あの日を忘れない。
忘れはしない。
お前の冷たさに触れた日を。
開かない瞼に
何度も名前を呼んだ、あの日を。
『革命前夜6』
カーテンの隙間から差し込む光に目を覚ました。
そのまぶしさに目の前で手をかざす。
ベッドから起き上がれば自分の頬に伝う涙に気付く。
「・・・・・」
何の夢を見ていたのだろうか。
よくは覚えていない。
手で涙を拭う。
(・・・・・・・・・・・・・・・・)
何の、夢だったのか。
覚えてはいないが、わかる。
冷たい俺の右手。
涙を拭って、すぐに左手で右手を握りしめる。
忘れたことは、一度だってない。
夜は、日付が今日に変わってもなかなか寝付けなかった。
俺はベッドからおりて部屋のカーテンを開ける。
太陽が部屋に光を差し込む。
「・・・・・・?」
あの日が、いつも以上に鮮明に
フラッシュバックを繰り返すのは、
明日が、あの日だからなのか。
瞼を閉じて深く吸った空気は、春の朝にふさわしく
ほんの少しの寒さと、心地よさを含んだものだった。
あと、1日。
俺たちがの死を告げられるまで。
あと1日。
つまり、今夜だ。
今夜が奪われる。
目を開いて真っ直ぐ見据える。
空と、太陽の光。
俺がを守れるチャンスは今夜。
「おはよ、景吾」
「おはようございます、跡部先輩」
「・・・ああ」
朝、早めに部活に来ればいつもこの2人がいる。
と鳳。
すでにジャージ姿の鳳は俺と会った部室前から、コートに駆け出していった。
「長太郎、がんばってると思わない?景吾」
「・・・・・張り切ってるって言うんだ、ああいうのは。」
「そういう景吾はいつもより早いね。張り切ってるんだ?」
「・・・・まあな」
早く、会いたかったんだよ
「さあ、今日も1日がんばろうー!!」
1人でいると思い出してばかりいて。
が笑って小さくガッツポーズする姿を目に映す。
俺はの頭にポンッと手を置いて、部室へと足を進める。
「あんまり無駄に張り切るなよ、」
「無駄とは何よ!景吾も張り切ってるくせに!!」
「くくっ・・・・・お前はいつも張り切ってんだろうが」
「だって・・・マネージャーですもん。」
今日はあの日の1日前で、いつもより強く思い出すから。
手が、
冷たいんだ。
脳裏をちらつくあの日のすべて。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・景吾?」
「・・・鳳に言っとけ。そんなに張り切ってるなら誰もいない朝から俺が特訓してやるって」
「くすくすっ・・・了解です」
の笑顔を横目に入れながら
部室の中に入る。
「・・・・・・・・・・・・・・」
部室のドアを閉め、寄りかかる。
握り締めた手のひら。
チャンスは今夜。
今夜、だけ。
左手で右手を覆うようにして、それを口付けるかのように俺の口元へ持っていく。
傍から見れば、
祈っているようにも見えたかもしれない。
思い出す。
朝からずっと。
あの日の絶望感を。
「おっはよー!!!」
コートに聞こえてきた声に俺は部室のあたりを見た。
ちなみに今は鳳と打ち合いの最中だ。
ジローがに抱きついてるのが見えた。
「おはよう、ジローちゃん」
「・・・。何あれ。跡部が朝から鳳をしごいてるん?」
「2人とも張り切ってるの」
「「・・・張り切ってる?」」
「ジローちゃんも忍足も張り切ろうね!!」
(・・・・・・・眠ってる、みたいだった。)
鳳のリターンを打ち返す。
さほど力はいれていない。
鳳を左右に走らせるためだけに打ち返す。
「おはよう、宍戸、岳人。」
「おう。・・・何だあれ。長太郎と跡部?」
「宍戸も張り切ろうね!」
「・・・・・・・・あ?」
「岳人もね!」
「あれ張り切ってるってことか?」
レギュラーが姿を見せるたびに俺は部室前に目をやる。
が笑ってる。
(・・・・名前を呼ぶんだ。何度も。)
何度も。
「・・・鳳。お前そんなんが決め球とか言うきじゃねえよな?あん?」
「うっ・・・・・」
「つめがあめぇ!!」
「・・・・景吾、はりきりすぎだよ」
鳳の隣を綺麗にぬいた、俺のスマッシュ。
