〈ガチャッ〉





「「あ。」」


「長太郎。お前いつもこんなに早いのか?」


「宍戸さんこそ、早いですね。」





〈ガチャッ〉





「「「あ。」」」


「・・・なんや、俺が一番やないん?」





〈ガチャッ〉





「「「「あ。」」」」


「あれー?みんなで早起き?」





〈ガチャッ〉





「「「「「・・・・・」」」」」


「くそくそ!俺、最後?」























『クローバー8』






















「「「「遅ぇよ!跡部!!」」」」


「・・・あん?」






俺は苦笑するしかなかった。



いつもよりさらに朝早く練習のために集まったレギュラー陣。



俺達の中で一番遅くに来た跡部先輩を先輩達は



遅いと言って出迎えた。






「お前ら・・・」


「はよ着替えてきいや、跡部」


「侑士ー!打つぞ!!」


「ちょお待てぇや岳人!!」






跡部先輩はまだ制服のまま



部室の前でコートに立つ俺達を見て、立ち尽くしていた。



ちなみに今は他の部員は誰も来ていない。



それくらい早い練習の始まり。






「・・・俺達お前が部室から出て行った後に考えたんだ。」


「・・・・・」


「忍足がお前と会った後、榊監督と話したら俺達をまだレギュラーから落とすつもりはないって」






宍戸さんは跡部さんの元へと歩みより近くまで来ると



跡部さんを真っ直ぐ見て話始めた。






「跡部ー!!俺相手いないから早く来てよ!!」


「(!)・・・ジロー」


「・・・泣きやむって決めた。ジローも、俺も。俺達みんな。」






芥川先輩は昨日泣きはらしたのか、目を真っ赤にしていた。



部室から離れたコートで跡部先輩を呼んだ芥川先輩を皮切りに



俺達は跡部先輩の元へ集まり始める






「・・・認めて欲しい。跡部に。俺達がレギュラーであること。」


「跡部。悲しみにはつぶされないよ」


「俺達、頑張りますから」


「俺もっと飛ぶし。」


「跡部に認めて欲しいんや。」


「・・・・・」






跡部先輩を囲むように集まった俺達を



跡部先輩はゆっくりと見渡す。








「・・・がんばるだと?」


「「「「「・・・・・」」」」」








吹いたのは、風。





























































「・・・・バーカ。当たり前だ。」


「「「「「!!!」」」」」












































久しぶりに見た、跡部先輩の笑みだった。



自信に満ち、プライド高く



勝ち誇る。



周囲を見渡す俺が見た久しぶりの先輩達の笑み



久しぶりに見たこの人達の笑顔。






「ほら!さっさと練習戻れ!!ジロー、しごいてやるからな」


「えー!!」


「はよ行くで、岳人」


「おう!」


「長太郎!」


「・・・はい!今、行きます!・・・」






久しぶりに見た笑み






(・・・俺は?)






俺は笑えていただろうか。



悲しみに打ち勝ち



自信に満ち、プライド高く



勝ち誇る



先輩方のように



俺は笑えていたんだろうか?






































































































































































































