「あれ?隣若なんだ!!」



「・・・・・・・・・」



「隣の席、初めてだね!!」

















当たり前のように、いつも傍にあるもの。







































『懐中懐古』




































今日のHRは突然の席替えから始まった。



俺のクラスで席替えがあるのは、大抵は担任の気まぐれ。



一度席替えをしてから、次の席替えまでの期間の長さはばらばら。



前回の席替えは確か一ヶ月前だった。






「若、久しぶりに話すね」


「・・・・お前はいつも勝手に話しかけて勝手に消えるだろ。」


「うれしいなぁ、若の隣。」


「・・・聞けよ。」






中等部になってずっと同じクラスだった俺の幼馴染。



初めて隣の席になったのは、二年の春の終わりだった。














「おはよう、若!!」



「・・・おはよう・・・・ってそれどうした?」



「今朝学校に来るときに軽く車に轢かれかけて!」



「・・・・・・・・・」












朝、部活が終わって教室に来ると、俺の隣の席の奴は、



膝の部分にバンソウコウを大量に貼っていた。



笑顔で俺に何があったかを話す俺の幼馴染。





「・・・・。」


「ん?」


「嘘だろ。」


「・・・・・・・ばれたか。転んだだけ。」





俺はの隣のイスを引いて、自分の席に座る。



ちなみに俺の席は、一番後ろで窓際。



教室には、部活の朝練を終えたクラスメイトが続々と入ってきていた。



は俺に笑うと、俺はから目をそらして溜息をつく。





「すぐに治るからいいんだけどね。」


「お前まだ嘘つくくせ直ってないのかよ。」


「安心して。若限定だよ。」


「・・・・たちが悪い。」


「・・・・ひどい。若・・・・。小さい頃はあんなにあたしの嘘を信じてくれたのに・・・・っ・・・・」





突然俺の顔を両手で覆い、肩を震わせ始める





「・・・・・・・・泣きまねならたくさんだ。」


「・・・なんだよ、若。あのかわいげはどこに消えちゃったの?」


「・・・・・・・・・・・・・・・」





さっきまでの様子とは打って変わって、



さもおもしろくなさそうな顔で頬杖ついてが俺を見ていた。



幼馴染と言うのは、実に厄介だと思う。



本当にガキの頃から、はよく俺に嘘をついた。



は泣いたフリがうまく、俺はよく騙され、困らせられた。



中等部にあがってからは、とはクラスが一緒だったが、だんだんと話す回数は減っていた。



・・・・はすれ違えば俺に挨拶してきたし、俺が1人教室で本を読んでいれば、勝手に話しかけ、勝手に去っていったが。





「ねぇ若。覚えてる?」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「5歳くらいのときかな。」





初めて隣の席になると、が毎日のように俺に話したのは、思い出話。



それはもう、記憶の中で眠っているはずだった思い出したくないものから始まり、



記憶に新しいものまで。





「あの時私ね、若は私が守らなきゃって思ったんだ!!」


「・・・・・・・・・・・・」





実に、厄介だ。














































































































幼馴染なんて。






























































































































































「若!昼学食?ついていっていい?」


「・・・・・。」


「ん?」


「声がでかい。」


「・・・・・・ごめん。・・・ね、ついていっていい?」





俺の声に、一度は落ち込んだように見えた表情は、



すぐにいつもの明るさを取り戻す。



昼休みの廊下。



俺の背中のほうから聞こえたの声に、俺は足を止めた。



振り返るとが俺に笑いかけ。






「・・・・ついてくんなって言っても無駄だろ?」


「さすが、若!幼馴染!!」


「・・・・・・・・・・・・・・・」






・・・・2人一緒が当たり前。



ガキの頃から。



俺がの後をついて歩く毎日は、時が経つにつれてが俺の後ろをついて歩くものに変わり。



いつからか、2人は自分で行く先を選べるようになった。






















「あっ!結構空いてるね!」


「・・・・ああ。」


「若、何食べる?」























珍しく人もまばらな学食。



がメニューを見ながらランチを悩む。



そんなの横顔を見る。





「ん?何、若。」


「・・・・・なんでお前と学食にいるんだ。俺は。」


「・・・・あたしと昼は嫌だって言うの?」


「・・・だから、泣きまねはやめろって。」





すぐに伏せていた顔をあげる



ばれたかと言って笑う。




(・・・ばれるだろ。)




