からまる思想。



おぼつかない思考。







「・・・ゆっ・・」


「「ゆ?」」


「・・・・幽霊?」


「え?!幽霊どこ?!どこにいるの景吾!!」







が自分のまわりをキョロキョロと慌てたように見回す。







「・・・いや、夢でも幻でもなんとも言える・・・。そうだったよな、


「へ?」


「・・・跡部」






いたってまじめな俺の声色。



俺の声には動きをとめ



忍足は肩をすくめて俺を呼んだ。









「ホンマに病院行ったほうがええんちゃう?」









保健室に沈黙が流れる。
































『革命前夜2』












































「あっとべー!!大丈夫?!テニスして平気ー?!」


「・・・ジロー。それはやで?」





コートに足を踏み入れた俺、、忍足。



それに一番に気付いて駆け寄ってきたのはジローだった。



ジローは俺の名前を呼んだにもかかわらずに抱き付いた。



・・・俺の隣にいたに。






「だって、忍足!跡部に抱き付こうとすると跡部はよけるけどはよけたりしないよ!」


「・・・ジローちゃん、よけてもめげずに抱き付いてくるからね」






苦笑いの



ジローがへへっと満面の笑み。



忍足はあきれたように溜め息を吐いて。






「・・・・・・・・・・・・・・」


「跡部?・・・、跡部大丈夫じゃないの?」


「さっきから景吾なんかぼーっとしてるんだよね。大丈夫だと思うけど・・・」


「跡部?おい、跡部」


「・・・・・」


「やっぱり打ち所が悪かったんやろか?」





俺はジローを見ていた。



に抱き付くジロー。



なぜだ?なぜがいることを不思議に思わない?



ジローも、忍足も。



思考がからまる、困惑する。





「・・・景吾?」





がジローに抱き付かれそれをひきずったまま



俺に近付いて俺の顔を覗きこむ。





「無理しないでね。今日はあと1時間くらいで練習終わりだし、休んでても帰ってもいいと思う」





確かに、それはの声。



の姿。の優しさ。



だがなぜ。



なぜここにいるんだ。



は、確かに。あの日、確かに。









「跡部部長!具合はどうですか?!ボールがあたったところはっ・・・」


「落ち着け、長太郎」


「でっでも宍戸さん!俺のボールで跡部部長はっ・・・」


「くそくそ鳳!落ち着けって!跡部がそんなにやわな奴かってーの!!」









次に駆け寄ってきた影は三つ。



宍戸、鳳、向日。



がまだジローをひきずりながら3人のもとに駆け寄り、



何より、鳳を気遣った。





「長太郎!こんなことくらいで泣きそうになっててどうするの!」


「・・・先輩・・・」


「景吾なら、大丈夫だから!」


の言うとおりだぜ?長太郎。」





・ ・・なぜ。





「そうだぜ?大体ボールが頭にぶつかったくらいで騒ぐなっての!俺なんか足しょっちゅう流血だぜ?」


「・・・・それは、岳人のせいでしょ?」


「んだよ!睨むなよ、!!」





がいる。



自然に誰もが笑い。



なぜ、誰も驚かない。



不思議に思わない。



忍足も、ジローも、宍戸も、鳳も、向日も。



がそこにいることがさも当たり前のように。



それに。



・ ・・それに。





「・・ねー。跡部、本当に大丈夫?確かにぼーっとしてるよ?」


「ジロー、そろそろから離れろや。」


「なんだよ、跡部当たり所でも悪かったのか?」


「え?!先輩!それは本当ですか?!」


「岳人、余計なこと言わないの。景吾は大丈夫だったら。」


「落ち着けよ、長太郎。」





いつの間にかを中心に話をしていたレギュラー陣。



俺はただそれを呆然と目にし。



レギュラー陣もも不思議そうに俺を見ていた。



なぜ、お前らは何一つ疑問を抱かないんだ。



思考がからまる、困惑する。



が、ここにいる。



それはありえないことだ。



それに。



・・・それに。






「・・・・宍戸。」


「あ?」


「・・・なんでそんなに髪なげぇんだよ」


「「「「「・・・・・は?」」」」」


「景吾?」






それに、なぜか宍戸の髪が長い。



関東大会前にてめぇで切って



全国大会間近の今もそんなに伸びていない。



だが、宍戸の髪は以前のように長く。






「なんでって前から伸ばしてたし。ってお前一年ときから一緒で今さらそんなこと聞くかよ」


「は?宍戸。てめぇは都大会で・・・・っ・・・」






<ズキンッズキンッ>



再び、あの頭痛。




(・・痛っ・・・・・くそっ・・・・)




