それは、恋の唄だった。
「・・・・・変な唄。」
『恋の唄1』
「なあなあ仁王」
「何?」
「これ聞いてみ。今日クラスの奴がとってきてくれたMDに入ってたんだけどよ」
部室でサボる俺、と丸井。
部室にあるイスに座っていた。
丸井が俺に渡すMDプレーヤー。
黒いイヤホンを伝って、その唄は俺の耳に入ってきた。
慕うは慕情
焦がれる衝動
美しきよ花 香るは君
つのる想いのラプソディー
やさぐれ上等
路上に途上
見上げればほら 見上げれば空
愛して願望
愛され満充
君に唄えばセレナーデ
泣かれて切実
夕日に憧憬
泣かないで空 泣かないでほら
僕に唄えよレクイエム
「・・・・・・なんじゃこれ」
「あっ最後まで聞けって!」
「あのなぁ・・・」
はずそうとしたイヤホンは、丸井によって押さえ込まれる。
想いは長く 長く 長く
今 何時 どこに 出会えたならばうれしくて
届くならそう 君にだけ
泣き叫べノクターン
「・・・・・・・・」
慕うは慕情
焦がれる衝動
美しきよ花 香るは君
つのる想いのラプソディー
つのる想いの狂詩曲
バラードのような、そうじゃないような
意味があるような、ないような。
「どう?」
「変な唄」
「ええ!!そんなことないぜぃ?おもしろい唄じゃん!!」
「なんてバンド?」
「マイナーすぎて多分聞いても知らねえよ」
聞き終えたその曲は印象深い曲調と歌詞。
これは、何を唄っているのか。
耳に残った男の歌声。
(ガチャッ)
「「!!」」
「あ!やっぱりいた!!」
「なんだ、かよ。驚かすな。」
「仲間にいれて。」
「お前もサボりか」
「人のこと言えないでしょう?ブン太。」
部室の扉をいきなり開けたのは、だった。
「あ。なぁに仁王。仁王も反対しないよね」
「お前さん、バスケ部の部室に行けばいいじゃろ。バスケ部部員なんじゃ。」
「バスケ部の部室は見回り来るんだもん。顧問が。」
テニス部の部室の中へ断りもなく足を踏み入れて来た。
まっすぐ歩いてきて空いているイスへと座る。
「ま。俺はいいけどよ。」
「仁王は?」
「・・・・別に」
丸井の承諾で十分じゃ。
別に俺に同意を求めなくてもよか。
「ありがと、仁王」
「おいっ俺は?」
「はいはい、ブン太もね。一緒にサボりましょ」
だから、俺の顔を覗き込むな。
同意を求めるためとか。
礼を言うためとか。
俺は別にそんなもんされなくていいから。
「・・・・そのMDプレーヤー誰の?」
「あっ。にも聞いてもらおううぜ、仁王。」
「・・・・・・」
(丸井のアホ)
部室に置かれた机の上
さっきまで俺が聞いていた、丸井のMDプレーヤー
別に俺に同意を求めなくてもよか。
「仁王?」
「・・・・聞けばいいじゃろ」
俺の顔を覗き込むな。
が黒いイヤホンをつける。
俺がさっき聞いていた曲。
丸井がMDプレーヤーを弄り、ゆうに聞かせようとする。
は、目を閉じて曲を聞き始めた。
慕うは慕情
焦がれる衝動
男は、何を唄う。
美しきよ花 香るは君
つのる想いのラプソディー
曲に聞き入るの横顔に、いつの間にか俺は
見とれて。
やさぐれ上等
路上に途上
見上げればほら 見上げれば空
愛して願望
愛され満充
君に唄えばセレナーデ
男は、何を唄う。
いつの間にか、ゆうと一緒に同じ曲を聞いているかのような錯覚。
バラードのような、そうじゃないような。
意味があるような、ないような。
曲は俺の中をリピートする。
耳の奥。
頭の底。
泣かれて切実
夕日に憧憬
泣かないで空 泣かないでほら
僕に唄えよレクイエム
「どうだった?」
丸井の声にはっとする。
が曲を聞き終えたらしい。
はイヤホンをはずしながら答えた。
「恋の唄なんだね。いいと思う」
「ほら、聞いたか?仁王」
「仁王は嫌いなの?この曲」
いちいち俺の顔を、覗き込むな。
俺に聞かんでもよか。
「別に嫌いじゃない。好きでもない。・・・・ただ」
想いは長く 長く 長く
今 何時 どこに 出会えたならばうれしくて
届くならそう 君にだけ
泣き叫べノクターン
‘恋の唄なんだね’
男は、何を唄う。
「・・・・・・・変な唄。」
慕うは慕情
焦がれる衝動
美しきよ花 香るは君
つのる想いのラプソディー
つのる想いの狂詩曲
End.