どれだけ傍にいると思ってるんだ。







「あれ?日吉?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「あっ正レギュラーの鳳くんだ!!」


「・・・えっと日吉。・・・その子・・・・・」







鳳が1人で学食に来ていた。



すでに頼み終えたランチをトレーにのせ、席を探そうとしているところだった。



が俺の隣で俺の制服を引っ張る。



鳳の問いに答えろってことらしい。





「・・・・・。クラスメイト。」


「こら、若。ちゃんと幼馴染って言ってよ!」


「あっ幼馴染なんだ。」





鳳の表情が柔らかくなり、トレーを片手で持ち、そっとに手を差し出す。



はその手を見てきょとんと小首をかしげた。





「よろしく。俺は鳳長太郎。」


「知ってるよ!二年でテニス部の正レギュラーだよね!!有名人!!ね、若」


「・・・・・・・・・・・・」


「あっもしよかったら一緒に昼食べようよ、日吉。」





鳳と握手を交わす



鳳の提案にが俺の顔を見てうなずく。



・ ・・ダメだって言っても無駄。



わかっていたから、俺は溜息をついた。



















































「へえ、日吉の家の道場通ってたんだ。」


「そう!若より強いよ。」


「え。」


「・・・・嘘だ、鳳。信じるなよ。」


「若がばらしちゃダメでしょ!!」


「嘘つくのは俺限定じゃなかったのか?」


「・・・・・・・・嘘です。」






あれも嘘か。



俺の隣にが座り、俺の向かいに鳳が座る。



俺との言い合いに鳳の食事の手が止まる。





「若は騙されやすいよね。」


「・・・・嘘をつく奴が悪い。」


「10歳くらいのときだっけ。あたしが青虫はモスラになるんだって言ったら若、泣いたよね。」


「・・・泣いてない。」


「泣いたじゃない。」


「泣いてねぇよ。」


「泣いたでしょ。」


「・・・・・・・・・・・仲いいね、2人。」





俺はと睨みあっていたが鳳に顔を向ける。



鳳は俺の睨みを諸共せず、笑顔だった。



もそんな鳳を真正面から見ていたらしい。



俺の隣で突然両手で顔を覆うと、肩を震わせうつむく。





「えっ・・・さん?」


「・・・そうでもないんだ。鳳君っ・・若、・・・最近冷たいの。」


「ちょっ・・・日吉!!」


「・・・落ち着け、鳳。嘘だ。」


「・・・・・・え?」





俺もよく騙された。



の嘘泣き。



鳳がおろおろするが、俺はトレーにのったお茶を口に含んだ。



嘘だと気付いていたから。





「・・・・だから若がばらしちゃダメでしょ。」


「たちが悪いな、お前は。」


「・・・・・・・・・・・ごめんなさい、鳳君。」





が突然顔をあげ、



膝に手を置いて鳳に頭を下げる。



鳳が驚いた顔から表情を笑顔に変える。



の嘘は不思議だった。





「・・・・・・・・・・・・・・・」





騙されれば、あきれるだけ。



腹が立つことは滅多にない。



しかも、騙すことが悪いとわかっている本人は、



嘘をついて、騙されてくれた奴には、これでもかというほど丁寧に謝る。



真剣に、頭を下げて。



のつく嘘は他愛もないもの。



・・・・たちは悪いが。






「でも若が冷たいのは、本当なんだよ?」


「日吉が?」


「・・・・・・・・・・・・」


「たぶん準レギュラーになったあたりからなんだよね。調子にのってるでしょ、若」


「・・・・・・俺が話さなくてもお前は勝手に話して勝手に消えるだろ。」


「鳳君どう思う?」


「・・・聞けよ。」


「ダメだよ、日吉。冷たくなんてしちゃ。」


「・・・・・・・・・・・・・・」






どうでもいい疎外感に。



別に抵抗を示すわけでもなく。



なかなか話が合うらしい、鳳とは、



この昼休み。



俺のガキの頃の話で盛り上がっていた。



・ ・・やめろといっても無駄なのはわかっていたから、



特に文句は言わなかった。



・ ・・・・・・・・言いたかったが。





























































































































「ねえ、若。覚えてる?」


「・・・・・・・・・・・・」


「あたしが初めて道場で若に勝ったとき。」





2人一緒が当たり前。