コートに集まり始めるレギュラー。
がタオルとドリンクを運んでくる。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
返事が、ないんだ。
寝てるみたいで。
眠ってるだけなのに。
・ ・・・握り返してくれないんだ。
「・・・・景吾?みんな集まったよ!早く練習しよ!」
冷たい手が
俺に教えるんだ。
が、死んだこと。
「・・・・景吾?」
「・・・・・・・・リターン練習からだ。、ボールあるだけ持って来い!」
「はい!!」
今日に限って思い出す。
強く、鮮明に思い出す。
あの日が明日に迫るからか。
お前の冷たさに触れた日を。
開かない瞼に
何度も名前を呼んだ、あの日を。
「景吾ー!準備できたよー!!」
過去に来たんだ。
過去にいるんだ。
「跡部、いつでもいいよー!」
「あれ?ジローからなん?」
「んじゃ、次俺。ってか今日張り切る日なんだろ?」
「・・・・向日。とりあえず毎日張り切っとけよ。今日限定じゃなく」
「宍戸さん!俺は毎日張り切ってます!!」
「それは知ってるよ、長太郎。みんながんばってね!」
ネットをはさんで
レギュラー達とがいた。
俺の向かい側に。
誰もが笑っていた。
がいると、いつもあいつらは笑っていた。
それはうれしさなのか、楽しさなのか。
「跡部ー!準備OkだCー!」
過去に来たんだ。
過去にいるんだ。
お前を救うべき過去に。
「・・・・行くぜ?ジロー!!」
「よしっ、こい!」
「なんや、ホンマに跡部張り切ってんな」
・ ・・教えてくれ。
「、ボール拾い頼む!!」
「はい!」
「ー!怪我ー!!」
「忍足!岳人のケガは忍足の責任!!」
「!そんなこと言わんとって!」
「ー!俺・・・・・俺!・・・・寝る。・・・・zzz」
「ジローちゃん、起きて!!」
教えてくれ。
お前がいる世界の温かさを。
消してくれ。
お前がいない世界の冷たさを
「先輩!審判お願いできますか?」
「長太郎は宍戸と試合?」
「3ゲームマッチのな」
すべてを払拭するんだ。
チャンスは今夜。
昨日見つけた手段。
この手の冷たさも。
あの日の絶望感も喪失感も。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「何?景吾?」
教えてくれないか。
この手の冷たさを消すために。
お前がいると
「・・・・呼んだだけだ」
「・・・へ?」
「「「跡部?!」」」
「跡部先輩が!!」
「跡部が部活中に無意味にを呼ぶなんて・・・・!!」
「・・・・なんだよ、何か文句あるのかよ」
「どうしよう!みんなぁ!!景吾がっ・・・景吾が変!!」
「落ち着け!落ち着くんや!!!」
「大丈夫だ、!ほらこの間頭打ったばっかだしよ」
「宍戸さん!やっぱり跡部先輩は俺のせいでっ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・(ものすごく心外なんだが。)」
俺をからかって笑うこいつら。
・ ・・心外なんだが、その光景がうれしかった。
きっとうれしいなんて表現は間違っているが、
それでもなぜかその感情が一番納得がいく気がした。
「「「「「跡部!やっぱりお前こそ病院に!!」」」」」
「・・・・・・てめえら、いい加減にしろよ?」
「ー!助けて!!跡部のデコに怒りマークが見えるC−!」
「見えないよ、ジローちゃん。」
教えてくれ。
この手の冷たさを消したい。
笑みがこぼれる。
が側にいる。
一瞬俺の脳裏をよぎるの眠っている姿。
・・・・・教えてくれ。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・景吾?どうかした?」
「・・・・なんでもねえよ」
。お前がいれば。
「練習再開するぞ!!」
世界が、温かいから。
今夜、お前を守る。
今夜、未来を変える。
今夜がチャンス。
必ず、助ける。
「あーとべ。なあちょっと付き合うてくれへん?」
休み時間。俺のクラスが一瞬にしてざわめく。
