赤い髪が俺の目の前で、左右にゆっくり揺れていた。
「柳生、丸井をどう思う」
「・・・頭の上に音符が見えますが?」
「おいっ丸井」
「♪」
「「・・・・・」」
イスの上であぐらをかき、目を閉じてMDに聞き入る丸井。
俺は、丸井のMDをいじり
音量を最大まであげてやった。
「うわぁ?!」
『恋の唄4』
「またあの唄聞いとったのか?」
「あの唄?」
「最近の丸井のお気に入りじゃよ、柳生」
俺と柳生と丸井はざわざわと騒ぐ休み時間の柳生の教室にいた。
俺と柳生は向かい合うようにイスに座っていたが
丸井はあぐらをかいていたイスから落ち、両耳を押さえてしゃがみ込んでいる。
もちろん、俺が丸井の聞いていたMDの音量を最大にしたせいだ。
少しだけ肩を震えさせる丸井が俺に向けて抗議を始める
「お前なぁ!この前もそれやったじゃねえか!鼓膜破けそうだっての!」
「知らん。」
「知らんじゃねえよ!仁王がこれから関東大会の作戦会議だから俺達の会話聞くんじゃなか、っとか言ったんだろ?!」
「MDで耳せんしてくれるのは結構だが、音楽にのって揺れるな気持ち悪い。なぁ柳生。」
「そんなことねぇよなぁ?!紳士!」
「丸井くん、残念ながら否定はしません」
「おい、ジェーントール!!!!」
ぎゃーぎゃーと丸井の文句がうるさい
俺にいきなり音量をあげたことと気持ち悪いと言われたことに対して丸井は文句を言い続ける
「大体、なんであの唄が好きなんじゃ」
「あ?別にいいだろぃ!」
MDは丸井がイスから落ちる直前に止めたから
音は聞こえてこなかった。
丸井はさっきまで机の上にあったMDプレーヤーを手にしている。
「・・・・そういえばあの唄。なんて唄?」
「そういや・・・俺も知らない・・かも・・・・・」
「「「・・・・・」」」
柳生は黙って俺たちの会話を聞いていた。
俺たちの会話から話題に上っている唄がどんなものか推測していたのかもしれない。
「ってそうじゃなくて!仁王!!お前は俺に謝るべき!」
「何騒いでるの?」
「あっ。聞いてくれよ!関東大会の作戦たてるとか言うから俺がMDで聞かないようにしてやってたのによ・・・」
「関東大会?」
突然俺たちの前に姿を現した。
丸井が最後まで話を終わらせるのを待たずにがさえぎってしまった。
きっとは言う。
「見に行きたい!」
・ ・・・・・やっぱり。
「は最近突然現れることが多くありませんか?」
「そういう柳生はあたしのことちゃんと呼び捨てできるようになったのね。」
「そういやそうじゃん。いつからだよ、柳生。」
多分一週間とかそれくらい前だったと思う。
俺がはじめてを呼び捨てにする柳生の声を聞いたのは。
・ ・・ちょうどと柳生が前以上に一緒にいるのを見るようになってから。
「が呼べと言ったんです。」
「だってブン太も仁王も他のテニス部だってあたしのこと呼び捨てなのに柳生だけさんはなしじゃない?」
「そりゃそうかもな。」
「・・・・。関東大会来ると?」
「もちろん!」
俺が話を元に戻すとは笑顔で答えた。
「バスケ部だって練習忙しいじゃろ?」
「でも、この前は三人ともバスケ部の応援来てくれたし。あたしも応援させてよ!」
「来んでよかよ。キャプテンじゃろ?部活に出んしゃい。俺たちは、が応援に来なくても勝つ。」
「いいじゃない!幸村の代わりに立海が勝つとこ見せてよ。」
「幸村の代わりは誰にもなれんよ。」
は、俺を見ていた。
が何を言っても無下に返す俺。
とまどうの表情は困ったような笑顔に変わる。
「・・・仁王は最近あたしに冷たいのね」
柳生も丸井も俺を見ていた。
(突き放したいからじゃ)
「別に?そんなことなかよ」
「そんなことあるよ!」
「丸井。自販機行かん?俺がおごってやるきに。」
「マジ?行く!」
「いや、おごるのは嘘じゃけど」
俺は、突き放したい。
だから、この場から逃げ出す。
「じゃあ柳生ちょっと行って来るきに。関東大会はさっき話したとおりでいくとよ」
「・・・わかりました。」
「ちょっと仁王!!ダメって言っても応援行っちゃうからね!!」
背中に受けたたの言葉があまりにもらしくて笑えた。
急ぎ柳生の教室から去った俺の後ろを丸井がついてきていた。
「・・・・なあ、仁王。」
「何?」
「俺前から聞きたいことあったんだけどよ。」
学校にある自販機でそれぞれ飲み物を買った俺と丸井は
近くの壁に寄りかかってそれを飲む。
丸井がふいに俺に問う。
聞きたいことがあれば聞けばいい。
俺はそれを声に出さず、ただ丸井の聞きたいこととやらを待った。
「仁王って、のこと好きだろぃ?」
突き放したい。
自身ではなく。
好きじゃないと言い聞かせては好きだと自覚するそんなへの想いを
俺は心からはがそうとしていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
驚きはしたものの、なぜか否定する気も起きなくて。
「・・・根拠は?」
「そんな難しいもの俺が持ってる訳ねえだろぃ。」
「勘とか言ったら張ったおす。」
「それは困る。勘だもんよ」
その言葉を聴いた途端俺は丸井へこぶしを振り上げた。
「ちょっ・・・待てって仁王!!」
あげたこぶしはそのままゆっくりと下ろされる。
俺は急にしゃがみこんで、床へ飲み物がまだ入っている缶を置いた。
「・・・仁王?」
「勘か。」
「・・・・・・・・・当たり?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
驚きはしたものの、なぜか否定する気も起きなくて。
丸井もそれ以上は俺に聞いてくることはなかった。
無言で自分の手元にある缶の中身を終わらせようとしている。
いまだしゃがみ込む俺。
頭の中はと柳生を教室に置いてきたことについてと、もう1つ。
俺は丸井の手にあるMDプレーヤーに視線を送っていた。
「・・・なぁ丸井」
「ん?」
「俺にはさっぱりあの唄がわからん」
が恋の唄だと口にしたあの唄
名も知らない唄。
「ただの変な唄じゃ」
変な唄。
なのになぜ?
まただ、あの唄が聞こえる
この想いを突き放したいと願うほどに
頭の奥。
耳の底。
愛して願望
愛され満充
「・・・・変じゃねえよ、恋の唄」
「・・・わからん」
俺はうなだれて顔をうずめた
「しっかりしろぃぺてん師」
突き放したい
好きじゃないと何度も言い聞かせては好きだと実感する想い
なぜはがれてくれない?
愛して願望
愛され満充
君に唄えばセレナーデ
突き放そうとすればするほど
唄の音量が増していく
突き放したいのに放せない。
今頃2人はどんな話で笑いあっているんだろう。
そんなことばかり、考えて。
想うことしか、できないくせに。
End.