糸は
絡まり、ほどけず、
もどかしい。
「痛っ!」
「清純?何してるの?」
「えっと・・・・失敗?」
『糸絡み』
は山吹テニス部マネージャー。
部活が終わって、
部室に残りイスに座るのはと俺の2人だけだった。
の右手には糸の通った針。
左手には・・・・血染めのジャージ。
「無理はすることないんじゃない?」
「いやーの役に立とうと思って。」
「ふーん。役にね・・・・。」
「・・・・・。」
俺の左手の指は五本ともバンソウコウだらけ。
ジャージが破けて縫おうとしただけなんだけど・・・・。
「裁縫って難しいね。」
「・・・・そう?」
は器用な手先で俺のジャージの破けた部分を縫っていく。
こうしてが何度か裁縫をしているのを見てて
簡単そうかなとか思って、やってみた。
俺の持つ針はジャージを通過し指も刺す。
血染めジャージの出来上がり。
(痛いです)
何度やっても俺が縫おうとすると糸が絡まる。
は一度俺が絡ませた糸を切って新しい糸にして縫い始めた。
器用なの手。
「・・・・裁縫できる男っていいと思わない?」
「裁縫?」
「そ。家庭的でさ。」
君に迷惑かけるより、君みたいな器用な手先で。
「・・・・・便利だとは思うけど。」
「便利?!」
「便利。」
が切り離した絡まった糸。
・・・俺のへの想いみたいだ。
糸は
絡まり、ほどけず、
もどかしい。
絡まっていて先端がどこかすら分からないから
何から伝えればいいか分からない。
には迷惑かけないで、たまには自分で。
そう思ったからやろうとしたんだよ。
破けたジャージの穴ふさぎ。
「じゃあさ。料理とかは?出来る男のほうがいいんじゃない?」
「便利だとは思うけど」
「・・・・」
俺は何が聞きたいんだろ?
何から伝えればいいか分からなくて、いつもから回ってる気がする。
「だって清純はどっちもできないでしょ?」
糸は
からまり、ほどけず、
もどかしいばかりなのに。
そうやって俺をうぬぼれさせるのはいつも。
「あたしがやるから出来なくてもいいよ」
何から伝えればいい?
はこっちを見ることなく針を動かす手を止めない。
絡まってる俺の中の糸。
ほつれているわけでもなく
穴が開いているわけでもない。
ただ、糸が絡まってる。
先端がどこか分からない。
何から伝えればいい?
「出来たよ、清純。」
俺をうぬぼれさせるのは、
いつだって君。
「・・・はいいお嫁さんになるよね!」
「そう?」
が俺のジャージを綺麗にたたんで、
部室内の机の上に置く。
「合宿でご飯作ってもらった時もおいしかったし、裁縫も上手だし、手先だって器用でしょ?」
絡まる糸。
少しずつほどいて辿って、
それでも先端は見つからない。
何から伝えればいい?
「・・・・・」
全部わかって。
絡まる糸。
うぬぼれる気持ち。
「俺と・・・お付き合いを前提に結婚してください!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?
あれ?
「・・・・・あれ?」
「・・・・結婚するの?」
「それもありだよね・・・」
じゃなくて!!
「えっと俺と結婚を前提にお付き合いを・・・・」
「・・・・・・・いいよ、結婚。」
「え?」
「清純ができないこと、あたしがしてあげるし。」
うぬぼれて、当然。
が赤くなって言うから。
君が俺をうぬぼれさせるから、糸は絡まったまま。
先端も、始まりがいつかも分からない、
絡まり、
ほどけない、
糸。
何から伝えればいい?
「」
全部分かって。
絡まる糸。
うぬぼれる気持ち。
「ん・・・・」
交わすキス。
「誓いのキスだね」
そう言って笑うが俺をうぬぼれさせるから
糸は
絡まり、
ほどけず、
なのに、
もどかしさの、カケラもない。
End.