未来に戻らなければならない。




全国大会がある。




叶えるべき夢が。




だがそれは




変えるべき未来を、変えてからでいい。



























『革命前夜5』





































4/xx 20:10
from:
sub:終わったよ

今病院から帰ってきたよ。
健康そのもの、異常なしだって!

     ―end―






シャワーを浴びて、自室でまだ水が滴る髪をタオルで拭きながら



再び医学書を手にしようとしていたときだった。



震えた携帯とサブディスプレイに表示された名前に



すぐに携帯を手にし、開いた。





「・・・・・・・異常、なし?」





からのメール。



検査のために病院に行ったは、そのまま今日の放課後の部活に姿を見せることはなかった。



から届いたメールを見つめる。



それは、俺が予想していたものと違う内容。



メールの画面を消し、すぐにの携帯番号をディスプレイに表示し電話をかけた。









電話の呼び出し音、コールの音がもどかしい。









(、早くでろ。)








何回目かのコールでが電話にでる。





『・・もしもし?景吾?』


、本当にどこも異常はなかったのか?」


『ん?・・・ああ。メールで送ったとおり!元気だし、健康だし、悪いところはどこもないって!』


「・・・本当にどこもか?」


『どこも。』


「・・・・頭とか、血管とかもか?」


『何、それ?本当に何も異常なしだよ』





顔の見えないの声は明るかった。



電話越しにのいつもの笑顔が読み取れた。



それは、



俺に安心ではなく疑心を与えた。





「・・・・・・・・・」


『・・・・景吾?・・ねえなんであたしに病院行くように言ったの?』


「・・・・・・・・・お前が・・・・お前がいつも1人で走りまわってるからだろ?」


『ん?』


「・・・・部活が・・・本格的に忙しくなる前に健康診断でもさせとこうと思っただけだ」


『あははっ変なの』





何か、わかると思っていた。



病院で検査をすれば。



脳梗塞に繋がる原因が判明して、



それでたとえが入院することになっても、が死ななくてすむのなら



それでいいと思っていた。



むしろ、それを期待していた。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


『・・景吾?』


「・・・・悪かったな、いきなり電話して。」


『・・・ううん』





が、助かる術が見つかることを。





「・・・じゃあな。ちゃんと飯食ってから寝ろよ?」


『もう食べたよ!・・いつもならそんなこと言わないくせに。やっぱり景吾変。』


「・・なんでもねえよ、じゃあ。また明日な。」


『・・・・・・うん・・・おやすみ』


「・・・・・・・・おやすみ」





電話は、が切ったのを確認してからきった。



携帯を机の上に置く。




(・・・どういうことだ)




部屋の窓際まで歩いてカーテンを開けた。



肩にかかっているタオル。



雫の落ちてくる濡れた髪をかきあげる。





【脳梗塞】





脳血栓または脳塞栓の結果、脳血管の一部が閉塞し、



その支配域の脳実質が壊死、軟化に陥る疾患。





目に映る窓の外は暗闇になりきれない黒だった。



血栓、つまり血の塊や細菌が血管をふさいでしまう。



それが脳にたどりつくと起こるのが脳梗塞だ。



何の前触れもなく起こることではない。



検査をすれば血中の中の様々な数値に何かその兆候が現れるはずだろうし



血管を塞ぐ可能性のある異物があれば見つかるだろう。



を奪った正体を事前にふせげる、そう思っていた。





(何も異常がない)





そんなことありえない。



突発性の疾患ではない。



前触れがあるはずだ。



なのに、何も見つからない?



そんなことあるはずは・・・・。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・」





ベッドのサイドに置かれた棚に置いてある、一冊の医学書を目に映した。



今日が、終わる。



暗がりが教える。



明日になればあと2日。



それが残された時間。



を失うまでに残された時間。





「・・・・・・・(違う。・・・・・を助けるまでに残された時間だ)」





肩にかかっていたタオルを外して髪を拭きなおした。



ベッドに腰をかけて医学書を手にする。



失うのではない。



守るんだ。



そうは思っても病院の検査に期待が大きかったぶん、



失望や落胆が大きかったのが自分でわかった。



目を閉じて一つ呼吸をおく。








どうすればいい?








