「景吾!やだっ・・・なんで?!景吾!景吾!!」













薄れゆく意識の中で




の声だけが俺の耳に届いていた。







































『君がいない』











































「あたしが・・・あたしが景吾の側にいなければよかったんだっ・・・」






〈ピッピッ・・・・・〉





その無機質で冷たい機械音が



俺の心音を表していることに気付くまで



そう時間はかからなかった。



意識が薄れていく時も



意識が戻ってきた時も



聞こえてきたのはの声






「け・・・ご?」





の手が俺の手を握る感触に



俺はの手を握り返していた。






「景吾?気付いたんだね?!今お医者さん呼ぶっ・・・」






ここは病院で



俺はベッドに寝かされていて。







「・・・景吾?」






(呼ぶな)






が俺の頭の上で押そうとしたナースコールを



うまくは力の入らない手での手をにぎって制止する。






(呼ぶな、誰も。)






声がでなかった。



は目に涙をためていて。






「・・・景吾覚えてる?景吾があたしのことかばって・・・それでっ・・・」


「・・・・・」






学校の帰り道




(覚えてる)




歩道を歩いていたに向かっていきなり突っ込んで来た車




(・・・よかった)




俺が気付くのが遅れて




(よかった無事で)




お前をかばって俺がひかれた。




(お前が無事でよかった)















〈ピッピッ・・・・・〉













「・・・ごめんね・・・ごめんね景吾!!あたしのせいでっ・・・」





手は、握られたまま



泣いているお前を



抱き締めてやりたいが



体に力が入らない。






(泣くなよ)



「ごめ・・・なさいっ・・・」



(泣くなよ)







声がでなくて



お前にかけてやる言葉すら喉を通らない






‘あたしが景吾の側にいなければよかったんだっ・・・’






意識が薄れていく時も



意識が戻ってきた時も



聞こえてきたのはの声







〈ピッピッ・・・〉







・・・聞けよ、














































































































































































































「け・・・ご・・・?」

























































































































































































































力の入らない腕だから



きしむ体全体を使って



の耳が俺の胸元に来るように、その手を引いた。






〈とくん、とくん〉






聞けよ



無機質で冷たい機械音ではなく



本当の俺の音。




(生きてるだろ?)




でない声



きしむ体



の温もりだけがわかる感覚



力の入らない腕



体中が叫んでいた。




































































































































今が、最後のとき。































































































































































「・・・・側にいなければよかったとか勝手なこと言ってんじゃねぇよ」


「(!)景吾っ・・・」





不思議と突然声がでた。



が体を俺から離して起き上がり俺の顔を見る。






「側にいなかったら守れなかっただろうが」


「っ・・・け・・ご・・・」


「・・・勝手なこと言うなよ。側にいてよかったに決まってんだろ?」







会えて



会えてよかった。



声がでてもまだ力の入らない体



もう一度を引き寄せることも叶わなかったが。



本当にお前に会えてよかった。



そう思うから



を守って死ねるなら



悪くはない。








「・・・・・俺が死んだら忘れてもかまわない。お前が決めればいい。」


「(!)なんでっ・・・なんでそんなこと言うの?!」


「・・・、泣きやめよ」


「やだっそんなこと言わないで・・・なんで?景吾は元気になるでしょ?またテニスして一緒にいてくれるでしょ?」


「・・・・・」


「ねぇ景吾!」








できない約束なら



したくはなかった。



拭ってやれない涙



どうにかとめてやりたくて。








「お前が俺を忘れても俺がお前を忘れない」


「やだ!聞きたくない!・・・っ・・・」








が自分の耳を塞いだ。



を守って死ねるなら



悪くはない。



最後に触れる体温がのものなら



悪くはない。



最後に目に映すのがの姿なら



悪くはない。



なぁあとは



お前が笑ってくれさえすれば























































































何もいらない。


































































































































〈ピッピッ・・・〉



泣くを見ながら思う。



お前がいない世界はどんなものなんだろうか。



を残して。



が呼んでも俺はいない。



俺はお前を残して。



を呼んでも











































































君がいない。



































































(泣くなよ)




よかったんだ。



お前が無事だったのだから。





「な・・・くな・・・」





かすれ始めた声



が泣いてる。



手を伸ばしたくても



届かない。



別れの言葉でも告げれば



の傷は少しは癒えてくれるだろうか。








今が、最後のとき。








お前にさよならを。
















「・・・・・・・・・つっ!・・・」


「景吾!!苦しいの?!」


・・・(言えない)」


「景吾、何?」









言えない。






さよならなんて










「        」


「え?」









(もう、声がでない)







「はな・・・ない・・・・・・」


















































































離したくない。













































































































































































けれど



お前がもう一度笑ってくれるなら



俺は。



どうか



この言葉が



お前の傷を少しでも埋めるよう。







〈ピッピッ・・・〉






「・・・さよ・・なら・・・・・・・」





〈ピ――――・・・・〉





「け・・・ご?」





無機質で冷たい機械音が俺の音の終わりを知らせた。





「起きて?・・ねえ、景吾・・・・起きて・・・起きてよ・・・・」





泣くなよ



聞こえているから



ただ



どうしても目が開かない。






「景吾起きて?って呼んでよ」





お前の名前が呼べない。





「景吾!やだっ・・・死なないでっ・・・・」





聞こえてる



だから泣くなよ




















「さよならなんて嫌だ・・・・・景吾っ・・・・」

















お前を守って死ねたなら



悪くはない。



最後に触れた体温がのものなら



悪くはない。



最後に目に映したのがの姿なら



悪くはない。



最後に声にしたのがの名前なら



悪くはない。



なぁあとは



お前が笑ってくれさえすれば
















































































































































































































































何もいらない。













































End.