびにまた痛すぎる視線を受け。






(・・・・・・・俺があなたのものになればいいのに。)






あなたを守るのは俺だけでいいから。



あなたが俺のものになればいいのに。



そしたらあなたが消えたりしないように



ずっと側にいるのに。



そう思う俺の敵、

















「俺様の美技に酔いな!!」


「やれ!跡部!!鳳をコテンパンに!!」


「岳人。そんなん言うたら鳳かわいそうやで?もっとこう遠まわしに。」


「いっけー!跡部!!鳳を再起不能に!!」


「・・・ジロー。忍足の話聞いてなかったのか?・・・・・がんばれ長太郎!!返せるぞ!!」


「「「うわー宍戸。結局鳳の応援かよ!!」」」






















































・・・・・・・儚さだけでは、ないようだ。

















































End.