「・・・・景吾ー」
「あん?」
「・・・・・・部誌開いた?」
「部誌?何か変なことでも書いたか?」
「ううん・・・・・部誌にじゃなくて」
「なんだよ」
「・・ううん・・・・なんでもないや」
その日の部活が終わってあたしは部誌を書くために部室へ残っていた。
いつもなら1人で最後までここにいるけど。
今日は明日の練習メニューを検討するとかで景吾も一緒に部活が終わっても部室にいた。
卒業式間近のこの時期もテニス部は世話しなく練習してる。
朝早くから夕方遅くまで。
来年度、あたし達は三年。
最後の部活になる。
景吾が部長の今年。
絶対強くなる。
こうして部誌を書くのはマネージャーのあたしの仕事。
実は、少し前にレギュラーのみんなと撮った写真を部誌の間に挟んでいて。
あたしはそれを見る度に苦笑するんだけど。
その写真の裏に、いつの間にか書かれていた文字を見つけた。
いつか離れるときが来ても側にいて欲しい。
いつかまた会えるときが来たら笑いかけて欲しい。
何度涙にくれても何度くじけてもその度に強くなれるよう
俺たちは歩き続けるから。
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(綺麗な字)
景吾?そう思ったけど
当の本人は部室のイスに腰掛けて綺麗な手をノートの上で動かして素知らぬ顔。
忍足?宍戸?
何度見てもやっぱり景吾の字。
「・・・・なんだよ。そんなに俺の顔がかっこいいか?」
「・・・・・・否定できないからなんとも言えない」
「・・・・・・くくっ・・・・」
景吾が喉をならして笑ってあたしをからかおうとするので
あたしはずっと観察していた景吾から目をそらした。
写真の裏の文字。
ちょっぴりくさい。でもなんだか悲しい。
(あたし宛・・・なのかな?)
4行の写真の裏の手紙。
(いつか離れるときが来ても側にいて欲しい。)
ちょっぴりくさい。
(いつかまた会えるときが来たら笑いかけて欲しい。)
でもなんだか悲しい。
(何度涙にくれても何度くじけても、その度に強くなれるよう)
決意のような、誓いのような。
(俺たちは歩き続けるから。)
強い祈りのような、願いのような。
・・・・・よしっ!
部誌を書いていた手を写真の上へと移す。
それは返事と言うよりは一方的な私の主張。
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私がいるよ。
側にいるよ。
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俺の書いた文字の下。
小さく遠慮がちに、文字が浮かび上がってきた。
(・・・・届いたのか?)
届いたのか?
・・・・にしても。
「・・・・‘私がいるよ’か。・・・どれだけ心強いんだよ」
それはあきれからの笑いのか。
嬉しさゆえの笑いなのか。
口元が自然とゆるんでいた。
(私はいるよ)
望んでくれるかぎり。
たとえば、あなたが倒れるその時まで。
・ ・・・大げさに聞こえるかもしれないけれど。
「。部誌書き終えたか?」
「えっあ!もうちょっと!!」
景吾がいきなり席を立ってのであたしは急いで写真を開いていたページと違うページにはさんで隠した。
景吾が一瞬怪訝な顔をしたけど、どうにか笑ってごまかしてみる。
「早く書けよ。送ってやるから。帰るぞ」
「・・・・ねえ、景吾」
「あん?」
あの写真の裏。
景吾が書いてくれたものならいいな。
あたし宛の手紙だったらいいな。
「・・・・なんでも!!」
「なんだよそりゃ」
「部活頑張ろうね!部長!」
「・・・・張り切りすぎるなよ、マネージャー」
景吾があたしの頭の上にポンッと手を置いた。
景吾が笑うのであたしも笑った。
うれしくて笑った。
あたしはこの部活が大好き。
みんなが一生懸命なのがわかる。
あたしは、そんなみんなの力になりたい。
あの写真の裏の文字みたいに。
みんなにとって支えになれたらいいって、ずっと思ってる。
ずっと、思ってる。
時を、越えて。
水に茎を浸したクローバーが風も吹いていいないのに再び揺れた。
「・・・・たいした革命じゃねえか」
時を越えて。
が笑った気がした。
俺はお前を守れなかったけれど。
だからこそせめて、約束を守りたい。
かけがえのないお前。
俺たちの支え。
時を越えて。
写真の裏に浮かび上がったの文字を眺めた。
一番大切なことはどんなに離れていても心が側にあるということ。
お前の存在を、確かに感じる未来より。
大切な君へ。
届いただろうか。
時を越えた、革命の手紙。
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