右手が無意識のうちに頭を押さえる。





「都大会?・・・まだやってねぇだろうが」





何、言ってんだよ。



お前は都大会で橘に負けて。






「宍戸。跡部打ち所が悪かったらしいねん。気にすんな」


「・・跡部?頭痛いの?」


「ちょっ・・・・・マジ、打ち所悪かったのか?」


「跡部部長?!」





<ズキンッズキンッ>



レギュラーに戻るために、



滅茶苦茶な練習して戻ってきたんだろう?



その代償にてめぇの自慢の髪、てめぇで切ったじゃねえか





「っ・・・・・・・・・・・・・・・!!」


「「「「「跡部!!」」」」」





頭全体を覆う頭痛。



なんだ、これは。



鳳のサーブは後頭部に当たっただけだ。



保健室でもさっき起こった。



あまりに激しい痛みのために頭を両手で押さえ込む。



その場に肩膝をついてしゃがみ。






「・・・・・・景吾?!」






が俺の目線までしゃがみ、俺の顔を覗き込む。



それはの声。



の姿。



なぜ、ここに。どうしてここに。



からまる思想、困惑。



疑問を抱いても懸念を抱えても、それでも俺以外のレギュラー陣は平然としている。



がいることがさも当たり前であるかのように。



保健室からここへ戻ってくるときでさえも、忍足があまりに自然にの隣に行き、



俺をコートへ促すから。



だから、俺はただ流されるがままだった。





。やっぱり病院に・・・」


「うん!榊監督呼んでくるね!」


「っ・・・いい」


「跡部!無理はしちゃダメだC!」


「平気だ。・・・・っ・・・立てる。」





頭を片手で押さえ、



俺は立ち上がる。




<ズキンッズキンッ>




その痛みに薄く開いた目。



その目に一枚の花びらが俺を横切ったのが映った。





「・・・・・・さ・・・くら・・・?」


「・・・・まだ、どこかで咲いてたんやな。風がコートまで運んできたんや。」


「景吾?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





頭痛は突然おさまる。



痛みはまったくない。



風?・・・・・・・・・・・風は、温かい。



桜の花びら?



空をあおぐ。





「・・おい、跡部?なんか変だぜ?」


「宍戸さん。・・・やっぱり俺のせいで・・・」


「違うよ、長太郎。・・・景吾。」





仰いだ空の太陽。



暑いというよりは暖かい。



どういうことだ?



