深い海の底?
絶えない風の行き先?
広がり続ける空?
どこまで落ちてる?
あなたに。
『星屑が咲くとき』
「、。」
貴方は私を呼ぶとき私の名前を必ず二回繰り返す。
「何?キヨ。」
「明日暇?」
「暇・・・だけど」
「遊ぼうよ!二人で!!」
貴方の笑顔、私には毒。
体中が痛い。
痛い。痛い。
「・・・いいよ」
「じゃあ明日!駅前で!詳しくはメールするね。」
あまり乗り気ではない私の返事。
知ってか知らずか。
笑顔をくれるキヨ。
痛いよ。
痛い。
体中が麻痺して私はしばらく動けない。
貴方の笑顔、私には毒。
「、。」
貴方は私を呼ぶとき私の名前を必ず二回繰り返す。
キヨと遊ぶときはいろんなところへ行く。
キヨが連れて行ってくれる。
約束の今日は映画に行った。
「、。この映画まだ見てないよね?が見たいって言ってた映画。」
「・・・うん見てない。」
キヨは私が話したことをよく覚えてる。
欲しいって言ってたもの。
見たいって言ってたもの。
その映画は古いヨーロッパの綺麗な綺麗な恋の話。
映画の途中で隣にいたキヨが私の手を握ってきた。
そっと見たキヨの横顔。
キヨは真剣な目で映画を見ていた。
「・・・、。笑いすぎだよ。」
「だって・・・っ」
小刻みに揺れる私の肩。
キヨが映画を見て泣いていたからだ。
「キヨでも映画に感動して泣くんだね」
「・・・それ、バカにしてるでしょ」
2人で映画館をでて歩いた。あてもなく。
気になったお店があったらはいるようにして。
「、。あれ映画に出てきたネックレスに似てない?」
「・・ホントだ」
綺麗な綺麗な恋の話で主人公が最愛の恋人の女性に送ったネックレス。
あるお店の前で止まったキヨが
その店のショーウィンドウに飾られた、映画にでてきたネックレスそっくりなものを見つけた。
「ちょっと待ってて!!」
そう言ってお店に入っていったキヨ。
お店の外で残された私。
キヨと出かけるのは好き。
楽しい。
でも、キヨとでかけるのはつらい。
「待たせてごめん!」
お店から出てきたキヨ。
キヨはいつだって私に笑いかけてくれる。
私はその度に体がしびれる。
「ううん」
「行こっか」
歩く、君と。
笑う、君が。
しびれる、この体が。
君が呼ぶ、私の名前。
二回繰り返して。
「、。そこの公園よろうよ。」
通りかかった公園のベンチ。
キヨが見つけて二人で座った。
「面白かったよね、あの映画」
「泣いちゃうくらい?」
「・・・?」
「・・・おもしろかったね。」
キヨはいつも突然私を誘う。
私がキヨのこと考えてるときに誘う。
毒のまわりきった私を誘う。
「あの映画ね」
「うん」
「主人公が・・・」
主人公が最愛の恋人の女性の名前を二回繰り返して呼ぶの。
「?何?」
「・・・なんでもない。」
「気になるよ!!」
気付いた?キヨ。
キヨと同じくせをもった主人公。
だから私はあの映画が見たかった。
私達は恋人じゃないけれど。
「、。俺ねさっきのネックレス買っちゃたんだ!にあげる!!」
笑顔でそう言うキヨ。
ネックレスの入った袋を開けて
しびれた私の首にキヨがネックレスをかけてくれた。
「似合うよ、」
「・・・ありがとう」
痛い、痛い。
完全に毒の回った私の体。
私達は恋人じゃない。
あの綺麗な綺麗な恋の話の映画のようにはなれない。
キヨと2人きりで遊んだことのある子は私だけじゃない。
たくさんいるんだ。
痛い。痛い。
「、。家まで送るよ。」
貴方の笑顔、私には毒。
キヨはいつも突然私を誘う。
私がキヨのこと考えてるときに誘う。
毒のまわりきった私を誘う。
「おやすみ、」
夜空に星屑が咲き始めた頃。
キヨが私を家に送り届け終える。
私の首にはキヨがくれたネックレス。
キヨと出かけるのは好き。
楽しい。
でも、キヨとでかけるのはつらい。
「、。また遊ぼうね」
綺麗な綺麗なあの映画のように
貴方は私の名前を二回繰り返す。
星屑がキヨと私を別々の場所へ帰らせる。
「またね、キヨ」
綺麗な綺麗なあの映画はフィルムの中でしかない。
けれど今日の一日はせめて、
私とキヨが目に映った周りの人には
あの映画の中の恋人のように見えただろうか。
毒のまわったこのしびれた体で
貴方といた日に咲いた星屑の中。
貴方を想うとき、
私の頬は静かに濡れる。
end.