「ごほっごほっ」
あたしをむせさせる覚えたての煙草
あなたと同じ香り
あなたと同じ銘柄。
『絡めた指の先』
「じーん!あたし暇。」
あたしは仁の部屋にいた。
仁は窓を開けていつもどおり煙草をふかすだけ
あたしを完全に無視。
「・・・仁。・・・仁ってば!」
窓の近く。
壁に寄り掛かって床に座る仁の服のそでをひっぱる
「暇。」
「で?」
「暇なの」
仁が煙草を床に置かれた灰皿につぶした。
「・・・仁。するの?」
「・・・」
床に押し倒されたあたし。
背中が軽く痛い。
仁からの返事もなく始まるあたし達の行為
「・・・仁・・・」
あたしは仁の名前を呼ぶ
何度だって呼ぶ
あたしの名前を呼んで欲しいから。
「・・・仁・・・ねぇ、仁」
「・・・お前」
繰り返すキス
仁があたしから唇を離した
「・・・な・・に?」
「吸い始めたのかよ」
染み付いた?
あなたと同じ香り。
仁が上からあたしを見る。
あたしは下から仁を見る。
「じ・・・」
「黙ってろ」
仁の名前を呼び終わる前にふさがれる唇
あなたの煙草の味がした。
「ごほっごほっ」
あたしをむせさせる覚えたての煙草
あなたと同じ香り
あなたと同じ銘柄。
あなたと同じ香りを身にまとわせて
あたしはあなたと体を重ねた
「あっ・・・仁・・・んっ・・」
「くっ・・・」
ねぇ、名前呼んで?
「じ・・・ん・・仁・・・」
あたしは何度だってその名前を呼ぶから
「・・・・・・っ・・・」
この身に同じ香りをまとって
あたしは仁と一つになりたかった。
「仁?・・・仁。」
同じベッドの上
隣で並んで寝転んで。
「うるせぇ。俺は寝るんだよ。」
「勝手だ。仁、勝手!」
「・・・・」
「仁?」
あたしの名前を呼ぶ声に返ってきたのは沈黙と
小さな仁の寝息。
「・・・またあたし。暇になっちゃうじゃんか・・・」
隣で眠るあなた。
おぼえたての煙草
染み付いた?
この部屋の香りも
一緒に横になるベッドも仁も
仁の吸う煙草の香り。
「・・・仁。」
眠る仁の手にあたしは手を重ねて
指を絡めた。
「仁」
返ってくるのは沈黙と小さな寝息。
覚えたての煙草
あなたと同じ香り
あなたと同じ銘柄。
あなたと一つになりたいから吸い始めた。
「仁・・・ねぇ、仁」
一つになりたくて・・・
いいえ、あたし本当は、あなたの一部になりたかった。
一つになんてなれないから。
何度体を重ねても
いつもあなたが私の中からいなくなる瞬間が嫌い。
同じ香りをこの身にまとって
あなたの一部になりたかった。
あなたの香りになりたかった。
指を絡めて
あなたを見てあたしは泣くの。
悲しくて泣くの。
一つになれなくて泣くの。
時間が戻るように泣くの。
あなたと同じ煙の香りこの身にまとって
あたしこのままとけて無くなってしまえばいい
あなたと一つになれるなら
絡めた指の先から
このままあなたにとけて
あたし消えてしまえばいい
あなたと一つになりたいから
絡めた手
仁があたしの手を握りかえした。
「・・・仁?」
「・・・何泣いてんだ、てめぇ」
「・・・仁があたしを暇にするからでしょ?」
「・・・そりゃ悪かったな」
「仁が謝ると雨が降るからやめて」
「・・・・」
同じ目線であたしはあなたを見てあなたはわたしを見て
「仁。あたし暇だよ」
仁からの返事もなく始まるあたし達の行為
絡めた手はそのままに
同じ香りをこの身にまとって
あたしはあなたの一部になりたかった
「」
「・・仁・・・あっ・・ん・・」
あなたから呼んでくれた名前がうれしくて
あたしは泣いた。
絡めた指の先から
このままあなたにとけて
あたし消えてしまえばいい
あなたと一つになれるなら。
あなたと一つになれるなら。
end.