全国大会間近の夏。



あの蒸し返すコートの姿が今はない。



部員達は俺たちにかまわず練習を続けている。



聞こえていたはずの蝉の声がしない。






「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「跡部?ホンマ、変やで?どないしたん?」






からまる思想。



おぼつかない思考。



困惑、混乱。



一つ、漠然と。



ただ、漠然と。






「忍足!」


「ちょっ・・・なんやいきなりっ・・・」


「今日は何月何日だ?!」


「跡部?」


「さっさと答えろ!!」






俺は忍足の胸倉をつかんだ。



つかんで詰め寄った。



俺の目は忍足の目を捕らえるだけで他には何もうつしていないが



他のレギュラー陣やが驚愕しているだろうことは容易に予想できる。



俺たちの様子に気付いた部員たちが小さく遠くでざわめく声がした。



















「・・・4月×日。それがどうかしたん?」


「・・・・・・・・・・4月・・・・×日・・・・・・?」


「跡部?」


「・・・・・跡部部長?」


「跡部ー?・・・・マジでどうしたの?」
























忍足の胸倉を掴んでいた手が力を緩め下へ下りる。



俺の視線は、足元のコートの緑へ。



ありえない。



そんなことあるわけがない。



あるわけがないいんだ。



だが、それなら。



今日が4月×日なら。



それならすべて納得がいく。



視線は、に。



足を進め、に近寄り、に抱きついていたジローを引き剥がす。





「ちょっ・・・跡部ー!ひどいC!!」


「景吾?」


「跡部。どないしたん?意味わからへん」





他のものはなにも目に入らない。



真正面からを見る。



の両肩を俺の両腕で、それぞれ掴んだ。



視線はそらさない。も、俺も。


























「お前は本当にか?」


「・・・景吾?」


なのか?」








































困惑しているのは俺だけじゃないのだろう。



も、忍足も、ジローも、宍戸も、鳳も、向日も。



しかも、その原因をつくったのは俺。



誰もが困惑し、混乱し。



だから誰も、俺ととのやりとりに口を挟もうとしない。



いや、はさめない。



俺の行動を読み取ることができないだろうから。



誰もが困惑し、混乱し。



俺も。俺でさえも。





「・・・・・景吾?」


「・・・・答えろ、。」


「・・・・あたし、でしょう?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」





・ ・・今日は。



今日は、4月―・・・・・。


























































































































































































「あたしは、でしょう?景吾」

































































































































































































































































































































































混乱の中で。



俺の手が細い肩を掴んでいることに気付く。



の声が耳に響き、俺に向けられた微笑を両目でとらえ。



確かに、の声。



確かに、の姿。



わかっていた。



でも信じることなんてできなかった。



ありえない。がここにいるなんて。



ありはしない。



だが、ようやく知る。



ようやく実感する。



触れて、やっと。聞いて、やっと。



の温もりを、確かな存在を、知る。
























「あー!跡部―!何してんの!!」


「ちょっ・・・跡部!何に抱きついてんねん!!」


「まさかっ・・跡部部長!それが最初から目的で・・・」


「・・・跡部、お前はジローか。」






















俺はの肩越しに、顔をうずめた。





「・・・・・景吾?」





こみあげてきたのは、涙。それをこらえる。



細い体を真正面から抱きしめ。



周りからは、非難の声。



だ。



なんだ。



本当の、本当に。



・ ・・今日は。



今日は、4月―・・・・・。



そんなことありえない。



あるわけがない。



だが、それなら全て納得がいく。



花の散るコート。



吹く風の温かさ。



照る太陽のぬくみ。



まだ開かれていない都大会。



宍戸の髪が長い理由。









の、温もり。









全て、納得がいく。



4月×日。



今日は、






















俺たちがが死んだと聞かされる5日前。























を抱きしめることの出来る理由。



がまだ生きている。



これが、






過去だというのなら。






「景吾?あのっ・・・部活、練習しないと・・・あの・・」


「跡部、離れろー!」


「ジロー、声がでかいわ。でもから離れろ、跡部。」






一つ、漠然と。



ただ、漠然と。



の冷たさが染みこんだ手にの温もりがしみこんでいく。



冷たい記憶を塗り替えていく。







































































これは夢なのだと思った。





俺はから離れるとコートに響き渡る声で指示をだし、





いまだ、俺がを抱きしめていたことに文句を言い続けるレギュラー陣さえも丸め込み、





部活を進めた。





の声。





の姿。





そんなものを近くに感じながら。





時折が笑った。





これは、夢だ。





ジローをかばってあたったボール。





俺はまだ寝ているんだ。





だから、が生きている過去の夢を見て、ぬくもりを作り出しているのだと。





漠然とたどりついた結論。

















































































































だが、夢が覚めることはなかった。


























































































































































































「景吾、おはよう!」


「おはようございます、跡部部長。」


「景吾、大丈夫なの?昨日、様子変だったし。無理しちゃダメだよ!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「景吾?」






休日の部活があった翌朝。



通常通り学校のある日。



朝早く向かった部活。



部室には鳳との姿。



昨日俺は家に帰り、そしていつもどおりにベッドに眠った。



不思議な夢。



夢の中で眠ると現実で起きる、そう聞いたことがどこかであった。



だから、眠れば俺はきっと夢から覚めるのだろうと。



またを間近で感じることのできない日々に。



あの暑い夏の下に、戻るのだろうと。






「・・・・・・・・・・・・・・


「何?景吾。」


「・・・・いや、なんでもない。」






夢は、覚めない。



夢が覚めない。



が笑う。



こんなにも側で、近くで。




(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)




夢だ。



夢なんだ。



過去の、が生きている夢。



他に何がある。



だが、今日の日付はが死んだと聞かされる4日前に変わっていて。



早く、醒めればいいこの夢が。



そう思うのはあの日がやってくる実感に怯えるから。



だが、の笑顔を見る度に願っている。



夢。



それでもかまわない。



が、笑うから。



こんなにも近くで、側で。



だから、心がどこかで願っている。



これは夢、そうわかっていて











































































































































































































醒めなければいいと。






































end.                           気に入っていただけましたらポチッと。