好きな人がいた。




ただ、それだけだった。


























『居場所』




























朝の部活が終わってすぐ



少しでも会いたくて走って向かう、いつもの場所。



廊下で見つけたその姿。





先輩!」


「おはよう、赤也」





その声は心地いい。





「今日はバス寝過ごさないで降りれた?」


「大丈夫っす!今日はちゃんと部活間に合いましたよ」


「えらいえらい」





その笑顔は優しい。





「でもここにいたら授業間に合わなくなるよ?」


「あっ。」


「ほら、赤也。」





その目は真っ直ぐで。





先輩!あのっ・・・・」


「ん?」


「今日昼飯一緒に食べましょ?」





その人は









「うん。いいよ」









俺の好きな人だった。






。」


「あっ。おはよう、ブン太。仁王。」


「ん?赤也、お前さんの教室は二棟じゃろ?」


「もう時間やばいぜぃ?」


「・・・・・・・・・・わかってますよ!」






ただ、先輩の近くにはいつも誰かがいる。



それは俺じゃないことが多く。



立海では2年生と3年生の教室棟が別にあって



俺は3年が使ってる棟まで行かないと先輩に会えない。





(・・・・ちくしょう)





仁王先輩とブン太さんに促されて向かった自分のクラス。



走り出した廊下。



振り返ると、ちょうど先輩と仁王先輩とブン太さんが同じ教室へと入っていく姿が見えた。



先輩が見えなくなったその場で俺は足を止める。





(・・・・・・・・・・・・・・・・・)





好きな人がいた。



でもその人の側にはいつも誰かがいた。



俺ではない誰かが。





<キーンコーン・・・>





「うをっ!遅刻!!」





いつもどこかで



叶わないと知っていた想いだった。



































































































































































































































































昼休みに入る一つ前の授業は体育。



その日はひたすらグラウンドを走らされた。



長距離の記録をとるとかなんとかで。



夏の日ざし。



暑い中で部活以外で走らされるのは癪だった。





「腹減った。」


「暑い。」


「あとどれくらい?」


「4周だろ?」


「げっ!切原ー。俺たちの分まで走ってくれよ」


「絶対嫌だ。」


「ケチー。腹減ったー。暑いー。死ぬー。」


「こらそこ!しっかり走れ!」





そうやる気もないクラスの仲間内で



教師に注意を受けながらも適当に文句をたれながら走る。



ふと見上げた校舎。





(・・・・・・・あ。)





「切原ー?先行っちゃうぞ?」


「・・・・・・・・・・・」





そこは確か図書館。



窓際で座る先輩を見つけ



俺は足を止め。






(・・・・・・・こっち見ねえかな。)






「おいっ切原!止まるな!走れ!!・・・・・切原ー!」





その横顔は綺麗で。



視線を下へ落としている先輩。



・・・・・・・気付いて欲しい。



そう思って先輩を見続ける。



俺、ここにいるよ?





「切原!」


「・・・・へーい」





教師の声にいい加減足を動かそうと思い、



再びグラウンドの周りを走り始める。



もう一周、校舎を見上げれば図書館にいる先輩が見えるところまで



再び来たとき。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・切原?おいっいい加減にしないと本気で怒鳴られるぜ?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





例えば、ブン太さん。





「切原ー!」





図書館にいる先輩は



視線を目の前にいるブン太さんに向け、笑っていた。



ブン太さんはモテる。



俺もおもしろい先輩だと思うし。



そう例えばブン太さん。



先輩の好きな人。



きっとなくはない。





(・・・・・気付いてよ)





きっと俺がここにいることに気付いてくれたなら



あなたは俺にだって笑って手を振ってくれる。





「切原!あとで体育科に来い」


「・・・・・・・げ。」





その授業中。



ブン太さんと先輩はずっと一緒に図書館にいた。



その後俺はさらに10周追加で走らされ、



体育科の教師にお説教を受けた。



ねえ、先輩知ってますか?




