どんなに、時が過ぎても。
























『恋しさに焦がれて』























あの日は確か、今日みたいに晴れていた。








「俺のが年上になってしもうたな」








独り言。



それでかまわない。



届いて欲しいから声にする。








のが一個年上やったのに」







の時間はあの日に止まったから。









あれから二年が過ぎて。








今、俺の右手には花束。目の前にはの墓。




































「侑士ー!起きて。学校!!部活でしょー?」



「んん・・・・・・」



「こらっちょっ・・・侑士ー!」







高校一年生の



中学三年の俺。



一人暮らしの彼女の家に泊まりに行っては



朝寝ぼけたフリをして彼女に抱き付いた。



を抱き締めた時に聞こえる彼女の鼓動の音が



俺は大好きだった。







「おはようさん、



「・・・もう起こしてあげない」



「俺、に起こしてもらわんと起きられへんやん」



「いつも起こしに行く前に起きてるくせに。」



「バレてた?」



「バレてた。」







たまに一つの年の差をもどかしくも感じたけど



いつの間にか、それを意識しなくなるくらい



彼女が好きだった。




























「なあ、。今日も泊まってもええ?」






も氷帝に通っていて



高等部と中等部の違いはあっても



帰り道はいつも一緒だった。







「いいけど・・・侑士最近家帰ってないでしょ?いいの?」



「せやなあ。せやったら一回家戻ってからの部屋行くわ。」







一度のマンションの部屋までを送り届けた。







「侑士。」



「ん?」



「これあげます」



「っと!・・・・・これって・・」







彼女の部屋の前で俺が家に戻ろうとするのをが呼び止めた。



放物線を描くようにが何かを投げてきて



受け取ってみれば、それは鍵。







「あたし夕飯の買い物行ってくるから、先に部屋入ってていいよ」



「・・・合鍵なん?」



「そう」



「こんなんもらったら、俺入り浸るで?」



「・・・ご自由に。」







子どものくせに、なんて思わんといて



これがどれだけうれしかったかなんて



俺にしかわからんやろ?





































俺はいったん家に帰って



それからまたの部屋を訪れた。



合鍵を使っての部屋に入って、



彼女が買い物から帰ってくるのを待っていた。



でも、


























彼女はその日、帰って来なかった。




















































は脳梗塞で道に倒れていたらしい。



病院で会えた



俺の知っている寝顔となんら変わらなかった。








?」








呼べばまたいつもみたいに返事を返してくれる気さえして。



ただ眠るだけの



でも、










俺の大好きなの鼓動は聞こえなかった。











































確か、雨の音がしていた気がする。
















































いや・・・



あの日は、今日みたいに晴れていた。



雨なんか降っていない。

























































































(本当に?)



本当にあの日は晴れていたか?

































雨が降っていなかったか?



俺はあの日彼女の部屋に本当に行ったか?



彼女の声はどんなだった?



彼女のぬくもりは?



本当に覚えているのか?







俺の大好きな鼓動の音はどんな音だった?
























































は本当にあの日死んだのか?




















































うつむいた俺の視線に入る



握られた右手の花束。


















これが、すべてだ。
















「…なんでなん?」






より年上になって気付いたことがある



俺はいつかを置き去りにしたまま



歩いていかなければならない日がくる。






「っ…」






しゃがんだの墓の前



涙が零れるのは悲しいから



胸が苦しいのは淋しいから。



こんな思いを抱くのは



俺が生きているから。






「そんなん、嫌や。」






生きているかぎり



記憶はかすむ



の顔でさえ思い出せなくなる日がくるかも知れない。






「…嫌や」





君に会えなくなって、もう二年も経ったんだ。





















(なあ、。今何を思ってる?)



「今でも・・・俺を、好きでいてくれてますか?」





















風が吹く。













俺を通り過ぎたその風は



花束から花びらを一枚さらっていった。






「…?」






さまよう花びら、空へ向かう。



風が遠くへ運んで行く。















生きているかぎり時間は進む。



焦がれるようにまた人を好きになるかもしれない。



けれど、









忘れない。



忘れない。























忘れたくない。

























今でも君が、好きだから。





「……」





名前を呼んでも返事はない。



君の鼓動が聞こえない。
















今でも君が好きだから。



なあ、















































君の鼓動が聞きたい































end.