投げかけに答えはない。



手にした医学書のページを再び開いた。






























































































































































































































































。病院どうやった?」


「見たことない機械がたくさんあったよ!」


ー!どこか悪いの?」


「ううん!元気だよ、ジローちゃん」


「へへっよかったC−!」


「・・・・・で?跡部はまだ医学書読んでんのかよ」


「また見たことない表紙のものを読んでますね」






朝の部活は何事もなく終わった。



はいつもどおりの笑顔。



病院の検査結果を持ってきていたので奪って一通り目をとおしたが



の体が軽すぎることをおいてはまったく問題がなかった。



今は、昼時の学食。





「・・・・なあ、。」


「ん?」


「お前、軽すぎだろ。これ」


「・・・って!忍足も岳人も何見てるの!!」


「「の検査結果」」


「かっ勝手に見ないで!」


、元気だC−」


「よかったです、先輩が健康で」


「長太郎の言うとおりじゃねえの?」





俺は本を片手に(もちろん医学書を)



俺のまわりで騒ぐこいつらはの検査結果で遊んでいた。



いつもの顔ぶれでまとまった席につき、



今日はは宍戸と俺に挟まれて座っていた。



宍戸の前に鳳。



その隣にジロー、その隣に忍足が座り



向日が机の端に自分でイスを持ってきて席を作っている。





「跡部ー。跡部は医者になるの?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


「昼食わねえ気かよ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


「ジローも宍戸もシカトされたみたいやな」


「・・・・・・景吾?」





俺以外のそれぞれの前にそれぞれの昼食のトレーがあった。



の声に俺の隣に座るに視線だけ贈ると、



すぐに医学書に戻す。













時間が、ないんだよ。












「・・・・・・・・景吾、食べないと放課後きついよ?」


「跡部?先食べてしまうで?」


「・・・・先に食ってろ。後で何か口にはする」


「跡部―?今それ、読まなくたって・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・俺、悲C−・・・・」





ジローの落ち込んだ声にが声をかける。



俺以外昼食に手をつけ始めたが、はそうしようとはしなかった。



忍足がそんなに気付いて食事を促す会話が聞こえた。



俺は、ひたすら文字を追いかけた。









を守る方法を探していた。









「・・・・・・そういや長太郎も最近本読んでたよな、結構厚めの」


「はい。おもしろくてあっという間に終わりましたよ?」


「どんな本なの?長太郎」


「小説なんです。主人公は少年で。犯罪者なんです。」


「へえ、おもしろそうやん。岳人読んでみたら?」


「・・・・俺読書は2ページまでだぜ?」


「向日―!俺も俺も!でも俺3ページまでいけるCー!」


「どうでもいいな、おい。」





ふと顔をあげるとが笑っていた。



手元の昼食も少しだけだが手をつけ始めたようだった。



思うところは、様々で。



言葉にするには複雑で。



単純に言えばただ、ただ大切だと。



ただ、それだけ。












「主人公がタイムトリップするんです。」










鳳の言葉に俺は医学書に目線を戻せなくなる。




(・・・・・・タイムトリップ?)




この場の視線は誰もが話をすすめる鳳にむけていた。



俺も鳳を見る。



話は最近読んだという本の内容。





「罪をおかした主人公は懺悔するんです。時をさかのぼってもう一度、すべてをやり直したいと。」


「なんか、すごい話だな長太郎」


「主人公は裁かれます。裁判官は彼の心からの懺悔を聞き取りチャンスを与えるんです。」


「チャンスって何?気になるCー!」


「ジロー、知りたかったら静かにしいや」


「それが過去へ戻ることです。主人公は意識だけが過去の自分の中に入りこみ、そして努力し自分が罪を犯さないように過ごしていきます。」





意識だけが?



