辿り着いた結論に順応し切れない。
頭はついてきても
心がついてこれない。
『革命前夜4』
〈ガチャッ〉
スコアの冊子を片手に俺は部室の扉を開く。
一歩コートに踏み出せば
相変わらずの春の風が俺を吹き抜けた。
「景吾?遅かったね」
「・・・・・」
「・・・景吾?」
レギュラーたちが打ち合うコートの端にあるベンチの前に
は小首をかしげそれを俺に向けて立っていた。
の近くまで歩いてきた俺は
の顔を見つめる。
心が、ついてこない。
一度、深く吸った空気を大きく吐き出した。
「これからレギュラーの1対1の試合をする。3ゲームマッチ。2ゲーム先取したほうが勝ちだ」
「あっ・・・うん」
「・・・それで、都大会にでる俺と樺地ともう一人を決める」
「・・・あの、景吾」
「あん?」
「・・・・ごめん、なんでもない」
うつむいた。
きっと俺の様子の変化に気付いたからだろう。
何か聞こうとしてやめてしまった。
「レギュラー集合!」
俺はスコアをに手渡す。
レギュラーたちが俺の元へ集まってきた。
「これから試合をする」
過去なんだ。
今、俺の目の前にあるすべては。
死んだは生きていて。
夏は春に。
忍足、ジロー、宍戸、鳳、向日。
こいつらに悲しみの色などあるはずもない。
こいつらにとっては今でも俺にとっては過去。
落ち着け。
これが過去なら俺は未来に戻らなければならない。
全国大会がある。
叶えるべき夢が。
「まずは忍足対宍戸。向日対鳳」
「えー!!跡部、跡部!俺は?」
「ジローとはそれぞれの試合の審判だ。」
「えー!俺も試合がいいー!!」
「寝ないようにね、ジローちゃん。」
「・・う・・・・はい・・・。」
誰もが、そんなジローを見て笑った。
全ては、過去。
この、笑顔さえ。
だが、それがわかっていてもどうすれば未来へ戻れるのかなんて、わからなかった。
俺以外の奴らにとってこれは今。
誰にも相談など、まして頼るなどできない。
俺はボールが頭に当たって起きたらここにいた。
戻る術はそこからじゃ到底思いつけなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「景吾!」
「あ?」
「試合見て決めるんでしょう?勝ち負けじゃなく。」
「・・・ああ。」
「都大会に出るのが誰になるか楽しみだね!!」
が、笑った。
心が揺れた。
目の前にあるものすべてが過去であるということに。
今のの思い切り笑った表情でさえも。
(・・・・・・・・・・・)
戻らなければならない。
未来へ。
だが、その術がわからない。
落ち着け。
「ジロー!寝るなっつってんだろ!!」
「・・・だって跡部、眠いC・・・」
「くそくそジロー!俺たちの試合が退屈だとでも言うのかよ!」
「うーん・・・言うんだよ、向日」
「てんめっ・・・・」
「向日先輩、落ち着いてください!」
コートをはさんで鳳が対戦相手の向日をなだめるが
ジローがネットのつけられているポールにもたれかかって寝ようとしていた。
(落ち着け。)
きっとすぐには、見つからない。
でも、来れたのだから、戻れるはずだ。
「あっちの審判はえらいこっちゃなぁ、」
「あはは・・・・ジローちゃん、また寝てるよ」
「笑い事じゃねえよ。激ダサじゃねえか。・・・・・あっ跡部がジロー叩いた。」
だから、
たとえ今が過去でも。
悲しみの色を微塵も感じさせないこいつらの笑み。
今は。今だけはもう少し。
きっとすぐには戻る方法は見つからないから。
だから、今は。
今だけはもう少し。
笑っている、の側に。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「宍戸?」
「・・・・・ああ。もともとジローは温存させておく予定だった。忍足と向日は最初はダブルスでいくつもりだからな。」
「宍戸。・・・・宍戸か。うん!絶対大丈夫!!」
部活の休憩時。
俺は都大会にだすレギュラーの1人を決めていた。
レギュラーの名前が並んだスコアに俺が丸をつけた名前。
がそれを見て笑った。
「・・・うれしそうだな。」
「うれしいよ。もうじき大会!みんなががんばってきた成果がでるときでしょ」
「・・・・・・・一ヶ月も先だぜ?」
「近づいてくるのが楽しみなの!!」
「・・・・・・・・・・・・・」
都大会。
は、一緒にはいない。
その時にはもう。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「景吾?」
「・・・・・変更もありえる。まだ発表はしねえ」
「うん。でも宍戸で決まりだと思う。」
「・・なんだよ、それ。」
「マネージャーのカン」
「・・くくっ・・・」
それぞれドリンクを口にしたり、タオルで汗を拭いたりして、
レギュラー達は休んでいた。
は俺から離れ、ボール拾いへと向かう。
宍戸は、都大会で負ける。
だが、俺は宍戸を選んだ。
俺はその未来を変えるつもりはなかった。
都大会で橘に負けた宍戸は
何者にも代えがたいものを得る。
強固な絆を鳳と築き上げる。
すべては、負けたことによってもたらされたもの。
そう、変える必要はない。
氷帝テニス部が全国に行くためにも必要なダブルスペア。
俺はその未来を変えるつもりはなかった。
そう、未来を。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
・ ・・・・・・・・・・・・未来・・・を?
