突き放して





引きはがして





埋葬。





そのつもりだった。


















『恋の唄6』
















〈ガチャッ〉





「・・・」


「あれ?今日は仁王一人?」


「お前さん本当に最近神出鬼没」


「そうかな?」


「そうじゃ」







テニス部の部室はもう我が物顔で



のサボり場になってしまったらしい。







「・・・驚いた」


「丸井かと思った?」






驚いていたのは



ちょうどのことを考えていたからだ。



はもうお決まりになってしまった、いつもこの部室へ来ると座るイスへと座った。














泣かれて切実


夕日に憧憬


泣かないでほら 泣かないで空


僕に唄えよレクイエム













どうやらあの唄は俺の中で勝手に流れることを覚えてしまったらしい。



今も聞こえるあの唄は、相変わらずの変な唄。





「・・・仁王。この間は本当にありがとう。本当にスランプ脱出。」


「・・・それはよかった。」


「ありがとう」


「もう何度も聞いたとよ。」


「それくらいありがとう。」





真っ直ぐなの目に、今だけは俺が映っていた。



今だけは。






「それでね、仁王。」






真っ直ぐな瞳の前にがパンっと両手をうってお願いしてきた。






「数学教えてくんない?」


「・・・・それでってなんじゃ、それでって。接続詞間違えとる。」


「いいでしょ?教えて。」






いつの間に。



いやそれよりも、どこからとりだしたのか。



が部室の机の上にどさっと数学の教科書とノートを置いた。






「・・・、サボって数学やるくらいならしっかり授業にでればいいじゃろ?」


「授業聞いても数学はわからないものなんだよ、仁王。」


「正当化しようとしても無駄じゃ。」






そもそも授業を聞いて分からないのに、俺の説明を聞いて数学ができるようになるのか。



がもう一度パンッと両手を自分の目の前であわせた。





「数学なら仁王が得意って柳生が言ってたんだよ」


「(柳生・・・)・・・・・・・はぁ」


「ため息ついてもいいから!お願いします。仁王」


「どこがわからんの?」





明るくなったの表情。



さっさと教科書を開けと言うとすばやく教科書をめくった





「これなんだけど・・・・」


「・・・・前に丸井も聞いてきてやつじゃ。思考回路一緒?」


「今のはブン太に対する侮辱?それともあたし?」





両方だ。



無言の俺のそれに気付いたが少しすねる。






「・・・ほらっどこが分からんか言ってみんしゃぃ。」


「・・・問題自体何を問われてるか謎。」


「大問題じゃな。それ。」






数学に悪戦苦闘の



悩む姿は見ていて飽きない。














泣かれて切実


夕日に憧憬


泣かないでほら 泣かないで空


僕に唄えよレクイエム













どうやらあの唄は俺の中で勝手に流れることを覚えてしまったらしい。



・ ・・・驚いたんだ。



ちょうどのことを考えているときに、が現れたから。



どうやらこの頭は勝手にのことを考えることを覚えてしまったらしい。



ここの空間は苦手だった。



伸ばせば手の届く位置にお前がいる。



だが、もしも今この手を伸ばしても


















きっとには届かない。














「・・・


「んー?」






シャーペンを持ちながら、



目線はノートと教科書を行ったり来たりする



答えて欲しいことがある。







































































































(お前は、柳生が好きか?)









































































































































































「何?仁王。」


「・・・・・」


「仁王?」


「・・・・・そこ間違えとる」


「え?!どこ?」

















泣かれて切実


夕日に憧憬


泣かないでほら 泣かないで空


僕に唄えよレクイエム














聞くには、苦しすぎた。



苦しみから逃れたくて瞼を閉じるが



聞こえてくるのはあの唄で



考えるのはのこと。



もしも、あの真っ直ぐな目で、笑顔で。



柳生が好きだと言われたら。
















































<ガチャッ>





「あ。」


「あっブン太。」


「2人?(お邪魔か?俺。)」


「・・・・ちょうどいい。前に丸井に説明した問題じゃ。お前さんもこっちに来て復習しんしゃい。」






部室の入り口でドアノブを掴んだまま、



丸井が入ってもいいのかと目で俺に聞いていた。



俺は助かったと小さく思う。



丸井がこの空間を壊してくれて。






「バッカだな、仁王。数学ってのは説明聞いても分かるもんじゃないんだぜ?」


「・・・・本当に思考回路一緒じゃな。」


「は?」


「あー!なんでもないのよ、ブン太!!」





丸井が俺とが座る近くのイスに腰掛ける。






もしも、






あの真っ直ぐな目で、笑顔で。



柳生が好きだと言われたら。










(きっと今と何も変わらん。)










きっとあの唄は流れたままで。



きっと俺はのことを考え続けたまま。






「あー俺もうダメ。数字ってなんでこんなに目痛くなるんだよ」


「丸井は病気?」


「数字病?」


「違うとよ、。バカと言う名の病気。」


「マジでほっとけ。」






教科書を見たまま目を押さえる丸井。



は今の会話に笑っていた。





















そうやって、お前は笑うから。



その目に俺を映していなくても笑うから。



真っ直ぐだと、綺麗だと



焦がれるから。






































































































好きにならずには、いられなかった。










































































































































「・・・・・そういえばな、仁王。あの唄。題名ついてないんだとよ」





丸井が思い出したように、口に出す。





「あの唄ってこの間ここであたしも聞いた唄?」


「そ。仁王に言われてそういえばなんて唄か知らねえなって。MDくれた奴に聞いたんだけど無題なんだって」


「・・・無題?」


「唄ってる奴が作詞も作曲もしたらしいけど題名はつけなかったらしい。」


「なんかますます素敵な恋の唄だね!」


はあの唄好きなんだな。」


「うん。・・・・・・・・・・・・好き。」
















泣かれて切実


夕日に憧憬


泣かないでほら 泣かないで空


僕に唄えよレクイエム














いつか、好きと言う言葉。



俺に向けて欲しいと思っていた。



笑顔も。



声も。



突き放して引きはがして埋葬。



そのつもりだったのに。
















(お前が笑うから。)














あの唄を聞いたときからだ。



あの唄を、聞いたからだ。



名前もないあの唄に、掘り起こされたんだ。













突き放して引きはがして埋葬。






























































できそうもない。










































End.