無機質な、試合の開始を教えるブザーが体育館に響く。
前半戦。
そいつはまったくと言っていいほど
どんなに味方が負けていても動かなかった。
ただ真っ直ぐに相手を見据えて。
汗一つかかずに。
後半戦。
そいつは予想もつかない動きをして、チームを勝たせた。
それが、初めて見たの試合。
『恋の唄2』
「ねえねえ仁王!今度の日曜日テニス部部活休みなんだって?」
「・・・・そんなこと誰から聞いたんじゃお前さんは。」
「ブン太だよ」
「・・・・・・」
休み時間の廊下。
一際元気なの声。
壁にもたれかかる俺にはその元気な声を向けていた。
「・・・・で?」
「日曜日バスケ部練習試合なの!」
「・・・・・で?」
「見に来ない?」
予想通り。
丸井のせいだ。
に部活が休みになったなんて言うからだ。
「・・・・・・」
「あ、何その顔。柳生とか誘って来てくれればいいじゃん。」
「・・・・・・柳生、ね」
・ ・・・・・予想通り。
「いいでしょ?ブン太は来てくれるってよ?」
「ふーん」
「じゃ日曜日ね!!」
(自分で誘えばいいじゃろ?)
柳生ならすぐ見に行くと言ってくれる。
俺を使うなよ。
の背中をしばらく見送って、俺はもたれていた壁から離れた。
怖いくらいだ。
平静な心音。
怖いくらいだ。
本当はいらだっている自分。
何に対して?誰に対して?
「柳生」
「仁王くん。どうしましたか?私のクラスを訪ねてくるなんて」
「今度の日曜日にが試合を見に来いと言っていたんじゃが一緒にどうじゃ?」
「・・・・・・私もいいんですか?」
「がそう言った。」
「・・・・・・はい。では。」
「・・・・・ああ。それだけじゃ。」
柳生は、
が好きである。
は、
柳生が好きである。
放課後。
部活が終わって丸井だけが部室に残っていた。
黒いイヤホンを耳につけ少しばかりゆっくり左右に揺れる丸井の頭。
俺は丸井の背中に話しかける。
「・・・丸井」
「・・・・・♪」
「おい、こら」
俺は丸井に気付かれないように
机に置かれた丸井のMDプレーヤーをいじり
音量を最大まで上げてやる。
「うわ?!」
慕うは慕情
焦がれる衝動
勢い良く丸井が耳からはずしたイヤホンから
あの唄が聞こえた。
「仁王!!何やってんだよ!!鼓膜破れる!!!!」
「・・・・お前さんまたそれ聞いとったんじゃね」
「ああ、結構気に入って・・・・・って俺に謝れぃ!!」
「嫌じゃ。お前さんのせいじゃ」
「あ?何がだよ?」
「・・・・・・・」
怖いくらいだ。
平静な心音。
怖いくらいだ。
静まらない苛立ち
「・・・・そういや、お前の所来た?」
「・・・ああ」
「行くだろぃ?の試合」
「・・・俺は行かなくてもいいじゃろ」
「は?行こうぜぃ?のプレイっておもしれえじゃん。」
「・・・・・・」
・ ・・・・柳生を誘えば俺の使命は終わり。
そうじゃなか?
やさぐれ上等
路上に途上
見上げれば空 見上げればほら
「・・・・・丸井、MD止めんしゃい」
「あっわりぃ」
外れたイヤホンから、
あの唄。あの男の歌声。
脳裏にが瞼を閉じて流れてくる音に耳を傾けている
昨日の姿が浮かんだ。
「・・・・・仁王」
「なんじゃ、丸井」
「ごめん」
「なんで謝ると?」
「いや、なんか知んないけど・・・・・怒ってるだろ、お前。」
「・・・・そんなことなか」
次の日曜日。
無機質な、試合の開始を教えるブザーが体育館に響く。
前半戦。
そいつはまったくと言っていいほど
どんなに味方が負けていても動かなかった。
ただ真っ直ぐに相手を見据えて。
汗一つかかずに。
後半戦。
そいつは予想もつかない動きをして、チームを勝たせた。
「すげ・・・・相変わらずだな。」
「さすがキャプテンだけはありますよね」
「(相変わらず)」
前半戦を見たときは本当にやる気があるのか不思議なくらい動かないくせに。
誰もが目を引くプレイ
魅かれずにはいられず。
だから俺もきっと
誘われれば必ずと言っていいほどの試合は見に行ってしまう。
「の所行こうぜぃ!!」
たちの試合が終わると俺たちは観戦していた体育館を見渡せるギャラリーから降りた。
体育館の入り口へ向かうと試合を終えた達にちょうど会うことが出来た。
「あっブン太!柳生!仁王!!」
・・・・俺が最後か。
の後ろにいる立海バスケ部の他の連中がざわついた。
「すごかったぜぃ!!」
「あはは、ありがとうブン太。」
はじめに話しかけたのが丸井で
その次は
「お疲れ様でした。」
「見に来てくれてありがとう、柳生!!」
・・・・どうしてなのか。
唄が、聞こえた気がした。
慕うは慕情
焦がれる衝動
美しきかな花 香るは君
柳生はが好きである。
は柳生が好きである。
そんな2人の話す姿。
つのる想いのラプソディー
「仁王!見に来てくれてありがとね!!」
「・・・・・ああ」
の頬を汗が走った。
「・・・・も汗かくんじゃね」
「え?」
「全然疲れてないように見えたのに」
「嫌だな、仁王。これでも必死だったんだよ?」
持っていたタオルで汗を拭くは
学校で見る姿とはまったく違って見えた。
やさぐれ上等
路上に途上
「もう一試合あるから応援よろしくね!」
そう言って笑う。
笑いかけたのはきっと柳生にだけなのだろう。
「・・・・・・俺、帰る」
「仁王は最後まで見てかねえのかよ?」
「一試合で十分」
「あっ仁王君っ・・・・」
「お前らは最後まで見てってやりんしゃい。じゃあ。」
の背中を見送って
俺はこの場を離れることにした。
見上げれば空 見上げればほら
柳生はが好きである。
は柳生が好きである。
だが、困ったことに、
俺は
が好きだった。
End.