一緒に道場で練習して、いつからかは来なくなってしまったが、



それでも幼馴染。



初等部のころは毎日のように話したし、一緒に学校に行ったり、帰ったりした記憶がある。



中等部にあがってからは、たとえ同じクラスでも話す機会は減った。



はすれ違えばあいさつをしてきたし。



俺が1人教室で読書をしてるときは、時折勝手に話しかけて勝手に去って行ったりもした。



初めて隣の席になった今。



毎日のように話はするが、がするのは、いつも思い出話だった。





「・・・・嘘だろ。」


「嘘じゃないよ。若、あたしに3回負けてる。」


「2回だ。」


「3回だよ。」


「2回。」


「4回。」


「・・・・増やすな。」


「・・・ごめんなさい。」





謝って、俺が溜息をつけば、それがが笑う合図だ。



俺があきれることでを許すことを、は知っている。



当たり前のように傍にいたから。



当たり前のようにお互いのことは知っている。







「ねえ、若。じゃあこれは覚えてる?」


「・・・お前さ。」


「ん?」







知っているからこそ、厄介なんだ。











































「よくあきないな。昔話なんて。」



「(?)・・・なんで?楽しいよ?」



「・・・そうかよ。」



「若?」

































































































厄介だ、幼馴染なんて。











































































































































































思い出の中の俺とは、昔のままだ。



一緒にいることは、当たり前でしかない。





「・・・・・・・・・・・・・」


「若?」





俺は放課後までの話しを聞くだけで。



何も答えようとしなかった。





「・・・若、部活でしょ?がんばってね!!」


「・・・・・・・ああ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」





・ ・・・覚えてるよ。



お前がついた嘘も。



俺が泣いたことも。



お前が嘘泣きしたときも。



俺が道場でお前に負けたことも。






「・・・・・・・・。」


「ん?」






お前は。






「・・・・・・・・・・俺が負けたのは2回だ。」


「3回じゃなかったっけ?」


「2回。」






思い出しか話さない。






「・・・・・・・・・・・ごめんなさい。」






部活に向かう俺の背中のほうからのそんな声が聞こえた。






































































































































































































































































































「おはよう、若!」



「・・・おはよう・・・・ってそれどうした?」



「朝転んじゃって!」



「・・・・・・・・・」





朝の部活が終わり。



いつものように生徒が集まり、騒ぎ始めた教室。



の膝からあの大量のバンソウコウが消えたある日だった。



再びの両膝にバンソウコウ。



だが、出血がひどいのか。バンソウコウが赤く染まっているのがわかる。





「・・・・おい。」


「ん?」


「嘘だろ。」





俺は自分の机の上にテニスバックを置くと、の腕を引っ張って、



自分の席についていたを立ち上がらせる。



の足の状態を見て、目を見開く俺。





「若っ・・・・・」



「・・・・転んだんじゃねぇだろ?」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「そんな嘘はつくんじゃねえよ!!」





