大切なものを失うとわかっていたら、人はどうするのだろう。





もがいても、苦しんでも、心が揺れても。





俺は、






















守りたかった。




















『革命前夜7』









































「じゃあな、


「宍戸、お疲れ」


先輩、お疲れ様でした!」


「長太郎もお疲れ様!!」


「また明日な、


「岳人、帰り道は怪我しないようにね!」


、また明日な。ってか岳人のおかんみたいやん。」


「あははっ・・・・忍足もお疲れ様ー」


ー!一緒にかえっ・・・・」


「ダメ。あたしはまだ部室にいるけど、今日精一杯がんばった人は早く帰って休むこと!!」


「ちぇ」


「・・・・また明日ね、ジローちゃん。」


「・・・・・・・・・うん!!」






一人ひとりの笑顔にがいつものように別れを告げる。



今日の部活の終わり。



春の日差しはまだ沈むのが早い。



既にライトアップされたコートの照明は落ち、



電気がついているのは部室の中だけだった。






「・・・・


「・・・・景吾、お疲れ様。」


「・・・・・・・・・・・・・」






部室の入り口に付近に立つ俺。



そこから少し離れたところにいる、忍足、ジロー、向日、宍戸、鳳。



それから、



は俺に振り向き、目を合わせる。



屋上で約束した。



今夜一晩、一緒にいると。






「・・・・・さて!みんな、また明日ね!」





俺から視線を外し背中を向け、他のレギュラー陣を見た



少しずつ、距離を置いていく。



が部室のほうへ歩き出す。



あいつらはに振り返りながら校門へと向かっていく。



名残惜しそうに。笑顔とたわいもない言葉を交わしながら。



ジローなんかはに向かって思い切り手を振り続けている。





「・・・・・


「・・・・うん、ちゃんと行くね。景吾もほら、行かないと。」


「跡部ー!と何話してるのー?」


「・・・・なんでもねえよ、ジロー」





部室前で話す俺と



少し離れたところでレギュラー達が足をとめてこちらを見ていた。



ふいに忍足と目が合う。





「・・・・・・今夜な」


「うん・・・・また。」





俺は歩き出す。



から離れ、部室の前から足をとめているレギュラーのもとへ。




(・・・・・・・・・・・・・)




今夜、会おうと。



俺の家よりはの家のほうが病院に近い。



だがは両親の目を気にして家では一晩一緒にいられないと言う。



だから、今夜の家の近くの公園で。



一晩中話をしようと。



そう約束した。



たわいもない話を。



コートからだいぶ離れたところで俺は一度部室の方を振り返った。



の姿は、



もう残った部活の仕事をすべく部室の中へと消えてしまっていた。






「・・・跡部」


「・・・・なんだよ、忍足」


「・・・あー・・・やっぱなんでもないわ。気にせんといて」






俺と忍足の前ではしゃぐジローや向日。



その後ろや隣に移動しながら帰り道を行く宍戸、鳳。



何の話をしているのか。くるくると表情が変わっていく。





「・・・なんや子守してるみたいやね」


「・・・・いつものことだろ」





ジローが笑っていた。



が死んで一番泣いていたジローが。



向日がふざけて怒っていた。



鳳をレギュラーからおろすと告げたときの死から鳳をかばった向日が。



鳳が苦笑していた。



忘れたくないと声にだした鳳が。



宍戸があきれていた。



コートでが死んだ後も名前を呼んでしまった宍戸が。



忍足が俺の隣を歩きながら笑っていた。



が死んでいつも誰かをかばおうとしていた忍足が。





(・・・・・・・・・・・・・・・・すべてを)





すべてを守れるだろうか。



笑顔も、怒った表情も、あきれ顔も。



が助かれば、すべてを守れる。





「・・・・・・悪いな、先に帰る」


「・・・・え?」


「あれ、跡部?早歩きだC!」


「じゃあな、跡部!また明日な」


「跡部先輩、お疲れ様でした!!」





俺は早足で自分の家へと向かう。



抜かしたこいつらのそれぞれの声に俺は振り返らず片手をあげてこたえる。



空気が少し冷たい。



夜がふけようとしている。



早まる足取りは、焦燥感からだった。



時間に追いかけられていた。



今夜だ。



今夜が、すべて。




(・・・さっきのあいつらも、も。)




失いたくなかったから。



夜が、お前を奪おうとしている。





















































































































































































































家についてすぐに制服から着替える。



もう一度家から外にでてと約束した公園に向かう。



あまりに静寂な夜は、自分の心音を目立たせていた。




(落ち着け)