ベンチの上に置かれたスコアを見る。
印がつけられている宍戸の名前。
・ ・・・・これは、過去だ。
そして俺は未来を知っている。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺は、未来を)
ボール拾いを終えてこちらに向かってくるが視線に映った。
俺は。
未来を、変えることができる。
俺はここに来てからなにかと思いついてばかりだ。
しかも漠然と、ただの思いつき。
ただの思いつきだが。
それでも。
それでも、それは。
「っ・・・・・・!!」
「え?きゃっ・・・・けっ景吾・・・?」
「あー!!跡部がまたにセクハラしてるー!!」
俺はのところまで走り、の両肩を掴んだ。
ジローがそれに気付き、
レギュラーの視線が俺に集まる。
だが、そんなことかまっていられない。
「。」
「はっはい?」
「お前、今すぐ病院に行って来い。」
「・・・え?」
「・・・・・・・いや、お前が行ってこいや、跡部。」
驚くばかりの。
レギュラー陣はいつの間にかと俺を囲むように集まってきていた。
ジローからはブーイング。
コートの周りからは女子たちの悲鳴。
それでも俺はの目から目をそらさない。
未来を変えられるなら。
「跡部、離してー!!にセクハラしちゃダメだC!」
「跡部。さすがに二回目となるとひくぞ、お前。」
「しっ・・・宍戸さんの言うとおりです!跡部先輩、先輩をはっ・・・離して下さい」
「おい、くそくそ跡部!やっぱりこの間からお前変だぜ?」
「・・・跡部。を離せや」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「お前、ええ加減にせえよ?」
忍足の声色が変わる。
空気が変わったのを感じる。
2分の一ほどが怒気を含んだ、2分の1ほどがあきれた雰囲気。
「景吾?・・・・なんで病院?」
「・・お前は・・・・」
「・・ん?」
「は・・・・・・・・」
「うん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
死ぬんだよ。
「景吾?」
「(・・・・・・俺たちは、失うんだ。)」
「跡部?」
「(泣いても泣いても、消えない悲しみに溺れて)」
腐って腐り落ちて。
枯れて枯れ果てて。
溺れて溺れもがいて。
それでも、会いたい。
かくも悲しい熱に浮かされるばかり。
「っ・・・・・・っ・・・お前は・・・・・・・・」
<ズキンッ>
「(?!)っ・・・・・・・」
「景吾?」
「あとっ・・・・・」
「いって・・・・・・・っ・・・・・・痛っ・・・・・」
「跡部先輩!」
「おい、跡部?!」
<ズキンッ>
の肩からはずれた手は頭を両手で抱え込む。
また頭痛だ。
あの頭全体を覆う激しい痛み。
「景吾?!しっかりして!!」
「俺っ・・・保険医呼んできます!」
「頼むぜ、長太郎」
「っ・・・・っ・・・・・」
「何?聞いてるよ、景吾」
「っ・・・・・・・痛っ・・・・」
足に力が入りきらない。
コートに両膝をついてしゃがみ込む。
<ズキンッ>
邪魔、するなよ。
伝えないと。
<ズキンッ>
伝えるんだ。
が、お前が世界から消えてしまうこと。
未来を変えるために。
を助けるために。
<ズキンッ>
誰にも信じてもらえなくたって、
だけは俺の言葉を信じてくれるはずだ。
「っ・・・・・・・っ・・・!」
「景吾?何?」
「っ・・・・・」
<ズキンッ>
邪魔すんなよ。
痛みで声が続かない。
この頭痛。俺が目覚めた保健室で。宍戸の髪の話をしているとき。そして、今。
(・・・・・・・・・・)
保健室での死を忍足に確かめようとしたとき。
宍戸に都大会で負けたことを告げようとしたとき。
そして、今。
が死んでしまうことを告げようとしているとき。
「・・・・・・・・・・・」
「景吾?」
「跡部?」
・ ・・・・・・・・・・・・まさか。
頭痛が起こるときはすべて、未来の話をしようとしたとき。
・ ・・・まさか、どういうことだよ。
頭痛が和らいでいく。
俺は頭から手を外し。
が俺の顔を覗き込む。
・ ・・・・・そういう、ことか。
過去の俺が未来について知っていることはありえないから。
未来の事実を話すことは許されないと、
そういう、ことなのか?
