なぁ、



冷たいその手を握ったとき。



眠るお前の体温は



俺の手に染みていった。



少しずつ、少しずつ。



・ ・・・・・ああ。



本当にお前は。もう、・・・・・お前は。



それは、お前の死に触れている実感。













































『革命前夜1』















































「レギュラー集合!Aコート、Bコートで試合形式の練習!他の部員はサポートに回れ!」



「「「「「「「「「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」」」」」」」」





蝉が鳴き、太陽が照らし、気温がまだまだ上がっていく。



全国行きが決まり。



その全国大会が目前に迫った暑い夏の日曜日。





「ジロー!ドロップショットの処理がおせぇ!」


「わかったCー!」


「次だ!ボールの補充間に合ってねえぞ!」


「跡部、燃えてんな」


「なんだよ、人のこと言えねえだろ。宍戸。」


「自分もやろ、岳人」


「へへっ当たり前だぜ!おっしゃ試合しようぜ!鳳、宍戸さっさとコート入れよ!」





部員は今まで以上にはりきり、励み。



とくにレギュラー陣の勝利への執念は今までにないものがある。



それはそうだ。



推薦枠だからと後ろ指を指されることはない。



実力でねじ伏せればいい。



全国優勝をするのは俺たちだ。



負けない。負けはしない。






(・・・なあ、。)






空気が熱い。



太陽は南中。



前だけを見つめ、見据え。ラケットを振り、ボールを打つ。



走る。走る。



コートの中を、一心不乱に。



欲しいものは、唯一つ。



そう。



ただ、一つ。
















「よしっ。午前中の練習はこれで終える!午後は1時からだ!レギュラー以外は軽く片付けをしてから昼食をとれ」














タオルが汗を吸い込む。



吹く風すら熱を帯びているが、



上がりきった体温には心地いい。





「跡部!昼食べよー!」


「着替えてくるから先に食ってろよ、ジロー。」


「なんや、昼ミーティングしながら食うんやったけ?」


「日陰行こうぜ、侑士。あっちぃ!」


「ミーティングだっつってんだろ、向日」


「あっでも日陰でいいですよね?跡部部長。・・・・・・宍戸さん、睨むのだけは。」





ジローがやけにうれしそうに笑っていた。



宍戸の鳳のやりとりに向日が乱入し



忍足がつっこみ。俺が無視する。



暑い空気も気温ももろともしない。



ひかない汗が心地いい。



やっと、戻ってきた元通りに。



やっと心の底から笑いあっている。



ただただ、前を見つめ、見据え。



勝利を目指して。



負けない。負けはしない。







必ず、勝つから。







(見てろよ)







ふざけあいながら笑っているこいつらに思わず頬が緩む。



いまだ言い争う宍戸、向日。



慌てる鳳。つっこみ続ける忍足。うれしそうに笑ってばかりのジロー。



全国大会はもうすぐそこ。



俺は午前中の練習で汗を吸いきったユニフォームを着替えるためにこいつらから離れ



部室へと入った。








<ガチャッ>








「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」







くせに、なっていた。



部室へ入ると、一番に視線をおくる。



俺たちとが一緒に映った写真の入った写真立て。



部室のドアを開けたまま、入り口にしばらく立ち尽くす。




(・・・・・・・なぁ、)




俺たちは、歩けてるよな。



振り替えらずに、歩けてるよな。



の笑顔は何も返してくれない。



それは、当たり前で。



静かに瞼を閉じて小さく自嘲の笑いをもらす。



部室のドアを閉め、



自分のロッカーの前まで行き、ロッカーをあけて変えのユニフォームをだした。



歩けてるよな。



前だけを見つめ、前だけを見据え。



笑えてるよな。前みたいに。



全国はすぐそこ。







お前の夢をも叶えるから。








(見てろよ)








着替え終えてロッカーを閉める。





「・・・・・・・勝つぜ。必ず。」





もう一度、写真を見て。



部室を出る。














「跡部ー!遅いよ!俺弁当食べ終えちゃったC!!」



「・・・それは早すぎだろ、ジロー。」



「いや、ゆっくり食べぇやってなんべんも言うたのになジローの奴。」



「侑士、お前はどこのお母さんだよ」



「ナイスつっこみや!岳人!!」



「・・・跡部。ミーティングしようぜ」



「ああ。これからの練習方法なんだが。」



「(忍足先輩と向日先輩を無視なんて。さすが宍戸さんと跡部先輩)」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・鳳。今考えてること、なんかおかしいで。」



「なっなんでわかるんですか?忍足先輩!」



「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」














ジローの奴がやけに楽しそうに笑ってた。



宍戸が鳳につっかかり向日がそれに乱入する。



忍足がつっこみ俺にふるがそれを無視する。





(・・・・・・・・・)





