唄は、今朝起きると聞こえなくなっていた。



















「嘘ですよ。嘘。」





「・・・嘘?」





「嘘です。」































『恋の唄10』
































柳生は言う。





「仁王くんの背中を少しでも押せたらと思ったのです。」


「・・・・・」


「もちろん、があなたの事が好きで私に相談していたと言うのは本当です。」





部活の休憩中



タオルで汗をふき



寄り掛かるフェンス。



青く晴れた空に夏を教えられ。



柳生は言う。








「私がが好きだと言うのは嘘なのです。」







柳生の横顔は汗をふくタオルに隠される。






「柳生・・・」


「だから、どうかお幸せに。」






私情など持ち込めないコートの上



柳生は俺の相方



の気持ちを知ったはいいが



柳生、お前は。



























に好きと告げた翌日



いつも通りに部活



会話もそのことにはお互い触れない



だが、そのままでいいはずなんてない。



俺が、切り出した。










『柳生。のことだが・・・』


『・・・そう言えば。そう言えば言い忘れていました。仁王くん』


『・・・』


『嘘ですよ。嘘』









柳生は言う。



お前らしい、



紳士的な嘘をつく。









「仁王くん。休憩は終わりです。練習を始めましょう」


「・・・柳生。」







先にフェンスから背中を離し



コートへ向かった柳生が



振り返った。









「・・・・ありがとう、柳生。」







眼鏡のレンズ一枚は



柳生の嘘を綺麗に隠していた。
































「・・・・お幸せに、仁王くん」































その笑みを。



その言葉を。






(ありがとう、柳生。)






相方の本心だと信じた。














































































































































































































「・・・全国、絶対勝ってね!!雅治」


「ああ。も全国大会出場決まったんじゃろ?」


「うん!がんばろうね!!」






が応援に来た関東大会。



今は大会帰りにが俺の部屋へと遊びに来ていた。



関東大会。



立海は王者の名を奪われた。



だが、



俺達が二度も負けるはずがない。



心の向きは



に教わった。



を見ていて知った。



真っ直ぐな、心の向き。














慕うは慕情












「(!?)」


「雅治!見て見てテレビ!!」











今朝起きると突然聞こえなくなっていたあの唄。



再び聞こえた男の唄声は



がつけたテレビの向こうから聞こえていた。









愛して願望


愛され満充


君に唄えばセレナーデ









「・・・・この人が唄ってたんだ。」


「丸井がマイナーなバンドと言っていたが、テレビにでるなんてよっぽど人気じゃなか?」


「素敵な唄だもん。きっと人気が出てきたんだよ!」







床に座り



俺のベッドに背を預け二人であの唄を唄う男を見ていた。



背の高い細身のそいつは



驚くほど声を響かせる。



マイクだけでこんなにも唄は響くのだろうか。



テレビの向こうから。








想いは長く 長く 長く







「・・・仁王はまだこの唄嫌い?」


「嫌いでも好きでもない。ただ・・・変な唄。」


「あたしは好きなのになぁ」







が体を先ほどまでよりも丸めて、小さくなる。







今 何時 どこに 出会えたならばうれしくて


泣き叫べノクターン








嫌いでも好きでもない。



ただの変な唄。



背の高い細身の男が作った変な唄



でも



その唄にお前は聞き入り



好きだと言うから。































































































二人で聞く分には悪くない。

















































































「・・・・・・。こっち向いて」


「ん?何?」






男は、何を唄う。



男は、唄を唄う。






「・・・ん・・」


。・・・好いとう」






唇を何度も重ねて



名前を呼んで。










慕うは慕情









男は、何を唄う。



男は、変な唄を唄う。



男は、何を唄う。



男は、名もない唄を唄う。











「な・・・に・・・?」








聞こえる?



あの唄が。



嫌いでも好きでもない。



でも君を想う唄だから



俺の気持ちが伝わる術になるなら悪くない。






焦がれる衝動






男は、何を唄う。





美しきよ花 香るは君






































































































































男は、恋を唄う。




















































































































































つのる想いのラプソディー







だが、この唄を聞く時は



テレビに映る男ではなくて、



俺を見ていて欲しい。






、好き。」


「・・・・あたしも。雅治が大好き。」






なぜならこれは、変な唄。



名もない唄。



失恋の唄。



君を想う唄。









つのる想いの狂詩曲








なぜならこれは、

















































































恋の唄。










































End.