「」
「頭痛?おさまったの?」
「っ・・・・・」
頭痛が和らいだ、今。
「・・・お前はっ・・・・・・」
「ん?」
<ズキンッ>
「いっ・・・・・・っ・・・・・・・・・」
「景吾!!」
再び頭を抱え込む俺。
・ ・・・・・そういう、ことか。
過去の俺が未来について知っていることはありえないから。
未来の事実を話すことは許されないと、
そういうことか。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「跡部?大丈夫なのか?」
「・・・・・・ああ・・・誰か、鳳呼び戻してこい」
「景吾?」
「・・・大丈夫だ、・・・」
俺が未来を告げようとする意志をなくせば、頭痛はすぐにでも治まった。
手をついて体を支えながら立ち上がる。
が俺を心配そうに見ていた。
俺は目を合わせて笑う。
「大丈夫だ。だから、病院行って来い、。」
「「「「「行くのは、跡部だろ!!」」」」」
妙なところで声をそろえるなよ。
その光景にから笑みがこぼれる。
(守りたい)
守れる。
無意識に拳にしていた手を強く握り締めた。
失うわけには、いかない。
ここは過去。
俺は未来を知っている。
変えられる。
俺は未来を変えられる。
変えてみせる。
お前がずっと側にいる、そんな未来に。
「・・・・お前らいつまで休憩のつもりだ?あん?」
「・・・ヤバイめっさむかつくねんけど。岳人」
「俺もだ。侑士」
「長太郎、どこまで行ってんだよ、心配損じゃねえか跡部。」
「あの、みんな落ち着いて。練習戻ろう?」
「・・・。跡部しばいてもええ?」
「やってみろ。返り討ちにしてやる」
あと、四日。
を失うまで。
落ち着け。
(落ち着け。)
必ず助けるから。
「珍しいなぁ、跡部がうちにきたいなんて。ってか初めてちゃう?」
「お前が俺の家に来ることはよくあるけどな」
「いつも招待どうも。お前の家とは大きくちゃうけど驚かんといて。俺1人暮らしやから。」
「いいからさっさといれろよ」
「はいはい」
俺は忍足のマンションにいた。
部活が終わって、
いつもどおりの笑顔のと全員が名残惜しそうに別れる。
「・・・・・・・・・・」
「跡部?入ってくれてかまわへんよ」
「・・・ああ」
思い出せばすぐにでも脳裏に。
はいつも側にいて笑顔で支えてくれるから。
エレベーターで階を昇ると忍足の部屋の前についた。
忍足が鍵を開け、俺を部屋へ促す。
「・・・・殺風景だな」
「どんな部屋を想像してたん?」
「・・もっとオタク的な」
「ここで誤解といてええ?俺オタクちゃう。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「いや、なんか反応してえな」
忍足の部屋は必要なもの以外は何一つ置いていないのだろう。
簡素な色合い。
片付けられている部屋。
俺は忍足の部屋の中央まで歩くと、目的のものを物色し始める。
「・・・・・本?本探しに俺の家にきたん?」
「前、言ってたじゃねえか。お前の親父が実家に帰るたびに勝手に荷物の中に医学書いれて部屋でかさばってるって」
「医学書?・・なんでそんなん・・・・」
「多いな。ある程度の知識を入れるならどれを読めばいい」
忍足の父親は医者で忍足自身が医者になってくれることを望んでのことらしい。
俺は忍足の部屋にある本棚を探っていた。
本棚は腰ぐらいの高さのものが3つ。
教科書が入っているものがあれば軽く読めるようなものではないだろう厚さの本が何冊と並んでいた。
指で背表紙をなぞって題を確認する。
さすがの俺も医学書を読んだことはなく、
並ぶ本の中からどれを手にしていいか手がさまよっていた。
忍足が俺の隣にきて目線を同じくらいの高さにし、本棚に目をやる。
「・・・なんやねんいきなり。には突然病院行け言うし」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「教えてくれへんの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
