「亮ちゃん!絶対絶対また会おうね!」


「・・・・・」


「・・・・・・ばいばい。」






ガキの頃



好きで好きで仕方なかった奴がいた。



ガキなりの精一杯の恋だった。

























そいつが遠くへ引っ越してしまうと知るまでは。





























『邂逅』































再会は時として突然に。






「亮ちゃん!会いたかった!!」


「なんや、探してる人って宍戸のことかいな。」


「忍足君、亮ちゃんと知り合いなの?」


「おんなじ部活。テニス部やで。」






廊下の向こう側から忍足と隣にもう一人。



俺の名前を呼んだそいつはまぎれもなく



だった。






「宍戸ー。こんなかわいい子知り合いなら紹介してくれんと。」


「亮ちゃん。久しぶり!元気だった?」


「・・・・」






忍足とは俺に笑って話しかける。



なんで。



なんでここにいるんだよ、






「亮ちゃん?」


「・・・・お前、誰だよ。」


「え?」


「お前なんか知らない。」


「ちょっ!待てえや宍戸!ちゃん今日うちのクラス転校してきてん!幼馴染がここにいるはずだってお前のこと探してたんやで?」








会いたくなかった。







「・・・・人違いだろ。」


「亮ちゃん!!」







昔と変わらないその呼び方。



背中でうけとめながら、振り向かない。



忍足は何も言わない。



俺は2人から離れて、自分の教室へ戻った。




















・・・あの時と同じだ。


































































思っていることをいつもなかなか口にできなくて



泣いていた。



どうすることもできずに、ただ自分の言いたいことをわかってくれと心の声を内側で叫ぶだけ。



なんで誰もわかってくれないのかといつも泣いていたガキの頃。






「亮ちゃん、どうしたの?」


「・・・・」


「言ってくれなくちゃ分からないよ。」






俺よりずっとしっかりしていたは俺にとって同い年でも姉みたいなもんだった。



は言葉が苦手な俺のことをいつも必死で分かろうとしてくれた。



伝えることの大切さを教えてくれた。









ガキの頃。



好きで好きで仕方なかった奴がいた。



ガキなりの精一杯の恋だった。
























「亮ちゃん、あのね。あたしお引越しするんだって。」


「お引越し?」


「遠くに行っちゃうの。亮ちゃんと会えなくなるの。」


、いなくなっちゃうのかよ?」


「・・・・うん。もうじきばいばい。」
















必死だった。



ガキなりの精一杯の恋だった。



どうすればはいなくならないのか考えたけど、わからなくて。



別れを言うのが怖くて、言えばもう会えなくなる気がして



との別れの日、俺はに何も言うことが出来なかった。






















































忘れることが罰だった。


















































































「宍戸。」


「何だよ。」


「お前ホントは知っとるやろ、ちゃんのこと。人違いちゃうやろ?」






部活が始まる前の部室。



偶然忍足と俺の2人だけになった。






「お前、ちゃんが好きなんとちゃうん?昔も今も」


「・・・・うるせぇよ」






忘れることが罰だった。



あの日、伝えたいことがあったのに



ちゃんとを見送りに行ったのに



何にも言うことが出来なかった俺への戒め。






「・・・・・」


「お前が人違いや言うんなら、俺がちゃん狙っても文句ないな?」


「・・・忍足、てめぇ・・・」






本当は会いたくなかったんじゃなくて会えなかっただけだ。



ガキの頃の自分が情けなくて。






「・・・・ちゃんが何て言ったか聞こえへんかったん?」


「・・・・・・・」


「お前がなんで知らないふりするのか知らんけどな。ちゃんはお前に会ったとき会いたかったって言うてたやん。」






忍足がその言葉を残して部室をあとにした。




















「・・・・・。」
















忘れることが罰だった。



俺の中にあるとの記憶が入ったビンにきつく蓋をして。








ガキの頃



好きで好きで仕方なかった奴がいた。



ガキなりの精一杯の恋だった。



必死だった。



いなくなることが悲しくて、悔しくて。









あの日、伝えたいことがあったのに言えなくて。



泣くのをこらえるのに精一杯で。



情けない俺。






忘れることが罰だった。