蝉が鳴き、太陽が照らし、気温がまだまだ上がっていく。



全国行きが決まり。



その全国大会が目前に迫った暑い夏の日曜日。



風に吹かれた枝がゆれ、木陰が共に揺れた。



それぞれの笑みがこぼれる



俺は誰も気付かない中、そっと自分の手を握る。




(・・・・なぁ、。)




冷たいその手を握ったとき。



眠るお前の体温は



俺の手に染みていった。



少しずつ、少しずつ。



・ ・・・・・ああ。



本当にお前は。もう、・・・・・お前は。



お前の死に触れている実感。






















心が空になったんだ。


















前だけを見つめ、見据え。ラケットを振り、ボールを打つ。



走る。走る。



コートの中を、一心不乱に。



欲しいものは、唯一つ。



そう。



ただ、一つ。






「向日!そんなんでへばってどうする!」


「くっ・・・・!もっと打ってみそ!」


「長太郎!手首をこねる癖、また出始めてるぞ!!」


「はい!」


「おい、こっちもボール足りへん!補充遅いで!!ジロー次行くで」


「忍足が跡部みたいだCー!っと!」





熱がこもる。



部員たちの声が飛ぶ。



蝉が鳴いてる。太陽が照らす。



風が木々を騒がせる。




(・・・・・・・・・あのとき)




あのとき。



心が空になって、涙も出てこなくて。



・ ・・・ああ、お前はもう。もう・・・本当に。



この手を握り返すことはないのだと。






「次!鳳!!こっちのコートに来い」


「はい!!」






孤独だと思ってた。



そうじゃないと教えたくせに、また俺を孤独にした。











が、いない。











誰も後を追ってこない。



なら1人で歩き続けるまで。



俺の為に。欲しいものを掴むために。



振り返るわけにはいかない。



でも。



でも。



空になったはずの心はを呼び続けた。



振り向かずに、の声を聞き続けていた。



孤独じゃない。








(・・・・なぁ)








なぁ、



歩けてるよな。



俺たちは歩けてるよな。



行きついた先。



それはあざやかな。



淡い、はかなき緑。












(見てろよ)











ずっと見てろよ。





「鳳!変に意識しようとするんじゃねえ!打ちたいように打て!」


「っ・・・・・・・・・はい!」


「打点が低い!まだスピード上がるぞ!!」


「っ・・・・・・・・!」








<ザアァァ・・・・・・・・・・・>








負けない。負けはしない。



勝つ。



歩けてるよな。



前だけを見つめ、前だけを見据え。



笑えてるよな。前みたいに。



全国はすぐそこ。







お前の夢をも叶えるから。












































































「(!)危ない!芥川先輩!!」


「ジロー!!」


「・・・・え?」







































































































































































































歩けてるよな。



前みたいに。



見てろよ、






「跡部!!」


「っ・・・・・・・」


「跡部先輩!!」


「おいっ、跡部!」


「動かすなや、宍戸!頭打ってるかもしれへん!!」






鳳の力みすぎたサーブが突風にさらわれる。



ジローに向かっていくボールに俺は無我夢中に走りだした。



欠けるわけにはいかない。



誰一人。



俺たちの想いが叶うのはこのメンバーでだけだ。



欠けるわけにはいかない。



誰一人。



怪我でさえもさせはしない。











「跡部?!跡部、聞こえてる?!」


「跡部先輩!すみません!俺のせいでっ・・・・」


「・・・・・・・・・・・バーカ」


「「「「跡部!」」」」


「・・・情けねえ顔するんじゃねえよ、鳳。」










俺の顔をどいつもこいつも覗き込んでくる。



ずきずきと後頭部に残る痛み、



俺はジローをかばって鳳のサーブの直撃を頭に受けた。



ゆがむ目の前にコートに倒れこむ。



こいつらの顔がかすんでくる。








「ちっ・・くしょ・・・・・・・」



「跡部!!」









熱がこもる。



ジローの俺を呼ぶ声が耳に響いた。



蝉が鳴いてる。太陽が照らす。



風が木々を騒がせる。



俺は、意識を手放した。








































































































































































































































































































































































































































































































頬を髪を、風がなで、さらい。



見えたのは白い天井と取り付けられた蛍光灯。



窓が開いているのだろうか。



カーテンがゆれるのが目の端にはいり。






「・・・・・・・・・・・・・」



「跡部?起きたん?」



「っ・・・・・・・・・・」



「無理するなや。・・・お前鳳のサーブが頭に直撃したん、覚えてるか?」






ここが見覚えのある景色なのは



もちろんここが、俺の通う氷帝の保健室だからだった。



寝かされていたベッドから上半身を起こす。



痛みが走った後頭部を少し抑え。






「・・・・・鳳は?」


「落ち込んでたみたいやけどな。宍戸と岳人が渇いれてたから平気やろ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「あっ今は休憩中な。俺お前の様子見にきたらちょうど起きたんや。」


「練習にもどっ・・・・・・」


「ああ、無理するなって言うてるやん。今、呼んでくるさかい。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」






風が吹いたせいなのだろうか。



そのせいで聞き間違えたのだろうか。







「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「なんや、跡部。人の顔をじっと見て。そんなにここに俺にいて欲しいん?」


「・・・・・気持ちわりぃ」


「ひどっ!」







忍足がいかにも傷ついたような顔をする。



・ ・・そんなことはどうでもいい。



風のせいなのか?



