「よっ。」





「…んでいんだよ」





「優紀ちゃんがいれてくれた。」
















部屋の入口に立つ怪訝な顔の仁。






















『今宵迷走』






















煙草の煙が開けた窓の外に漂う。



余計なものなんかない殺風景な仁の部屋は



いつだって煙草の香り。







「仁、あたし副流煙で死ぬ」


「そりゃよかったな」


「んー仁に殺されるなら本望なのかな」







仁の部屋の床に座りこむあたし。



窓辺に座って煙草を吸う仁。



月の光が色素のない仁の髪に透けて綺麗だった。










「あたしは死んでもいいけどさ、煙草やめなよ。仁は長生きして下さい」


「俺に指図すんじゃねえよ」


「・・・長生きして下さい」

















仁に睨まれた。



正直怖い。



でもそんな仁の目があたしは好き。



電気をつけていない夜の仁の部屋は



月明かりだけでも明るかった。















「…んだよ」














あたしはずっとそんな仁を見ていた。



だって綺麗だったから。



















「…ねえ仁。慰めて。」



「はっヤらせてくれるってか?」



「いいよ。だから、殺して」















仁に殺されるなら本望だ。



さっきの言葉は本当。

















「死にたい。」


「・・・・・」


「仁。」



















あたしは窓辺に座る仁の前まで行ってまた床に座る



煙草の香りが濃くなった。



そっと月の光が透ける髪に手を伸ばす。





















「仁以外消えちゃえばいいんだ」


「…消してこいよ」


「できないもん。親も友達面した人達も、教師もみんな大っ嫌い。」
































嫌いなもの、消えることがないならあたしが消えればいい。






























「仁みたいになれたらいいのに。」












立ち膝をついて



窓辺に座る仁の首に



腕を回して抱き締める。














「明日なんて来なければいいんだ。」


「ばっかじゃねえの?」


「ばかでいいよ。」














仁は煙草を吸うのをやめなかった。












「…仁、しないの?」


「ヤったら殺すんだろ?テメーのこと。俺はまだ殺人者にはなる気はねぇ。」


「・・・まだ?」


「死ぬなら副流煙で死ね。それまで吸い続けてやる」


「・・・今殺してくれないの?・・・」


「そうやってひっついてりゃいつか死ぬんじゃねえの?それまで我慢しろ。」






























仁の手はあたしを抱き締めかえしてはくれない。






代わりにあたしを取り巻く漂う煙






優しい煙草の香りに吐き気がした。






優しいこの不良の前であたしは涙した。


























「長生きして。」





















仁を抱き締める力を少し強めて言う。





あたしを殺す為の煙草のせいで仁の寿命が縮まっても





仁の分もあたしが早く死ぬから。





だから、











綺麗なあなたはできるだけ長く





この世界にいてください。

























end.