「大体切原!お前は集中力がなぁ・・・・」




俺の教室にいるでしょ。



まず俺の教室のドアを開けるでしょ。



廊下渡って階段上って、



それからまた廊下を渡って、



もう一回階段。



それでやっとあんたに会える。



普通、3年の教室棟に2年がいるなんて不自然だけど先輩は理由も聞かずに



会いに行けば笑ってくれる。



笑って「赤也」と呼ぶその瞬間が大好きで。





「切原!聞いてるのか!!」


「すみません、先生!昼なんで!!じゃっ!」


「あっこら!」





隔てられた距離は長い。



長い、長い、長い。



先輩に会いに行くまでにかかる時間は



長い、長い、長い。



それでも会いたいから会いに行く。





先輩!すみません!遅くなってっ・・・・・!!」


「赤也!ううん。大丈夫。」


「赤也。俺も一緒させて。」


「・・・・・・いいっすよ」





例えば仁王先輩。





の奴な。赤也が来るまで弁当我慢しとったよ」


「仁王!勝手にそういうこと言わないの!」


「くくっ・・・・いいじゃろ?別に」





先輩が好きな人。



なくはない。



急いで購買で買ってきたパンを持って向かった先輩の教室。



教室の席を動かして



向かい合うように先輩と一緒にいたのは仁王先輩だった。



先輩に促されて俺はその隣に座る。





「赤也。今日パンなの?」


「えっあっはい。」


「足りる?」


「・・・・なんとか」


「あたしのお弁当わけよっか?」





説教なんてものを受けていたせいで



ろくにパンが残っていなかった購買。



俺の昼が少ないと思ってくれたのか。



先輩がそう提案してくれた。





。俺には?」


「仁王はパンたくさん買ってきたでしょ?」


「ケチ。」


「・・・・・赤也。大変だよねこんな先輩のいる部活。」


「俺は赤也をかわいがっとるよ。な、赤也。」


「・・・仁王先輩の愛情表現わからないっすよ」


「赤也!どれ食べたい?」





その声は心地いい。



その笑顔は優しい。



その目はまっすぐで。



そのトナリは幸せで。





「・・・・ありがとう、ございます。」





その人は俺の好きな人だった。



けれど、近くにはいられない。



遠いんだ。



好きでも、遠くて。



会いに行くにはもどかしい。



側にいられない。



だから、俺じゃない人たちが先輩の側にいる。





「赤也?」


「・・・・・うまいっすね!これ。」


「ホント?」


「ごちそうさまです、先輩。」





俺じゃ、ない人。









































































































































































































































































































































会いたいと思うだけで、会えるなら思う。



会いたい。



会いたい、会いたい、会いたい。





「よお、サボり?」


「ブン太さん。」





でも、会えない。



授業中の屋上で仰向けに寝転ぶ俺。



近づいてきて俺の顔を覗き込んだのはブン太さん。





「仁王から聞いたぜぃ。昼はと赤也と3人で食ったって。・・・変な組み合わせ。」


「・・・・・・そう言えば変っすね。」





ブン太さんが俺の隣に腰を下ろす。



見上げる空は青く。



太陽はまぶしい。





「・・・・・・・・・・・・好きなのか?」


「え・・・・・」


のこと。」





ブン太さんのうしろに見えた空は青く。



その目は、真剣に見えて。





「・・・・なんでそんなこと聞くんすか」


「・・・・・・・・・・俺が好きだから。」


「俺のことがっすか?」


「キモっ!のことがだろぃ!!」





・・・・遠いよ、先輩。



遠くて、会いたいと思っても





「・・・へぇ。」


「俺って、お前。聞くなよ!んなわけねえ!!」


「俺、応援しますよ。ブン太さん。」





会えない。





「・・・・・お前は、違うんだな。」





例えば俺。



先輩と同じ年に生まれてたらよかった。



仁王先輩やブン太さんみたいに同じクラスで。



そしたら



俺の教室にいるでしょ。



まず俺の教室のドアを開けるでしょ。



廊下渡って階段上って、



それからまた廊下を渡って、



もう一回階段。



そんな過程飛び越えてあんたに会えたんだ。






「応援。しますよ、ブン太さん。」






きっともっと早くに会えたんだ。



その声に会えたんだ。



その笑顔に会えたんだ。



そのトナリにいられたんだ。





「・・・・なあ赤也。」


「はい?」



「それじゃあ早速協力してくれぃ!!」









































































































































































































































































湿っぽい空気。



ほこりくさい部屋。





「赤也?」


先輩。こんなところでサボるんすね。」


「なんでここ・・・」





社会科資料室。



授業で使う大きな地図とか資料がおかれた場所。



ブン太さんから聞いたのは



今、俺たちがさぼっていた授業の時間。



先輩はここで場所でさぼっているのだと。





「・・・・・いいサボり場所っすね」


「人来ないから。・・・・屋上とかはサボり仲間と会っちゃうでしょ?サボるなら見つからないほうがいいなって」


「それ先輩のサボるときの鉄則?」


「ははっ・・・そんな大げさじゃないよ赤也。」





会いたいと思うだけで会えるなら思うよ。



何度だって、思うよ。



あんたが俺のこと好きになってくれるまで会いに行くよ。



何度だって思うだけで会えるなら。



でも、





「あの、先輩。放課後予定は?」


「ん?特にないよ」


「今日、俺たち部活自主練で遅れていっても平気なんです。ちょっと教室で待っててくれません?」





遠いよ。



会いに行くまで。



長いよ。



会えるまで。



隔てるものは



時間と距離と。



だって俺じゃない。



いつでも先輩のトナリにいるのは俺じゃない。



ねえ、だから。






「うん。放課後待ってるね。」






俺じゃない人と幸せになることに決まっても



お願いだから変わらずその笑顔を向けてて。



それだけでいいから。



そしたら、忘れてみせるよ。



願ってみせるよ。



会いたいじゃなくて、



幸せにと。



幸せに、と。











































「あれ?ブン太。」


「よっ。」


























































放課後。



俺は先輩の教室の外にいた。



先輩がそこで待っていてくれるか、確認したかっただけ。



俺に先輩を呼び出すように言ったのはまぎれもなくブン太さん。