想像していたよりも自分の足取りは速かったのか、



あっという間に約束の公園までついた。



ベンチとブランコ、それから小さな滑り台が置いてある、



さほど広くない公園。



の姿はまだなかった。



俺はベンチの端に座る。



が来たらその反対側の端へすぐ座れるように。





「・・・・・・・・・・・・・・・」





春の夜空を眺めたことなんて、今まであまりなかった。



小さな星が大きな間隔を空けて存在し、きらめく。



ふと自分の息が白いことに気付き、



頬の冷たさを知った。



こんなに今夜は寒かったのかと。



パンツのポケットに入れた手は朝から変わらず冷たい。



動悸が早かった。





(落ち着け)





自分に言い聞かせる。



何度も何度も。



今夜、に異変がある。



俺はそれを察したらすぐに病院に連絡する。



脳梗塞は発見が早ければ早いほど助かる確率が高い。





「・・・・・・・・・・・・・・・」





白い息を吐き出す。



瞼を閉じれば走馬灯のよう。



繰り返す自分の中。



どこまでも落ちていく仲間。



なりふり構わず進もうとする自分はただ泣けないだけだった。



たどりついた先。



鮮やかで、頼りない。



淡い、儚き緑。



絶望感。



喪失感。



焦燥感。



思い出す嘆き。



悲しみと涙。




(・・・・変えてみせる)




今夜、必ず。



もう一度春の夜空を仰ぐ。



俺はを待っていた。



約束の公園で、早く来いとそう叫び続けながら。



少しの怯えと緊張をたずさえて。



早い鼓動にせかされ、時を気にしながら。




























































































































































































































だが、は一向に現れなかった。








































































































































































































































































『お客様のおかけになった番号は現在電波の届かな・・・・・』


「ちっ・・・・・」





耳に当てていた携帯をすぐに閉じる。



が来なかった。



待っても待ってもが来ない。



嫌な予感がした。



もう一度の携帯に電話をかけるが結果は同じだった。





「(・・・・・・・・・・・)」





どこにいるんだ。



鼓動が早い。



呼吸が浅い自分がいる。



・ ・・落ち着け。



夜が更けていく。



時が迫ってくる。





「っ・・・・・・・・」





嫌な予感がした。



運命が結末に向かって動き出す音がする。



完璧に噛み合う歯車が、寸分違わず回りだしている音が。






手が、冷たかった。





見上げた春の星空。



白い息、冷える空気。



俺は走り出した。



を探しに。








(・・・・まだ、家に?)







の家は公園のすぐそこ。



の家は明かり一つついていなかった。



夜はだいぶ深まっている。



家のチャイムを押そうと思ったが無意識に手が下がった。



はここにはいないと、そう誰かが俺に教えていた。



外に、いる。



再び駆け出す足。



今度は俺の家に向かって。





(どこだ、)




どこにいる。



どこに・・・・・・・。



手が凍えそうなほど冷たい。













怯えを、知っているか。












『景吾様にお客様ですか?』


「ああ、そうだ。誰か来なかったか?」


『いえ。・・・・今日はお友達の家にお泊りになるご予定でしたよね?』


「・・・・・ああ・・・・・夜分に悪かった」


『あっ・・・景吾様!!』









俺の家のインターホンで使用人に聞いたがは俺の家に来ていなかった。



が来ていないとわかると俺はすぐにまた駆け出す。



今日は友人の家に泊まるという理由で家を出てきたぶん、使用人の対応は俺を不自然に思う態度が現れていた。



走りながら俺は携帯を手にして弄る。



もう一度に電話をかけるが結果は先ほどと同じだった。



機械的な声がつながらない電話を教えるだけ。






(どこだ?)






恐れを、絶望を知っているか?






(どこにいるんだ、)






止まらぬ震えを。



刃をつきたてられているような胸の痛みを。



かみ締める唇は鉄と血の味。



あせり、とまどい、嘆き。



時にむなしさに包まれ、空虚な想いにひれ伏す。



早い鼓動。












「・・・・っ・・・・・!・・・!どこだ?!」











戻ってきた約束の公園。



の名前を呼んだ。



見回す小さな公園に人影はない。





「っ・・・・・・・・!」





どこだ、どこにいるんだよ・・・・・。



夜が俺を覆ってる。



に迫ってる。



運命が結末に向かって動き出す音がした。



完璧に噛み合う歯車が寸分違わず回りだしている音が。



凍えてる。



その冷たさに凍えている。





「・・・・・っ・・・・・・・」





何が邪魔をする。



落ち着け、考えろ。



のいる場所。



守るんだ、守るんだ。





(・・・落ち着け)