黄色い女子たちの叫び声によって
見事に俺の耳を痛くしてくれたそいつに睨みつつも近づく。
「いややな、怖い顔せんとって」
「ならその胡散臭い笑顔を俺に向けるな」
「・・・女の子受けはええのになぁ」
忍足が浮かべている笑みは明らかにこいつの嘘だ。
心を隠している証。
何の用があってここに来たのか。
面倒なことに違いないと疑うには、こいつのこの胡散臭い笑顔で十分だった。
「・・・屋上。一緒にサボらへん?たまには」
「俺に何の用だ」
「ん?ただのデートのお誘い。」
「・・・・・・ホンマ、嘘やん。なあ、?ふざけんのはやめえや」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・跡部?」
「・・・・・・・いいぜ?付き合ってやるよ」
忍足の声がなぜかあの時のものと重なった。
屋上へ向かう階段ではとくに話はしない。
俺は次第に冷たくなっていく手を制服のポケットの中で握り締めていた。
に、会いたい。
「最近めっちゃええ天気やなあ」
「・・・・・・・・・・・」
「なあ、跡部。俺夏も好きやけど春も好きやねん」
「・・・お前の頭は万年春だろ?」
「・・・・それなら岳人のほうがそうやない?」
屋上で両手を伸ばして背伸びをする忍足。
広がる空は青く、春の気候そのままの暖かな空気。
忍足は俺に背を向けて話していた。
「・・・・・・・・・で?」
「ん?」
「俺に何のようだよ」
「・・・跡部は俺にようないん?」
「あ?」
「なんか、言うことないん?」
忍足が俺に振り向いた。
目を合わせたこいつは、笑っていなかった。
真剣な目の奥。
「う・・・そだ。」
「・・・・・・ホンマ、嘘やん。なあ、?ふざけんのはやめえや」
「先輩?」
(やめろ)
制服のポケットに入れたままの手を強く握り締める。
時間とは人に平等に与えられているもの。
それを早く感じるときはどんなときか。
俺にとって今日は1日の時間が進むのがとても早く感じられた。
時間が、迫ってくる。
「・・・・思い当たる節がないんだが?」
「・・・・・・・俺が知りたいんはお前の考え」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・跡部がまるで、・・・」
フラッシュバック。
思い出すつもりなんてない。
何度も呼んだ。
その名前を何度も呼んだ。
(・・・・やめろ)
手を握った。
握り返して欲しかった。
眠っているみたいだった。
目を覚まして欲しかった。
(やめろ)
お前の冷たい体温が、
「跡部がまるでがいなくなるみたいに言うたから」
この手に染みていく。
忍足の言葉に俺の心臓が大きく鳴る。
忍足の真剣な目に俺は。
・・・・みっともなくも、すがりたくなったんだ。
「・・・・・・っ・・・・・・」
「大切なものがいなくなるって知ってたらどうするってなんや。なんでそんなこと俺に聞いた?なんで脳梗塞のことなんか知りたがったん?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「跡部、お前は何を知ってるん?」
手が、
手が、冷たい。
他の誰も知らない。
俺だけが、俺だけが、こんな・・・・・・
こんな苦しみを。
「っ・・・・忍足!はっ・・・・」
<ズキッ>
「痛ッ・・・・・・」
「・・・・・・跡部?」
襲われる頭痛に頭を押さえ込む。
<ズキッ>
冷たいんだ。
(やめろ。)
目を覚まさないんだ。
(やめろ。)
名前を呼ぶんだ。
何度も呼ぶんだ。
返事をしないんだ。
もう、笑ってくれないんだ。
「っ・・・・うっ・・・・・・・あ・・・・・・」
「跡部?!また頭痛なん?」
「しっ・・・・・(死ぬんだ)」
「え?」
「あっ・・い・・・・・(あいつが、が死んじまうんだよ)」
<ズキッ>
「跡部?」
<ズキッ>
伝えさせてくれ。
どうか。
苦しい。
俺だけが知ってる。
俺だけが、俺だけが。
時が、迫ってる。
夜がくる。
最後の機会。
兆候も前触れもない。
なす術は今夜しか現れない。
