聞いて。
知らない誰でもいいから。
俺、かわいそうなんだ。
好きな子が、死んじゃったんだ。
『クローバー5』
花が草が生い茂る丘の上で。
「・・・?」
「・・・・」
「、待って!行かないで!!」
「・・・ジ・・・ローちゃん・・・」
「行っちゃダメだよ!」
「見・・・つからない」
「え?」
〈ざぁ〉
「!!」
見つけた君はどんなに近付いても近付けず
伸ばした手が掴むのはの手ではなく
が消えて巻き上がる風と
「・・・クローバー?」
・・・・・・ぼんやりとした光が
はっきりとした太陽へ変わる
・・・また
「(起きちゃったね・・・)」
君がいない世界で。
仰向けに寝そべる俺。
屋上に吹いた風は夢の丘で吹いたあの風に似ていた。
最近よく見る同じ夢
目覚める度に自然に流れる涙は
拭っても拭ってもまた涙
止まらない。
まぶしい太陽に腕で影を作った顔
涙を服のそでが吸い取っていく。
耳では、近付いてきた人影の足音がしていた。
「・・・ジロー。寝てんのか?」
「・・・起きてるよ、跡部」
「部活だ。」
「・・・ちゃんと行くよ。行くから。」
ジロー、起きろではなく。
寝ているのかと聞くあたり、跡部とは昔からの付き合いだと実感する。
俺は腕を顔からはずすことが出来なかったけど、
跡部が仰向けになる俺の隣に座ったのはすぐに分かった。
「・・・・・泣いてんのか?」
「・・・・・・・」
「いい加減泣き止めよ、ガキじゃねえんだし。」
「・・・・・・まだガキだよ。俺も跡部も。」
屋上に吹いた風は夢の丘で吹いたあの風に似ていた。
「・・・・・ガキってのは泣くことを隠さねえんだよ。泣いてることを知ってほしくて泣く。」
「・・・・じゃあ、やっぱり俺はガキだね。」
「・・・・ジロー」
起き上がった俺。
跡部はやっぱり俺の隣に座っていた。
腕を外した顔に涙が伝っているのが自分でも分かる。
「・・・・ジロー、いい加減泣き止め。いつまでも泣いてることをが望んでいるとは俺は思わない。」
「・・・・・・・・・そうかも、しれないけど。」
少し乱暴に自分の涙を振り払った。
ダメだよ。
ダメだよ、跡部。
拭っても拭ってもまた涙。
止まらないんだ。
「ジローちゃん!ジローちゃん起きて!!」
「・・・・・・・」
「ジローちゃんったら!起きて!」
俺にとっては
を独り占めにできる時間だった。
「まだ眠い・・・よ・・・ぐー」
「ジローちゃん、部活!・・・あたし、ジローちゃんのかっこいい姿見たいなぁ」
「・・・・」
は
俺を起こす天才だった。
どこにいても俺を見つけて
どこにいても俺を起こしちゃって。
魔法使いみたいに
俺に魔法をかける。
「本当はマネージャーの仕事に部員を起こすのはないんだよ?」
「新しく作ってもいいんじゃない?部員起こしって仕事」
「ジローちゃん?」
「・・・・俺ちゃんと起きるよ?」
を、独り占めにできる時間だった。
は苦笑する。
「ちょっと困るかな。」
「(あ。)」
・・・嘘だよ
そんな顔しないで。
試したかったんだ。
「・・・。。」
「ん?」
明日も俺を起こしてくれる?
「へへっ」
「・・・変なジローちゃん。」
俺が笑えばも笑った。
世界中に自慢したかった。
人ってこんなにも
こんなにも誰かを
好きになれるんだって。
「、。」
明日も独り占めの時間
君の隣には俺がいればいい
そう思ってた。
君の、隣に。
「ジロー?次、ジローがコートに入る番だぜ?」
「え・・・あ・・」
宍戸の声に俺は意識を今に引き戻した。
今は部活中で。
「・・・ジロー」
「・・・・ごめんね、宍戸。次、俺だね」
振り払え切れない涙
また瞳に溜まって。
拭っても拭っても
また涙。
「・・・・・・・・ジロー」
「跡部ー!早く球だししてよ!!」
跡部直々のリターン練習。
コートに順番に入るレギュラー陣。
俺の番が回ってきていた。
跡部がボールを頭上に真っ直ぐあげる。
俺の頬には、涙が流れたまま。
だって、止まらないんだ。
「・・・・ジロー」
「ん?」
跡部からのサーブ。
打ち返す俺。
眠りにつく度に
もう起きなければいいと思ってた。
君の声で目覚めることがないのなら
すぐにでも
尽きてくれていい命だった。
すぐにだって会いに行きたくて。
「(でも)」
「・・・・泣き止めよ。」
「・・・・・」
「はそんなこと望んでねえよ!」
軽い打ち合いの中。
跡部が俺に話しかける。
「・・・・・・無理だよ。」
「・・・・・・・・・・・」
、こんなにも君を好きにさせる。
君はきっと。
魔法使いだったんだ。
「俺ガキなんだよ、跡部」
打ち返すサーブ。
跡部がもう一度俺にボールを打ち返した。
「・・・・・っ・・・・悲しいんだ・・・」
「・・・・・ジロー」
「芥川先輩・・・」
俺と跡部のラリーを、レギュラーはみんな見ていた。
俺の涙は、止まらない。
聞いて。
知らない誰でもいいんだ。
俺、かわいそうなんだ。
大好きな子が死んじゃったんだ。
(聞いて。・・・・・・・・・・)
俺ね。
君の魔法にかかってたよ。
世界中に自慢したくなるくらい、のことが好きだったよ。