鼓動が大きく鳴っている。



他人事ではない。



まるで俺のことを言われているようで。



鼓動が大きく鳴っている。





「でも、主人公は自分が罪を犯すことをとめることができませんでした。」





誰もが鳳の話に聞き入る。



話の腰を折ろうとするものはいなく。



小説の結末を鳳が言うのを待っている。






「結果論だそうです。」


「・・・・結果論?」


「主人公は努力をしたんです。でき得るかぎりの。精一杯の。でも結果は変わらなかった。」


「長太郎、よくわからないよ」


「例えばです。先輩が今日どんな生活を過ごしてもここで昼食をとる。これは結果。」


「ん?よくわかんないC−」





結果論?



主人公は自分の罪を変えることが叶わなかった。



どんな努力をしても。



どんな注意を払っても。



つまり、





「・・・・例えばやで?大きな事象で言うとジローの母親と父親、どちらが違っても生まれてくるのは結局ジロー。そういうことやろか?鳳。」


「すごい例ですけどそういうことです。」


「・・まだわかんないC・・・」


「つまりねジローちゃん。全国優勝する学校が氷帝なら、どの学校とあたってもどんなゲーム展開でも全国優勝する学校は氷帝。」


「お前なぁどこまでテニス部のことしか考えてねぇんだよ!」


「別にいいじゃない、宍戸。」


「さすがー!ちょっとわかった気が・・する?」


「疑問かよ」


「そういう向日はわかったの?」





どんな過程を辿っても、たどりつく結果は同じ。



そういうことだ。



結末は変わらずやってくると。



そういうことだ。




(・・・・・・なんだよ、それ)




なんだよ、それ。



それは。





「・・・・・結果論か。・・・そういうのを人は運命って呼ぶのかもしれへんな」


「・・・・・・・・・運命?」


「景吾?聞いていたの?」





忍足の言葉に思わず俺は声に出す。



運命?結果論?



どんな過程を経ても結末は変わらない。



それは。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それは。








「・・・・ふざけんなよ」


「跡部?どないしたん?」


「・・・・・そんなものあるわけねえだろ!!」


「景吾?ただの小説だよ。何怒って・・・・」







それはつまり、



































































































































































の死は変わらないということなのか。











































































































































































































































































<ガタッ>





「景吾!」


「ちょっ!待って!」


「なんでっ・・・・」


「跡部この間からなんか考えとる!だからっ・・・」






俺は席を立った。



が俺を追おうとするのを忍足が止める声がした。



その会話を最後まで耳に入れることなく



医学書を片手に食堂からでていく。



行き先も決めずに歩き始めた。














あと、2日。












残された時間。



気付けば過去にいて、全ては現実。



が生きていて。



未来を変えられる可能性に気付いた。



未来を変えたくて。



を失いたくなくて。



手にした本は、知識は与えてもを助ける術は教えてくれない。













「・・・・・・運命?・・・・」












あせっていた。



病院での検査に頼っていた。



望みは大きかった。



を助けられると。



だが、の身に異変はない。






結果論。






頭を回るその言葉。



助ける。



助けられる?




(どうすれば失わない?)




気付けば陽だまりの人気のない廊下で足を止めていた。



探してる。



見つからない。



何ができる?



俺に何ができる?