俺の突然荒げた声に、教室が一気に静かになったことがわかった。



の足の出血は酷い。



バンソウコウでは意味がない。



出血の量から思っているよりも、足の傷が深い気がしてならなかった。



俺は声を抑えて、の目を見る。






「・・・・・おい、。」


「・・・今朝、車に轢かれかけて・・・・・・」


「・・・・・・・・・・」


「その時はケガもないし大丈夫だと思ったんだけど・・・がっ・・・学校に来たら出血が酷くなって・・・・・」






嘘じゃなかった。



の目が怯えている。





「わっ若っ・・・・・・」


「誰か、保健室にこいつ連れてくから、先生と次の授業の担当教師にそう言っておいてくれ。」


「あっ・・・・・ああ。」





ぐいっと引っ張ったの手。



クラスメイトの誰かが俺の言ったことに了解してくれた。



頭がうまく回らず、担任の名前も次の授業が何かもでてこなくて、担当教師の名前すら出てこなかった。



教室からの手をひいて、少し足早にを引っ張るようにして歩く。




<キーンコーン・・・・>




HR開始のチャイムが鳴る。



保健室に向かう足取りは早まることしか知らず。















「・・・・若。」



「・・・・・・・・・・・・・・・・」



「若の手。大きくなったね。」



「・・・・・・・・・・・・・・・・」



「昔はあたしと変わらなかったのに。」















の声がいつもより弱弱しくて、俺はやっと思い出す。



俺がを引っ張るようにして進んでいた足を止め、に振り向く。













「・・・悪い。足、大丈夫か?」


「あっ歩けるよ!!」


「・・・・・・・・・・・・・・」


「心配しないで、若。」


「・・・・・・・・・・・・・(心配するなってほうが無理だ。)」











俺が急かして歩かせたせいか。



の足の出血が増した気がした。



が俺の視線に気付き、制服のポケットからハンカチをだして、



足に伝った血を拭った。










「・・・・・背中、乗れるか?」


「・・・・・・え?」


「俺の背中。」


「むっ無理無理無理無理!!!!」










俺がをおぶれるようにに背中を向けてかがむと



は思い切り首を横に振って断った。





「若がつぶれる・・・・・!!」


「・・・・・・・・・・・・・・お前ごときに俺がつぶれるかよ。」


「無理!!無理無理無理無理無理!!」





そんなこと、言ってる場合じゃない。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「え?え?若っ・・・・ダメだって・・・・!!」


「うるさい。黙ってろ。」





の背中を持って、そのまま膝の裏に手を置く。



の体は思っていたより簡単に浮き。



は、黙り込んだ。







「・・・・・赤。」


「うるさい!!黙って若!!」


「お前が大人しくしてたらな。」







の顔が赤く染まる。



俺はを抱えたまま廊下を歩き出した。








「・・・・・・・・・重いでしょ。」


「別に。」


「・・・言っとくけど、あたし若に2回勝ってるからね!!」


「・・・なんか関係あるのかよ。」


「・・・・っ・・・・・・・」







は、



思い出話しかしない。



昔のまま。



(・・・幼馴染なんて。)
























































































実に、厄介だった。












































































































































































「これくらいなら、大丈夫!でもバンソウコウじゃダメね。」


「「・・・・・・・・・・・・・・」」






そう言った保険医は、テキパキとの足の消毒を終え、ガーゼでの膝を覆う。



は保健室のイスに腰掛けたまま。



自分の足に施されていく処置を、ずっと目にしていた。





「じゃあ、私はこれで出張だから。できるだけ授業に出なさいね。」


「「ありがとうございました。」」





保健室の出口から姿を消した保険医の姿を俺もも目で追っていた。



の怪我はたいしたことはないそうだ。



保健室にを抱えたまま現れた俺に、驚いた様子だった保険医。




(・・・・これでも必死だったんだ。)