前に。



前に進んで行く。






「あれ?鳳だ。」


「・・・芥川先輩」






俺が行き着いたのは屋上。



芥川先輩はフェンスに寄り掛かって座り、



屋上に入って来た俺に気付くまではずっと空を見上げていた。






「鳳まじめだと思ってたのに。サボリ?ダメだよ。・・・って俺も人のこと言えないー」


「・・・ちょっと。いろいろ考えたくて」


「・・・ふーん」






芥川先輩は何を思ったのか



自分の座る屋上の床の隣をポンポンと叩いた。



それは俺にここに座れの合図で



無視なんかできるわけもなく



俺は芥川先輩の隣へと腰を下ろした。






「考えるって、のこと?」


「(!!)」


「・・・・・・・・・・・・・・ねぇねぇ鳳!俺目治った?」


「え?」


「目だよ!目!!」


「・・・・」






これでもかと言うくらい俺に顔を近付ける芥川先輩



朝、あんなに真っ赤にはれていた芥川先輩の目が元に戻りつつある。






「・・・大体、はれは引きましたよ」


「よしっ!これで授業出れる!!」


「授業、今から行くんですか?」


「うん。俺最近ずっとさぼって泣いてばかりいたからね。そろそろ出なきゃ。」


「・・・・・・・・・・・・・芥川先輩は、」


「ん?」


「もう、泣かないんですね。」






すくっと俺の隣で立ち上がった芥川先輩。



屋上に入ってきた時。



空を仰ぐその姿、本当は泣いているように見えた。



でも、今芥川先輩の顔に見えるのは、以前のように無邪気な笑顔ではなく、



ずっと大人っぽい笑顔。



それを俺に向けて。






「・・・・・みんなの為だって思ったら泣けなくなった。・・・・泣けなかった。」


「・・・・・・・」


「止まるまでは苦労したけどね。・・・・・でも跡部達進んで行っちゃうから、早く追いつかなくちゃ。」


「・・・・・・芥川先輩」


の為!だよ、鳳。」






ずっと大人っぽい笑顔を俺に向けて。






「鳳も授業でるんだよー?」






そう言い残して芥川先輩は屋上から去っていった。


















































前に。



前に進んで行く。











































俺は・・・・。






(俺は。)






足を抱えて顔をうずめて。



目を瞑って耐えた。



・ ・・・泣くな。



泣くな、泣くな。



1人になると襲ってくる悲しみに俺は泣かないようにするだけが精一杯。






(俺は)






あの人たちのように強くはなれない。



せめて、悲しみが涙に変わらないように



あなたの名前を口にはしない。






「長太郎」






聞こえないフリをした。



大好きなその声に呼ばれる自分の名前を。





‘早く追いつかなくちゃ’





追いつかなくては。



俺の前を行く背中に並べるように。



追いつかなくては。



悲しみが涙に変わる前に。



それでも、



呼びたくて。

















































「・・・・・・先輩・・・・」



























































































































































吹いたのは、風。



行き交う黄色のボール。



向かい合うコートの上。






「いくぜ、侑士」


「まかしとき。」


「うわっちょっ待って!跡部!」


「うるせえ。今朝の練習はまだ終わってねえんだよ!」


「ひどいCー!」






俺はコートの上で、以前の俺たちの姿を見ていた。



ただ、何かが物足りないコート。



あなたが、



あなたがいてくれないと。






「長太郎?」


「あのっすいません、宍戸さん!ちょっと暑さにやられたみたいで・・・顔洗ってきます!!」






・・・・・泣くな。



泣くな、泣くな。



コートの外に設置された水道の蛇口をひねって



熱くなった目頭を冷やす。



強く、ならなくては。



悲しみに打ち勝ち



自信に満ち、プライド高く



勝ち誇る



あなたの名前を口にださないようにして



悲しみが涙に変わらないように。





















「長太郎」



















(・・・・・ごめんなさい。)






ごめんなさい。



ごめんなさい。



忘れたくないと言っておいて



あなたを思い出すまいとしている。



・ ・・泣くな。



泣くな、泣くな。



呼ばれた名前さえ聞こえないフリ。



熱くなる目頭を冷やす。






「・・・ごめん・・・・なさい」






あなたのいない明日を望み。



あなたのいない夢を描く。



俺があなたのためにできること。



俺たちの背中を押してくれたあなたのために。



追いつかなくては。



悲しみが涙に変わる前に。



前を歩き始めたあの人たちの背中に並べるように。



忘れたくないと言っておいて



あなたを思い出すまいとしている。



それこそが好きになったあなたのために

























































































今俺ができる唯一のこと。






























































































































































「長太郎。平気か?」


「・・・・・・・はい。」








・ ・・・・泣くな。



泣くな、泣くな。



もう誰も、泣いてはいない。












「はい。・・・大丈夫です、宍戸さん!」












俺はうまく、
























































































































笑えていますか?





















































end.                   気に入っていただけましたらポチッと。