「俺、お前に話があって・・・・・・」





そこまで聞いて、



俺は屋上に向かった。



それ以上、聞くこともないだろうと思って。



きっと先輩はブン太さんの言葉にうなづくのだろうと。



だって、



ブン太さんなら先輩の側にいられる。





「呼び出すくらい自分でやってほしいよな・・・たくっ・・・・・」





今日の部活は自主練。



少しくらい遅れても大丈夫。



屋上は無風。



少しも俺の側にいてくれようとするものなんかない。







「・・・なんだよ、冷てぇな・・・・・ははっ・・・・・」






空は青く。



太陽はまぶしく。



そうだよ、わかっていた。



わかってはいたんだ。



















あんたの中に俺の居場所など初めからなく。
















それでも



バカみたいに会いたくて。



だって。



あんたのトナリは幸せ。









































































































































































































あんたは俺の幸せ。




































































































































































































「・・・・・・う・・・・っ・・・」





消えろ、涙。



みっともない。



悲しくない。



悲しくなんかない。



わかってたんだ。



いつもどこかで



叶わないと知っていた想いだった。



側にいるには遠い俺を



あんたが










好きになることはないだろう。









「・・・うまくいったかな、あの2人・・・・・」








<ガチャっ>








「(!!)」







その音は屋上の扉が開いた音で。








































































































































「本当だ。赤也がいる」



先輩・・・・・」























































































































その姿はまぎれもなくあなたで。



俺は急いで目元の涙を拭く。



なんでここに・・・。



ブン太さんは?



そんな思いを抱いていると



先輩は俺の側までやってきた。





「ブン太が言ったの。赤也が屋上にいるからって」


「・・・・・・いるから?」


「・・・・・・・・・行ってこいって」


「え?」





話が読めない。



ただ相変わらずの優しい笑顔を先輩は俺に向け。





「赤也。」


「っ・・・・!」


「泣いてたの?」





その手が俺の目元に触れて。



俺はまた泣きそうになる。



わからない。



なんでここに先輩がいるんだよ。



なんで・・・・



そんなに耳に残る声なんだよ。



優しいんだよ。



なんでこんなに好きなんだよ。



なんで、なんで・・・・・





















こんなに会いたかったんだよ。

















「・・・・ブン太から聞いたの。」


「・・・・何を?」


「・・・あたしと赤也は両思いなんだって。」


「・・・・え・・・・・・」


「あいつ、何かに引け目を感じてるみたいだからお前が会いにいてやってくれって。」


「・・・・・・・・・・・・・・」


「赤也。あたし今怖いよ。・・・・・・・・・ブン太の言葉は、本当?」




















なんで。



こらえていたものは



あんたが好きだから止まらなくて。






「・・・・・・俺、もっと早く生まれてたらよかった。」






かっこわりぃ・・・・。



声が、震えて。






「ブン太さんとか仁王先輩みたいにいつも側にいられればいいのに・・・・・・」


「・・・・・・赤也・・・」


「好きだよ。・・・・・好き、先輩・・・・・・いつも会いたくて、いつも想ってる」






先輩の目が涙目で。



好きで好きで好きで。



どうしようもなくて。



引き寄せて抱きしめる。





「俺・・・側にいられないよ・・・・・学年もクラスも違う」


「赤也・・・」


「だから・・・・・・・」





俺じゃない誰かが先輩といる時間。



そんなの嫌だ。





















「ねえ赤也。それでも側にいて欲しいのは赤也だけだよ」


















好きで。



好きで好きで好きで。



こんな



どうしようもないほど



先輩が好きで。









「赤也?また泣いてる」


「・・・・・・しょうがないんすよ・・・・・」


「・・・・・あたしも泣きそうだけど」







だって、



うれしいんだ。












あんたの中に俺の居場所があること。











うれしいんだ。







「あたし赤也が3年の棟に来てくれるのいつも待ってたんだよ。」






こんなどうしようもない想いが。



会いたいと。



同じ想いでいたことが。





































































































「あ?あんなの嘘に決まってんだろぃ。」


「・・・・・・・・」


「俺はほっとけって言ったんじゃが、ブン太がじれったい、じれったい言うから」


「仁王が作戦立てたんだぜぃ!あとは俺の天才的演技力で!!」





ブン太さんが先輩を好きだといったのは嘘だった。



俺の気持ちに気付いてて



先輩の想いにまで気付いていた仁王先輩とブン太さん。






「・・・・それなら直接俺の背中押してくれればよかったじゃないっすか。」


「だから俺は赤也をかわいがっとるって言ったじゃろ」


「そんな愛情表現いらないっす!」


「くくっ・・・・ほら、赤也。」






部活が終わったコートの上で、



仁王先輩が視線で俺に指し示す。










「お待ちかねじゃよ、彼女さんが。」









がらにもなく



お礼を言おうと思っていたけど、



先輩達のその不敵な笑みに、そんなものはキモいと教えられ



俺はぺこっと2人に頭をさげてコートをあとにした。












先輩!」


「帰ろ、赤也。」













いつだってバカみたいに会いたくて。



だって



あんたのトナリは幸せ。
























































































































































あんたは俺の、幸せ。




















































End.