「四つ葉のクローバーをね、探してるの」




「四つ葉?」




「知らない?景吾。見つけると幸せになれるって言われてるんだよ」




「なんでがそんなもん探してんだよ」




「幸せになりたいとかじゃなくてね。願掛けがしたいの。縁起がいいものだから。」




「願掛け?」




「叶って欲しいことがあるんだよ。」
























『クローバー1』






















日差しのさす空の下。



緑のコートの上、共に。






「だからー!岳人はケガしすぎなんだったら!!」


「でもあれだぞ、!飛ばない俺なんてただの俺じゃん!!」


「この際ただの岳人でいいと思う。」


「侑士ー!が俺に飛ぶなって言う!!!」


「ええやん飛ばなくて」


「お前なぁ!飛ばない俺なんてただの俺なんだって!いいのかよそれで!!」






毎日のようにふざけあい



口げんか






「てめぇらいつまでやってんだ!」






俺の飛ばした声に



忍足が肩をすくめ、小さく溜め息をつく。






「なぁ、。プレイスタイルは急に変えられるもんちゃう。」


「・・・わかってるよ。でも岳人がケガでテニスできなくなるなんてことも有り得るんだよ?」


「・・・それでも俺は飛ぶし」


「そういうことや。」






我の強い奴等の集まりだから



ゆずれないものがある。






「・・・わかった。その代わり忍足」


「何?」


「岳人がケガしたら忍足の責任!」


「俺かい!」


「パートナーでしょ?しっかりね!!」






お前のゆずれないものは



いつだって俺達の為だった。








































「どうした!長太郎!!全然コートに入んねぇじゃねえか!!」


「っ・・・宍戸さん!もう一本いきます!」






鳳のサーブ。



宍戸の入る反対側のコートへ



何度打ってもアウトになる。






「それで終わりか?!長太郎!!」


「っ・・・・」






憤り



鳳のラケットを持つ腕は震えていた。



自分の放つボールが



自分の思うようにいかない。






「おい、鳳。」


「はっはい!!」


「てめぇそんなんじゃレギュラー落ちしても仕方ねぇよなぁ?」


「!!」


「景吾。長太郎を脅さないで。」






俺の隣でスコアを書いていた



俺の隣を通り過ぎ、鳳のいるコートへ足を踏み入れた。






「こら、長太郎。何へこんでんの」


「・・・・・はい」






鳳の震える腕にも気付いていた。



宍戸は黙り反対側のコートからと長太郎を見ている。






「平気よ、長太郎だもの。」


「・・・・・」


「信じなきゃ。自分がやってきたこと」






が手を伸ばしたのは鳳の腕ではなく



震える手に握られたラケット。



鳳の手からするりと抜けたそれを



は鳳の目の前に突き出した。














「大丈夫よ、長太郎。私がいるもの」











日差しのさす空の下



緑のコートの上、共に。






「・・・なんだそれ」


「何よ宍戸。あたしがついてるのよ!無敵ってことでしょ!」


「「「!」」」






反対側のコートへ体をひねり、宍戸に返したの答え



俺も宍戸も鳳も



ただ驚いた。







「・・・くくっ」


「ははっ・・・」


「ちょっと何笑ってるの!景吾!宍戸!」


「ははっ・・・」


「長太郎まで!!」







鳳は笑った。



笑ってに突き出されたラケットをもう一度握った。



震えの止まったその腕で。






「・・・先輩。」


「ん?」


「俺頑張ります!」






理想に挫折



しそうになる度に励まされ



私がいると



わけもわからぬ心強さ。







(無敵、か。)