「跡部。しっかりしいや」
「っ・・・・・・・・・・・・・・」
忍足が俺に近づいている。
頭を抱えて片膝を床についた俺の近くでしゃがんでいる。
伝えさせて欲しい。
この苦しみ。
この手の冷たさ。
1人で抱えるにはあまりにも。
「・・・・・・・・・っ・・・・・」
悲しい。
「・・・・・・。呼んでくるわ」
「(?!)」
「その頭痛。・・・精神的なものからくるもんちゃうやろか。俺が今無理やりお前から聞きだそうとしたからあかんのかもしれへん」
「っ・・・・忍足・・・・・」
「・・・・立てそう?跡部。」
「・・・・・・・・・・・・・・ああ・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・精神的なものやったらに会うのが一番やろ?」
立ち上がった俺の頬を頭痛からくる冷や汗が流れていた。
忍足が俺を苦笑しながら見た。
・ ・・・・話したかった。
全てを。今日これから起こる全てを。
悲しい熱に浮かされるこの手の真実を。
忍足が呆然と手を見つめる俺の前から走り去る。
を呼びにいったのか。
‘精神的なものやったらに会うのが一番やろ?’
忍足の解釈は正しいのか知らない。
・ ・・・・ただ俺がの名前を呼んだから。
だからあいつはを呼びに行ったのだと思う。
(・・・・・何を思った。)
忍足に問いたかった。
何を汲み取ってくれたんだ。
伝えてかった。わかってほしかった。
この、
途方もない苦しみを。
「・・・・景吾?」
「・・・・・・・・」
終礼のチャイムが聞こえた。
そのあとにが屋上に姿を現した。
俺の頭痛は既に消え。
ただ冷たいこの手を必死で握り締めていた。
「・・・忍足が、俺には何もできなそうだって」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・あたしに行ってくれって」
が教える忍足の言葉。
お前は、俺を助けようとしていたと?
ここ数日の俺の言動から何かを汲み取って。
「・・・・・・・・・・・・・・・景吾?」
「・・・・・・・・・・・」
これから始まる授業が今日の最後の授業。
それが終われば部活がある。
部活が終われば、夜がくる。
「・・・・・・・・・・・・・」
「景吾、あたしにできることある?」
「・・・・・・・・・・・・」
生きてくれ。
「・・・・・・・・・・・・見つけたんだ」
「・・・・うん」
「するべきことはわかってるんだ。」
「うん」
教えてくれ。
手が冷たいんだ。
に近づく。
吹いた風が俺の髪をそよがせ、の頬をなで。
「抱きしめてもいいか?」
今更、そんなこと聞くなんて、
きっと遅い。
を抱きしめるのはこれで何度目だろう。
が返事をくれる前に抱きしめる。
過去に来たんだ。
お前を救うべき過去に。
失いたくないから助ける。
死なせたくないから守る。
何も知らないのはお前も、あいつらも。
だから、これは俺の勝手な行動。
それでも。
「・・・景吾?・・震えてるの?」
時間が迫ってるんだ。
「・・・・・見つかった。どうしたらいいかは」
「うん」
「でも・・・・・・・でも。」
俺が何の話をしてるかなんてきっとにはわからない。
わからないけどは俺の話に相槌をうって聞いてくれる。
わかろうとしてくれる。
怯えてるんだ。
「・・・・・景吾?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「どうしたの?」
怖いんだ。
他の誰も知らない。
俺だけが知ってる。
俺だけが。
手が、冷たい。
凍えてるんだ。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「なあ、」
その先に言葉はない。
抱きしめる力を強めることで伝える。
死ぬな、死ぬなよ。
生きて。
思い出すのは冷たさばかり。
この手は、忘れない。
教えて欲しい。
お前がいる世界の温かさを。
「なあ、」
俺が、お前を守るよ。
「景吾。」
「・・・・・・・・・」