静寂な中で俺の心音だけがうるさい。



心があせっている。



お前を失う恐怖に。



・ ・・・・頼む。



頼むから、俺をここに連れてきたことに意味があるなら



どうか、













あいつを奪うな。









































































































































































「景吾」














































































































































































































































呼ばれた、確かに。



呼んだ、確かに。



小さな声で、が、俺を。



わかった。



どこにがいるか。



駆け出す足。



向かう場所は決まってる。










のいるところへ。









































































「・・・・・・・・・っ・・・・・!!」


「・・・景吾」































































































がいたのは、氷帝のテニスコート。





「お前っ・・・なんでまだここにっ・・・・」


「ごっごめん・・・・もしかしなくても・・・・探してくれてた?」


「当たり前だ!!」





俺の怒鳴り声にびくっとが肩をすくめた。



テニスコートの脇では校舎内にある小さな街灯の下でしゃがみこんでいた。



俺は肩を上下させて乱れた呼吸を整える。



は様子を伺うように俺を少しずつ見上げてくる。



俺は思わずを睨んだ。





「あっ・・・・ごめん!ごめんなさい、景吾!!」


「・・・・何してたんだよ」


「・・・・・・帰ろうとしたらね。・・・・・これ・・・・・」





が小さな光の照る元で俺に手を差し出していた。



俺はの手のひらにあるそれを見て驚く。



冷たい空気。



春の夜が深く。





「四葉のクローバー・・・・やっと、見つけて。・・・まだここにあるんじゃないかって」


「・・・ずっと、探してたのか?」


「・・・・・あのっ・・・・ごめんね!携帯充電切れちゃってて電話しようにもできなくてっ・・・・景吾にも一つあげられたらと思って探してて・・・・・」


「・・・家には?連絡してあるのか?」


「充電が切れる前にかろうじて。友達の家に泊まると、言ってあります・・・・」





俺はの手にあるクローバーを見る。



・ ・・・・俺の知っている過去と違う。



はクローバーを見つけることができなかった。



だが。





「・・・・・・・・・景吾?・・・・・怒ってる?・・・よね、そりゃ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・あの、なんか言って?」





未来が、変わろうとしているのか。





「・・・無事でよかった」


「・・・・・・・・・へ?」


「寒いな」


「あっそうだね!待たせてごめんね!!」





・ ・・・・・変わってくれるのか。



俺はの肩に頭をのせた。



片手で抱き寄せるようにしてを引き寄せる。







「・・・景吾・・・・・」


「・・・・探した。


「・・・・・・・・・・・」






変わってくれるのか、未来。



変わってくれるのか、運命。



守れたのか?



俺はを。






「・・・・ねえ、景吾。今日は寒いし家に帰ろう?」


「・・・・・ダメだ。」





まだ、ダメだ。





「・・・・・・でも景吾は明日も部活あるし」


もだろ?悪い、今夜だけでいいんだ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」





の肩から顔をあげる。



目線をの手に落とし、のクローバーを持つ手に俺の手を重ねる。



の手は春の夜の空気のせいなのか冷たかった。



暖めてやりたいが、俺の手は朝から冷たいままでどうしてやればいいかわからない。






「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・最近俺変だったな。でも、明日になれば戻るから。」


「・・・・・・景吾、やっぱり帰ろう?」


「・・・・・悪いがそれはできねえんだよ」







が俺を見ていた。



俺の手はいまだの冷たい手に重なり、クローバーを覆う。





「・・・・・・?」


「・・・・・・家に帰って寝たほうがいいよ。部長に風邪ひかせるわけにはいかないよ」


「・・・・・・・・・・・・?お前・・・」





違和感があった。



の瞳がいつもと違う。



浮かべる表情が明るい優しさの笑みではない。



その瞳はかすかに涙でぬれている。





「・・・・・・・・」


「・・・・帰れるから」


「え?」


「今夜、しっかり寝て、明日目を覚ませば・・・・・」





笑った、が。



寂しそうに、寒そうに。






































































































































「未来に帰れるよ、景吾」




























































































































































































「・・・・っ・・・お前・・・・」


「帰って、景吾。・・・あなたがいなきゃいけない場所はここじゃない」


「・・・・・・・・・お前、未来の・・・・」


「・・・・・・・自分にのりうつってる・・・・・・って言えば、わかってもらえる?」






頬を冷やす風が吹く。



春の夜空が星を瞬かせる。



俺の手が重なるの手は冷たかった。






冷たかった。






「・・・な・・・・んで・・・・」


「帰って、景吾。・・・あたしなら大丈夫だから」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」






俺の前にいるのは、



未来の



過去のじゃない。



俺たちがクローバーを見つけて、そこでやっと会えただ。



自分のことを幽霊でも夢でも幻覚でもなんとでもいえると告げただ。



の意識に死んだの意識が入り込んでいた。






「・・・・・・、お前。なんでここに」


「・・・・・・・・・・・景吾こそ。・・・・戻って。早く帰って。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