確かに、そうかもしれない。








































































日差しのさす空の下。緑のコートの上、共に。






































































































呼吸困難



それに似た苦しみは



ただ強さを求めるために。






「跡部ーそろそろ休みなよ」


「俺の練習を見てる暇があったら俺の相手でもしろよ、ジロー。」


「えー嫌だC―」


「ちっ」






ただ強さを求めるため






「ジローちゃん?まだ誰か打ってるの?」


「あっー。跡部がね、打ち続けてるんだ。さっきからずーっと」


「ずっと?」







呼吸困難



それに似た苦しみは



ただ強さを求めるために。












「景吾!」


「!」











俺の頭にかけられたタオル



が俺に投げたものだった。



他の部員達はとっくに帰った。



夕暮れ迫る空の下。



緑のコートで俺はまだボールを追いかける。






「少しは休憩しないと。汗すごいよ。水分補給は?」


「お前まだいたのかよ」


「それはこっちのセリフ!景吾は強いじゃない。無理しなくていい」


「・・・足りねえんだよ。たったこれだけの強さ」









今のままではダメだ。



俺の答えにお前は苦笑い。







「・・・タオルとドリンクだけは用意してあげられるよ」







でき得る限りの協力と賞讃







「景吾が強くなれるのなら。・・・・ねえ景吾」






ただ側にいることが支えになるなど、



そんな存在があること。








































「私がいるよ。」












































お前に会わなければ知らなかった。









































































































































































「レギュラー、それから!集合!!」






約束などいらなかった。






「岳人、はよせな跡部に怒られるで?」


「わかってるって!なにしろ目指せ全国優勝だもんな!」


先輩を全国1位のマネージャーにしてあげないといけませんよね。」


「あら、長太郎。あたしはもうマネージャーで全国1位よ。」


「自称だろ?」


「あっひどいな宍戸。」


「・・・・・・・・・本当にしてやるよ。」


「景吾?」






ただ見ている場所は同じ。



それだけで。











「事実上、本当に全国1位のマネにしてやるって言ってんだよ。」










俺たちの進む道。



誰の隣にもいつだってお前。



ただ、側にいることが支えになるなど



そんな存在があること。













お前に会わなければ知らなかった。











「・・・・楽しみにしてます。」


「あ。が照れてるなんて珍しいやんなぁ」


「ほっといて、忍足。」










照れて笑った



いつしか失えなくなった。



かけがえのないと言えば大げさか。



でもそれは、お前にこそふさわしい名称。



毎日のようにふざけあい



口げんか



我の強い奴等の集まりだから



ゆずれないものがある。



お前のゆずれないものは



いつだって俺達の為だった。



理想に挫折



しそうになる度に励まされ



私がいると



わけもわからぬ心強さ。



呼吸困難



それに似た苦しみは



ただ強さを求めるために。



だが、お前は言う。



あなたは強いと。



お前は言う。



でき得るかぎりの協力と賞賛。



俺が強くなるならば



私がいるよと。


























約束などしなくとも。






失えない、かけがえのない存在。





















































「なあ、跡部。今日は学校来てへんの?」


「そうそう、俺もメール送ったけど、返事こねえんだよ!が朝練来てなかったなんて今までなかったのにな」






その日は、空が晴れていた。



いつもより気温は高く。



テニス部の練習もいつもより疲れが残るものになった。



にメールをしたと言ってきた向日。



他のレギュラーも全員がにメールや電話をしたが、



から返事があったものはなかった。



俺は、何度もケータイを確認しては来ない返事をいまか、今かと待っていた。






「跡部、それからレギュラー。部室に集まってくれ。」


「榊監督?」






結局その日。



コートの上で、見慣れたの姿を見た奴は誰1人いなかった。



珍しい榊監督の部室への召集。



なんの話か予想もつかないまま。



俺たちレギュラーは部室へと入った。














「せめて今日の部活が終わってから、伝えようと思っていてな。」


「なんや、監督。もったいぶらんといてください。」


「そうです。部室に召集なんて一体どんな話なんですか。」


「・・・・・・・・今朝、職員室に電話があった。」





















































































ただ、側にいることが支えになるなど、



そんな存在があること。



お前に会わなければ、知らなかった。



































































































失えなかった。











































































































































































































「・・・・・・・・・?」






そこはの家だった。



意識は、記憶は、



どこから残っているんだろうか。






「う・・・そだ。」



「・・・・・・ホンマ、嘘やん。なあ、?ふざけんのはやめえや」



先輩?」



















































‘今朝、職員室に電話があって。が。・・・・・・・・・・・・・が朝、ベッドで亡くなっていたそうだ。’



















































「・・・・・・・・・嘘だよね。跡部。」






ジローが俺の拭くの袖を引っ張った。



・・・・・ああ、思い出した。



榊監督の話を聞いて、誰かからともなく走り出したんだ。



の家に向かって。



チャイムを押すとの両親が迎えてくれて。



ああ、そうだ。






















?」





















が死んだと聞いたんだ。









































は、眠っていた。



綺麗に片付けられた部屋の奥にある



白いベッドの上で。



眠っていた、だけだった。



俺たちのかけがえのない存在は、けっして目覚めることのない。



深い、深い



ただの、眠りに。























?」




























起きろよ。



部活は終わっちまったぜ?




























































End.                    気に入っていただけましたらポチッと。