俺がを見ると、イスに座ったままのと目が合った。





「ごっごめんね、若!!」


「・・・・良かったな。大事にならなくて。」


「・・・・・・あっあの・・・・・・・お姫様抱っこ・・・・」


「あ?」


「なんでもないっ・・・・!!」





がうつむく。



俺はの近くで立ったままだった。



滅多に来ない保健室と言う場所をぐるっと見渡せば白を基調とした、なんとも広い空間だった。



さすが氷帝と言うべきか。



保健室にさえ華やかさがある。





「・・・ねぇ、若。覚えてる?」


「・・・・・・・・・・・・」


「昔、若と遊んでたときに若のほうが足を怪我して、2人して怒られたよね!!」





沈黙を破ったのは



いつものように明るい声で思い出話。



笑う横顔を俺は見つめ。






「確か木登りしてたんだよね。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


「道場の庭で一番大きな・・・・・」


「・・・・よくあきないな。昔話なんて。」





が、俺のほうを見た。





「・・・・・・・前にも言ったね。・・・・若は、嫌いなの?昔話。」


「ああ。嫌いだ。」


「・・・・・どうして?」


「・・・・話してもしょうがないことだろ。」


「・・・・・・・・・・・・・・でも、あたし達は幼馴染だから小さい頃の思い出がいっぱいあるんだよ?」


「・・・・俺は嫌いなんだよ。思い出話なんて。」





思い出話なんて。



幼馴染なんて。



当たり前のように傍にあるものなんて。





「・・・・・なんか、それって・・・・・・」





が小さくつぶやいた。





















































































































「あたしが若に、嫌いって言われてるみたいだね。」











































































































































































































が笑顔でそう言った。



・・・嘘だと、わかった。



その笑顔は嘘だと。



がしばらく保健室にいると言い出した。



続く沈黙の中、俺は何も言わずに保健室から出て行った。



その日の授業中はずっと、



俺の隣の席は空いたままだった。






「・・・・・・・・・・・・・・・」






当たり前のように、2人は一緒。



手を繋いで、お互いの後を着いていったり、



お互いをひっぱったりしていた。



2人はいつの間にか、自分の行く先を自分で決められるようになった。



次第にあまり話さなくなって。



初めて、隣の席になった。



お前は毎日、思い出の話を繰り返した。





(・・・・覚えてるよ。)





につかれた嘘も。



俺が泣いたことも。



が笑うときも。



俺が怪我したときも。



どれだけ、一緒にいたと思ってるんだ。



忘れるほうが、おかしい。





(・・・・・バーカ。)





放課後。俺は部活に向かう。






































































































今日は榊監督が出張でいない。



跡部先輩も生徒会で部活に顔をだせないので、自主練になった部活。






「・・・日吉。」


「・・・なんだよ。」


「・・・また冷たくしたの?」


「は?」






準レギュラーと正レギュラーが集まるコートで、



鳳が俺に近づいてきて話しかける。



自主練ということで、すべて埋まってしまっているコートが空くのを俺は待っていた。








「・・・・泣いてたよ?さん。」


「・・・・・いつの話だよ。」


「部活に来るとき日吉の教室の前を通ったときだよ。さんの席なのかな?一番後ろの席に座ってうつむいてた。」


「・・・・・どうせまた泣きまねだろ?」


「・・・・そんな風に見えなかったけどな。」








泣いたフリならもうたくさんだ。



慣れている。











「あたしが若に、嫌いって言われてるみたいだね。」











・ ・・・・まさか。




(・・・・まさか。)




まさか、本当に?





