この感情に
誰か、
どうか名前をください。
『恋。』
「あ…おはよ、宍戸君。」
「おぅ、はよ。マジ朝から長太郎の奴がさ。」
毎日は、生きるか死ぬか。
何って?
学校生活の話。
「部活お疲れ様」
「おう、ありがとな」
だってほら
心臓なりすぎだし。
そんな風に笑わないで、宍戸君。
(好きじゃない好きじゃない。)
隣の席の彼は
あのテニス部レギュラー。
とてもモテる。
「、それ現文の教科書。今数字だぞ?」
「え、あっ。わ?!」
「ぷっ…あわてすぎだろ」
笑わないで。
目眩すら覚える鼓動。
(好きじゃない好きじゃない)
あたしは
叶わないって最初からわかりきってる想いなら
いらない。
苦しいだけだから。
だから、誰か。
どうか名前をつけて
目眩すら覚えるこの感情に。
あたしはそうは呼びたくないから。
(好きじゃない好きじゃない)
「あ、わりぃ消しゴム貸して」
「あ、うん。」
廊下側から数えて一列目の一番後ろ。
それが宍戸君の席。
隣とよべるのは
廊下側から数えて二列目、一番後ろの席のあたしだけ。
「ありがとな」
「…うん」
普段は女子とはあまりしゃべらない宍戸君だけど。
(顔熱い)
よく話しかけてくれる。
「?具合悪いのか?」
「え?ううん。」
「顔赤い。」
あたしは自分に言う。
あたしは彼を好きじゃない。
うん、好きじゃない。
「…やっぱ、具合悪いだろ。」
「へ?」
「先生!ちょっとさん保健室連れてきます」
授業中立ち上がった宍戸くん。
「え、あ。えぇ!?」
腕をひっぱられて
気付けばだいぶ歩いていた。
もう少しで保健室。
「宍戸くん!あたし大丈夫だから…あの、具合悪くないよ。元気!!」
「…でも今も顔真っ赤だぞ?」
「それは…」
脈は異常。
心臓、今正常に機能できてる?
「うっ腕…」
「あ。…わりぃ」
ずっと宍戸くんに掴まれていた腕。
(あっついよ)
「?」
あたし達の足はとっくにとまってる。
あたしは掴まれていた右腕を左手で触る。
うつむいていたあたし。
あたしの顔をのぞきこんできた宍戸くん。
「ちっ近付かないで!!」
「え?」
あたし、今…
「っ…」
「あっおい!!!!」
走って、走って。
教室でもなく保健室でもなく
たどり着けば交友棟の片隅。
あたし…。
「…馬鹿」
だってこんなにあなたの触れた部分はあつくて
鼓動は目眩がするほどに。
顔は見られたくないくらい真っ赤。
「(宍戸くんに謝らないと)」
近付かないでなんて。
本心だけど本心じゃなかった。
「!!」
「し、しどくん…」
だってね
「…お前、なんなんだよ。いきなり走りだして。ホントに具合大丈夫か?」
「う、うん」
「そうか。ならいい」
「あの、宍戸くん!」
「…悪かったな、無理やり連れ出して。具合悪いかと思ったからよ。あと…これからあんま話しかけないようにするな。今まで、悪かった。」
「え?」
「俺、教室戻るから。じゃあな」
「まっ待って!!」
聞こえてない?
宍戸君は歩みをとめてくれない。
「そっそんなの嫌だ!!」
宍戸くんが、振り向いた。
「近付かないでなんて嘘だから!!」
「…俺のこと嫌いなんだろ?」
「嫌いなんかじゃない!むしろ…」
近付かないでなんて
本心じゃないけど本心だった。
だって、
これは叶わない想い。
「!?おいっどうした?なんで泣くんだよ?」
「…好きです。」
「え?」
近付かれたらあなたに
この鼓動も顔が赤い理由もわかっちゃうかもしれない。
叶わない想いなのに。
「宍戸くんが好きです」
せっかくごまかしていたのに。
結局この感情はそれ以外に呼び方なんかなかった。
「…あー」
目線は窓の外。
少し赤い宍戸くん。
「えっとその、なんだ」
「…」
困らせたいわけじゃない。
ただ
嫌いなんてそんなことありえないから。
「…隣の、」
「…」
「隣の席になったのうれしかったんだ。」
「え?」
「毎日、絶対話しかけようと思ってて。…結構必死っていうかがんばってたっつーか」
(まだあっつい)
あなたの触れた腕。
「今日も顔赤いし、無理してんのかもって思って…」
目眩すら覚える鼓動
「近付くなとか言われたら普通にショックで嫌われてたのかーって…」
「・・・・・・・・・・・それって・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・俺もが好きってこと。」
赤い赤い
あなたと私の頬。
あついのは今
あなたの触れた腕だけじゃない。
「きっ教室戻るか!」
「…うん」
「…。」
「ん?」
「今日一緒に帰ろうぜ」
この感情に名前をつけるなら
きっと誰もがそうつける。
他に呼び方なんて
知らない。
今なら言える。
あたしあなたに、恋しています。
end.