話したくても、話せねぇんだよ。
俺は無言だった。
だが、目線だけは本棚から外し忍足を見ていた。
忍足は俺と目を合わせると小さく溜息をついてから目線を本棚に戻した。
「・・・・・・何が知りたいん?一通りの知識言うても量が半端ちゃうで?」
「・・・・脳梗塞」
「脳梗塞?」
「ああ。同じこと言わせんな。」
脳梗塞が原因で、は死んだから。
だから、
助けたいと思うなら、守りたいと思うなら。
お前を奪ったものの正体の全てを知ろうと。
「・・・・これとこれやな。」
「・・・・薄い」
「脳梗塞の知識なら家庭の医学的な本でええと思うで。」
忍足が本棚から二冊、俺に本を手渡した。
他のものよりだいぶ薄い本だった。
「・・・なあ、跡部」
「あん?」
「になんかあるんか?脳梗塞って・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「言うてくれへんの?」
「・・・・・・・・・・・・・・邪魔したな。すぐに返す」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
本棚の前から立ち上がって、
忍足の部屋の出口へと俺は向かった。
忍足は無言で俺の後をついてくる。
靴を玄関で履いて忍足に一瞥すると
忍足は少し怒っているかのような、せつなそうな表情を浮かべていた。
「・・・お前に脳梗塞のことを聞けばどこまでわかる?」
「・・・・脳梗塞は脳の血管がつまって起きる病気や。老年に多い。
発見が早ければ早いほど助かる可能性は高いけど、遅ければ死亡確率はあがる一方や。」
「・・・・原因や予防は?」
「原因は生活の不摂生が主やろ。動脈硬化からくるものもあるからな。それは遺伝にもよる」
「・・・・・・・・・・生活の不摂生?」
表情を変えることなく淡々と答える忍足。
(・・・・生活の不摂生?が?)
いや、誰より早く朝の部活にやってきて帰りも遅い日がある。
その割には勉強はしっかりやっていたみたいだし。
・ ・・・・・は基本的に
テニス部の奴らのことしか考えてないからな。
自分のことはないがしろにしがちだったのかもしれない。
「・・・なんやねん。気持ち悪い。人には何も教えへんで、自分は思い出し笑いなん?」
「・・・・怒るなよ。たいしたことじゃないから言わねえだけだ。」
「・・・そういうことにしといたる。」
言いたくてもいえない。
頭痛に邪魔されて。
本当は、
(全てを話したい。)
未来のこと。
これから起こるだろうすべてのこと。
を失って。
俺たちは。
・・・・・・・・俺たちは。
「じゃあな」
「・・ああ、ほな」
未来を言葉につむげない。
俺は本を片手に忍足のマンションをあとにした。
忍足の表情は終始変わらないまま。
(・・・・・守るから。許せよ)
必ず、守って見せるから。
失いはしないから。
未来を変えてみせるから。
「忍足ー。」
「・・・・・なんやジロー」
「あの厚い本は何?跡部朝から読んでるC」
「ジロー。よく見ろ。朝から読んでたのとは違う本だぜ?」
「宍戸、よく気付くね。あれ多分朝から2冊目だよ」
「っても気付いてたのかよ!」
「あれが、昨日忍足先輩が跡部先輩に貸したという本ですか?」
「・・・・・・いや、ちゃう。」
休み時間、教室の窓際の席。
俺は本を開き読み漁っていた。
廊下でレギュラー陣とが俺の様子を見ているのはとっくに気付いていたが、
とくに気はしなかった。
「「「「「ドイツ語の医学書?!」」」」」
「俺が昨日貸したんは薄い医学書二冊。ちなみに朝跡部が読んでたんのも俺が貸したんとちゃう」
「医学書?景吾が?」
「跡部医者になる気なのー?すっげー!!」
「・・・・多分、ちゃう。」
「忍足?」
このときの忍足のつぶやきに気付いたのはだけだった。
ジローも向日も鳳も宍戸も、
医学書を読んでいた俺を興味津々で見ていたから。
「・・・・・どうしたんやろな、跡部。教えてくれへんねん」