お前を失わないためには。



守りたいのに、わからないんだ。



もしあるのなら、運命。



















































それに打ち勝つ方法が。





































































































































「景吾!!」


「・・・・・・・


「忍足がとめたんだけど・・・どうしても気になって・・・」





息切れ、



肩で呼吸をする



走って俺を追いかけてきたことがわかって。





「・・・・・・・・・・・・・」


「景吾?この間からどうしたの?何を抱えてるの?」





未来を変えたくて。



を失いたくなくて。



手にした本は、知識は与えてもを助ける術は教えてくれない。



教えて、くれない。







「・・・・・・時間がねえんだよ」


「・・・・・・・え?」


「・・・・・空になったんだ、大事なものを失ったとき」


「・・・・・夢の話?」







夢じゃない。



手にしていた医学書が手から落ちた。



気付けばに歩み寄り、



を抱きしめていた。







「・・・わからねぇんだよ」


「景吾?」


「わからねぇんだ・・・・・」







何ができる。



俺に、一体何が。



助けたいんだ。



助けたいんだ。



エゴでもなんでもいい。



なくしたくない。



死なせたくない。



失うものか。



二度もお前を失うものか。




















1人にはさせない。

















そう言える勇気が欲しい。



を抱きしめる力や自然と強まる。





「・・・・景吾?言ってくれなきゃわからないよ」





なくしたくない。



失いたくない。





「・・・・景吾?」





離れたくない。



離したくない。



助けたい、守りたい。






「・・・・・






お前を。


































































































































































守りたい。






















































































































































































































見つからないんだ。



見つかってないんだ。



守りたいと思いながら、お前を守る術。





「・・・・大丈夫だよ、景吾」





の手が俺の背中をポンポンッと叩いた。



目を見開く俺。



心が、あふれそうだった。






「うちの部長にできないことなんてないでしょ!」


「・・・・・・・・・・・」


「・・・・よくはわからないけど」


「・・・・・・・・・・・・」


「らしくないぞ、跡部景吾!いつもの自信家っぷりはどうしたの?どうしていいかわからない?そんなのどうにかしなさい。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・大丈夫だよ、景吾なら。なんてたって大所帯のテニス部をまとめるあなただもん」





心が、あふれそうだった。





「・・・・・・・・・・ああ。そうだな、


「うん!大丈夫!!」





いつも、支えてくれる。



お前が支えてくれる。



抱きしめていた体を離せばが笑う。



俺までつられて笑ってしまうような、春の日差しに似た温かな笑み。



声にならない、言葉にできない、想いを定かに。



ただ、側にいたいだけ。



ただ、側にいて欲しいだけ。



立ち向かうべき運命があるなら、



俺はそれを迎え撃つまで。



































































































































































































































「・・・お前は、まだそれを読むんか。」


「あん?お前に借りた本を返そうと思ってだしただけだ」





部活の始まる直前、



ジャージに着替え始める前の部室の前。



そこにいたのはまだ俺と忍足の2人だった。



コートにはすでに部活の準備を始めているの姿があった。





「よう、読んでたなぁ。・・・で?」


「あん?」


「まだ教えてくれへんの?何を最近必死になってたか」





手渡した二冊の医学書。



忍足から借りていたものを返す。



部室に入ろうとする俺を制止した忍足は不敵に笑いながら俺を見ていた。






「・・・・・・忍足」


「何?」


「・・・・大切なものを失うとわかっていたら、お前ならどうする?」






俺の問いかけに忍足は驚く。



驚いてしばらく俺を見てから、忍足はコートで走り回るに視線をおくった。
























































































































































「・・・・命をかけてでも守るやろな」


























































































































































































わがままなんかではない。



贅沢なんかではない。



ただ、








「・・・・そうだよな」








守りたいだけだ。



助けたいだけだ。



笑っていて欲しいだけだ。



ずっと側にいて欲しいだけだ。






死なせたくない。






生きて、歩いて欲しい。



俺たちと一緒に。



忍足に向かって口角をあげるだけの笑みを見せた俺は部室へと入っていく。



事前にふせげないのなら。



見つけた答えは賭けに等しい。



だが、前触れがないのだ。



それしかない。






(守ってみせる)






自分のロッカーをあけて着替え始める。



忍足はまだ外にいた。



俺が返した医学書を目にして



そして、コートを駆け回るを見つめていた。






「・・・・跡部、お前。それじゃあまるで・・」






忍足が今までの俺の行動を理解しようとしていたこと。



俺の言動、そこから導き出した結論。



そんなこと知る由もなかった。



俺は部室にいたから



だから、そのときのあいつのつぶやきは聞こえることはなかった。





































































































































「まるでが、・・・・・・いなくなってしまうみたいやないか」
































































end.                                気に入っていただけましたらポチッと。