世界中に自慢したくなるくらい。
「跡部。俺ね、のことが好きだったよ。」
「・・・・・・・・・・」
「悲しいのをわかって欲しい。にわかって欲しい。」
泣き続けて、拭い去れなくなって。
払いきれない涙。
悲しみを我慢できるほど大人にはなれないから。
だから、子供でいい。
「俺からは会いにいけないから。がどこかで見てくれてるって信じて。俺は・・・・」
眠りにつく度に
もう起きなければいいと思ってた。
君の声で目覚めることがないのなら
すぐにでも
尽きてくれていい命だった。
すぐにだって会いに行きたくて。
「(でも)」
でも。
「・・・・もういい。」
「・・・・跡部?」
今まで続けていたはずのラリーが止まり
跡部がいる側のコートにボールが転がった。
跡部はラケットを構えていた腕を下ろし、
そして俺と跡部の練習を見ていたレギュラー陣を見渡し、最後に俺を見た。
「全員。・・・・全員レギュラーから外す。」
「「「「「!!」」」」」
「跡部?!」
跡部の目は、冷たかった。
「跡部?お前・・・・何でや・・・」
「最近の練習を見ていて判断した。」
「跡部?」
コート中が騒然とする。
部長自ら現レギュラーの降格宣言。
跡部は持っていたラケットを肩にとんっとのせるとまたレギュラー陣を見渡した。
「が死んでからだ。」
「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」
「あいつがいなくなってから誰一人としてまともに練習できていない。」
「跡部・・・・」
「・・・・もし。・・・・・・もしもレギュラー落ちが嫌だと言うなら・・・・・」
眠りにつく度に
もう起きなければいいと思ってた。
君の声で目覚めることがないのなら
すぐにでも
尽きてくれていい命だった。
すぐにだって会いに行きたくて。
「(でも)」
叶えたい夢があったんだ。
一緒にその夢を叶えたい仲間がいたんだ。
「のことを、忘れろ。」
「なっ!」
「っ・・・アホ言うなや!」
「長太郎が泣いたとき、あの場にお前もいただろうが!跡部!!」
「聞いてなかったのかよ!忘れるなんてできっこねえって、みんな言ってたじゃねえか!!」
「なら、レギュラー落ちしても文句はねえな?向日」
どうして?
どうして、跡部。
そんなに冷たい目で。
一体、何を見ているの?
「・・・・忘れることが幸せなら、俺は不幸でいいよ。」
涙を流さないことが君のためなら、俺は君を傷つけてしまうけど。
それでも。
「跡部は、忘れられるの?のこと」
「・・・・・・俺はお前たちみたいにとらわれたりはしない。」
「跡部。・・・無理だよ。俺も跡部も。」
この涙はいつ止まるの?
君を忘れたら止まるの?
でもそれって
とても寂しいこと。
跡部と俺をレギュラーが見ていた。
俺は涙を拭った。
拭った、拭った。
ふいて。振り払って。
それでも。
「だって、悲しいんだ。」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・悲しいんだよっ・・・・跡部・・・・」
とらわれたっていいでしょう?
だって世界中の誰もに自慢したくなるくらい、
俺はを思ってた。
「っ・・・・さん・・・」
「・・・長太郎・・・・」
「っ・・・・・・」
「岳人、しっかりしいや・・・・」
鳳が座り込み、宍戸がその背中をさすり、向日が目元をこすり、忍足が固く目を閉じた。
「・・・・・・・・みんな、悲しい。」
「・・・・・・・」
「忘れられるわけがない・・・・・跡部だって・・・・」
それぞれの形でみんな泣いている。
子供みたいに誰かに知ってほしくて。
心に留めておくには、
あまりにを想ってた。
、こんなにも君を思わせる、君はきっと
魔法使い。
「跡部。俺、叶えたいことがあるよ。」
「・・・・・・・」
「このみんなで全国優勝すること。・・を全国1位のマネージャーにしてあげること。」
「・・・・・・このままでできると思うのかよ」
「・・・・・わかんない。でもを忘れたらきっと出来なくなる気がする。」
君を、忘れるなんて。
俺たちの誰ができるだろう。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もう、いい。」
「跡部!!」
跡部は部室の中へと姿を消した。
「っ・・・・・・・」
跡部の冷たい目が怖かった。
を忘れろと言う声が怖かった。
コートのその場に俺は崩れて座り込む。
拭っても拭ってもまた涙
止まらない。
近くで聞こえる嗚咽は、鳳?向日?
ダメだよ。
ダメだよ、跡部。
拭っても拭ってもまた涙。
止まらないんだ。
聞いて。
知らない誰でもいい。
明日も独り占めの時間
君の隣には俺がいればいい
そう思ってた。
君の、隣に。
明日も。
君がいる明日なんて、もう来ないけど。
(・・・・。)
こんなにも君を想わせる。
君はきっと、魔法使いだったんだ。
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