「・・・・・・・・・・・・・」


「行ってきたら?」


「・・・余計なお世話だ。」


「・・・俺うまく言っとくよ?」





まさか。









「ねえ、若。覚えてる?」








・・・・・・まさか、本当に。







































(・・・・覚えてるよ。)









































いきなりコートを走り出した俺。



まわりの先輩はそんな俺に気付き不思議そうな顔をしていた。



鳳の声が背中のほうから聞こえた。





「まかせといてねー!日吉!!」





余計な、お世話だ。



厄介だ。幼馴染なんて。



当たり前のように教えやがって。



当たり前のように見せやがって。



だから、思い出話なんてものを繰り返してしまう。



2人、いつも一緒が当たり前。




(・・・そんなわけがあるか。)




だから、嫌いなんだよ。



俺は校舎の中を全速力で走った。



階段を一気に駆け上がると、さすがに息切れをする。



俺の教室の前まで来ると、肩で呼吸をして、整える。



開いたままのドアから見えた、自分の席に座るの姿。



うつむいて。肩がかすかに震えていて。

















「・・・・・・・・泣いてんのか?」
















俺の突然の声に、の肩がびくっとはねた。



俺は教室に足を踏み入れ、に近づき。



の隣。自分の席に座った。



はいまだうつむいたまま。





「・・・・・・・・・・・・・泣くなよ。」





のうつむく横顔に声をかける。



がゆっくりと顔をあげた。



その目には、涙の痕はなく。



無表情に声にする。






「・・・・・・騙されてやんの。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・泣いてないよ。悲しかっただけだもん。」


「・・・・・(泣きそうだったのな。)」






は俺から目をそらし、再びうつむいた。






「・・・本当に若に嫌いって言われたみたい。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「幼馴染ってうまくいかないね。・・・変わっちゃうものなのかな。」


「俺たちが幼馴染でうまくいくわけねぇだろ。」






は、うつむいたまま。



俺は、表情のわからないその横顔を見続ける。





「・・・・思い出なんか俺は嫌いだ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「思い出なんかいらない。」


「・・・・・・・思い出が消えたら、あたしと若は他人になっちゃうよ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・思い出なんかで、繋がってたいんじゃない」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」





毎日、は思い出話しかしない。



思い出でしか、俺とが繋がってないみたいに。



そんなもので縛られていたいんじゃない。







「・・・ちゃんと、覚えてるから。確かめなくたっていいんだよ。」


「わかっ・・・・・・」


「・・・・バーカ。どれだけ一緒にいると思ってるんだよ。」







が顔をあげ、俺を見た。



俺はそんなに笑って見せると、



は泣きそうな顔をした。



わかってるよ。



お前が思い出話しかしなかった理由なんか。





「思い出なんかいらない。」





消えはしないから、安心してそう言った。
















































































































































































































































がいればいい。」





















































































































































































































思い出は掘り起こさなくたって、



わざわざ声にしなくたって、ちゃんと覚えてる。





「若っ・・・・・」


「俺たちが幼馴染でうまくいくわけねぇだろ。」


「あたし・・・・」


「・・・・・・・・・・・」





が、泣き出した。
























「あたしも・・・・好きだよ。・・・若が好き。・・・・」





























当たり前。



2人一緒にいることが。



そんなわけないんだ。



思い出を掘り起こして、そう思い込んだって。



それを確かめたくたって。



一緒にいることが当たり前。



そんなわけないんだ。


















「うっ・・・嘘じゃないからね!!」



「・・・・・・・・・バーカ。」



「好きだよ・・・本当に。」















幼馴染なんて、実に厄介だ。









































































































































「知ってたよ、そんなこと。」





























































































































その涙が、嘘泣きじゃないのも。



どれだけ一緒にいると思ってたんだよ。



泣くを引き寄せて、



触れるだけのキスをする。





「若っ・・・・・」


「・・・当たり前だなんて、俺は一度も思ったことはない。」


「・・・え?」


「お前が俺の傍にいて、お前が俺を好きなこと。」





の頬に伝った涙を拭いながら、



もう一度だけ、



誰もいない教室で、触れるだけのキスをする。



当たり前で、当たり前じゃなかった。



当たり前じゃないのに、当たり前だった。



当たり前のように、いつも傍にあるもの。



当たり前で。
































































































































































奇跡だった。












































































































































































「・・・・・・・・・・バーカ。」







知ってたよ。



全部。
















お前の、ことなんか。

























































End.