そう言えば、うるさく鳴き続けていた蝉の声がしない。



保健室の窓は開いていて、カーテンがなびいている。






「ほな、呼んでくるわ。あいつ心配してたで?お前が倒れたりするから」


「・・・・・・・・・・・何、言ってるんだ、てめえは」


「ん?俺変なこと言うたか?」






を、呼んでくる?



忍足が俺の座るベッドのすぐ近くに立って小首をかしげる。






「・・・・・って誰のこと言ってんだよ」


「・・・・は?跡部お前打ち所悪かったんか?やん!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「俺たちのマネージャー。休憩中もコート走り回ってる。宍戸と同じクラスの。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「なんや、その顔。・・・・お前まさかのこと忘れてしもうたん?」






・ ・・・・・何、言ってんだよ。






「・・・・・・・・・・・・・・・忘れるわけねえだろ」


「ならが誰かなんて聞くなや。・・・・・・・・・ちなみにお前俺が誰だかわかってる?」


「伊達メガネ関西人。」


「・・・・・・・・・・もうええわ。」






忍足が歩き出す。



保健室の出口に向かって。



・ ・・・・・何、言ってんだよ。



何言ってんだよ。



を呼ぶ?



どういうことだ。



は・・・・・・・・・・・・・・・・










は、いない。










を、呼ぶ?



できるわけねえだろ?








「っ・・・・・・・・・忍足!!痛っ・・・・・・・」


「なんやねん。・・・あーあ、痛そうにしてるし。無理すんなて。」


「てめっ・・・・・どういうつもりだ・・・・・・」


「何が?」


「っ・・・・・・・・・・・・・・・・」








頭が痛む。



後頭部だけじゃない。



頭全体の激しい頭痛。






「おい、大丈夫か?跡部。」


「っ・・・・・・・・・・・・・・・(どういうつもりだ)」






を呼ぶ?



できない。そんなこと。



あまりに激しい頭痛に頭を抱え込む。



ずきずきと、痛みが。



なぜだ?風が温かい。



さっきまでは熱をこもらせ、蒸したものだったのに。



蝉が鳴かない。



窓の向こうに広がっていたのはまだ青空。



日が沈んだわけじゃない。



ずきずきと。ずきずきと。








「おいっ・・・跡部・・・・」




「忍足ー?景吾はどう?休憩終わるよ?」




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


































その声は。





その、声は。















































「景吾!よかった!起きたんだね!気分、どう?」



「・・・・・・・・・・・・・・・」



「?」



「それがな、。跡部さっきからおかしいねん。頭も痛み激しいみたいやし。」



「本当?景吾。病院行ったほうがいいのかな」



「・・・・・・・・・な・・んで・・・」



「ん?」












































その声は。



その、声は。



その姿は。



































































































































































































































頭痛はいつの間にかひいていた。



保健室の入り口から入ってきたそいつは



今は忍足の隣に立ち、俺の顔を見つめ。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「ん?頭痛どう?景吾。」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





なぁ、



冷たいその手を握ったとき。



眠るお前の体温は



俺の手に染みていった。



少しずつ、少しずつ。



・ ・・・・・ああ。



本当にお前は。もう、・・・・・お前は。



お前の死に触れている実感。



その、実感。






「あっ。長太郎なら心配ないよ!景吾のこと気にしながら必死にサーブ練習中。」



「・・・・・跡部?」



「・・・・・・・・・・・・・・・・」



「なぁ、。跡部打ち所が悪かったんやろか。」



「うーん。・・・・・景吾?・・・おーい、景吾。」






なぜ、なんだ。



確かにあの冷たい手に触れたのに。



お前の死に触れたのに。



なぜ、ここに?









「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「ん?」









風が、の髪をさらった。



の頬をなで。



その笑顔を、暖かな光が照らした。



存在を確かめるように呼んだ名前にはしっかりとその声が。



俺を呼ぶ声はその声。



その笑顔は確かにお前のもの。



確かに、お前のもの。



























「景吾?どうしたの?」


























確かに、それはだった。



それはだった。



冷たくなったはずの



確かな温かみをもってそこにいた。



覚めない眠りについたはずの



再びその笑顔を向けた。



だった。



その声は、その姿は、その笑顔は。



だった。



俺たちのだった。


















































































































が、生きていた。




が、そこに確かに。




俺の、目の前に。






























































end.                         気に入っていただけましたらポチッと。