「何かあったの?」
「わからん・・・・様子変なのは思っとたっけど」
「・・・景吾・・・・・」
俺はなぜここにいるのか。
誰が、何が俺を過去に連れてきたのか。
何をさせたいたのか。
苦しめたいのか。
それとも再びに会えたことを喜ばせたいのか。
もし答えがあるなら、それは。
「けっ景吾!」
「。・・・昼は?」
「それはあたしが聞きたいよ!ちゃんと食べた?」
「・・いや、まだだ」
「けっ・・・」
「ちゃんと食う。心配すんな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
昼休み。
俺は図書館へと来ていた。
持ち出し禁止の本が集められた一角に座り、新しい医学書を読み漁っていた。
昼が始まって少ししか時間が経っていない図書館に人の姿はない。
「ぐっ・・・・・・・・・・!」
「あん?」
「具合悪いの?!景吾!!」
「・・・・・・・・・あ?」
が唇をかみ締め、
手を握り締めて俺に聞いた。
俺は手にあった開いていた医学書を閉じる。
「・・・・?」
「それ医学書・・・・なんでしょ?」
「ああ、まあな」
「なんでそんなもの読んでるの?どこか悪いの?!」
・ ・・・どうしてそこにたどり着くんだよ。
忍足から借りた2冊は昨日のうちに読み終えた。
あと3日。
それが俺に残された時間。
2冊を読んだ後もっと詳しい知識はないかと、
別の考えはないかと、様々な医学書に手を伸ばしていただけのこと。
が俺からの答えを待っていた。
心から心配している表情。
俺はそんなの頭に手をのせた。
「・・・・心配するなよ」
「・・・・・・・」
「お前が心配するようなことは何もないから。」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・守る、から。」
「・・・・・え?」
「絶対守ってやるから」
時間がない。
あと3日。
俺はなぜここにいるのか。
誰が、何が俺を過去に連れてきたのか。
何をさせたいたのか。
苦しめたいのか。
それとも再びに会えたことを喜ばせたいのか。
もし答えがあるなら、それは。
それは。
を失う未来を変えるためだと信じたい。
1人には、させない。
「景吾?」
失ったりしない。
「・・・・昼、食いにいくか。」
「・・・・・えっうん」
「食堂でいいだろ?」
未来を変えてみせるから。
その笑顔、守ってみせるから。
「景吾!」
「あ?」
「いっ・・・・・・・行けばいいの?病院!」
図書館から食堂へ向かうために下る階段。
が俺の後ろで俺を見てそう聞いた。
その表情は、
自分で自分の言葉に驚いているようなそんな表情で。
「・・・・・ああ。検査してこい全身。とくに頭。」
「それはあたしの頭が異常だと?・・・・けっ検査って予約とか・・・あたし、部活抜けれないよ」
「今日の放課後行って来い。予約なんてどうにかしてやる」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・」
お前は、何を思ったのだろう。
俺の昨日からの言葉に、
は何を思ったのだろう。
何を思って、病院にいく気になってくれたのか。
お前のいる階段の段の1つ下に立てば、目線が同じ高さになる。
「・・・・・わかった」
の返事に笑った。
本を読んで知った。
お前を奪った正体の実態。
俺だけの力じゃどうにもならない。
だが、何の前触れもなくなるようなものじゃない。
検査をすれば、必ずどこか異常が見つかるはずだ。
「あれー?跡部!はー!」
「・・・・・・病院だ」
「「「「「病院?!」」」」」
放課後の部活。
は病院に検査に行き、部活に顔をださなかった。
「・・・・跡部、行かせたんか」
「が自分から行くって言ったんだぜ?」
「・・・・・ほんまに?」
1人には、させない。
失ったりしない。
未来を変えてみせる。
あと3日。
必ず、助ける。
守りたいんだ。
一度は失ってしまった、お前を。
end. 気に入っていただけましたらポチッと。