何も驚くことはない。



死んだはずのお前に会って、今度は時をさかのぼり過去にいる。



今さら何があっても驚きはしない。



・ ・・動じはするが。





「まだ俺は帰れない」


「景吾!」


「俺が帰ってお前は助かるのか?死ななくて・・・・・(!)・・・・・・・・」


「・・・・・・・大丈夫。頭痛は起こらないよ。あたしも未来を知っているから」


「・・・・・・・・・・・・・・・死ななくて、すむのかよ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」





俺たちに、一度だって嘘なんてついたことのないだから。



沈黙は肯定に等しかった。



の手に重なった俺の手をが見る。



黙ったままうつむく。







「・・・・・・・・・起こるんだろ?脳梗塞」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・


「・・・・帰って未来に。・・・・景吾。戻って。」







過去に来たんだ。



お前を救える過去に来たんだ。



変えるためにここにいるんだ。



未来を。



運命を。






「俺はお前を・・・・・」


「見られたくない」


「・・・え?」





吐き出す息が白い。










「景吾に、あたしが死ぬところなんて」








が俺の目をまっすぐにとらえていた。



震えながら、芯の強い瞳で。






















絶望を知っているか。



















「・・・・・・・・・死なねえよ」


「・・・・・・・・・・・・・・」


「俺が死なせねぇよ」





見つめ返す瞳。



ただただ真っ直ぐに視線を交わす。



その冷たい手に触れながら。





「・・・未来は変わらない」


・・・・・」


「あたしは、死んでしまう」





恐れを、怯えを知っているか。



止まらぬ震えを。



刃をつきたてられているような胸の痛みを。



かみ締める唇は鉄と血の味。



あせり、とまどい、嘆き。



時にむなしさに包まれ、空虚な想いにひれ伏す。




(・・・・冷たい)




凍えている。



俺の手もの手も。



寒さにかじかんで震えている。










「・・・わかって。わかって、景吾」









震えてる。



恐怖に。



迫ってくるときに。



運命が結末に向かって動き出す音がした。











完璧に噛み合う歯車が、寸分違わず回りだしている音が。










「・・っ・・・わからねえよ!わかるかよ!死なせねえ!死なせてたまるか!!」


「景吾っ・・・・・」









の手に重ねていた手で今度はの手首を掴んで引き寄せる。



俺の肩を、胸を、が濡らす。



ここ毎日お前を抱きしめてばかりいる。



の存在を知るために。



過去を変えるために。



凍える手を温めるために。



そして、今は。






「ダメだよ・・・・変わらないんだよ、景吾・・・・・」






迫り来るときに震える



泣き止ませてやりたくて。














「・・・変わらないんじゃねえ、変えるんだ」


「・・・・ふっ・・・っ・・・・・・」


「泣くな、。・・・・泣くなよ」












は何を知っているというのか。



変わらないという未来に震え。







(・・・・・・・・どうにもならないって言うのかよ)







冷たいその手では四葉のクローバーを握り締めていた。



俺の腕の中でが泣く。



その嗚咽に、雫に、胸が締め付けられていく。







「・・・・・・・・・泣くな、







笑ってくれ。



いつもみたいに笑ってくれ。



助けるから。



守るから。



死の恐怖なんかに怯えるな。














































































































































































「・・・・・・側に、いろ・・・・」

























































































































































必ず助ける。



死なせはしない。



のいない未来なら変える。



運命なら変える。



お前を奪うのが神だというのなら、神にさえ勝つ。



側にいる。



これから先もお前は俺たちの側で笑っている。








「・・・・・・・ダメなの、景吾・・・・・・・ダメなの」








震えながら



が言葉を紡ぐ。



の知っているこれからを。



運命の寸分違わぬ歯車の音を。



凍えていく。



俺もお前も



冷たいこの世界に。



お前は言う。



運命は変わらないのだと。









































































































































































































































































































大切なものを失うとわかっていたら、








人はどうするのだろう。


































































End.                              気に入っていただけましたらポチッと。