「景吾、震えないで。」
がこんなに側にいてくれるのに。
こんなに強く抱きしめられて、きっと苦しいはずなのに笑ってくれる。
消し去ってくれ。
怯えてるんだ。
明日に。忘れもしない明日に。
お前の冷たさに触れた日に。
開かない瞼に
何度も名前を呼んだ、あの日に。
「怖がらないで、景吾」
今も心に根付いてる。
あの空虚な悲しみも、絶望感も、喪失感も、。
こんなに近くにお前を感じても
「私が、いるよ」
寂しさばかりが心を支配していく。
「レギュラーのみんながいるよ、部員のみんながいるよ」
「・・・・・・・・・・・・・」
「怯えないで。何も怖いことなんてないよ」
明日に、うなされる。
始業のチャイムの音がなぜかとても遠くで聞こえた。
手は冷たいままだった。
チャンスは、今夜だけ。
怖いことなど。
‘私が、いるよ’
お前を失うことだけだった。
「・・・頼みが、ある」
「・・・・・頼み?」
「今夜、俺と会ってくれ。一晩俺といてくれ。」
「・・・・・・・・・・・・・・え?」
屋上に吹いた風が、体を離した俺との間を吹き抜ける。
目を見開く。
俺はその目を捕らえて離さない。
なす術が現れるのは今夜。
何の前触れも前兆もないから。
お前が発症したらすぐにでも病院に連れて行って処置をする、それしか方法がない。
本当は病院に入院させたかったが健康体の人間を入院させるには相当な理由がいる。
俺には誰にもその理由を言えない。
も入院なんて納得しない。
なら、せめて。
「景吾っ・・・・・・」
「頼む、」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
誰より側にいて、すぐにでもを助けるべく行動をするしかない。
それしかなかった。
「いっ・・・・・・いるだけなら・・・・」
「・・・・・安心しろよ、何もしねえから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
赤くなったが小さくうなづく。
俺はその姿に苦笑する。
ありがとう、理由を聞かないでくれて。
きっと、意味もわけもわからないままなのに。
「・・・・・結果論か。・・・そういうのを人は運命って呼ぶのかもしれへんな」
(・・・・・・運命、か。)
見上げた空が青い。
そうだ、を失ったと知る前の日は確かこんな風に晴れていた。
あの日はそれ以上にいい天気だった。
「けっ・・・景吾?」
思わず抱きしめなおすの体。
細く、小さい。
けれどまだ確かにここにいる。
「・・・・・・・・・(俺が、お前を守るよ)」
「・・・・・・・・・あの・・・・景吾・・・・」
「もう少しだけこのままでも・・・・・いいだろ?」
冷たいその手を握ったとき。
眠るお前の体温は
俺の手に染みていった。
少しずつ、少しずつ。
・ ・・・・・ああ。
本当にお前は。もう、・・・・・お前は。
それは、お前の死に触れている実感。
なあ、。
空になったんだ、心が。
名前を呼んで。何度も呼んで。
それでもお前は返事をしない。
もう、笑ってくれない。
「・・・・・・・・・・・・・・」
抱きしめたまま、の背中でそっと右手を握り締める。
こんなに近くにいるのに、
払拭しきれない、この手の冷たさをかき消したくて。
「・・・・・・・変えてやる」
「え?」
「なあ、」
その言葉に続きはない。
ただ、抱きしめるお前の鼓動を俺が確かめるだけ。
(変えてやる)
見上げる空に誓う。
を抱きしめたまま誓う。
立ちはだかる運命があるのなら、
俺はそれに打ち勝つまで。
お前が死ぬのが運命だというのなら。
俺たちがお前を失うのが結果論だというのなら。
未来を決めたのが神なら。
俺たちからを奪うのが神なら。
世界を、変えてやる。
運命も、未来も。
神さえも超えて。
お前を守る。
理不尽で残酷なあの冷たい世界から、
お前を奪還してやる。
チャンスは今夜。
変えるべきは今夜。
世界を変える。
過去も未来も運命も神さえこえて。
今宵、
革命前夜。
end. 気に入っていただけましたらポチッと。