好きで好きで仕方なかったをビンの中に閉じ込めることが罰だった。




























































「・・・・・亮ちゃん!」


「(・・・・)」






部活が終わって帰り道をたどろうとした時。



背中に受け止めた昔と変わらない呼び方。






「あっあの・・・一緒に帰ってもいい?」


「・・・・・・・別に・・・」






とまどう。



さっき人違いだとまで言った俺。



はどんな思いで話しかけてくれたのか。






「ここの空き地。家建っちゃったんだね。あたしここで遊ぶの好きだったのになぁ。」

「・・・・・」


「あたしまた同じ家に住むの。亮ちゃんのお隣さん!亮ちゃんの家に挨拶に行ったらおばさんが亮ちゃんも氷帝だって教えてくれたから、あたしうれしかった!」






ただでさえ遠く離れた二人。



時間は残酷に二人をさらに遠ざけた。



も俺も変わった。



ガキの頃のあどけなさはないし、背も俺のほうが伸びたし。



声も話し方も。






「ね?覚えてる?ここに小さな公園があってかくれんぼはいつもここだったよね。」


「(は滑り台の裏。俺は木の陰。隠れる場所も決まってたよな。)・・・・・」


「・・・公園もなくなっちゃったね。」


「・・・・・」






風景は変わって俺たちも変わって。



それでも、変わらないものを見つけた。






「・・・亮ちゃん、あたしのこと覚えてないの?みんな忘れちゃった?」


「・・・・・・・」






がする思い出話は俺の中で鮮明で。



思い出すことは簡単だった。






「・・・・・忘れてなんかねえよ。」





























































はあの時と変わらない笑顔を俺に見せてくれたから。














































「・・・・亮ちゃん。」


「向こう側の家の裏にも公園があって、そこは鬼ごっこ専用だろ?・・・・俺がいつも鬼でよ。」


「・・・・泣いてたね。もう嫌だーって」


「そこは思い出すなよ。」


「強くなったね、亮ちゃん。」





























忘れることが罰だった。






「亮ちゃん!絶対絶対また会おうね!」


「・・・・・」


「・・・・・・ばいばい。」






あの日、さよならを言いたかった。



また会おうなって言いたかった。



泣かないで笑って



手を振って見送って。



必ずまた会えるからって言いたかった。

















































言えなかった。





















































ガキの頃



好きで好きで仕方なかった奴がいた。



ガキなりの精一杯の恋だった。



必死だった。



昔も今も。

























。」


「何?亮ちゃん」


「・・・会いたかった。」


























の笑顔ともう一つ、変わらなかったもの。



ガキなりの精一杯の恋は



いまだに、ずっと。



朽ちることはなかった。



変わることなんてなかった。


















「あたしも。あたしも会いたかったよ!亮ちゃん!」


「・・・今日初めに会った時に聞いた。」


「人違いだって言ったくせに。」


「あーわりぃ・・・」






忘れることが罰だった。



きつくしまっていたはずのビンの蓋は



に会ってから緩みだし、もう蓋すら消えてしまった。






「俺、が行っちまう日に何も言えなかったからよ・・・」


「・・・・・」






変わったものもがたくさんある。






「・・・亮ちゃんは強くなったよね!会いたかったって言ってくれてうれしかった!!」


「・・・・・・。」






でも、変わらないものがあったのも事実だ。
















































そう言えば、



もう一つ、に伝えてないことがある。















































「・・・俺さ昔からのこと・・・・」











































ガキの頃



好きで好きで仕方なかった奴がいた。



ガキなりの精一杯の恋だった。



必死だった。



昔も今も。
























































































これは変わらない想いだったから。






































end.